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忘れえぬ人 46
2015 / 09 / 21 ( Mon )
・・・・・・この男、何言ってんの?

「おい、聞いてんのか。 いい加減何か言え」
「い゛っ!!」

口を開けたまま呆け続けるつくしの頬が突如ブニッと引っ張られる。

「いっ、いひゃい! はにゃひにゃひゃいよっ!!」
「ブッ、何言ってっか全然わかんねーよ」
「びゃかびゃかびゃかっ!!」

バッシバッシ叩いて手を振り落とすと、つくしは涙目で思いっきり目の前の男を睨み付けた。
だがそんなことはお構いなしに再び大きな手が伸びてきてヒリヒリと痛む頬を優しく撫でつける。
自分が抓っておきながらお前は何なんだと思いつつも、その手の動きのあまりの柔らかさに、そして今まで見たこともないような優しい顔で笑っているその姿に・・・再び何も言えなくなってしまった。

「牧野、俺の女になれよ」

飾りっ気のないストレートな言葉が逆に心に突き刺さる。
ふざけんな!
言いたいはずの言葉は喉の下の方で行き場を失ってしまった。

信じられない。
そんな虫のいい話なんて絶対に!
きっと裏があるに決まってる。
・・・そう思うのに、その考えすら霧散させてしまうほどの真剣な眼差しで。

でも・・・

「・・・・・・だよ」
「え?」

右に左に忙しなく彷徨っていた視線がやがてゆっくりと司を捉える。
普段の強気な姿は鳴りを潜め、ハの字に垂れ下がった眉は何とも頼りなげだ。

「・・・そんなこと言われたって・・・ムリだよ」
「・・・無理って何がだよ」
「だ、だからっ! あんたと付き合うとか、そんなこと考えられないよ・・・」
「なんでだよ」

明らかに声色が変わる。

「なんでって・・・だってそうでしょ? 昨日まで散々あたしのことをバカにしてた人にいきなり俺の女になれって言われて、はいわかりましたなんてすんなり受け入れられる女なんているわけないじゃん! 裏があるかもしれないって思ったって仕方ないでしょ?!」
「裏なんかねーよ。俺は真剣だ」
「そうだとしても・・・急にそんなこと言われても考えられないよ」
「じゃあ考えろ」
「考えろって・・・」

何を言っても即座に返ってくる言葉に思考が追いつかない。
混乱するばかりのつくしとは対照的に司には一切の迷いがない。

「考えられないのなら考えろ」
「・・・」
「ちなみにイエスの答えしか聞かねーから」
「・・・・・・はっ?!」

さらに飛び出したトンデモ発言に耳を疑う。
こいつ今なんて言った?!

「いいか。お前はこの俺を本気にさせた唯一の女なんだよ。自分がいかにありえねーことをやった女なのかを自覚しろ」
「自覚しろって・・・一方的に何言ってんの? ありえないのはあんたでしょ?!」
「あぁありえねーな。この俺が女に、しかもド貧乏な何の取り柄もない、極めつけは女らしさの欠片もねぇ奴に惚れるなんざな」
「ちょっとぉっ?!」

それが仮にも惚れた女に言う言葉かっ?!

「そんなありえないことがありえてんのが奇跡だっつってんだよ」
「・・・!」

顔を真っ赤にして憤慨していたつくしの動きが止まる。
まるで蛇に睨まれたカエルのように足が竦むことはよくあったが、今までのいずれとも違うこの真剣な眼差しに瞬き一つできない。
このまま見ていては危険、吸い込まれてもうどうこにも逃げ場がなくなってしまう。
そう思うのに、視線を逸らすことすら許されない、そんな圧倒的なパワーが漲っているのだ。

「お前が今すぐ考えられねぇっつーんなら考えろ。ただしお前がいくら考えようとも俺の気持ちは変わらねーし、遅かれ早かれお前を手に入れる。それだけは絶対だ」
「ぜ、絶対ってそんな・・・」
「この俺が本気になったんだ。当然に決まってんだろ」

開いた口が塞がらない。
自信家の俺様男だとは常々思っていたけれど、まさかここまでとは。

パクパクと金魚のように口を開け閉めしながらも言葉の出せないつくしに目を細めると、司の大きな手が再びつくしの頬を撫でた。
これまで意識したこともなかったが、いざ触ってみたらまるでシルクのように吸い付く肌触りがこの上なく気持ちいい。目はぱっちりとした二重で、何よりも意思の強さの滲んだ大きな黒目は人を惹きつける力がある。すっぴんでも赤みを失わない唇はまるで自分を誘っているかのようだ。


今まで見ようとしなかっただけで、こんなにも自分を魅了して止まない女だった。
そのことを自覚したからには ____ もう止まることなんて不可能だ。


「お前・・・可愛いな」
「へっ・・・? ・・・・・・・・・・・・・・・へえぇっ?!」

顔を真っ赤にしながらマヌケ面で色気もクソもない反応を見せるのですら・・・愛おしいと思える。
恋は盲目とはよく言ったものだ。


昨日までとはまるで別人でつらつらと甘い言葉を吐く目の前の男に全くついていけない。
これは誰?
どこかで変な薬でもやったんじゃなかろうか?
もしかして今日で地球が滅亡するとか?
混乱する頭で考えて出てくるのはそんなことばかり。

「・・・・・・え・・・? わぁっ!!」

気が付けば目の前が暗くなっていて、いつの間にか顔の前に司の顔が迫っていることに気付いて慌ててその顔を手で突き返した。
これはもしかしなくてもキスされそうになっていた?!
っていうかそういえばさっきキスされたんじゃ・・・しかも何回も!!
ひ、ひえぇええぇえええぇっっっっっ!!!

「・・・なんで邪魔すんだよ」

顔面を押さえ付けていた手がバリッと引き剥がされると、すこぶる不服そうな顔が覗いた。

「な、なんでって・・・恋人同士でもないのにキスなんてしちゃダメに決まってるでしょ?!」
「もう恋人みてぇなもんだろ」
「ちっ、違うからっ! 勝手に決めないで!! っていうかさっきもキ、キキ、キキキキキスしたでしょう?! ああいうのほんと困るからやめて!」
「・・・チッ、うるせーな」
「う、ううううるさいってどういうことよっ?!」

怒髪天を突く勢いで憤慨するつくしにハァ~~っとわざとらしく溜め息をつきやがった。
溜め息つきたいのはこっちだよっ!!

「あ、あんた達にとってはなんでもないことなのかもしれないけど、少なくともあたしは簡単にそんなことができるような女じゃないから。たとえ考えが古いって言われようともこれがあたしだから。 だから・・・い゛っ!」

突然引っ張られた頬のせいでその先の言葉が奪われる。
い、痛い痛い痛いっ!!

「バーーーーーーーカ! お前は人の話をちゃんと聞いてんのか。俺は何とも思ってねぇ女にんなことしねぇっつっただろうが」
「い、いひゃいいひゃい! はにゃひてっ!!」
「いい加減俺の気持ちが嘘じゃねぇって信じるか?」
「う゛~~いひゃいひょ~~」
「信じるって言え。そうしたら離してやる」

こ、こんの野郎~~!!
告白してる側の人間がなんでこんなに上から目線なんだ?
誰がどう考えてもおかしいだろうが!

「ひ、ひんびるからっ! ひんびるからはにゃひてっ!!」

そう思いつつも頬の痛みに耐えられずそう言わされている自分がいる。
もう全ては相手の思うツボだ。

「・・・よし。二度と人を疑うようなことを言うんじゃねーぞ」
「う゛~~~っ!!」

涙目で頬をさすりながら思いっきり睨み付けても効果ゼロ。
こんな男に好きだなんて言われてもやっぱり信じられなくて当然じゃないか!

そんなつくしの手に重なるようにして司の手が伸びると、さっきとは正反対にその手は優しく頬を撫で始めた。つい数秒前まで抓っていた張本人だとは思えないほどのその柔らかな動きに、思わずうっとりと目を閉じてしまいそうになるほどに・・・優しく。

・・・いやいやいやいや、流されるな自分!
極悪人が急に優しくなったからってコロッとほだされてどうする?!
いくら鉄パン女だからってそんなチョロい女になっちゃだめだめ!!

「フッ、お前はほんとおもしれー女だな」
「・・・へっ?」

見れば何故か司は楽しそうに目を細めている。
・・・もしかして・・・またやらかしちゃってた?!

「まぁ急に態度が変わって戸惑うなっつーのも無理な話かもな。とはいえ自覚した以上俺は自分のやりたいようにやるぜ。お前が逃げるならどこまでも追いかけて捕まえるだけのことだ。・・・たとえそれが地獄の果てでもな」
「なっ・・・?!」

ニヤリと不敵に笑ってみせたのはつくしのよく知るあの顔。
地獄の果てまでって・・・この男ならハッタリだとも思えずに思わず武者震いしてしまう。

「っつーことでこれからは遠慮しねーから。覚悟しておけよ」

覚悟ってなんの・・・?
・・・恐ろしすぎて聞くことなんてできっこない。
っていうか今までだってただの一度でも遠慮したことがあったのか?!
スッと立ち上がった司をつくしは呆気にとられて見上げるだけ。

「とりあえず今日のところはこれで帰るけど、いつでも連絡取れるようにしておけよ。シカトしやがったらお前にSPつけっからな」
「なっ?! バカッ、やめてよねっ!」
「それが嫌ならいつも通りにしろよ」
「もうっ、わかったから早く帰んなさいよ!」
「バカ、押すんじゃねーよ」
「いいから帰って! これ以上はもう頭が爆発しそうなんだから!」
「ハハッ」

立ち上がってグイグイ背中を押されているというのに、何故か楽しくてたまらない。
今まで生きてきてこんなことで笑ったことなんてあっただろうか。
自然と湧き上がってくる感情に驚きを隠せないが、不思議とそれが心地いい。

「牧野」
「何よっ!」

やがてドアの目の前まで押し出されると、おもむろにつくしの名を呼んだ。
相変わらず怒りながらもバカ正直にこちらを見上げた、その時 ____


チュッ


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

ぴたりと動きが止まってフリーズしたつくしに満足そうに司の口角が上がる。
一方のつくしはその表情の変化をただ呆然と見上げていることしかできない。

「牧野、早く俺を好きだって自覚しろよ。俺は気が長くねぇからな」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「じゃあな、また連絡する」

そう言って親指でふにっと半開きのつくしの唇をなぞると、去り際に見せつけるようにペロッとその指を一舐めしてから颯爽と部屋から出て行った。
カンカンと古いアパートの階段に革靴の音が響き渡る。しばらくしてその音が完全に消え去ると、プシューッと空気の抜けた風船のようにつくしの体が膝から崩れ落ちていった。

「な・・・・・・に・・・今の・・・」

あの男から見たこともないような変な光線が出てた。
直視したら一瞬でやられてしまうような、そんな妖しい光線が。

「っていうか・・・キス・・・」

あの男、またやりやがった・・・!
迂闊だった自分も悪いけど、つい数分前に待つって言ったばかりじゃないかっ!!
あのエロ男、信じらんないっ・・・!


・・・でも、あれは本当に誰?
本当に本当の道明寺司なの?
有り余る財産で精巧な着ぐるみを作らせてそれを着てきた別人とかじゃなくて?
つい昨日まで散々人をバカにしてた男と同一人物?
そんな男が自分を・・・・・・・・・好き?

「うそでしょ・・・?」

そう思いながらも、唇に残された柔らかな感触が、頬に触れた温かな感触が、・・・そして狙った獲物は絶対に逃がさないと言わんばかりのあの真っ直ぐな眼光が、生々しく自分の中に残されている。


あんな優しい表情なんて知らない。
あんな笑顔なんて見たことない。
あんな、あんな・・・


「うそでしょぉ・・・っ?!」


夢か現実か信じられないようなあっという間の出来事に、つくしは燃えるように全身を真っ赤にしながらただその場に蹲り続けることしかできなかった。





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コメント
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by: * 2015/09/21 00:13 * [ 編集 ] | page top
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司の変わりよう凄すぎ・・・(笑)
自覚してからは、俺様街道まっしぐら。
つくしも戸惑って当然(笑)
でもせっかく類も司も頑張ってくれてるんだから、早くつくしも応えなきゃね。
つくしはいつ自覚するのかな~?
by: みわちゃん * 2015/09/21 00:32 * URL [ 編集 ] | page top
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by: * 2015/09/21 06:46 * [ 編集 ] | page top
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by: * 2015/09/21 07:29 * [ 編集 ] | page top
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by: * 2015/09/21 09:55 * [ 編集 ] | page top
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by: * 2015/09/21 17:47 * [ 編集 ] | page top
--み※き様--

うふふ、お待たせ致しました~!
や~~っと司が恋愛モードに突入しましたよ(*^^*)
相手がつくしですから振り回されまくりでしょうが、彼なら頑張ってくれることでしょう!(笑)
by: みやとも * 2015/09/21 22:52 * URL [ 編集 ] | page top
--みわちゃん様--

ほんとにね、気持ちいいくらいの変わりっぷりですよね(笑)
そりゃあつくしじゃなくても警戒するわ。
でもね、自覚する前から俺様街道はまっしぐらでしたよ?( ̄∇ ̄)
つくしも早く自覚してくれるといいんですけどね。
でも今はこの司の変わりっぷりについていくだけでもいっぱいいっぱいだろうな(笑)
by: みやとも * 2015/09/21 22:56 * URL [ 編集 ] | page top
--k※※hi様--

もうね、笑っちゃうくらいの変わりっぷりですよね。
いくら鈍感女でも警戒するなって方が無理な話なわけで(笑)
不意打ちとはいえチュッチュされまくってますからね。
やっぱり本能では拒絶してないってことなんでしょうね。
でも原作でもつくしは隙が多すぎだったからなぁ・・・(=_=)
ここから司がどう獲物を捕獲するのか(笑)新たな展開が始まります♪
by: みやとも * 2015/09/21 23:04 * URL [ 編集 ] | page top
--ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--

ほんと、司って良くも悪くも素直ですよね。
まぁ9割方「悪くも」の方で発動されてますけど(笑)
恋愛モードに突入したらすなわち砂吐きレベルの激甘モードになるってことですからねぇ。本人にそんなつもりはないんでしょうけど。
全く、可愛い奴よのぅ( ̄∇ ̄)
by: みやとも * 2015/09/21 23:07 * URL [ 編集 ] | page top
--てっ※※くら様--

いよいよ戦闘モードセットオン!(笑)
互いに記憶戻ってないんですけどね~。
それでも・・・というお話を書いてみたかったんですよね。
その分どうしても焦れも多くなっちゃってますが。
記憶がないのにまたしても地獄の果てまでストーカー発言もいただきましたぁ~!(笑)
by: みやとも * 2015/09/21 23:10 * URL [ 編集 ] | page top
--た※き様--

うふふ、そう言っていただけて本当に嬉しいです(o^^o)
もちのろんでこれからは思いっきりつくしに振り回されていただきましょう♪笑
by: みやとも * 2015/09/21 23:11 * URL [ 編集 ] | page top
--花※※好き様--

長らくお待たせ致しました。野獣の覚醒の時をようやく迎えました(笑)
長かったですよね。私も長かったです。
でも長く書き続ける上で同じような話ばかり書くのって限界があるんですよね。
だから今回はダブル記憶喪失を柱にジレジレの2人の恋模様を書きたかったんです。元々司ってほんとに極悪人でしたからね、つくしのことを覚えてないとなればああなるのが自然かなと。
この話ではそれを踏まえて少しずつ変化していく彼らを楽しんでもらえたらいいなと思ってます。

チビゴンを気にかけてくださって有難うございます(o^^o)
相変わらずでご機嫌に登園にはほど遠いですが・・・(^_^;)
行ってしまえば元気に遊んでるようなので、根気よく号泣劇場に向き合っていきます(笑)
by: みやとも * 2015/09/21 23:22 * URL [ 編集 ] | page top
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by: * 2015/09/22 11:46 * [ 編集 ] | page top
--ke※※ki様--

記憶も戻ってないのに地獄の果てまでストーカー宣言出ました~!
やっぱりね、彼にはこれが一番しっくり来るかなと(笑)
想い合ってラブラブな砂吐き展開もいいですけど、たまにはくっつくまでのジレジレ展開もいいですよねぇ。
今作はそここそを楽しんでほしくて(そして私も楽しみたくて)書いたようなものですからね。
どうやってつくしを捕獲してくれるんでしょうか。
by: みやとも * 2015/09/22 21:50 * URL [ 編集 ] | page top
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