続・幸せの果実 2
2015 / 08 / 12 ( Wed ) 「類・・・」
「うん」 「・・・・・・のそっくりさん?」 「プッ! なんでそうなるのさ」 驚かせる気満々でやって来たが、実際の驚きっぷりはその期待を遥かに上回っていた。 「えっ・・・ほ、本物の類?!」 「うん。久しぶりだね、牧野」 尚も驚きを隠せないつくしに類の笑いは止まらないが、思わず立ち上がったつくしの腕に抱かれている小さな宝物が目に入った。 「その子?」 「えっ? ・・・あ、そうなの。誠っていうの。 誠~、パパとママのお友達の類おじさんだよ~」 「・・・俺まだ20代なんだけど?」 「えっ、あははっ、ごめんごめん! ついつい、ね。 誠~、類お兄さんですよ~!」 手を握ってブラブラと揺らすと、お風呂と満腹感で気分は最高潮なのか、ほわ~んと微笑むように表情が動いた。 「笑ってる。可愛いね」 「ふふ、まだ本人に笑ってる意思はないのかもしれないんだけどね。でもやっぱり嬉しいよね」 「赤ん坊ってこんなに小さいんだ」 「あまり見たことない?」 「全然。元々俺人付き合い苦手だし」 「あはは、そう言えばそうだったね。 ねぇ、よかったら抱っこしてあげてくれないかな?」 「えっ?」 思わぬ申し出にさすがの類も戸惑いが滲んでいる。 扱い方のわからない他人の赤ん坊を抱っこするなんて躊躇するのが普通だろう。 しかも男性ならば尚更のこと。 「こうやって首だけしっかり支えてくれれば大丈夫だから。・・・ダメかな?」 「・・・いや、俺でいいなら喜んで」 その言葉にぱぁっとつくしの表情が笑顔に染まって行く。 「ありがとう! じゃあ手を広げてもらって・・・よいしょ・・・はいっ!」 ゆっくりと手渡すと、恐る恐るながら類の腕の中に小さな温もりがおさまった。司も大柄な男だが、類も負けてはいない。しかも醸し出す雰囲気が全く違う男はまるで天使が赤ん坊を抱いているようにも見えた。 子どもの天使っぷりに負けない大人の男がこの世にいたとは! 一言で言うなら美しい、それに尽きる。 「凄い・・・なんか意外と似合ってるかも」 「意外ってなに」 「あ、いや・・・だってF4って子どものイメージがつきにくいんだもん」 「それを言うなら司こそ最も対極にいた男なんじゃないの?」 「・・・あ、言われてみればそうかも」 「「 ・・・・・・ 」」 しばしなんとも間の抜けた時間が流れると、互いに顔を見合わせてプッと吹き出した。 「赤ん坊ってこんなに小さいんだね」 「ほんとだよね~。でも自分の体から出てきたって思うとよくこんな大きなものがって思うよね」 「お産は大変だったんだって?」 「あ~、まぁね。きっと上には上がいるんだろうけど・・・頑張ったよ」 「そっか。すぐに会えなかったのは残念だったけど・・・頑張ったな」 「類・・・ありがとう」 どうしてだろう。 やっぱりこの人の言葉はその言葉の持つ意味以上に心に染みこんでくる。 久しぶりに会ったせいか感動して涙まで出てきそうだ。 「そっ、そういえばいつ日本に帰ってきたの?!」 泣きそうになるのを慌てて誤魔化したのがバレバレだっただろうか。 しばし視線を感じていたが、やがてフッとビー玉の瞳が弧を描いた。 「昨日ね。もう今日の夜遅くには日本を経たなきゃだけど」 「えっ・・・そんなに急に?」 「うん。ほんとは日本に帰国する予定はなかったんだけど・・・無理矢理仕事つくった」 「それって・・・」 「そう。牧野にどうしても会いたかったから」 屈託のない笑顔でサラッとそんなことを言ってのける男に、不謹慎ながらドキッとしてしまう。 いや、こんなに王子様然とした相手に満面の笑顔を向けられてドギマギしない人間なんてこの世に存在するのだろうか?! 「・・・あれ、なんか顔赤くない?」 「あっ、赤くないよっ! そ、そうだ、誠そろそろ預かるね。疲れたでしょう?」 何とか必死でこの場を誤魔化そうと誠を奪い返したはいいものの、自分で耳が熱くなっているのがわかる。 ええい、早く鎮まれっ!! 類はそんなつくしの様子を斜め後ろから見ながら、クスッと実に楽しそうに笑っている。 と、何か思いついたのか突然つくしに体をピタリと寄せて覗き込むように顔を近づけてきた。 「そういえばさ」 「な、なにっ?!」 ち、近い近い近い近い! なんかおかしい、おかしいからっ!! 「この子ってさ・・・」 「な・・・なに・・・? っていうか近いってばっ!」 耳に息がかかってるから! や~~~め~~~て~~~!! 「この辺りが俺に似てるよね」 「えっ?!」 とんでもない爆弾発言に振り向けば、目の前に美しい顔のドアップが迫っている。 つくしは思わず息を呑んで硬直してしまった。 類はそんな動揺を知ってか知らずか、・・・いや、絶対に気付いてるに決まってる! が、お構いなしでさらに接近してくる。 「ほら、この鼻筋とかさ、俺にそっくりだと思わない?」 ジリ、ジリ・・・っ 「ちょっ、ちょっとっ、類っ! 近すぎるってばぁ~~~~!!!!」 「そう? そんなことないと思うけど?」 ニコッと笑った顔がいつの間にか悪魔に変わっていた。 こ~の~男は~~~~っ!!! グイッ!! だがつくしの心臓が今にも爆発しそうになったその時、突如類の体が凄まじい勢いで後ろへと引き摺られていった。 「おい類、てめぇ早々に何やってやがる」 この場に於いては救世主とも言えるその正体は・・・ 「 司っ! 」 走ってきたのだろうか、少しだけ呼吸があがっているように見える。 「お帰り、司。久しぶりだね」 「じゃねーだろ。 てめぇは一体どういうつもりだよ」 「何が? 普通に話してただけじゃん」 「なーにが普通だこの野郎! 下手すりゃあと少しでキスできてた距離だったろうが」 類の首根っこを掴んだままの司の機嫌はすこぶる悪そうだ。 「ちょっと、とにかく手を離しなよ! 話はそれからでも・・・」 「お前も。何をキョトキョトしてやがる」 「えっ、キョトキョトって・・・」 「こいつがからかってるのなんてわかりきってるくせに、まんまと顔を赤くして嬉しそうにしやがって」 「し、してないよっ!!」 赤くなったのは否定できないけど! 「してたろーが。ったく、お前はほんっと目ぇ離すと油断も隙もねぇ」 「ちょっとっ! 人聞きの悪いこと言わないでくれる?!」 「あぁ? 俺は事実を言ってるだけだろうが!」 「あのねぇっ!」 売り言葉に買い言葉。 苦笑いの類を挟んで言い合いは時間を追うごとに熱を帯びていく ___ が。 「ふぎゃ・・・ふぎゃああああ~~~~~~!」 悲しげに響き始めた泣き声に2人の動きがピタリと止まった。 「あぁっ、泣いちゃった・・・ごめんね、ごめんね? 怖かったよね。・・・ほら、司も謝って!」 「はぁ? なんで俺がんなことしなきゃ・・・」 「いいから! あたしたちのせいなんだから早く謝るっ!!」 問答無用にビシッと言われて思わず司がたじろぐ。 「・・・・・・・・・わるかったな。 これでいいんだろ、これで!」 思いっきり納得のいかない顔で舌打ちをしつつも、司の口から謝罪の言葉が出てくること自体がレアだ。 「・・・よし、まぁ100点ではないけど許してあげる」 「おい、つーかなんでお前の許可がいるんだよ。そもそもお前が・・・」 「あ、そんなこと言ったら誠もっと泣いちゃうよ?」 「ぐっ・・・。 ・・・チッ!」 どうやらつくしと誠がタッグを組むと司にとっては最強ならぬ最凶になるらしい。 「・・・ぶっ、はははははははは!」 すっかり反撃の機を失った野獣に、これまで黙って一連の流れを見ていた類がとうとう我慢できずに盛大に吹き出した。それもお腹を抱えての大爆笑だ。 彼がここまで大笑いすることもこれまたレアである。 「おい類っ! 元はと言えばお前の悪巧みのせいだろうが!」 「だって牧野が全然変わってなくて面白くて・・・くくっ、ひーーーっ!」 「ちょっとっ、類っ! 人で遊ばないでっていつも言ってるでしょぉっ?!」 「だって・・・あんた面白すぎ・・・! しかも司が・・・全然刃向かえずに大人しく引き下がってるし・・・くっははは! もうダメだっ・・・はははははっ!!」 「「 ・・・・・・・・・ 」」 目の前で転がるように大笑いしているのは一体誰なのか。 あまりの大爆笑にもはや司もつくしもすっかり怒る気力すら奪われてしまった。 体をねじって目尻に涙を浮かべながら笑い転げる親友の姿を、いつの間にやらすっかり泣き止んでいた誠を含めた3人が唖然といつまでも見つめていた。 *** 「じゃあそろそろ俺行くね」 「あっ、うん・・・」 あれから気分を入れ替え楽しい団欒の時を過ごしたのも束の間、もうタイムリミットがきてしまった。楽しい時間というのはどうしてこうもあっという間に過ぎてしまうのか。 急激にトーンダウンしてしまったつくしにクスッと類が笑う。 「だから永遠の別れじゃないって言っただろ? 遅かれ早かれ帰って来るって」 「うん・・・」 「それに、今のあんたは俺がいないからって寂しいだなんて思う暇はないだろ?」 「類・・・」 優しい視線の先には天使の寝顔がある。 その顔を見た瞬間キュウッと胸が締め付けられると、つくしも笑顔で頷いた。 「そうだね。母は強しでなくっちゃ」 「大丈夫だよ。牧野は母じゃなくても充分強いから」 「えっ? ・・・もうっ、類っ!!」 「はははっ!」 振り上げた右手がパシッといとも簡単に受け止められた。 「・・・元気に頑張って」 「うん・・・類もちゃんと人間らしい生活するんだよ?」 「ははっ、なんだよそれ」 「仕事以外は寝てるとか、寝てるとか、たまにテレビ見て、そんでもって寝てるとか・・・」 「・・・なにあんた、俺の部屋に隠しカメラでも仕掛けてんの?」 「ほらやっぱり!」 「おいてめーら」 地を這うような低い声と共に目の前に割って入った巨大な壁・・・ならぬ背中。 「さっきからイチャイチャしてんじゃねーぞ!」 「いっ、イチャイチャなんてしてませんっ!」 「してんだろーが。旦那と子どもを放ったらかしにしてお前って女は・・・」 「はぁっ?!」 「そうだよ、今いい雰囲気なんだから邪魔しないでよ」 「んだとぉ?!」 「こらっ、類っ!!」 いつまで経っても変わらない。 どんなに大人になっても、どんなに離ればなれになっても、 心地よいこの関係は永遠に変わることはない。 それぞれが口に出さずとも同じ想いを胸に抱きながら、僅かな再会は幕を閉じた ____ だが、思わぬ帰国はそれだけでは終わらなかった。
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by: * 2015/08/12 00:23 * [ 編集 ] | page top
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まさかそこをツッコまれるとは予想外でしたが、言われて見れば司ファミリーにも永遠のドリカムチームにも見えますね。 私としては迷うことなくつかつくファミリーのイメージだったのですが。 でも内容が内容だけに皆さんのお好きな解釈でいいと思います♪ --さと※※ん様--
うふふ、やっぱりこの3人には子どもができようがどうしようがずっとこの感じでいて欲しいですよね。 類もなかなかに刺激的なこと言いますな(* ̄∇ ̄*) お察しの通り、類レーダーが即座に作動する司もさすがですけど、私としては類の方がもっと凄いと思ってるんですよね。精密野獣レーダーが発動してドンピシャのタイミングでつくしイジリに奔走する。 いやはや、職人技ですわ。 つくしなんてちっともレーダー作動してないのにね。むしろぶっ壊れてる?みたいな。 しかし司が赤子の沐浴をしてあげ、天使類に抱っこされ・・・ まこっちゃんあんた羨ましか!! そしてつくし、あんた贅沢すぎるばい!! 自分で書いてて「この女、なんて腹立たしいんじゃ・・・」って常に思ってます( ̄∇ ̄) --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
わはは、互いに互いのレーダーが反応し合ってますからね。 そこは激しい駆け引きが水面下で繰り広げられてるわけですよ。 ま、つくしは微塵も気付いちゃいませんけど( ̄∇ ̄) --b※様--
あくまでフィクションなので(しかも花男の世界ですから)「ありえな~い!」がたくさんありますけど、 それでも読みながら「うんうん、そういうことあるある」なんて懐かしく思いながら読んでいただけたら嬉しいな~なんて思ってます^^ 乳のサイズ = 母乳の量 にならないところがまたミソですよね。 私なんか逆にデカイ割にはそんなに出が良くなかったですから。 なんのために無駄にでかいんや!と最初は悩みましたね~(^_^;)(コンプレックスだったので) ほんの数年前のことなのに懐かしいです^^ --てっ※※くら様--
類って男ーーー!!って感じの司とは対照的にある意味では女性的な美しさをもつ男性なんだろうなと思ってて。 そんな人間がたまに男らしさを見せるとこれまたギャップ萌えで堪らんのでしょうけど( ´艸`) タイプの違う男に愛されるつくし、・・・やっぱり腹立つわーーー!!(笑) 幸せの~ってタイトルに書いてるくらいですからね。 たまーにドキドキする展開があったとしても、基本はほっこりでいきますよ♪ --す※れ様--
お久しぶりです!(*^^*) ・・・って、大丈夫ですかっ?! そんな大変な目に遭われていたなんて・・・なんとお声かけしていいのか>< そのような状況であれば落ち込まれるのも当然だと思います。 大丈夫!なんて素人が軽々しく無責任なことは言えません・・・。 でも私の作品を通して少しでも笑ったり元気な気持ちになってもらえたら嬉しいなと心から願ってます。 しんどいときにはいくらでもここで愚痴っちゃってください! 聞くことしかできませんけど、溜め込むよりはずっといいですから(o^^o) |
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