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忘れえぬ人 27
2015 / 08 / 31 ( Mon )
「牧野を広告モデルにするぅ?!」

F4御用達のVIPルームに男2人の声が綺麗にハモった。

「牧野本人が嘆いてたからね」
「モデルって・・・そんなでかいプロジェクトに牧野を・・・か?」
「みたいだね」
「確かに牧野はよく見れば素材はそう悪くないかもしんねーけど・・・普通に考えれば素人を使うなんて正気の沙汰じゃねぇだろ?」
「それを俺に言われてもね。司が決めたことでしょ」

そう言われてしまっては総二郎としてもそれ以上は何も言えない。
だがあきらはそうではなかった。

「類、お前に聞きたいことがあるんだよ」
「・・・何?」
「この前会った時に司が言ってたことなんだが・・・お前のところでここ数年話題になってた後ろ姿の広告の女、・・・あれって牧野だったのか?」
「はぁっ?! あきら、お前何の冗談言ってんだよ?」
「俺だってそう思ったさ。でも司の奴が大真面目な顔でそう言うんだよ。あの後ろ姿は牧野で間違いないって」
「司が・・・? おい類、マジなのか?」

あきらは至極真剣に、総二郎は半信半疑の様子で類に詰め寄る。
そんな2人を一瞥すると、類は呆れたように溜め息をついた。

「・・・今まで気付かなかった方がおかしいんだろ」
「え? それじゃあ・・・」
「そうだよ。司の言う通り」

あっさりと認めた類に2人が言葉を失う。

「俺は別に隠してたわけじゃないけどね。ただ言う必要もないと思っただけ。牧野の素性は絶対に明かさないって約束であの仕事を受けてもらったから」
「マジかよ・・・あれだけ会ってるのに全然気付かなかったぜ・・・?」
「絶対あり得ないって自己暗示がかかってると目の前にいても気付かないものなんだよ」
「え・・・それじゃあ司の奴、まさか牧野の記憶が?」
「いや、それはないみたいだぞ。俺にその話をしたときにもその気配は全くなかった」
「じゃあなんで・・・」

最後につくしと司が一緒にいるのを目の当たりにしたのは例のタイピンを巡っての一悶着の時だ。贔屓目に見ても司がつくしを気にしているような素振りは微塵も感じられなかった。
だというのにいつの間にそんなことに?
首を傾げる総二郎に、何故だか類は楽しそうにクスッと笑った。

「そんなの決まってるじゃん。本能でしょ」
「本能・・・?」
「あいつを誰だと思ってんの? 野獣でしょ?」
「でも記憶を失ってからのあいつは野獣っつーよりもむしろなんつーか・・・こう、生きる屍みたいな感じじゃねーか?」
「プッ! 司にそんなこと聞かれたら屍になるのは総二郎の方なんじゃないの?」
「でも実際そうだろ? 目が死んでるっつーか・・・」
「まぁ確かにそうかもね」

鉛色の鋭い眼光。全身からは黒いオーラがじわりじわりと滲み出ていて、その物々しい雰囲気は見る者を問答無用で竦み上がらせる。
司をそうさせてしまっているのは他でもないつくしだということに気付いていないのは本人だけだが、記憶を失ってからの司はそのことに気付くことができないでいる。そのことが余計に司を苛立たせているのだ。

何故? どうして?
口で言うのは簡単だが、記憶を失った苦しみなどその立場になった者にしかわからないこと。
手の届きそうなところに望むものが転がっているのに、どう足掻いても藻掻いても、永遠にそれを手にすることができないような、そんな絶望感が転がっているのかもしれない。

「・・・あいつ、この前会った時にはギラギラ燃えるような目をしてたな」

あきらの脳裏にこの前の司の姿が浮かぶ。

「司がか?」
「あぁ。その時あいつ言ってたんだ。夢に女が出てくるんだって」
「女?」
「決まってその女は背中を向けていて決して顔が見えないんだと」
「それって、まさか・・・」

あきらは静かに頷いた。

「その女と花沢物産の広告の女が同一人物であることは間違いないってな。・・・そしてそれが牧野だって」
「でも牧野と鉢合わせた時はそんな素振りは少しも・・・」
「さっきも類が言ってただろ? 先入観があると人は目の前の真実に気付かないって。4年前、あいつが記憶を失った時のことを思い出してみろよ。強く思いすぎるあまりにあいつは牧野にだけおかしくなった。あいつに対して敵意に近いほどの激しい感情をぶつけてたんだ。4年のブランクがあるとはいえ、帰国したばかりのあいつはその状態とほとんど変わらなかったってことだ」

そう考えればこの前のつくしへの酷い仕打ちも納得がいく。

「でも視点を変えて気付いたんだろ」
「視点を変える?」
「あぁ。牧野つくしという女がどうこうじゃなくて、あいつの言う 『後ろ姿の女』 だけに神経を研ぎ澄ました先に牧野がいた。そういうことだろ、きっと」
「・・・」
「司、帰国早々俺のところに来て 『あの広告の女を出せ』 って凄んできたからね」
「そうなのか?」

その時のことを思い出したのか、類がおかしそうに肩を揺らす。

「4年ぶりに会うってのにさ、アポなしに来たかと思えばそれだよ? 一体何のために? って聞けばそれを知りたいからだって支離滅裂なことを言う。結果的にその直後にあいつらは再会して・・・その後の展開はお前達も知ってるとおり」
「・・・・・・」

類の手に握られていたグラスの中の氷かカランと音をたてた。
誰もが黙り込んでいただけに余計にその音が響いて聞こえる。

「・・・司の奴、牧野への気持ちが甦ってきてるってことか?」
「さぁね。それはわからない。ただ確実に言えることはあいつが牧野に執着してるってことだけ」
「あいつの性格を考えれば気持ちを自覚してしまえばそれを隠したりはしないだろうからな。つーことはイライラしながらも牧野に執着せずにはいられないって感じか」
「お前達がこの4年疑いもしなかったあのモデルの正体に司はすぐに気付いた。あいつの野獣の本能は死んではいないってことだろ」
「本能・・・か」
「今後司がどういう行動に出るかはわからない。良くも悪くもあいつの行動に裏はないからね。案外あっさり気持ちを自覚するかもしれないし、牧野と一緒にいることで記憶が戻る可能性だってある。・・・そして平気で牧野を傷つけることだって」

昔、気持ちを自覚するまでに司がつくしに対して行ってきた数々の仕打ち。
意味不明な感情に揺さぶられている司だからこそ、どっちにどう転がるのかは読めない。

「もしもの時は俺は牧野を助けるつもりだよ。司が相手だろうと、あいつを傷つける者は許さない」
「類、お前・・・もしかして牧野をモデルにしたのは・・・?」
「・・・ま、そんなことはただの杞憂に終わると思うけどね」


どこか複雑そうな顔で自分を見ている友人にフッと目を細めると、類はすっかり氷の溶けたグラスの中のアルコールをゆっくりと飲み込んでいった。






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ごめんなさい! 週末は法事等々忙しくて今日は短くなってしまいました。予定ではもう少し先まで書きたかったのですが・・・更新する方を優先させてもらいました。なんだかおセンチな終わり方になっちゃってますが決してそんなことはありませんからね(^_^;)
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コメント
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いえいえ短くすると仰りながら、やっぱり長いなぁ~と、いつもすごいなと思っておりました。
長さのことなど、お気になさらずに・・・。

私はつかつく派ですが、つくし同様、類って特別な位置にいるんですよね。
いつだって、つくしのことを一番に考えてる。
そして司のことも良くわかってる。
そういう類が好きなんですよね~(笑)
by: みわちゃん * 2015/08/31 10:57 * URL [ 編集 ] | page top
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このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/08/31 11:35 * [ 編集 ] | page top
--みわちゃん様--

そうなんですよね。結局なんだかんだと一話が長くなってしまうダメダメな私。
長さじゃなくて話の展開で区切ろうとするからなんですよね~。
でも書き手としては続きが気になる!ということろで区切りたいのが本音で(笑)

類にも幸せになって欲しいですよね~。
かといって彼が他の女と幸せそうに笑ってる姿は想像できない・・・
っていうか正直見たくないかも(笑)つかつく派なのに欲張りですよね~。
箇条書きの文章いいから原作者の神尾さんに聞いてみたいな~。30年後の彼らをあなたならどう描きますか?って
by: みやとも * 2015/08/31 22:34 * URL [ 編集 ] | page top
--ke※※ki様--

つくしが夢に出続けていたのはどっちの意思なんでしょうね?
司が求めていたのか、それともつくしなのか・・・
単なる心霊現象?( ̄∇ ̄;)

とりあえず「昔の女」と司は聞いちゃってますからね。
惚れたのは女の方だと思い込んでるでしょうけど(笑)
ハードルはあとどれくらい残ってるんでしょうねぇ?
正直なところ私にもよくわかりません(笑)
by: みやとも * 2015/08/31 22:53 * URL [ 編集 ] | page top
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