幸せの果実 40
2015 / 07 / 13 ( Mon ) トクントクントクントクン・・・
気持ちいい・・・ 耳に入る音が、全身を包み込む温もりが、 全てが。 つくしは心地よいまどろみの中で、ふわふわと蕩けそうな極上の感覚に沈んでいった。 「ん・・・」 何だか体のあちこちが痛い・・・ 鉛のように重い体をやっとのこと動かして寝返りを打つと、予想に反して途中でその体が何かに遮られた。 「・・・・・・ん?」 パチリと目を開ける。 まるで壁のようにその行く手を阻んだのは・・・ 「・・・司?」 「おぅ。 体はどうだ? さすがに死んだように寝てたな」 「・・・え? え?!」 一体何がどうなったんだったか。 朝目覚めて目の前に司の顔があるのは日常の一コマに違いないが・・・ 完全に寝ぼけている状態のつくしは今の状況が全く掴めていない。 「くっ、お前状況わかってんのか?」 「し、正直なところあんまり・・・」 顔からして予想がついていたのか、期待通りの答えに司が声を上げて笑った。 「すげー長い闘いだったな」 「え? ・・・あ!」 そこでようやく全てを思い出したのか、つくしがガバッと体を起こした。 「あイタタタタっ・・・!」 「おい、大丈夫か。急に動くんじゃねぇよ」 「ご、ごめん。なんか恐ろしいほどに体中が痛いんだけど・・・」 倦怠感と全身筋肉痛、何をどうすればこんなところが痛くなるんだというところまで激痛だ。 よろよろの体をすぐさま大きな体が支えてくれる。 「ありえねーくらいの力で踏ん張ってたからな。その反動だろ」 「そっか・・・お産すると激しい筋肉痛になるんだね。経験して初めて知ったよ。あははは」 ほんの数時間前まであんなにのたうち回っていたというのに、今ではこんなに軽快に笑っているなんて。 やはり母は強い。 そして美しい。 うまく言葉に表すことができない代わりにつくしの髪や頬、唇、触れられる場所全てを愛おしげに撫でていく。うっとりと目を閉じる姿がまたいじらしくて、吸い寄せられるように唇を重ねた。 たちまちこのまま同化して一つになってしまいそうな感覚へと落ちていく。 「・・・・・・」 長い長いキスを終えると、まるで子どもが甘えるように司の体にしがみついてきた。 「・・・フッ、昨日とは随分ギャップがあるな」 「悪い?」 「いーや、悪かねぇな」 「ふふっ、でしょう?」 負けじと大きな手がつくしの背中へと回され、少しの隙間もないほどに密着する。 「お前、すげー頑張ったな」 「もうね、自分じゃほとんど記憶に残ってないの。あははは」 「俺の記憶には鮮明に残ってるぞ。お前が恐竜みてぇにギャースカ雄叫びあげてた姿が」 「もうっ! いじわるっ!!」 ポカッと一発入れてやりたいところだが、体に回された手ががっしりとホールドしてそれを許さない。 「見ろよ、これ」 「えっ?」 体を離すと、目の前に司の左手が差し出された。 最初はキョトンとしていたつくしだったが、あることに気付くとその目を丸くした。 「これって・・・」 「お前の闘いの証しだ」 「・・・」 そろそろと伸びてきた手が 「その場所」 に触れる。 司の手のあちこちに見られる内出血の痕。 一部は指の形がはっきり認識できるほどに鬱血している。 「・・・ほんとすげーよ。 お前はすげぇ」 そう言ってくしゃっと頭を撫でると、再び強い力で抱きしめた。 「・・・・・・司、ありがとう」 「え?」 「お産は想像してたよりもずっとずっと大変だった。でもそれ以上に司が親身になって支えてくれたから、だからあたしは最後まで頑張ることができた。あの時、最後に一気に状況が一変したのも、司とポコちゃんが起こしてくれた奇跡だと思ってる」 「つくし・・・」 抱きしめるだけじゃ足らない。 キスをするだけじゃ足らない。 何をどうやったって、この女が愛しくて堪らないという感情を満たすことなどできない。 それほどに愛おしい。 「バーーーカ。 俺は」 「お礼を言われるようなことはしてねぇって?」 「・・・」 まんまセリフを奪われて口ごもった司に悪戯っぽく笑う。 「それでもいいの。だってあたしが司にありがとうって伝えたいんだから。何度でも何度でも言うよ? 司、本当にありがとう」 「・・・・・・お前って奴はほんとに・・・」 「なぁに?」 キョトンと笑っているこの女は本当にわかっていないに違いない。 今どれだけ滅茶苦茶に抱きしめてやりたいのか。 どこかに閉じ込めて一生そこから出したくないと思ってしまうほどに愛しいのか。 「バーーーーーーーーーーーーーカ!」 口の悪さは愛情の裏返し。 それがわかっているからこそつくしも笑っている。 司はありったけの想いを込めて抱きしめると、何度も何度も深いキスを重ねていった。 「つくしさーーーん、おっぱいの時間ですよ~!」 「えっ!!」 ドンッ!! 「おわっ?!」 「あぁっ!!」 「道明寺さんっ?!」 ドサドサドサッ!! 赤ちゃんを抱いて部屋に入ってきた助産師の視界から色男の姿が消えていく。 条件反射のように突き飛ばされた男の体は、広いベッドの淵から綺麗に落下していった。 「あぁっ! 司っ、大丈夫っ?!」 あわあわと真っ青になりながらつくしが慌ててベッドの端へと移動する。一瞬何が起こったかわからないような顔をしていたが、すぐに我に返ると司がわなわなと震え始めた。 あぁ、この光景には幾度となく既視感がある。 「・・・・・・大丈夫なわけあるかっ! このドアホっ!!」 「ご、ごめぇ~~~~~んっ!!!」 まるでコントのようなその一部始終は、つくしが退院しても尚病院で語り継がれることとなった。 *** 「赤ちゃんってすごいね。誰からも教わってないのにちゃんと生きる力を身につけてるんだから」 愛おしげに見下ろすつくしの先には下手くそながらも必死でおっぱいに吸い付いている我が子の姿がある。産まれて間もなくあげた初乳も、うまく吸い付けないながらもひたすら必死にしがみついていた。 その姿はまさに神秘的、その一言に尽きた。 「・・・愛おしいなぁ」 ぽつりと出た言葉は頭で考えずに無意識に出たものだった。 無条件で愛おしい、それが我が子なのだと痛感する。 産まれた直後はまだしわくちゃだったのに、1日経っただけで驚くほどふっくらしている。 「クスッ。見て、産毛がクルクル。この子絶対パパ似だよ」 「・・・・・・」 何とも微妙な顔で見ている司が可笑しくてしょうがない。 「おいお前、早く俺のつくしを返せよ」 そう言っておっぱいに吸い付いたままの我が子のほっぺをつつくと、すぐに小さな手が司の人差し指を握りしめた。その瞬間、彼の表情が何とも言えない優しいものへと変わったのをつくしは見逃さなかった。 ハッと顔を上げればつくしが泣いていて、司が戸惑いがちに驚いている。 「おい、何泣いてんだよ。どっかいてぇのか?」 「ちがっ・・・! ・・・・・・ううん、そう。 胸が痛いの」 「え?」 「嬉しすぎて、幸せすぎて、胸がギューーーって締め付けられて苦しいの。 だって・・・司の目が、表情が、もうお父さんそのものなんだもん・・・」 「・・・・・・フッ、相変わらずお前はアホだな」 「グズッ・・・」 「それを言うならお前はとっくの昔に母親だっただろ」 「・・・へへっ。 嬉しい・・・」 クスッと笑うと、そのままチュッと音をたてて司の唇が重なった。 「ちょっ・・・もう! 子どもの前ではやめてよ!」 「あぁ? まだわかるわけねーだろ」 「そういう問題じゃないの! 子どもの前ではこういうことは禁止っ!!」 「だったら物欲しそうな顔すんじゃねーよ」 「な゛なっ・・・?! 人聞きの悪いこと言わないでっ!」 「うるせーよ。事実なんだからしょうがねぇだろが」 「あのねぇっ!」 「つーかギャーギャーうるせぇお前の方が悪影響なんじゃねーのかよ」 「・・・!!」 ハッと我に返ったつくしが慌てて口を噤む。 司はしてやったり顔だ。 それがまた憎たらしい! そうこうしている間も、子どもは必死でおっぱいに吸い付いたままだ。 「・・・・・・名前だけど」 「えっ?」 「夕べお前が寝てる間に色々考えたんだ」 「え・・・?」 まさかの言葉に驚きを隠せない。 何故なら、産まれる前から彼は名付けに執着がなかったから。 意見を求めても、いつだってお前がつけたい名前をつけて構わないというスタンスだった。 それが今、彼の方から名前を提案しようとしているなんて。 「 『 誠 』 ってどうだ?」 「まこと・・・?」 「あぁ。良くも悪くも真っ直ぐな俺たちの子どもにはドンピシャじゃねぇかと思って。つってもまぁ最終的にはお前が好きな名前をつけろよ。お前にだって考えはあるだろうし。俺はフッと浮かんできただけだしな」 「 誠君 」 「え?」 はっきりとそう口にすると、つくしは眼下の愛しい我が子をあらためて見つめた。 「道明寺誠。 ・・・とっても素敵な名前だね」 「・・・」 黙ってそのやりとりを見ている司を仰ぎ見ると、つくしはふわりと美しく微笑んだ。 「この子の名前は誠君。 そうしよう?」 「いや、まだ今すぐ決める必要は・・・」 自分から提案しておきながらつくしの反応に戸惑ってしまっているのは司の方だ。 「ううん。凄くいい名前だと思う。真っ直ぐに、人から愛される子に育って欲しいから」 「つくし・・・」 ニコッと笑うと、母性あふれる顔でつくしが赤ん坊の頭を撫でる。 タイミング良くいおっぱいから口を離した誠がしょぼしょぼとした目で2人を見上げた。 ほとんど認識はできていないだろうが、確かにこちらを向いて目があっている。 それだけでこの上ない幸福感で満たされていく。 「誠君、これからよろしくね」 つくしがそう口にするのとほぼ同時に、司の手が重なった。
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by: * 2015/07/13 01:11 * [ 編集 ] | page top
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もう、ラブラブで幸せ感いっぱいですねぇ〜。 あの誰かなんとかしてくれ〜の痛みも、不思議と薄れちゃうし。 もちろん、今だに二人分しっかり語りますけど(笑) 司がベッドから落とされるのも、お約束ってことで(笑) 名前、司と同じ一文字で誠。 いいですねぇ〜。 でも全く想像してなかったですけど・・。 まっすぐに、素直に、愛される子に育つんだろうなぁ。 パパとママ生活の始まりですね。 --エ※様<拍手コメントお礼>--
ハラハラドキドキしつつも元気な赤ちゃんが生まれました! きっと可愛い赤ちゃんなんでしょうね^^ --管理人のみ閲覧できます--
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うふふ、良くも「悪くも」ってところがミソですよね。 自覚がちゃんとあるのね、みたいな(笑) 安心できるいい名前だなと思ってます。 司がどんな父親になるか私にとっても未知数ですが、それもまた楽しみですね。 ジョコビッチは強かったですね~。もう完全に1強時代到来ですね。 何が強いってこれだけの過酷なツアーにも関わらず勝ち続けられるフィジカル。 昔の錦織選手なんか、技術はあったけど怪我が多くて伸び悩んでましたよね。 コーチが変わって劇的に強化されましたけど、ジョコビッチのしなやかな体からは学ぶことも多いんじゃないかと思ってます。 まぁ個人的にはジョコよりフェデラー派なんですけどね(≧∀≦) --さと※※ん様--
この2人には今時の名前よりやっぱりシンプルイズベストだと思って。 えぇえぇ、これから先幾度となくママ取り合戦が繰り広げられることでしょう。 3、4歳頃のバトルが一番可愛いんじゃないかな~なんて一人で想像して萌えてます( ´艸`) --な※様--
ありがとうございます~! って、あら、産んだの私じゃなかったわ( ̄∇ ̄) おぉ~!お子さんと同じ名前ですか! それは私にとっても嬉しい情報ですね(≧∀≦) シンプルだけどいい名前ですよね~。 きっと色んな人に見守られながら真っ直ぐに育っていくんだろうなぁ^^ --てっ※※くら様--
うふふ~、もしかして~もしかしてぇ~?♪ 今日はいーちにちウキウキウォッチング♪♪ ですねっ!(≧∀≦) --ひ※様--
えへへ、いい雰囲気のところでの突き飛ばし。 もはや我が家ではお約束となりました(笑) そろそろ恋しくなってきたのでやっておこうかなと(笑) もちのろんでつくしの争奪戦が始まりますよ! というか既に始まってる?!( ̄∇ ̄) --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
愛称はまこちゃん・まこっちゃんあたりかな?(*^^*) きっと一晩中つくしと手のあざを見つめながら色々考えてたんでしょうね。 ガースカ怪獣みたいにいびきをかいてるであろうつくしの横で(笑) 疲労困憊だからね・・・( ̄∇ ̄) --みわちゃん様--
はい~、相変わらず腹が立つくらいラブラブですよ~。 司の場合立ち会いしようと何しようと、つくし一直線は死ぬまで(死んでも?)変わらないでしょうからね~。 速攻2人目できたりして(笑) つくし、逃げてぇ~~!! 誠ってありそうでなかった名前ですよね。 2人にはぴったりだなと思いました(*^o^*) --マ※※ち様<拍手コメントお礼>--
キラキラネームはね、絶対に避けようと思ってました。 なんかどっちのイメージにも合わないな~と思って。 やっぱりシンプルイズベスト!ですよ^^ まこっちゃんは間違いなく司の強力ライバルになるでしょうね。 幼児相手に本気でキレてる司が容易に想像できますもの(笑) --ke※※ki様--
名前って一生使うものだから大事ですよね。 今は一生懸命考えて考えて考えて・・・結果なんかやたらと捻りすぎたものが多くて。 正直読めない名前も多いです。 毎回「何て読むの?」って聞かれるのはやっぱりちょっとなぁ・・・と。 あと数十年経ったら見た目じゃ読めない名前の人が溢れかえってるんでしょうかねぇ。 「愛と誠」は他にも指摘されてる方がいましたが、ちょっとわからなかったです(^_^;) 新撰組関係ないですよね? ←アホ --マ※ナ様<拍手コメントお礼>--
ひゃ~! 人様の旦那様に失礼なのは百も承知ですが、私が代わりにハリセンでバシッ!とやってやりたいくらいです。 奥さんめちゃめちゃ頑張ってるのに一体何やってんの~~!!(`Д´)ユルサーン! ああいうときにされたこと(良くも悪くも)って一生忘れないでしょうからね~。 --や※や☆様--
やっと生まれましたよ~! 読みながら力が入ったのではないでしょうか? おぉ、超スピード出産ですか! 何とも羨ましい素敵な響きですが、一体どれほどの速さだったのでしょうか。 安産の人と難産になる人の差ってなんなんでしょうね?! よく安産スッポン!!なんて言葉を聞きますけど、私には夢のまた夢でした・・・(笑) --マル※※ズ様--
言われて見れば父親で誠という名前があったような・・・ 父親のことはほとんど記憶に残ってなかったですね(笑) 原作に父親って出てこないから二次で登場してもあまり残らないんですよね~。 架空の人物と同じような感じで。 私自身まだ一度も書いてませんし(笑)実態がなかっただけに書きづらくて。 逆に言えばいくらでもつくりだせる存在でもあるんでしょうけどね。 まぁこの2人に限って一人っ子ってことはあり得ないでしょうね(笑) --ち※※ゃん様--
ありがとうございます~! ようやく2人もここまで辿り着きましたよ~^^ --管理人のみ閲覧できます--
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誠くん。いい名前ですね 子供が、父、母にならせてくれる。 二人をみてるとしみじみそうおもいます。 |
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