忘れえぬ人 48
2015 / 09 / 23 ( Wed ) ・・・今何て言った?
っていうか、この展開にとてつもない既視感があるんだけど。 あたしの耳がおかしくなければ、大塚が今言ったのは、あたしを・・・ 「 俺は牧野、お前のことが好きなんだよ 」 まるで心の中を読まれていたように被せられた言葉にゴクッと息を呑んだ。 冗談でしょ? なんて言えないのは、全く同じ真剣な眼差しで同じことを言ったあの男の姿が鮮明に脳裏に焼き付いているから。この顔はふざけている顔じゃない。 突然のことに膝に載せている手が小さく震える。 「な・・・なんで突然・・・」 「突然じゃねーよ。お前にとってはそう感じるかもしれないけど、俺にとってはずっと心の中に留めてきたことだった。それに、会社で気付いてないのはお前だけだぞ」 「えっ?!」 「むしろお前が鈍感すぎて皆に同情されてるくらいだし」 「う、そ・・・」 驚愕の事実に言葉も出ない。 じゃあ皆全てを知った上であたし達を見守ってたってこと?! 「今のお前にとって俺が恋愛対象じゃないってことは俺だってわかってるんだ。正直、出会った頃の俺の印象はお前の中で最悪だろうしな・・・」 過去の自分を悔やんでも悔やみきれないのか、大塚がバツが悪そうに目を伏せた。 入社した頃、彼はよく女性関係のトラブルに巻き込まれていた。話を聞いてみれば全ては思わせぶりな態度をとっている彼自身に問題があったのだが・・・総二郎やあきらを見てすっかり免疫のついていたつくしにとっては 「お前もか」 程度にしか考えてはいなかった。 まぁだから余計に異性として意識しなかったというのはあるかもしれないが。 「一緒に仕事していくうちにお前にどんどん惹かれていく自分がいて・・・そうしたら自分がすげぇ汚らしい奴に思えて。・・・だから、それ以降は一切お前に顔向けできないようなことはやめたんだ」 「・・・・・・」 そういえば半年ほどでパタリと彼女の話を聞かなくなったことを思い出す。 話題に上がらないだけで水面下では色々あるんだろうなんて思っていたけど・・・まさかそんな決意が隠されていたなんて。 「お前に一番近い男は俺だっていう自信もあったし、ゆっくり時間をかけて2人の関係を変えて行けたらいいってずっと思ってた。・・・でもあいつが現れてから、言いようのない焦りが俺の中に芽生えて・・・」 「な、なんで・・・」 「そんなのわかんねーよ。男としての直感だ」 「・・・・・・」 妙に道明寺とのことに口を出していたのはそういう理由だったのか。 今はともかく、初期の頃なんて完全なる犬猿の仲だったのに・・・一体何が彼にそう思わせたのか。 あたしにはまるでわからない。 「実際あいつに好きだって言われたんだろ?」 「そ、それは・・・」 途端に視線を彷徨わせ始めたつくしにはぁっと溜め息をつく。 「お前ほどわかりやすい奴はいないんだよ。それに、俺はあの日目の前でお前をかっ攫っていかれたんだからな。その後にどんな展開があるかなんて考えるまでもないだろ」 「・・・・・・」 「付き合うのか?」 「なっ・・・違うよ!」 「でもあいつはお前を諦める気はない。そうだろ?」 「・・・!」 なんで? なんでここまでお見通しなの? 驚きに目を見開くつくしの心の声が大塚には手に取るようにわかる。 「そんなの決まってんだろ。俺もあいつも同じだからだよ」 「え・・・?」 「納得のいく答えもないのに簡単に諦めたりできるかよ。だから俺だって同じだ。俺はずっとお前のことが好きだった。そんなことを考えたことはないっていうんなら、これから俺のことをそういう対象として見てゆっくり考えて欲しい。時間がかかってもいいから」 「大塚・・・」 「お前、俺といる時は気が楽だろ?」 「えっ?」 「深く考えずに一緒にいて楽な時間を過ごせる。俺はお前にそういう安らぎを与えてやれる自信がある。それが俺とあいつとの決定的な違いだと思ってる」 「・・・・・・」 そこで一呼吸入れると、あらためて大塚はつくしを真っ正面から見据えた。 「牧野、ずっとお前のことが好きだった。絶対に大事にすると誓う。だから俺と付き合ってくれ。・・・答えは急がずにゆっくり考えて欲しい。俺はいつまでも待ってるから」 「・・・・・・」 あまりにも真っ直ぐで真剣な言葉に、つくしは何も言い返すことができなかった。 *** すっかり暗くなった住宅街をフラフラと重い足取りで進んでいく。 たった2日の間にあまりにも色んな事がありすぎて、もうどこから考えていいのか。 ある種の罰ゲームかと思いたくなるほど、つくしには高難度過ぎる事態だった。 『 お前が逃げるならどこまでも追いかけるだけだ。・・・たとえ地獄の果てでも 』 『 一緒にいて安らげる時間を与えてやれる。 それがあいつと俺の違いだ 』 ぐるぐるぐるぐる、それぞれの言葉が頭の中をエンドレスに駆け巡っていく。 大塚の言った通り、道明寺と一緒にいて感じるのは常にピンと張り詰めた緊張感。 それは彼自身が醸し出す絶対的なオーラがそうさせているのであって、大塚といる時にはそんなことを感じたことなんてない。一緒にいて楽なのはどっち? って聞かれれば、迷うことなく後者だと答える。 でもだからって大塚を 「そういう対象」 として見られるかと言われればそれはまた別問題で。 彼と3年間一緒にいて一度もそんな気持ちになったことなんてなかった。 今思えば道明寺に嫉妬して少しずつ 「そういう感情」 を隠しきれなくなっていたその姿に、むしろ居心地の悪さを感じていたくらいで・・・ でも大塚はそれもわかってるからこそゆっくり考えて欲しいと言ったのだろう。 どちらも中途半端な断り方では絶対に納得してはくれない。 いくら鈍いつくしにもそれくらいは嫌というほど伝わってきた。 「はぁ・・・・・・なんでこんなことになっちゃったんだろ・・・」 他人から聞かされたのなら 「凄~い!」 と言ってはしゃぎまくるだろうに、いざそれが我が身に降りかかってしまうとどうしていいのか途方に暮れてしまう。 ピリリリリリッ! ピリリリリリッ! 「ひっ・・・! びっ、びっくりした・・・あれ、携帯・・・なんで?」 夜道に響いた音に思わず飛び上がるが、自分の携帯は充電が切れていたはず。 まさか怪奇現象?! と思ったところではたと思い出す。 今の自分が持っているのは1台じゃなかったということを。 もしかしなくてもこの音は・・・! 『 シカトしやがったらSPつけるからな 』 「あわわわわ・・・!」 尚も音を響かせ続ける犯人を鞄を必死にあさって探し出す。暗くてよく見えずに手こずったが、ようやくそれらしい物体に触れると、つくしは慌てて通話ボタンを押した。 「も・・・もしもしっ?!」 『 おせーぞ 』 開口一番聞こえてきたのは相も変わらずドスの聞いた声。 これが自分を好きだと言ってる奴だなんて誰が信じる?! 「お、遅いって仕方ないじゃん! すぐに出られる時とそうじゃない時があるんだから」 『 フン、今何してんだ? 』 「えっ? 駅から歩いて帰ってる途中だけど・・・」 『 こんな時間にか? やけにおせーんだな。危ねぇだろ 』 「あ・・・き、今日はちょっと残業が多かったから! それで遅くなっただけ!」 『 ・・・・・・へぇ・・・? 』 な、何よその妙な間は。 怖いからやめなさいよっ!! どこかで監視されているような気がして思わず周囲をキョロキョロと見渡す。 「そ、それで何の用? それこそこんな時間に」 『 ・・・あぁ、急な話だがこれから少しの間仕事でイタリアに行くことになった 』 「え・・・そうなんだ。 ・・・・・・えっ、まさかそれだけ?!」 『 それだけって何だよ、お前 』 「い、いや、だって仕事でしょ? 正直あんたの仕事なんて私に何の関係もないし・・・報告を受けたところでどうしようもな・・・」 『 てめぇ、ブッ飛ばされてぇのか? 』 「えっ??!!」 何とも物騒な声色と言葉に背筋がゾクッとして思わず足が止まった。 『 自分の女に予定を伝えるのは当然のことだろうが。ざけんじゃねーぞ 』 「じ、自分の女って・・・だから違うってば!」 『 いずれなるんだから同じだろ 』 「同じじゃなーーいっ!!」 条件反射で張り上げた声に反応した犬の遠吠えが聞こえてきて、慌てて口を噤む。 『 なるべく早く戻ってこれるようにするけど、おそらく一週間前後は日本を離れる。帰ったら連絡すっから夜中だろうと早朝だろうとすぐに繋がるようにしておけよ。これは命令だ 』 「め、命令ってそんなバカな・・・」 『 それから。俺がいない間に他の男にキョトキョトすんじゃねーぞ 』 「えっ?!」 『 たとえば・・・お前の同僚の男とかな 』 はっきりと指摘されて心臓が止まりそうなほどにドキッとする。 なんで? なんで大塚のことを? ・・・・・・まさか、知ってる・・・? ドクンドクンドクンドクン・・・! 『 牧野 』 名前を呼ばれてハッとする。 ダメ! ここで動揺を見せたら認めたも同然になってしまう。 それだけは絶対に避けないと。 「な、何?」 『 いいか、お前はいずれ俺の女になる。それはお前がどう抗おうと絶対に変えられない未来だ。つーか既に俺の女になってんだけどな。だから俺以外の男に隙なんか見せんじゃねーぞ。特に酒を飲むことだけは絶対に許さねぇ 』 「なっ・・・?! なんの権利があってあんたにそんなこと・・・!」 『 権利? お前の唯一の男なんだから当然だろ? 』 「ななっ・・・!」 『 とにかくいい子にして待ってろよ。帰ったらいいもん食わせてやっから。じゃあな。 ブツッ 』 「えっ? ちょっと、もしもしっ?! ・・・・・・切れた・・・」 ・・・何よ、何なのよ・・・ 偶然にしてはあまりにもタイミングが良すぎて恐ろしい。 しかもあの男の中で完全に恋人同士になっちゃってるし。 おまけにいいもん食わせてやるからいい子で待ってろだなんて・・・ 人を食べ物でどうとでも操れる女だと思うなよっ! ・・・・・・まぁ全否定はできない自分が悲しいところだけど。 『 お前がどう抗おうと絶対に変えられない未来だ 』 「一体その自信はどこからやって来るって言うのよ・・・」 牧野つくし 21歳 生まれてこの方彼氏はおろか恋愛経験すらほとんどナシ。 不本意ながら別名鉄壁の鉄パン女。 そんな女に嵐のように降って湧いたモテ期到来に、只今絶賛思考停止中。
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by: * 2015/09/23 00:17 * [ 編集 ] | page top
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自分に脈がほとんどないってわかってるからこそ必死なんですよね。 強引に行き過ぎても引かれるだけだと思って時間をかけて関係を深めて来たのに、いきなり強力なライバルが現れちゃったわけですからね~。動かなきゃ確実に奪われるわけですから・・・かっこ悪くとも必死になるより他ないんですよね。 まぁつくしにはそんなことすら伝わってないんでしょうけど・・・( ̄∇ ̄;) 司不在中に何か起こるんでしょうか? --み※※じょ様--
はじめまして!コメント有難うございます(*^^*) あはは、大塚の存在にモヤモヤしてますか?確かに司ラブの方にはそうですよね。 でもある意味彼のようなライバルがいるからこそ司の恋心に火がつくんですよね。 ましてや今の2人には記憶がないですからね。今作はジレジレがテーマなので、ライバルは必須なんですよ~! 毎日更新は結構しんどいときもありますが、こうして皆さんとの交流を励みに日々頑張ってます♪ これからもよろしくお願い致します(*´∀`*) --さと※※ん様--
押しすぎてもダメだけど引いてもダメな状況になっちゃいましたからね~。 オーレは必死に藻掻いてます。 イケメンに対する免疫がつき過ぎてるのがまた辛いところですよね。 彼にとっての強みがつくしにはまるで通用しないという・・・( ̄∇ ̄) あはは、犬の遠吠えに反応してもらえた♪ どうでもいいこだわりに毎回反応してくださるさと※※ん様、もうダイスキ(^з^)ンチュ~ --黒髪の※※子様--
既に俺の女になってる発言は過去の事は一切関係なく言ってる設定です。 要するに絶対にお前を逃がしはしないという彼の強い決意表明的な。 この豹変っぷりにつくしが戸惑うのは当然ですよね。 でも元来司ってこういう人間でしたよね。 原作の初期でも自分の感情で思いっきり周囲の人間を振り回してましたから。 どうしても試練を乗り越えていく時の2人を思い出しがちですけど、元来彼はこんな人間だった。 記憶のない司は基本的にそれとほとんど変わらないという設定で書いてます。 だから「お前何様やねん!」ってことが多々出てくるかと思います。 でもそれも含めて彼がこれからどう変化していくか。じっくり書いていけたらいいなと思ってます^^ 気が付けば50話目前。過去最長になるのはもう確定ですね。 いつも「長編を!!」と切望されてますので満足していただけそうでしょうか?(笑) --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
おっ、大塚に一票ですか?(〃▽〃) まぁね、大塚の方が色々と経験が多い分いい面も絶対あると思うんですよね。 はっきり言って現状の司ってただの我儘横暴男ですし・・・(汗) でもそれでこそつかつくワールドなんですよねぇ♪ 少しずつ変わっていく2人が楽しくってたまりませ~ん( ´艸`) --た※き様--
うふふ、2人の記憶が最終的にどうなるのか気になりますよね~。 そこは・・・私の口からは教えることはできませんっ(≧∀≦)ゴメンチャイ! 大塚は2人の過去を知ったらどうなんでしょうね? でもつくしを好きになった気持ちをそれでなくすことはムリなんじゃないかなぁ? 好きな気持ちって理屈で消すことって不可能ですからね。 --ke※※ki様--
つくしにとっての「楽」は間違いなく性別を意識しなくていい関係を築けるかってことでしょうね。 彼女自身が恋愛に興味がないというか、今は余裕もないというか。 恋愛偏差値0の女には難易度が高いですね~。でもだからこそそんな人間には大塚みたいに経験豊富な相手もアリだとは思うんですけどね。(あくまでも現実の世界ではって意味ですけど) 鈍い vs 強引男 のデスマッチはどっちに軍配があがるのか?! なんかハブ対マングースみたいになっちゃってますが(^_^;) 実は私・・・モテ期がありましたっ!! 大学1年の頃でしたね~。自分でもびっくりするくらいに。 その時告白してくれた1人が実は旦那だったりするんです(〃▽〃) とはいってもすぐにくっつかずに色々あったんですけどね(笑) 今思えば人生の絶頂期だったと確信しております。 絶頂期を過ぎれば当然下降の一途を辿るばかりです。ハイ。( ̄∇ ̄)遠い目・・・ |
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