続・幸せの果実 1
2015 / 08 / 11 ( Tue ) 「 ひゃあぁ~~~~~~~っ!!!! 」
ポカポカのどかな陽気の昼下がり、その情景にはまるで似つかわしくない悲鳴が響き渡る。 「どっ、どうなされましたかっ?!」 その声を聞くなり、気分良く室内を掃除していた使用人の本田が血相を変えて隣の部屋へと飛んで来た。 「ほ、本田さぁ~~ん! ちょっと助けてくださぁ~~い!」 「えっ? 一体どうなさった・・・あらまぁっ!!」 視線をフッと下に向けた本田の顔が驚きに染まる。 それもそのはず、誠が沐浴をしていたベビーバスの中のお湯が明らかに変色しているのだ。 しかも何とも怪しい茶色に・・・ 「誠が突然やりやがりましたぁ~・・・」 「まぁまぁ・・・うふふ、すぐにお湯をお取り替え致しますね」 「お願いします~!」 半べそ状態のつくしとやけにドヤ顔の誠に笑うと、本田は嬉しそうに手際よくその場を整えていく。 「お風呂に入って気持ち良かったんでしょうねぇ」 「多分・・・入れて長くせずしてふやふやふや~~って出てきました」 「ふふふ、元気がよくて何よりです」 「何も入れた瞬間しなくってもいいのに。どうせなら上がる直前くらいにしてくれれば・・・」 つくしの言葉に本田が大きく声を上げて笑った。 「ふふふっ、それが子育ての面白いところですよね」 誠が生まれて3週間余り。 初めての子育てにてんやわんやしながらも、周囲の人々の助けを借りながら子どもと共に成長していることを実感できる日々を送っていた。はじめは難しくて苦戦していた沐浴も、ここに来てようやく自分の力でもそれなりにできるほどにまでなってきた。 「はい、こちらに誠様をどうぞ」 「ありがとうございます~! まさかまた出したりしないよね? 誠?!」 「あ、う゛~~!!」 真新しいお湯に小さな身体を浸けると、気持ちがいいのか大層機嫌良く声を上げる。 たとえまたしても粗相をされたのだとしても、この笑顔1つで全てが吹き飛ばされるというものだ。 「誠様は本当にお風呂がお好きですね~」 「相当ご機嫌になりますよね」 「ふふっ、本当に可愛らしいです」 「やっぱりこういうときって男の人の方がいいですよね。あたしがやるとギリギリでなんとか手が届くって感じだから」 「司様はまた大きい方でいらっしゃいますからね」 「ほんと、態度に見合った大きさですよね~」 「えっ? あらっ、・・・ふふふふ」 本田は笑いながらも否定はしない。 ・・・いや、正直者の彼女には否定できないのだろう。 そう思うとつくしは自分で言っておきながら可笑しくてたまらない。 「でもあの司様が誠様の沐浴をされたときには本当に驚きました」 「確かにそうですよね。私も正直冗談半分で言ったんですよ?」 あれは邸に戻ってきて間もない頃 _____ 「ねぇねぇ、良かったら今度司が誠のお風呂やってみない?」 「あ?」 誠を眠らせてようやく夫婦の時間となったときに突然つくしがそんなことを言い出した。 退院してからは子育て経験が豊富な使用人達の助けを借りながら、つくしが沐浴をするのが日課となっていた。司は基本遅くまで仕事でいないのだから、そうなるのもごく自然の流れだった。 つくし自身言ってはみたものの、冗談半分だったし、おそらく 「そんなことできっか」 くらいの答えが返ってくるだろうとばかり思っていたのだが・・・ 「別にいいけど」 「・・・・・・・・・・・えっ?」 「・・・なんだよ?」 自分で聞いておきながら3度見して驚いているつくしに司の眉が寄る。 「え・・・だって、誠の沐浴だよ?」 「風呂に入れろってことだろ? 別に構わねーけど」 「・・・・・・・・・」 「だからなんなんだよ、さっきからその顔は」 「だって・・・てっきり断られるとばっかり・・・」 「なんでだよ。俺の息子だろうが。お前もよく知ってるとおり、忙しくて思うように手伝ったりはできねーけど。まぁ出来る範囲でやれることは普通にやるつもりでいるぜ?」 「・・・」 「だからっ、その顔はなんだっつってんだよ! ・・・おわっ?!」 突如正面からタックルを受けた体は、つくしより遥かに大きいと言えどそのまま背中から倒れていった。ふかふかのベッドが2人分の体をボフンッ! と音をたてて受け止める。 「いって~! おっまえな~、いきなり胸に頭突きしてくんじゃ・・・」 「大好きっ!」 「・・・・・・あ?」 頭上から降ってきた思いもよらぬ告白に思わず間の抜けた声が出た。 見れば腹の上に跨がってキランキランの笑顔を浮かべながら見下ろしているではないか。 「誠も絶っっっっっ対喜ぶよ!」 「・・・・・・クッ、一番喜んでんのはお前だろーが」 「悪い? だって嬉しいんだもん。 わっ?!」 グイッと右手を引かれた勢いで司の体の上に倒れ込むと、あっという間に体を入れ替えてベッドに押しつけられる形になってしまった。 「つか・・・」 「いーや、悪かねーな。お前のそういう顔は嫌いじゃねぇ」 「・・・ぷっ! 嫌いじゃねぇって・・・素直に好きって言えばいいのに」 珍しく強気な発言をしたつくしに一瞬だけ目を丸くしたが、すぐにその表情もニヤリと怪しいものへと変わる。 「あぁそうだな。 ・・・愛してるぜ? つくし」 「ひっ・・・?! ちょっ・・・耳元で囁かないでよ!」 まるで耳たぶを舐めるように愛の言葉を囁かれて背筋がゾクゾクと粟立っていく。 「なんでだよ。お前が素直に言えっつったんだろ」 「い、言ったけど! 誰もそんないやらしく言えなんて言ってないっ!!」 「知るかよ。これが俺の愛の伝え方だっつーのはお前が一番知ってんだろ」 チュッチュと耳から首筋に徐々に唇が移動していく。 「ひゃあっ・・・んっ・・・!」 思わず声を上げた瞬間、覆い被さるようにして唇が塞がれた。 キスの上手さは昔からお墨付き。そこに互いの愛情が加われば抵抗する理由などどこにもない。 抵抗しないことに満足そうに口角を上げると、司は骨抜きにするほど明確な意思を持って深いキスを続けていく。そしてその狙い通りつくしの体中が脱力したことを確認すると、やがて右手がゆっくりとつくしの膨らみに触れた。 「あっ・・・」 「・・・お前、またデカくなったんじゃねぇか?」 「だって、今は・・・あっ、ちょっ・・・!」 はじめは控えめだった手の動きが明らかにその強さを増して膨らみの形を変えていく。 それと同時に再び唇が首筋へと移動すると、生温かい感触がそこをなぞった。 こ、これはマズイ・・・! このままじゃ、このままじゃ・・・! 「ね、ねぇっ司っ!! ダメだよ! 今はまだっ・・・!」 「・・・・・・」 つくしの必死の訴えも完全無視でその後もしばらく手と口が妖しい動きを繰り返していたが、やがてその動きがピタリと止まると何故か怒った顔で見下ろされていた。 「・・・? つか・・・」 「はぁ~~~~~~~~~っ、早くやりてぇ・・・」 「えっ?!」 さっきまでの妖艶さは何処へやら。 嘆かわしいほどに特大の溜め息をつくと、そのままつくしの胸の谷間に顔を埋めてしまった。 しばし呆然とその様子を見ていたつくしだったが・・・ 「・・・ぷっ、あっはははははは!」 「・・・おい、笑ってんじゃねぇぞ。こっちは大真面目なんだよ」 「だって、司が可愛いんだもん」 「ざけんなっ! 可愛いなんて言われて喜ぶ男なんていねーんだよ!」 ガバッと羽交い締めにされてもつくしの笑いは止まらない。 何故ならそれが照れ隠しだと知っているから。 「ふふふっ、やっぱり可愛いよ」 「・・・・・・くそ、やっぱてめぇほどタチの悪い女はいねーな。極悪だ、極悪」 「え~? 人聞き悪いこと言わないでほしいなぁ~!」 大笑いして幸せを噛みしめると、つくしは苦々しい顔で自分を睨んでいる司にしがみついた。 「・・・ま? つくし様?」 「えっ? あ、あぁ! ごめんなさいっ! じゃあお願いします」 「はい」 不思議そうにバスタオルを広げて待っている本田に誠を渡すと、見えないようにホッと息を吐き出した。誠の体を洗い流しながらついつい1人の世界に入ってしまっていたらしい。 さぞかし緩んだ顔をしていたに違いない。 全く、恥ずかしいったらありゃしない。 こういうのを平和ボケと言うのだろうか? あの翌日、宣言通りに司は誠の沐浴をしてくれた。 初めてできっと戸惑いながらになるだろうから、たまには先輩風吹かせてやろうとここぞとばかりに楽しみにしていたのだが・・・ 意外や意外、驚くほど手際よくそれをやってのけた。 つくしよりも遥かに手が大きい分安定してやりやすいというものあるだろうが、それを抜きにしても上手だった。どうやら病院や邸で沐浴させているのを見ているうちに要領を得ていたらしい。 それからというもの決して多くはないが、時間の都合がつくときには司が沐浴をしてくれることが普通になっていった。 「野獣みたいな性格なのにあんなに優しくお風呂に入れてあげるなんて・・・ずるいですよね」 「司様ですか? ふふ、そうですね。でもあれが本来の司様だったんじゃないのかな、なんて今は思うんです」 「え?」 「あ、いえ、タマさんのお話では元来素直な男の子だったと聞きますし・・・」 ・・・確かに。 昔はうさぎのぬいぐるみを親代わりに大事に抱いて眠っていたような少年だったのだ。 「色々ありましたけど、今の司様が自分らしく生き生きとされているのは誰の目にも明らかなことですから。そんな素敵なご両親から愛情たっぷりに育てられる誠様がどんなお子様に成長されていくのか・・・今から楽しみで仕方がありませんね」 「・・・貧乏性と贅沢病はどっちが優性遺伝なのか見ものですね」 「えっ?! ・・・ふふふふっ、本当ですね。楽しみです」 クスクスと顔を見合わせて笑うと、すっかりホカホカの体になった誠も超ご機嫌だと言わんばかりに手足をばたつかせていた。 *** 「つくし、ちょっといいかい?」 沐浴後の授乳をちょうど終わらせたタイミングでタマが部屋へとやって来た。 「あ、タマさん。ちょうど今おっぱいあげたところなんです」 「そうかいそうかい。お利口さんだねぇ」 愛おしげに頬を撫でる姿は家族の姿そのものだ。 「ふふっ。 それよりどうしたんですか?」 「あんたにお客さんが来てるんだよ」 「お客さん?」 「どうしても会いたいって言ってるんだけど・・・いいかい?」 「・・・? いいですけど・・・一体誰ですか・・・?」 「ちょっと待ってな。すぐに呼んでくるから」 まだ産後1ヶ月にも満たないからか、いつものメンバーですらアポなしで訪問してくることはないというのに。 一体誰が? 不思議そうに首を傾げていると、しばらくして入り口の方に人影が見えた。 じっとそちらに視線を集中させると・・・やがてスラリとした長い足が視界に入る。 引き寄せられるように顔を上げて見えたのは・・・ 「 る、類っ?! 」 「 久しぶりだね、牧野 」 驚くつくしを前に、ビー玉の王子様がふわりと微笑んでみせた。
今日から数回 「続・幸せの果実」 をお届け致します。 「忘れえぬ人」 も気になる展開になってきましたが、もう少し先で区切る方が多分もっと気になると思うので(笑) |
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by: * 2015/08/11 00:29 * [ 編集 ] | page top
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きゃ~幸せそう・・・(笑) 沐浴中のバスの中でのウ●チも御愛嬌ですね。 私はやられたことないけど・・・(笑) 司が沐浴させるとこ見てみたいなぁ~と思っているのは私だけではないはず。 そしてそしてお久しぶりの類。 一時帰国で早速会いにに来てくれたのかな? 続き楽しみにしています。 --管理人のみ閲覧できます--
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ふふふ、「幸せ」って言葉がタイトルに入ってるくらいですからね。 皆さんにはたくさんニヤニヤしていただけるようなお話にしたいなと思ってます。 お盆中数回にわたってこちらをお届けしますので、どうぞ思う存分楽しんでくださいね(*^^*) --マ※ナ様<拍手コメントお礼>--
お風呂の中での 「だっぷんだ!」 はもう赤ちゃんあるあるですよね~! うちも何回やられたことか・・・(笑) でも不思議なことに自分の子だと思うとちっとも汚くない。いや~、ほんとびっくりです。 赤ちゃんのあの感触はたまらないですよね! 今の自分を見るともうね・・・泣けてきますわ(ノД`) 笑 --てっ※※くら様--
まさかの沐浴~~?!ですよね。 でも今の司なら案外すんなりやってくれそうだと思いまして。 というか実際男の人がやってくれるのが一番いいんですよね。手が大きいし。 本格的なお風呂デビューしてからは我が家もしばらくはパパの仕事でしたよ^^ 本当に素敵な作品ばかりですよね~! どうぞこのお盆休み中入り浸って満喫されてくださいね♪ --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
産後お初はね・・・ホント人それぞれでしょうね。 私なんか全くそんな気にはなりませんでしたから。 触んじゃねーーー!!(`Д´)シャーーーッ!!! みたいな(笑) しかしご友人の方、退院したその日ってマジですかい?! あ、アンビリバボー・・・ アリエナーーーイ!! 司を超える絶倫さんなんじゃ・・・(恐) --みわちゃん様--
うふふ、幸せオーラ、皆さんにもちゃんと届いてますでしょうか? こちらは安心してほっこりしていただけるように書いていく予定ですよ♪ 「お風呂だっぷんだ!」 はほんとご愛敬ですよね。 汚っ!!とならないところが血の繋がりが成せる業なんだろうな~(*´ェ`*) きちんと歴史を重ねてきた司ですからね。 思いの外すんなりと沐浴くらいしてくれるだろうと筆が進みました。 そして気になる類王子、なにやら波乱でも巻き起こる?! --k※※hi様--
お久しぶりのこちらの作品、いよいよ子育て編に突入です♪ 沐浴ってパパがやってくれると一番いいですよね。 ある程度手が大きくないと耳から耳まで届かないですもんね~! 司の沐浴姿、きっとそれすらもカッコ良く様になってるんだろうなぁ・・・ そしてお久しぶりの類君登場! これまた楽しみですね(≧∀≦) --れ※様--
いよいよ子育て編始まりました^^ う☆ちの色はですね、私も現在子育て真っ最中なのでもちろん知ってます。 ただ、色んな人がこのサイトにはご訪問くださってますので、誰が読んでも「あ、そういうことか」とすぐにわかるように敢えて茶色と書きました(^_^;) 一応調べてみたんですけど、茶色がかった黄色とかも普通にありましたのでね。 まぁ許容範囲かなと判断致しまして。 そういうことですので、あくまでもお話としてゆる~く見ていただけましたら有難いです(*^^*) う☆ちの処理も我が子だと思うと手につこうがどうしようが汚いと思わないのが不思議ですよね~!まぁさすがに口に入れるのはごめんですけど(笑) --黒髪の※※子様--
わぉ~!そんなに喜んでいただけるなんてこちらこそ嬉しいです~(≧∀≦) 私の代表作、そう言っていただけて光栄至極にございますm(__)m ただね、山田洋次、長谷川町子、引いてはジョージ・ルーカスっ?! そんな方々と同列で語られては夜も眠れないってもんです(笑) でもそれくらいこの作品が愛されてるのだと思うと本当に感無量でございます! 書いてて良かった~~!!と思える何よりの瞬間ですね(*^^*) タイトル通り、皆さんにたくさんの幸せがお届けできるように頑張りますよっ♪ --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --れ※様--
いえいえ、お気になさらないでください。 私も最初は黄色って書いてたんですけどね。 人によってはいまいちピンと来ないかも?と思い、まぁ所詮趣味の世界なのでそこまでリアルばかりを追及しなくてもいいかなと思い直しまして。 いつもこんな感じです(^_^;) コメント返事って嬉しいですよね(*^^*) 私も読み専だった頃に同じようにお返事をいただいていたく感動したのを覚えています。 まぁ私のそれが皆さんにどう受け止められてるかは甚だ自信がありませんが(^◇^;) 時々忙しくてできないこともありますが、できる限りは皆さんとのやりとりを大事にしていきたいと思ってます^^ |
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