忘れえぬ人 20
2015 / 08 / 24 ( Mon ) 「わぁ~~~っ! 凄いっ、きれ~~~!!」
ジェットに揺られること2時間余り、連れてこられたのはどこかもわからない無人島。 日本とは思えないほど真っ青な海に、目にも眩しい青々とした緑、まるでどこかの南国の島へやって来たかのような錯覚を覚える。 「凄い・・・ここって日本なの?」 「クッ、相変わらずお前はバカなことばっか言ってんな」 「だってこういうことでもなきゃ離島になんて来ないんだからわかるわけないじゃん」 「日本どころか都内だっつーの」 「えっ!! ここが東京なの?! 凄い・・・」 日本じゃないと言われた方がまだ驚かないかもしれない。 「日本の島の数は6千以上あるって知ってるか? デカイものから小さいものまで、まだまだ手付かずの島もたくさんある。やり方次第でビジネスチャンスはそこかしこに転がってるってわけだ」 「へぇ~、・・・なんか初めてまともに喋ってるところを見たかも」 「あぁ?!」 「なっ、なんでもない! それで? 今日はここで何するの? まだ施設も何にもないけど・・・」 確かに綺麗な島ではあるが、現状まだ施設らしい施設もほとんど見当たらない。 リゾート開発に向けてそこかしこの道路が整備されているのだけはわかるが。 「適当に散策してろ」 「・・・はい?」 「俺はそこで打ち合わせをする。その間お前は好きなように島を散策して回れ」 指で示したのはおそらくこの島唯一の建造物と思しき小さな事務所のようなもの。 「は、はぁっ?! 好きに散策しろって、そんな・・・」 「そこに車があんだろ。心配すんな、道路とビーチだけは島内一周整備されてっから。ゆっくり回っても1時間くらいのもんだからお前の好きなように見て来いよ」 「いや、だから意味わかんないって! 仕事で来たんでしょう?!」 「そうだ。この島を見てお前のインスピレーションを刺激してこいよ」 「無理っ!」 「・・・あぁ? てめぇ、今なんつった?」 「だからムリっ!!」 「・・・んだと?」 ピクッとこめかみが動いたのがわかるが、無理なものはムリなのだ。 根本的な問題がど真ん中に鎮座しているのだから。 「あたし、車の免許持ってないんだもん」 「・・・は?」 「だから! こんな立派な車を用意してもらったところで運転できないのっ!!」 シーーーーーーーーーン・・・・・・ バサバサバサ・・・ 絶妙なタイミングで海鳥が一斉に空へ向かって飛び立っていく。 あぁ、鳥にまで笑われてる気分だ。 「お前・・・はぁ~~、こんの貧乏人が!」 「びっ・・・うるさいわね! しょうがないでしょ、ないものはないんだからっ!」 「無免許でも行けんだろ」 「ムリに決まってんじゃん! 素行の悪いあんたと一緒にしないでよね!」 「何・・・?」 「あわわわ・・・!」 テンポのいい低レベルな言い合いに乗せられてついつい本音が出てしまう。 「マジかよ・・・斎藤はいねぇしどうすっかな」 斎藤さんというのはおそらくあのリムジンの運転手さんのことだろう。 離島にやってきたのは西田さんを含む3人、あとはジェットのパイロット2人のみ。 現地で待っていたのはおそらく開発に携わる人達に違いない。 「西田、お前運転できんだろ」 「えっ?!」 「それはできますが・・・打ち合わせはどうされるんです?」 まさかこの秘書さんに運転手をお願いするということだろうか? それは勘弁して欲しい! 「ねぇっ、仕事の邪魔になるようなことはやめてよ!」 「じゃあ自分で運転すんのかよ」 「それは・・・・・・あ。 あれ!」 「 あ? 」 つくしの視界にふと入ったもの。 それは事務所に横付けされた1台のママチャリだ。 「その自転車。それを貸してもらえないかな?」 「はぁ?!」 「これがあれば充分だよ。大丈夫、あたしこう見えて体力だけは自信があるから!」 やけに自慢気にポージングしているが、その実ちっとも膨らんでいない力こぶを半ば呆れ気味に2人の男が見ている。 「・・・チッ、わーったよ。じゃあそれで移動しろ。ただしタイムリミットがあるからな。正午までにはここに戻って来い。間違っても森の中に入ったりすんじゃねーぞ」 「入らない入らない。時間さえ守ればあとは自由ってこと?」 「あぁ」 「了解! じゃあ早速行ってきま~す」 「おい、これを持っていけ」 「え?」 差し出されたのはペットボトルの水と帽子、そして薄手の上着だ。 「お前が思ってる以上に日射しが強いからな。ぶっ倒れでもされたら迷惑なんだよ。持って行け」 「・・・あ、ありがとう」 「・・・・・・」 すんなりとその言葉が出た。 倒れようとそのまま野放しそうな男がまさかこんな気遣いをしてくれるだなんて。 素直に嬉しかった。 だが手を伸ばしても何故だかそれを手放してはくれない。 不思議に思って顔を上げれば、じっとこちらを見下ろしている男と目が合った。 「・・・? ねぇ、くれないの?」 「あ? ・・・あぁ、ほら」 「はい、ありがとう。2時間以上も時間があればゆっくり散策できそうだね。じゃあ行ってきます!」 カゴにペットボトルを放り投げると、つくしは敬礼をして颯爽とママチャリに跨がった。 相当乗り慣れているのか、やや上り坂の道のりもスイスイと進んでいく。 「ひ、ひゃああ~~~~!!!」 「「 ・・・・・・ 」」 そのうち登り切ると、今度は悲鳴と共にその姿があっという間に視界から消え去った。 *** 「わあ~~っ、ほんとに綺麗だな~~っ」 ママチャリを漕ぐこと30分。一際美しいビーチに辿り着いたところで休憩することにした。 工事をする人達のためのものだろうか、ビーチには数カ所日よけのための小屋のようなものが設置されており、疲れたらそこで一休みすることができるようになっていた。 つくしはひとしきり海に足をつけて満喫すると、小屋に戻ってゴロンと大の字に横たわった。 「仕事で来たのに放置されるって一体どういうことよ・・・」 本当に一体何しにここに来たというのか。 なんでこんなことになっているのか、考えれば考えるほどわけがわからないが、こうしているとそんなこともどうでもよくなってくる。サワサワと体を優しく撫でて吹き抜けていく風は極上だ。 ぼーっとしていると、色んな事を考える。 類から知らされた借金完済という衝撃の事実。 一体いつ頃終わっていたのやら。 顔を出さないとはいえ仮にもモデルとして契約しているというのに、道明寺のモデルをやっても構わないなどという。そんなに緩くていいものなんだろうか? 『 お前が思ってるほど悪い人間じゃない 』 あの言葉がまたしても甦る。 確かに口は悪いし態度も冷たい。 ・・・けれど、最初に会った時ほどの冷酷な空気が幾分和らいで見えるのは気のせいか。 ふと手元のペットボトルに視線を落とす。 「なんであたしなんかをモデルにしたいわけ・・・?」 4年前、同じ事を類が言い出したときも正気の沙汰じゃないと思った。 それでも、彼とは友人関係だという下地があればこそ受け入れることができたのだ。 でも今回は・・・いくら昔友人だったとはいえ、今現在互いの記憶はないわけで。 ましてや贔屓目に見ても好意をもたれている状況だとは到底思えない。 大きなプロジェクトの広告に、あの男の言葉を借りれば貧乏人のブサイクな女を何故わざわざ採用しようだなんて思えるのか。類とは比較にならないほどに暴挙としか思えない。 ただ1つわかることは、あの男が 『後ろ姿の女』 に異様な執着をもっているということ。 今でもあれが自分だなんて認めちゃいないが、この4年、友人はおろか親ですらその事実に気付くことはなかったというのに。 野生の肉食獣のようなあの野心に満ちた目の鋭さは、決して見た目だけではないということか。 見抜いたところでじゃああの男と 『後ろ姿の女』 がどう交わるのかが全くわからない。 そもそも向こうだってこっちのことは覚えていないはず。 では何故? 「う~~、ボンボンの考えることってほんっとわっかんないなぁ・・・」 考えてもちっとも答えの見えてこない難読問題に、つくしは天を仰いで目を閉じた。
今日は2回更新でお届けです。 2回目は午前6時の予定ですのでお楽しみに^^ |
--管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/08/24 00:11 * [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --k※※hi様--
無謀な2回更新です( ̄∇ ̄) ほんのちょっぴり優しい?司君。 そのペットボトル諸々準備したのは誰? もしかしていいところだけ強奪したとか(笑) タイピンを放り投げられた時に比べれば・・・少しは距離が詰まってきたのかなぁ? --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
わはは、今日も喜んでもらえたようで何よりです。 もうね、猫バナー1つでそこまでハイテンションになってもらえるのなら俄然やる気になるってもんですよ(≧∀≦) なんなら本編より気合いれちゃおっかな、なんて( ̄∇ ̄) --ke※※ki様--
謎の島は一体どの辺りでしょうね~? え?日本地図出してリアルに探してみたい? ダメよ~、ダメダメ!そんな無粋なことしちゃメッ!! 適当に真面目で対抗したらアカーーーン!!(`Д´) そういえばこの2人はコテージの思い出はないんですよね~。無人島はありますけど。 色々設定が違うので混同しないようにしなきゃ・・・と書きながらドキドキしてます(^_^;) そしてつくしが目を閉じればね・・・(≧∀≦) --ke※※ki様--
いや~、まだ今の2人がブチューにはならんでしょう。 司なら自分からやっておきながら我に返ってつくしをぶっ飛ばしかねないかも(笑) まだ今はね~。時期尚早かと。 司がつくしの記憶について気付くのはいつなんでしょうね。 よもや相手も自分と同じだとはまだ思ってもない感じ・・・?それとも? なんだかんだで最初と違ってつくしを突き放しきれない坊ちゃん、ボロが出てきてますぞ(笑) --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --さと※※ん様--
あはは、気に入ってもらえました? 頑張って探した甲斐があったな~(*^^*) すんごい考える人感が出てますよね(笑) あきたこまち・・・じゃなくてひとめぼれしちゃいましたっ(≧∀≦) リゾート(予定)地をママチャリで颯爽と駆け抜ける女。 う~ん、さすがはド貧乏女。 いっそのこと広告はそれでいけっ!って感じですけど( ̄∇ ̄) 荷物を渡すまでの僅かな間、司は何を考えたんでしょうね~。 すんなり出てきた感謝の言葉に一瞬戸惑ったんでしょうか。 |
|
| ホーム |
|