fc2ブログ
忘れえぬ人 47
2015 / 09 / 22 ( Tue )
「牧野っ!」
「え? ・・・あ、大塚・・・?」

ビルを出てすぐのところで向こうから走ってくる男性に目を細める。
スーツ姿で激走しているのは・・・・・・間違いなく大塚だ。

「はぁっはぁっはぁっはぁっ・・・ま、間に合った・・・」
「ど、どうしたの? そんなに息切らして・・・今日は外回りから直帰じゃなかったの?」

らしくもなく汗だくで肩を揺らす姿なんて初めて見た。
今日は朝から直接取引先に行って会社には戻って来ないと聞いていたのに。

「は~~っ・・・お前・・・携帯は?」
「えっ?」
「昨日から何回もかけてるけど繋がらないんだよ」
「えっ・・・あっ!! ごめんっ、充電が切れてるのかもしれない・・・!」

慌てて鞄の中をあさってみると、案の定画面は真っ暗なままウンともスンとも言わない。
アハハと苦笑いしながら顔を上げれば、心底呆れ顔の大塚が盛大に溜め息をついた。

「はぁ~~~っ、お前なぁ・・・」
「ご、ごめん。うっかりしてた・・・」

というか本当はそんなことを考える余裕すらなかったという方が正しくて。
週末はあまりにも色んな事がありすぎて、もう完全に抜け殻状態になっていた。

「まぁいいよ。それもいかにもお前らしいし。それより今からちょっといいか?」
「え?」
「メシおごるから。俺に付き合えよ」
「え、でも約束は明日じゃ・・・」
「そうだったんだけどな。明日まで待てねぇんだわ。何か大事な用でもあんのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど・・・」
「じゃあ行くぞ」
「え? えっ??」

返事も聞かずに腕を掴むと、大塚は問答無用でつくしの体を引き摺って歩き出した。





***




「すご~~い・・・随分オシャレなお店知ってるんだね」

半ば強制的に連れてこられたのはドレスコードこそ必要ないが、普段着で立ち寄るにはちょっと躊躇ってしまうほど小洒落たイタリアンレストランだった。月曜にもかかわらず店内は人で溢れかえっていて、よく席が空いていたものだと思う。

「知り合いが働いてる店でさ。ちょっと融通きかせてもらったんだ」
「へぇ~、そうなんだ」

交友関係が広いのは聞いていたし、きっと歴代の彼女達を喜ばせるために色んなお店に詳しいに違いない。つくしは疑うこともせずあっさりとそれを受け入れる。
知り合いが働いているというのは事実だが、もともと明日予約していたものを無理言って今日にずらしてもらっただなんて夢にも思っていない。話したところで笑って冗談にされてしまうのがオチだ。
どんな想いで大塚がそうしたかなど気付きもせずに・・・

「でもさ、なんでまた急にこんなところに?」
「まぁとりあえずは何か食おうぜ。お前何が食いたい?」
「えっ? あぁ、うん・・・」

結局なんでこんなことになってるんだっけ?
そもそも明日仕事終わりに会う約束をしていたというのに、何故彼は強引にこんなところに連れて来たのだろうか。
首を捻りながらもつくしはそれ以上深く考えずに差し出されたメニューに視線を落とした。





「ん~、おいひいっ!!」
「ぶっ、おいひいって・・・ガキかよ」
「あはは、ごめんごめん。でもすっっっごいおいしいね! このパスタなんて絶品!」
「だろ? かしこまってないのに味はミシュランに載ってもおかしくないほどの店なんだよ、ここ」
「へぇ~、大塚ってほんと情報通だよねぇ。きっと今までの彼女たちと来たんでしょ~!」

それはつくしにとっていつも通りの何気ない一言だった。
だがケラケラと笑うつくしとは対照的に、向かいに座る大塚の顔がサッと強ばると、動かしていた手がピタリと止まってしまった。やがて握られていたナイフとフォークが静かに置かれる。

「・・・大塚? どうしたの?」

じっと真顔でこちらを見つめるその姿に何故かドキッとする。
最近、ふとした時にこうしてとても真剣な顔をしていることが度々ある。それはつくしの知る彼とはまるで別人のようで、いつだって軽いノリで接してきたつくしにとってはどうしていいかわからず、途端に居心地が悪くなってしまうのが正直なところだった。
今がまさにその状況で、手元にあるパスタを口に運ぶことすら躊躇われてしまう。

「・・・昨日」
「え?」
「昨日・・・あいつといたのか?」
「えっ・・・?」

『 あいつ 』 その言葉に心臓が跳ね上がる。
名前を言われたわけでもないのに、そう言われて思い当たるのは1人しかいないから。
そしてその名前を思い出すだけで一気に甦ってくる生々しい出来事の数々。

「な・・・何のこと?」

精一杯平常心を装ってはいるが、上擦った声に気付かないほどバカじゃない。

「お前覚えてるか? あの日の夜俺と一緒に飲んでたこと」
「う、うん・・・」

辛うじて。
でも正直そんなことはとっくに吹っ飛んでしまってた・・・とは言えない。

「あれからあいつとどうなった?」
「ど、どうなったって? だから何のこと?」
「誤魔化すんじゃねーよ。目の前でお前をかっ攫われたんだ。お前があれから誰といたかなんてわかってるんだよ」
「・・・」

そうなの?
確かにあの日偶然大塚と会って、半ば強引にヤケ酒に付き合わせたのは覚えてる。
・・・けど、次に意識を取り戻したときにはもう・・・

そこまで思い出してカァーーーッと顔が熱くなっていく。
その姿に大塚の焦りと苛立ちは募るばかり。
ここで 「何もなかった」 なんて言われたところで、そんな言葉なんの説得力も持たない。
・・・あの男のあれだけ真剣な姿を見せつけられてしまえば。

激情を押し留めるようにテーブルに置いた手をギリッと握りしめる。

「・・・あいつと付き合うのか?」
「なっ・・・何言ってんの?! そんなことあるわけないじゃん!」

思ってもみない指摘につくしがギョッとする。

「でもあいつの気持ちは知ってるんだろ?」
「えっ・・・?」
「告白された。違うか?」
「な、なんで・・・」

突然そんなことを?
よもや部屋の前にいて一部始終を聞かれてたなんてことは・・・ないよね?

「ね、ねぇ、ほんとにどうしたの? なんか最近の大塚変だよ? やけに真顔になったり突然変なこと言い出したり・・・なんていうか、らしくないよ」
「・・・らしくないってなんだよ」
「えっ?」
「俺らしさってなんだよ」
「・・・大塚・・・?」

怒ったようにも見える顔でそう聞かれて何も言い返せない。
つくしにとっての彼は気を使わずに付き合える同僚。
それ以上もそれ以下もなく、一緒にいて安心できる信頼のおける相手。
それは彼にとっても同じだと思っていたのだが・・・それはただの自惚れだったのだろうか。

彼の言いたいことがわからない。
何に怒っているのかも・・・全く。

味わったことのない気まずさを感じて、たまらずつくしは俯いた。

「変なことじゃねぇよ」
「・・・え?」

だがすぐに聞こえてきた声に弾かれたように顔を上げる。

「お前がそういう風に俺を見てないってことはわかってたし、焦る必要もないって思ってた。・・・けど、あいつが現れて・・・このままじゃ絶対後悔するって・・・」
「・・・? ごめん、何を言ってるのか全然わかんないだけど・・・」

次から次に投げかけられる謎解きのような言葉の数々に、頭の中がぐちゃぐちゃだ。



「お前が好きだって言ってんだよ」



「・・・・・・え?」



だがはっきりと聞き取れた次の一言に、一瞬にして頭の中が真っ白に塗り替えられた。






 にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
ポチッと応援をよろしくお願い致します!
関連記事
00 : 00 : 00 | 忘れえぬ人(完) | コメント(13) | page top
<<忘れえぬ人 48 | ホーム | 忘れえぬ人 46>>
コメント
--管理人のみ閲覧できます--

このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/09/22 02:42 * [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--

このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/09/22 05:33 * [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--

このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/09/22 07:50 * [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--

このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/09/22 12:10 * [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--

このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/09/22 14:20 * [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--

このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/09/22 20:29 * [ 編集 ] | page top
--莉※様--

いかにも司らしいシンプルでストレートな告白ですよね。
彼には変な演出はどうやっても想像つかなくて(笑)
覚醒までが長かった分ここからは彼らしさを発揮してほしいですね!
そしてそして気になるもう1人、大塚もついに動きましたね。
全くもって気付いてなかった鈍感クイーンのつくしちゃん。
突然の事態連発に一体どうするでしょうね。
激しい男同士のバトルが見たいですな~( ̄∇ ̄)
by: みやとも * 2015/09/22 21:29 * URL [ 編集 ] | page top
--ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--

あっちもこっちも告白ラッシュ。
当の本人は鳩豆が飛びまくってますが( ̄∇ ̄)
厳しい闘いになるのは大塚自身が一番わかってるんでしょうけどね。それでもずっと好きだった気持ちを引くわけにはいかないようです。
by: みやとも * 2015/09/22 21:36 * URL [ 編集 ] | page top
--てっ※※くら様--

大塚も頑張りました~!
司を前にしたら肌で感じる危機感は相当なものでしょうからねぇ。
それでも真っ向勝負で挑んでいく覚悟を決めたようです。
男の闘いも楽しみですね♪

連休明けのチビゴン、どうなることやら・・・(笑)
今日は水族館に行ったんですが、チビゴンの名に恥じないハプニングを引き起こしてくれましたよぉ~(苦笑)
by: みやとも * 2015/09/22 21:40 * URL [ 編集 ] | page top
--k※※hi様--

これぞ晴天の屁こき・・・じゃなくて霹靂(笑)
突然のモテ期到来に嬉しいどころか大パニックのつくしちゃん。
両手に美男子、いや、類もいるから両手じゃ足りない!
ひゃ~、こんな贅沢ぶっ飛ばしたいほど羨ましいっ!! ←
でもそれを喜ぶような女じゃないから厄介なんですよねぇ・・・( ̄∇ ̄)
by: みやとも * 2015/09/22 21:47 * URL [ 編集 ] | page top
--ke※※ki様--

まぁ大塚は過去の戦歴は豊富ですからね。
でもまぁ彼は25ですからねぇ。普通に経験あって当然でしょう。
っていうか確実に司が異常ってだけで・・・(=_=)
司にはない彼ならではの魅力が絶対あると思ってます。
とはいえそれがつくしに伝わるかはまた別問題ですが( ̄∇ ̄)
by: みやとも * 2015/09/22 21:52 * URL [ 編集 ] | page top
--さと※※ん様--

オーレが・・・オーレが立った・・・!
あ、違った、言った。
間違いなく悶々と眠れぬ週末を過ごしたんでしょうねぇ。
目が充血しまくってるんじゃないかな(笑)
小洒落たイタ飯屋を予約してる辺りがねぇ~、必死さが滲み出てます。
つくしには微塵も気付いてもらえないのがまた切ねぇ(T-T)
宣言通り尻に仕掛け花火仕込みましたけどね、まだ導火線に火がついた程度ですから。
ドンパチはこれから思う存分やってもらいたいっ!!
女のバトルはイライラしかしないけど、男のバトルってなんか好きやわぁ・・・(〃▽〃)
by: みやとも * 2015/09/22 22:06 * URL [ 編集 ] | page top
--名無し様--

新鮮で楽しいと言っていただけて嬉しいです♪
まさに今までにない斬新なものを、と思って書き始めたのが今作になります。
ですからそういう感想をいただけると「ヨッシャー(≧∀≦)」と喜びまくります(笑)
強引に出た大塚が司に似てる感じがしますか?うふふ、鋭いですね。
似て非なる者としてこの2人を描きたいので、場面によって似てるな~と思ったかと思えばあれ、やっぱり全然違う?ってな感じで色んな見方をしてもらえたらいいなぁと思ってます。
戻っていない記憶のことも気になりますね!
by: みやとも * 2015/09/22 22:11 * URL [ 編集 ] | page top
コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

| ホーム |