続・幸せの果実 4
2015 / 08 / 14 ( Fri ) シャアっとカーテンを開けたと同時に目映いほどの太陽が室内へと降り注ぐ。
「わぁっ、雲一つない快晴だぁっ! 誠~、君は晴れ男だねっ!」 「う゛~~!」 「あははっ、お返事上手!」 早い時間だが朝の授乳を済ませている誠は既にテンションアゲアゲだ。 夜中の頻回授乳は慢性的な寝不足を引き起こし、正直心身共に決して楽ではないが、この元気な姿を見るだけでまた頑張るぞと思えるのだから我が子の存在とは偉大である。 「お~い、パパ~、そろそろ起きてくださ~い」 「ん・・・」 今日は久しぶりの休みということもあり司は珍しくお寝坊さんだ。 本当ならば好きなだけ寝かせてあげたいところだが・・・そろそろ起きてもらわなくては。 だがよっぽど眠いのか、何度突っついても起きる気配がない。 しばし考えていたつくしの顔がたちまち悪戯っ子のそれに変わると、ワクワク張り切る子どものように一気に司のお腹に尻ダイブした。 「ぐえっ!!」 「お~い、そろそろ起きてってば!」 潰れたカエルのような呻き声に吹き出しそうになるのを必死で堪える。 「~~~っ、てめぇっ、殺す気かっ!!」 「大丈夫大丈夫。司は馬に蹴られても死なないから」 「・・・・・・へぇ、そうかよ。 お前がその気なら・・・」 額に貼り付いていた怒りマークがスーーッと引いていくと、何故か司が口元を緩めた。 ___ と思ったその時。 「え? ひゃああああああっ???!!!」 ガシッと両足首を掴まれたと思った次の瞬間、司が勢いよく体を起こした。当然ながら腹の上に乗っかっていたつくしの体は真っ逆さまに落ちていくわけで。しかも足首を掴まれているのだから尚のこと抵抗しようがない。 バフンッ! と勢いのいい音で思いっきりひっくり返った。 「もうっ、信じらんない! 何すんのよ!」 「ぬかせ。 先制攻撃したのはお前だろうが」 「司が起きないからでしょおっ!」 「そういうときは優しくキスして起こすのが妻の役目じゃねーのかよ」 「バッカじゃない? そんな決まりなんてありませんからっ!」 「へ~、そんな口聞いていいのかよ? ・・・ほ~、今日は白か」 クイッと足首を動かしてスカートの中を覗き込むと、司の顔がニヤリと妖しく光る。 「ぎ、ぎゃ~~~~!! 何やってんのよぉっ! 離しなさいよっ、このヘンタイっ!!」 「ヘンタイで上等。 おら、もっと見せやがれ」 「い~や~あ~~~!! おまわりさぁ~~ん! ここにヘンタイがいます~~っ!!」 両親のバカバカしいやりとりが心地いいのか、隣のベビーベッドの中では誠が大層ご機嫌で手足をジタバタさせている。これでご機嫌になるのはいいのか悪いのか? ・・・とにもかくにも今日も平和な1日が始まりそうだ。 *** 「おっ、おは、おは、おはようございますっ! 今日はお、お、お日柄もよ、よ、よっ・・・」 「ちょっとパパっ、落ち着いてっ!!」 3歩進んで10歩下がるその喋りに堪らずつくしが助け船を出したものの、晴男は既に真っ青だ。 「あ、あぁ・・・。 やっぱりパパはダメだ。人間慣れないことはそうできるものじゃないよ」 「すみません。感動と緊張のあまりうまく話せなくなってしまってるみたいで・・・」 「別にお気になさる必要はありません。ご両親もどうぞ普通になさってください」 「は、は、は、はははィッ!」 せっかくの楓の気遣いもてんで役に立ちそうにない。 まぁこの状況下であれば両親がそうなるのも至って普通の感覚ってやつで。 青空の下、邸からほど近い都内有数の神社に道明寺財閥の№1、2が揃い踏みしているのだ。 しかもその主役である赤ん坊の祖父母には自分たちも含まれている。 同じ 「祖父母」 仲間であるはずのお相手がそんなたいそれた人物だなんて・・・緊張するなと言うのが無理な話だろう。 とは言ってもいささか緊張しすぎだろ! とは思うけれど。 昨日の夜になって突然楓も一緒にお参りができるとの知らせが入った。 もう半分以上は無理だろうかと諦めかけていただけに飛び上がるほど嬉しかった。 いや、実際に跳んで跳ねて喜んだのだけれど。 予定していた仕事がことのほかスムーズに流れたからなんて言ってたけれど、今日のこの格好を見れば実は最初からそのつもりで帰国したんじゃないだろうかと思ったって自惚れではない気がする。 いくらお金持ちでどんな衣装だってお邸にあるとはいえ、まるでこの日のために準備していたと言わんばかりのそれはそれは美しい和装に身を包んだ楓の姿を見れば・・・そう思いたくもなるってもんだ。 「お義父さん、お義母さん、今日は誠のために素敵な衣装をありがとうございます」 「いっ、いや、そんな・・・! 正直こんな安物であまりにも申し訳なくてやめようかとも思ったんですが・・・それでも、どうしても孫のために私たちなりにできる精一杯はしてあげたくて・・・」 司に頭を下げられた晴男と千恵子がひたすら恐縮している。 今日誠が羽織っている黒の掛け着はつくしの両親が贈ったものだ。 赤ん坊の晴れ着は母方の両親が準備するのが昔からの習わしとされているが、一方は世界に名だたる大富豪で、片やド貧乏一家。習わしと言えど衣装を贈るなどと恐れ多いのも当然のことだ。 両親は最後の最後まで自分たちでいいのかと悩んでいたが・・・ 道明寺家が準備すれば、桁違いの高級品が誠に着せられたに違いない。 もちろんそれはそれで素晴らしい。 両親が用意してくれたものはそれに比べれば足元にも及ばない安物だろう。 それでも、つくしはその着物を見る度に誇らしかった。 たとえ安物だとしても、両親が孫を想い、今の自分たちにできる精一杯を詰め込んで贈ってくれたのだと考えただけで・・・それはどんな高級な衣装よりも価値のある、この世に1つしかない宝物へと変わったのだ。 「大事なのは気持ちだってつくしに散々教えられてきましたからね。お義父さん達の気持ちは十二分に届いてますよ。ありがとうございます」 「司君・・・ありがとう・・・!」 今からお参りだというのに、晴男は感無量のあまり既に泣きそうだ。 司は昔から両親に対して礼儀正しいことが多かったが、演じている部分がほとんどだっただろう。 だが今は違う。 元来培った育ちの良さは依然として失わず、そこに本当の優しさが加わった感じがする。 心の底からつくしの両親への敬意を払っている。贔屓目なしでそう感じるのだ。 我が親を大事に想ってくれることが嬉しくない人間などいるはずがない。 結婚してから1年と少し、最初はひたすら恐縮しっぱなしだった両親と司との距離感も、今ではかなり縮まってきたことを実感していた。 だからこそ楓との距離ももう少し縮められればとつい思ってしまうのだが ___ その一方で誰しも個々に 「らしさ」 というものがあり、彼らに於いては現状こそが最も理想的な距離感なのかもしれないと思えるのだから不思議だ。 「じゃあ時間だ。 行くぞ」 「あ、うん! じゃあお義母様、誠をお願いしてもよろしいでしょうか・・・?」 お宮参りで赤ん坊を抱くのは夫の母親。 両親の贈った着物を掛けた我が子が楓の腕に抱かれる。 こんなに幸せなことがあっていいのだろうか。 楓の手に愛する我が子を託すと、つくしは首の後ろに回り誠を包み込む着物の紐を結んだ。 「わぁ、素敵・・・!」 親バカだと言われてもいい。 その姿はそれ以上の言葉にできないほどに美しかった。 わけがわからない誠は着物が窮屈なのだろうか、いつもよりもバタバタと元気よく手足を動かしている。 「あの、ごめんなさいっ。 重いですよね? 大丈夫ですか・・・?」 「何の問題もありません。 参りましょう」 「は、はい!」 相変わらずのクールフェイス。 だが振り返るその刹那、楓が誠と目を合わせてほんの一瞬、ふわりと微笑んだ。 見間違いなどではない。 彼女は確かに微笑んだ。 本当に優しい優しい顔で。 「おい、行くぞ」 「・・・・・・うん」 前を歩き出した楓の後ろ姿を呆然と突っ立ったまま見つめているつくしの頭を、司の大きな手がポンポンと叩く。 「今から泣いてたらもたねーぞ」 「・・・・・・うん」 「ったく・・・。 おら、行くぞ。 ババァに置いて行かれても知らねぇからな」」 「・・・・・・うんっ!」 何が晴男が今にも泣きそう、だ。 泣きそう、じゃなくて既に泣いているのは自分じゃないか。 全く、始まる前からこれじゃあ本当に先が思いやられるってもんだ。 つくしが差し出された手に自分の手を重ねると、ギュウッと力強くその手が握りしめられる。 それに負けじと力を込めると、先を行く祖父母を追って2人肩を寄せて歩き出した。
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by: * 2015/08/14 01:03 * [ 編集 ] | page top
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もうホント幸せを絵に描いたよう・・・。 誠くんは楓さんに抱かれ、司はつくしの両親に心からの礼を尽くす。 道明寺家の子供として、豪華な衣装に身を包むのではなく、つくしの両親から贈られた衣装で・・・。 つくしが泣いても仕方がないということで・・・(笑) またまた司のスーツで鼻水混じりの涙をふかせてあげて下さい(笑) --管理人のみ閲覧できます--
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とにかくこちらではほっこり幸せ~を皆さんにお届けできたらと思っています^^ もう少し誠が大きくなったら子育てもドタバタしそうですね♪ --ふ※※ろば様--
こちらのシリーズでは司パパは既に他界しています。 このお話の原点は「あなたの欠片」なわけですが、司の渡米後、約束の4年を間近にしたところで父親が急逝。それにより予定通り帰国できずに歯車が狂い出す・・・そういう話の流れになってます。 ・・・って私も正直うろ覚えではありますが(^_^;)間違いないかと。 なので楓さんしかいないんですよ~。 --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
タマさんはですね、自ら辞退しました。 ほら、誠が産まれた時も立場をわきまえて病室に入ろうとしなかったじゃないですか。 あれと同じですね。 親子の時間に使用人の自分が立ち入らない、深い絆で繋がっているからこそ、敢えてそこの線引きをするのが我が家のタマさんのようです(*^^*) --てっ※※くら様--
ほんと、牧野家と道明寺家(というより楓1人ですけど・笑)には色々ありましたよね~。 ママが塩ぶっかけたことが懐かしい・・・よく東京湾に沈められずにすんだなと( ̄∇ ̄) そういう歴史を振り返るとこのシーンがより感慨深いものになりますね。 このところつくしちゃん涙脆くなっちゃってますが・・・ 嬉しいときは思いっきり泣いちゃえ~!(≧∀≦) --た※き様--
カレカノ、更新が止まっていてすみませんm(__)m 必ず完結させますので今しばらくお待ちいただけましたら有難いです。 司が死んだと思っていたら実は生きていた、確かそんなお話ありますよ。 うろ覚えではありますが。 私にはそんなドラマチックな展開は書けそうにありませんけどね(^◇^;) --ke※※ki様--
毎日コメントくださってるとほんの数日ないだけでもなんか久しぶり~!って感じがしますよね。 そうでしたそうでした、「愛が聞こえる」疑似体験ツアーでしたね! 私てっきりお盆帰省だとばっかり思ってました(^_^;)最近記憶が・・・ 菅平はいいところですよね。そして合宿のメッカみたいな感じで。 私も大学生の頃に行ったなぁ・・・懐かしい。 気になる坊ですけど、残念ながらおさまってませんよ~! せいぜい乳繰るだけしかできてません(笑) いずれ解禁デーが来るでしょうが、そのときは間違いなく荒ぶる棒でしょうね( ̄m ̄) いや、意外と優しい可能性もあるかもな~。 司ってああ見えて優しいんだもん~! 「みやともって誰だっ!!」ってぶっ飛ばされるのが怖くてみやもとにしておきました(笑) --みわちゃん様--
幸せの果実ですからね。これでもかとほっこりをお届けしますよ♪ 誠からすれば自分の両親と祖母の間に昔壮絶な闘いがあったなんてアンビリバボーでしょうね~。 明らかに安物だとわかる衣装かもしれないですけど、だからこそ価値があるというか。 きっと色んな事を我慢して必死に用意したお金で買ってあげたんでしょうね。 泣いちゃうのも当然ってもんです。 あはは、さすがにお宮参りが終わるまではガビガビスーツにしないようにつくしも我慢したかな?笑 --す※れ様--
いいえ~、全然お気になさらずに^^ 身近な人間には言いにくくても、間接的な相手だと思えば吐き出せることってありますから。 いつでも駆け込み寺になりますよ(*^o^*) 赤ちゃんからすればお宮参り?何じゃそりゃ?でしょうからね。 泣く子爆睡する子、それぞれですね(笑) でもそれもまたいい思い出の1ページなんでしょうね。 |
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