幸せの果実 41
2015 / 07 / 23 ( Thu ) 「きゃ~、可愛い~っ!」
「すご~い、見てくださいよ。もう既に髪の毛がクルクル」 「ほんとだ~! やっぱり司の血は濃いんだね」 「まぁ薄い感じはしないですよね」 「あはははっ!」 小さな赤ん坊を囲んだ女達の目がこれでもかと輝いている。 熱視線を浴びながら誠がバタバタと手足を動かす度に黄色い歓声が上がる様子を、つくしはくすくすと笑いながら見守っていた。 「結構大変だったんだって?」 「うーん、どうなんだろう? 初めてだからよくわかんないや。でも安産にはならないのかなぁ?」 「安産っつったら数時間でスポッと生まれるイメージだけどな」 「スポッとって・・・そんな、卵産むんじゃないんだからさ」 総二郎のイメージに苦笑いだが、超安産の人は案外そんな感じなのだろうか? つくしが無事に出産を終えて3日目。 少し落ち着いた頃を見計らっていつものメンバーが揃ってやって来た。 一度に全員が揃ったのには理由があって、バラバラに来ることはかえってつくしの負担になると考えた彼らなりの気遣いのようだ。 昔はそんなこともお構いなしのことも多々あったが・・・さすがに新生児と出産を終えたばかりの母親への配慮は必要だと思ったらしい。 「司は?」 「あー、今日は何とか説得して仕事に行ってもらったの」 「相当渋ったんじゃねぇのか?」 「それはそれはもう。最後の最後まで納得してなかった」 「だろうな」 「だから最後は西田さんに引き摺るようにして連れて行ってもらったの」 「ははは、お前もほんと変わった女だよな~。普通は旦那が休んで一緒にいてくれるっつったら喜んでいてもらうもんじゃねぇのかよ?」 「それはそうかもしれないけど・・・だって今のままだったら退院するまで休みそうなんだもん」 「そうしてもらえばいいじゃねーかよ」 「ダメだよ! もう5日も休んでもらってるんだし、司は社長なんだから。司が休んでる分他の人にしわ寄せがいってるってことだし、何も言わないけど西田さんなんかほんとに大変だと思うから」 「・・・はぁ~っ、お前もほんと欲のねぇ女だな」 心底呆れたようにあきらが言う。 普通に考えれば現状でも充分過ぎるほど恵まれてると思うのだが・・・ どうしてセレブというのはこうも口を揃えて 「欲がない」 と言うのか。 「でもさ~、あの司がお産の間ずーっとそばについててくれたんでしょ?」 「あ、うん」 「はぁ~~っ、いいなぁ~! 世の中の女達の溜め息が聞こえてきそうだわ」 「また大袈裟な・・・」 と言いながら、既に病院の看護師達ですら目がハートになっていたのが浮かんでくる。 「数年前のあいつを考えれば信じられねぇ話だよな。そもそも家庭を持つっつーことすら想像できなかったんだし」 「それ以前に女に興味なかったからな」 「そうそう。あいつ、お前に出会ってなけりゃあヘタしたら死ぬまで童貞だったんじゃねぇのか?」 「もしくはどっかで確変して俺たちですらドン引くくらいのタラシになってたか」 「あんた達・・・司がいたら絶対ぶっ飛ばされてるんだからね」 言いたい放題の男達に呆れて物も言えない。 「あいつずっとここに泊まり込んでんだって?」 「・・・うん」 「それどころかさっき看護師さん達が話してましたよ。同じベッドで寝てるって」 「ちょっとっ、桜子っ!」 「あら、文句言うなら看護師さん達にお願いできますか? 私は偶然耳にしただけなんですから」 「か~っ! いかにも司らしいっちゃらしいよな。子ども産んですぐ病室のベッドで一緒に寝るとかどんだけなんだよ」 「そのまま子作りなんかしてんじゃねぇだろうな?」 総二郎のニヤニヤ緩んだ口元を捻り上げてやりたいっ! 「てめぇら・・・あんま調子に乗ってるとマジでぶっ飛ばすぞ」 背後から聞こえてきた重低音のある声にその場にいた者が一斉に振り返った。 いつの間にドアを開けていたのか、音もなく中へ入って壁にもたれるようにして立っているのは・・・ 「司っ?! どうしたの? 仕事は・・・」 「もう終わった」 「終わった?! だって、まだ夕方前・・・」 「心配すんな。やるべき仕事はちゃんとやってる。効率的にこなしてるだけだ。嘘だと思うなら西田に聞いてみろよ」 「いや、そこまではいいんだけど・・・」 エンジンがかかったときのこの男の手腕は幾度となく目の当たりにしている。 きっと西田のことだ。 つくしと誠というニンジンをぶら下げて、いかに短時間且つ質を高めて仕事をこなせるかを考えて動いているに違いない。 「よぉ~、司、お前もいよいよオヤジか」 「・・・お前ら、俺がいないのをいいことに好き勝手言いやがって」 「つーかお前いつから聞いてたんだよ」 「一生童貞の少し前くらいだな」 「・・・それほとんど全部じゃねぇか」 顔を見合わせた総二郎とあきらの顔にはやっべーと書いてある。 「誰がここで子作りしてるって?」 「ま、まぁまぁ、仲がいいのはいいことだって話だ。そう凶悪な顔で睨むんじゃねーよ」 ジリジリと近づいてくる司に2人揃ってタジタジだ。 すっかり形勢逆転でつくしは笑うのを我慢するだけでも精一杯。 「誠は? 何も変わったことはねぇか」 「あ、うん。元気元気だよ。今日は綺麗どころが揃ってるからかやけにご機嫌なの。この子案外マダムキラーなのかもね?」 「ちょっと先輩、マダムはあんまりじゃないですか」 「あはは、この子から見たら充分マダムだって」 「えぇ~~っ! まだまだ水もピチピチ弾くいい女なのにっ!」 猛抗議をしている女性陣を横目に、ベッドへ近付いて来た司の大きな手が赤ちゃんの体をいとも簡単に抱き上げた。大柄の男が抱くとその小ささが殊に強調される。 「お~っ、親子の触れ合い。いいなぁ」 「つーかあの司がオヤジかよ・・・ほんっと信じらんねぇな」 「でもその頭はどっからどう見ても血が繋がってるよな・・・」 全員の視線が2人の髪型に集中すると、まだまだ産毛にもかかわらず疑いようのないほどそっくりの巻きっぷりに、足並みを揃えたように全員が吹き出した。 ジロリと鋭い視線を向けられても誰一人我慢などできない。 「ふぁ・・・ふぎゃ~~」 と、それまで司の腕の中で大人しくしていた誠がジタバタし始めたと思ったら顔を真っ赤にして泣き出した。 「あっ、泣き出しちゃった・・・。 ごめん、あたしたちのせい?」 「ううん、多分お腹空いたんだと思う」 つくしの即答に皆驚いている。 「すごーい。もうそんなことまでわかるの?」 「え・・・いや、わかるっていうか・・・新生児が泣く理由なんておっぱいかオムツくらいだからね。二者択一みたいな。あははは」 「そっか~。なんかこの数日の間に司もつくしも一気に親になった感じがする。やっぱりお腹にいるときと実際に生まれてきてからでは全然違うんだねぇ」 「まぁ少しずつでもそうなってもらわないと困るっていうか。あはは」 司の手からゆっくりと誠を受け取ると、つくしは愛おしげにその顔を見て笑った。 「・・・どっからどう見ても母親の顔だな」 「え~? 西門さんのことだからどうせまたからかってるんでしょ」 「バカ、ちげーよ。今のはマジだ、マジ」 「・・・そう? それはそれでなんか恥ずかしいんだけど」 気が付けば全員が自分を見つめていて照れくさいったらありゃしない。 「おい、お前ら。こっから先は出ろよ」 「そうだね。赤ちゃんのご飯タイムだもんね。誠ク~ン、お腹いっぱいもらうんだよ~?」 滋が指で頬をチョイチョイっとくすぐると、ただの偶然だろうがほわんと笑って見えた。 「や~~~ん! 可愛い~~! チューしたい~~!!」 「おい、やめろ。 いいから早く出ろっつってんだろ」 「はいはーい。 じゃあちょうどいい時間だし帰ろっか」 「そうですね。 あらためまして、先輩、道明寺さん、この度はおめでとうございます」 「サンキュ」 「桜子、皆、今日は忙しい中わざわざありがとう。あたしもあと2日くらいで退院みたいだし、また今度はお邸の方にゆっくり遊びに来てよ」 「ぜひそうさせてもらいます。先輩もこれからがまた大変だと思いますけど、あまり1人で頑張ろうとせずに皆さんの手を借りてほどよく息抜きしてくださいね。見たところ、道明寺さんもイクメンになりそうですし」 「桜子・・・ありがと」 ニコリと目の前で優しく笑っている人物が昔あんなことをした人間と同一人物とはとても信じられないが、激しいバトルを繰り広げた (と言ってもその実ほぼ一方的だったが) 後には通常より固い友情で結ばれるというのはもうお約束なのかもしれない。 「じゃあ牧野、またな。 桜子の言う通り休めるときには休めよ」 「うん、ほんとにありがとう」 「類もお前に会いたがってたぞ。あと名前は俺がつけるつもりだったのにって零してたな」 「えっ? あはははっ! それは残念だったな~。じゃあ今度お願いしようかな」 「おいっ!」 「ははっ、早くも2人目宣言か? やっぱお前らここで子作りすんじゃねーぞ」 しばしきょとんとしていたが、自分の発言の意味に気付いたつくしの顔がボンッと爆発した。 「えっ・・・? や、やだっ! そういう意味で言ったんじゃないからっ!」 「どっちにしたってそういうことだろーが」 「もうっ、西門さんっ、美作さんっ!!」 「ははっ、これ以上待たせるとそのチビから怒られそうだからな。マジで行くわ」 つくしの腕の中でグズグズしている誠の頭を順に撫でていくと、最後の最後まで笑いながら部屋を出て行った。大所帯が消えた室内はいつにも増して広く見える。 「全くもう・・・。でも幸せなことだね」 「あいつら俺がいないことをわかってて狙って来やがったな」 「え、そうなの? 今日司はどうしたって聞かれたよ?」 「そんなんポーズに決まってんだろ。事前に西田に確認してるに決まってんだろうが」 完全に信じてしまっていたつくしは言葉もない。 気を使ってくれて感動していたが・・・やっぱり彼らは彼らだったということか。 「・・・プッ!」 「笑ってんじゃねーよ。 ったく、あの野郎共め・・・」 「あははは! さすがだねぇ」 これほどまでに超特急で仕事を切り上げてきたのにも妙に納得してしまう。 きっと苦々しい顔をしながら脇目も振らずに頑張ったに違いない。 「司・・・ありがとうね?」 「は? お礼言われる覚えなんてなんもねーぞ」 「いいの。言いたいだけだから」 「・・・・・・」 黙ってすぐ隣に腰を下ろした司の顔がどんどん近づいてくる。 距離が縮まるごとに一気に室内が甘い空気に満たされていくのがわかる。 その目が捉えている柔らかい感触まであと数センチ・・・ ぶにゅっ。 「・・・・・・・・・・・・オイ」 期待したよりも硬い感触に眉根が寄る。 「まずは誠をお腹いっぱいにしてあげないと。 ねっ?」 「・・・・・・」 ニッコリ笑うと、つくしはその手で誠の頭を愛おしげに撫でた。 ごそごそと目の前で授乳にとりかかる姿を司はしばし黙って見つめたまま。 「・・・そんなジロジロ見ないでよ」 「今さら何言ってんだ」 「今さらだろうとそんなに見られたら恥ずかしいの!」 「知るか。そもそもこいつが俺のもんを横取りしてんだろうが」 「横取りって・・・バカなこと言わないでよ」 あんぐりと開いた口が塞がらない。 「何なら今すぐキスしても構わねーんだぞ?」 「うっ・・・! そ、それはダメっ!!」 「だったらゴチャゴチャ言ってんじゃねーよ」 「うぅっ・・・」 一人で勝ち誇った顔をしているが、すこぶる納得がいかないような気がするのは気のせいか。 予想通りの顔を見せるつくしに満足そうに口角を上げた司がそっと耳元で囁いた。 「心配すんな。子作りはもう少し待ってやるから」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なっ?!」 舐めるように囁かれた耳を真っ赤にしながら振り返ったつくしが見たのはしたり顔の男。 「~~~~~~~もうっ、司っ!!!」 「ハハハッ!」 両親のやりとりがいかなるものかわかっているのかいないのか。 やいのやいの賑やかな音を子守歌にしながら、それからしばらくして誠は眠りに落ちた。 *** 「誠君、想像以上に可愛かった~!」 「ほんとですね。さすが道明寺さんのお子さんなだけあります」 「司の美貌につくしの真っ直ぐさを引き継いだらもう最強なんじゃない?」 「間違いなく将来は争奪戦でしょうねぇ・・・」 「あ~、あたしももう少し若かったらな~!」 「おいおい、冗談でも笑えねぇぞ」 「いいじゃん! 夢見るくらい許されても」 「ははっ! つーかあの司が親になったんだもんな~」 「ほんと、ここまでの道のりを考えると感慨深いよな」 「「「「「 ・・・・・・・・・ 」」」」」 それぞれがこれまでの軌跡を振り返ってしんみりと黙り込んでしまった。 「・・・あいつら、今頃ベッドの中でいちゃついてんじゃねーの?」 「え~? 誠君のお世話してるんじゃない?」 「案外さっさと寝て今は夫婦の時間になってんじゃねーの? ま、さすがに子作りまではしてねぇだろうけどな」 総二郎の茶化しに全員がドッと吹き出した。 ちょうどその頃、キスを繰り返していた2人が同時にくしゃみをしたとかしないとか。
|
--管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/07/23 00:31 * [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます ----
お帰りなさい。 少しは気分転換できましたか? 誠君の名前をピタリ当てた方がいらっしゃるとは・・・すごいです。 その誠君、もうすっかり大注目をあびて、大物ですね(笑) でもお腹いっぱいになったら、さっさと寝てくれて、両親に甘い時間をくれるなんて、親孝行な息子ちゃんですね。 --花様--
しばらくお待たせしてしまった分、余計に幸せ感を満喫していただけたのではないでしょうか^^ 早くもモッテモテの誠君、どんな少年、青年に成長していくんでしょうね? 私も楽しみです~(*´∀`*) --マ※ナ様<拍手コメントお礼>--
本当にそうですね。 二次の世界は私を含めて花男が好きな人達の妄想の世界を満たしてくれること! そこだと思ってます。 だからこそ色んな世界を持つ書き手さんがいていいんです! 皆が右にならえの同じ話ばかり書いてたら絶対楽しくないですからね。 妄想は無限大∞ これを合い言葉にこれからも頑張りますっ!(笑) --ち※様--
結婚までは山あり谷ありのイメージが強いこの2人ですが、 いざ結婚してしまえばそこから先は幸せのイメージしかできないのが不思議です。 その代わり浮かんでくるのはすったもんだのドタバタ劇(笑) 既にモテ男としての道を歩き出している誠クン。 つくしの要素を受け継いでる分司以上に正統派のモテ男になるんでしょうね~。 あぁ、一度でいいから本物を拝んでみたい・・・(* ̄∇ ̄*) --てっ※※くら様--
このお話って「あなたの欠片」から続いてますからね。 そう考えるとものすごーく感慨深いものがあります。 お菓子の小箱を持って通ってた健気な坊ちゃんとか・・・(笑) シリーズを通すともう100話以上書いてるんですよね。 その中で子どもをもつ描写ができるってなんだか感動(; ;) 気になる皆さんの反応は明日をお楽しみに♪ --ke※※ki様--
台風の進路が気になりますね~。 もう日本はほとんど亜熱帯化してますよね。怖い怖い・・・ 彼らとの会話はポンポン弾む弾む(笑) やっぱりこのやりとりが楽しいですよね。 この場に類がいたらもっといじられてそう(笑) 類もいずれ戻って来ますからその時が楽しみですね~。 やっぱりね、司の子どもで男の子と言えばクルパーは外せない! (あっ、これじゃなんだかクルクルパーみたい(@@;)) 可愛いだろうなぁ~(*´∀`*)ほぅ… 司はつくしに怒られようとどうしようと子どもの前でもぶっちゅぶっちゅやってくでしょうね(笑) --さと※※ん様--
司が子どもを抱く姿は絵になるでしょうね~! そういえばそういうイメージ画を見たことがない! どこぞの画伯が描いてくださらないかな~!なぁ~~~! 柱┃_ ̄) ジィー つくし争奪戦は既に始まっている・・・ 『 男だらけの仁義なき闘い エピソード0 つくしのパイは俺のモノ 』 主演:道明寺司 道明寺誠 助演:つくしパイ 17年の大河狙ってます( ̄ー ̄)v --みわちゃん様--
皆さんのおかげで無事に戻って参りました~!ヾ(*´∀`*)ノ 離れてる間も二次のことが頭に常にあってもうこれは中毒症ですね(笑) ほんとに、見事ビンゴの方は凄いですよね~! でも皆さんの予想もどれも素敵なものばかりで、 一瞬変えようかな?なんて迷っちゃいましたよ( ´艸`) 誠クン、ぱいぱい飲んで(すぐ)寝んねして~♪でなんていい子! でも司~、そう甘いことばかりは続かないぞ~~!!( ̄m ̄) |
|
| ホーム |
|