忘れえぬ人 23
2015 / 08 / 26 ( Wed ) 「くっそ、思ったより時間かかんな」
早朝からトラブルの関係で急な予定が入り別会社を訪れていたが、予想を遙かに上回って仕事がずれ込んでいる。時計を見ればじきに午前9時を指そうとしていた。 つくしをモデルとして採用すると宣言してから1ヶ月以上。 結局今までそれらしい仕事はさせていない。 離島に行く際、広告のイメージを掴むためにあの女を連れて行ってはみたが・・・これだという決定打は浮かんではこなかった。 いい加減このままじゃあの女が自分の立場を忘れかねないと、強制的にカメラテストをさせることに決めた。完全にノープランだが、撮影しているうちに何かイメージが掴めるかもしれない。 事前に教えておくとろくでもないことになりそうだと、とりあえず時間と場所だけ伝えておいたのだが・・・ 「・・・間に合わねぇな」 「迎えに行かせましょうか?」 「いや、確かスタジオはあそこから近かったよな? だったら車を出すよりも歩いた方が早いだろ」 言いながらスマホを操作して短縮に電話をかける。 ・・・が、コール音が延々と鳴り続けるだけ。 「・・・・・・あのクソ女、出やがらねぇ」 「もしかしたら待ち合わせ場所に移動している最中なのでは? 動いているときは電話に気付かないことも多いですから」 「チッ、手間のかかる女だぜ」 この俺に二度手間かけさせるとは。 忌々しく思いつつもメールを打っている自分もどうかと思うが。 「・・・このところ随分楽しそうにされてますね」 「・・・・・・はぁ?」 じっとこちらを見下ろしていた西田が突然わけのわからないことを口にする。 楽しい? 誰が? 何が? 「何と言いますか・・・忙しいことに全く変わりはありませんが、帰国されてからの副社長は生き生きされているといいますか」 「お前何言ってんだ? わけわかんねーこと言ってっとブッ殺すぞ」 「・・・大変失礼致しました」 珍しく雑談を始めたと思ったら全くもって意味のわからねぇことを言いだしやがった。 マジで何言ってやがる? 生き生きしてる? バカバカしいにもほどがある。 思い当たることなんか何1つない。 生き生きじゃなくて俺は常にイライラしてんだよ! 「すみません、お待たせ致しました」 忌々しい気持ちでメールを送信すると、ちょうどそのタイミングで相手方の社長が戻ってきた。司はスマホを胸ポケットに放り込むと、それからはその存在も忘れて仕事へと没頭していった。 *** 「やっと終わったか。結局3時間もずれ込んだわけだな」 気が付けばもう11時を回っている。 6時にここに来てからぶっ通しで5時間。どうりで疲れるはずだ。 首をコキコキと動かして筋肉をほぐしていると、電話に出ていた西田が慌ただしく戻って来た。 「司様、今スタジオの担当の者から連絡がありまして、牧野様がまだ来ていないと」 「・・・何? どういうことだ?」 「わかりません。ですが現地に行っていないことだけは確実なようです」 「あの野郎・・・まさかすっぽかしやがったか?」 すぐにスマホを取り出して電話をかける。 だが何度かけても先と同じで、コール音が鳴り続けるだけで全く出る気配がない。 「チッ! いつでも連絡が取れるようにしろっつってるのにあのクソ女・・・!」 「いかがなさいますか? 私が指定場所に行って確認をしてまいりましょうか」 「車を出せ」 「・・・はい?」 「俺が行く」 いつの間に雨が降り出していたのやら。 仕事に没頭するあまり空模様の変化になど全く気付かなかった。 薄暗い鉛色の空から大粒の雨が落ちて容赦なく地面へと叩きつけられていく。 跳ねた滴がスーツの裾にじわじわとシミを作り、思わず舌打した。 「鬱陶しいったらねぇな」 晴れたからって気分がよくなるわけでもないが、雨の日は殊更いらつきが増す。 鬱屈とした気持ちをなんとか抑えながら車を降りて歩いて行くと、やがて待つように指示したビルが見えてきた。だがぱっと見それらしい女は見当たらない。 「・・・? やっぱあの女すっぽかしやがったか?」 雨のせいでこの場を離れたかとも考えたが、それならば電話には出るはずだ。 電話にも出ない、指定場所にもいないということはとうとう逃げ出したか。 だが残念だったな。 この俺から逃げられると思ったら大間違いなんだよ。 「あの、大丈夫ですかっ・・・?!」 ちょうど死角となるビルの脇から男の声が聞こえてくる。 何故だか導かれるように足が動くと、角を曲がったところで1人の男が座り込んだ女に手をかけたところだった。 「おいてめぇ、何してやがる」 「えっ?!」 突然肩を凄まじい力で鷲掴みにされた男が驚いて振り返る。 その男の手が触れているのは・・・あの女だ。 「いえっ、たまたまここを通ったらこの女性が座り込んで苦しそうだったので、それでっ・・・」 「どけっ!」 まだ何か言っている男を突き飛ばすと、目の前には男の言う通り壁にもたれ掛かるようにして女が苦しそうに蹲っている。おまけに全身ずぶ濡れだ。 まさか朝からずっとここに?! 「おいっ、お前何やってんだよ! こんなにずぶ濡れになってバカじゃねぇのかっ!」 「う・・・」 肩を揺らした拍子に頭がグラリと倒れそうになるのを慌てて受け止める。 ___ 触れた体は燃えるように熱い。 「お前・・・。 おいっ、しっかりしろっ! おいっ、 ___________ 牧野っ!!!」 初めて読んだ名前にうっすらと目が開く。 だが虚ろな視線は名前を呼んだ張本人を捉えることはなく、焦点が合わずにぼんやりとどこかを見た後にすぐに閉じられてしまった。 「チッ、くそったれが・・・! おい、そこのお前!」 「えっ!!」 「その辺りに散らばってる荷物を持ってこい!」 「え・・・あのっ・・・?」 「いいからさっさとしろっ!!」 「は、はいっ!!」 言うが早いかつくしを抱き上げて歩き出す。 偶然居合わせただけで突き飛ばされるわ命令されるわで散々だが、ビジネスマンと思しき男は司の言う通りに辺りに散乱している荷物を掻き集めると、既に数十メートル先を凄いスピードで歩いて行く男を慌てて追いかけた。
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by: * 2015/08/26 02:07 * [ 編集 ] | page top
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ほんとに、絶対いい人であろうビジネスマンさん頑張れっ!!(≧o≦) 偶然居合わせたばかりに踏んだり蹴ったりですが・・・彼に幸せが訪れますように(笑) とっても嬉しいお言葉有難うございます(*´ェ`*)これからも頑張ります♪ --てっ※※くら様--
どうなんでしょうね~?何せ書いてるのが私ですからね。 そうすんなりと記憶が戻るのかどうか・・・(笑) ラストはドハッピーに、でもそこまでの過程はジェットコースターのように、結構そういうドラマチックな展開が好きな自称永遠の乙女ですから(* ̄∇ ̄*) エ?イッサイツッコミウケツケマセーン あの雨の場面とシンクロしていただけましたか? やっぱりこの2人は雨を効果的に使いたいなと思いまして。 2人の雨が止むのはいつになるかな・・・? --こ※様--
ほんとそうですよね。矛盾しまくりの執着しまくりなのにね(笑) でも原作でも初期はまさにそんな感じでしたよね~。 司の場合自覚してしまえば切替が早いですからね。いつその時が来るのか。来る・・・のか? 対照的につくしは気付くのが遅ければ行動も鈍い(笑) さてさてそんな2人が急接近?!となるのでしょうか。 --k※※hi様--
なんだか急に涼しくなってきましたよね~。 夜になると秋の虫の大合奏が凄いです。(河川敷が近いので) 思えば7月中旬くらいまでは凄く涼しかったんですよね、今年の夏は。 ということはここ1ヶ月くらいにギュギュッと暑さが濃縮されてたわけか・・・ このまま少しずつ涼しくなってくれたらいいんですね。 さて雨と言えばつかつく、でございますが。 今回の雨は2人にどんな変化をもたらすのでしょうか。 思わず「牧野」と呼んでしまった司。きっと無意識だったんでしょうね。 ほんとに、2人肩を寄せ合って笑いながら雨を見上げる日が来るといいですね~(o^^o) --ke※※ki様--
やっぱりここは司でないと。 他のキャラが助けたところで誰得?!展開になってしまいますからね(笑) なかなか進展の見られない2人ですが今回のことで何か変化は生まれるのでしょうか? 気になる坊ちゃんのこの後の行動、一体どうするのか。ドキドキです。 息子さん大変な目に遭われたんですね。 人の脳ってほんとに不思議ですよね。 そもそもどうして夢を見るんだ?ってまずそこから不思議で不思議でしょうがないですもん。 100年経っても脳の不思議って解明されてないような気がするなぁ。 世界陸上楽しいですよね~。 それが終わったら全米オープン。楽しみは続きます♪ --さと※※ん様--
そうそう、原作だとネギ巻かれてるんですよね(笑) ドラマのガーデンプレイスが美しいからつい忘れがちですけど( ̄△ ̄)ネギッテアータ・・・ ほんと、親切に助けようとしてくれたどこぞのビジネスマン。 完全に当たり屋に当たられた状態になっちゃってます。ご愁傷様・・・ きっとそのうちいいことあるよ!・・・多分。 ・・・・・・知らんけど( ̄∇ ̄) ほんとに、弱ってる女子を抱き上げる男子、もうたまら~~~~んっ!!! 私が~おばさんになぁってもぉ~~トキ~メキ止まらないぃ~~♪ ・・・え?「なっても」じゃなくて「なってる」じゃないかって? カアアアアアアアアアアアツッッッッ(`Д´) まま神様の方を向いて拝みましょうかね。「あなたは段々描きたくなぁ~るぅ~」 --ぴ※※あ様--
本当に、待ち合わせと雨はこの2人の外せない要素ですからね。 なかなか進展が見られない2人ですが、これを機に何か変わるのか?! なんだかここに来て皆さんの期待が膨らんでるのをひしひしと感じてます。ヤバイ・・・ うちの旦那はなかなか休みが取れない分、一緒にいられるときは全力で遊んでくれるのでその点は助かってます。 ちなみに今朝も人間御輿で登園していきました・・・( ̄∇ ̄;) 園についてからも凄まじい大号泣だったようで、気になって仕事が手につかないって言ってました(苦笑) あ、うちの旦那、ムキムキじゃなくてぷよぷよです(笑) --た※き様--
つくしを抱き上げてどこに連れて行くんでしょうね? もう考えてやってる行動じゃないでしょうね、きっと。まさに本能。 えっ、寝てる間にチューですか? いやぁ、どうかなぁ・・・?そんなにすんなりいってくれればいいんですけどねぇ(笑) --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --c※※co様--
ふふ、ドラマの場面も印象深いですよね。 携帯の不携帯、結構多いですよね。 ほんと、どうしてだかそう言うときに限って連絡が多いというね(^_^;)不思議なもんです。 さぁ、何も考えずに抱き上げた坊ちゃん。 この後どうする?!気持ちを自覚してる彼なら軽く軟禁しそうですけどね(笑) |
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