忘れえぬ人 49
2015 / 09 / 24 ( Thu ) 「すご~い! そんなことになってたんだぁ~」
「ちょっと、人ごとだと思って楽しそうに言わないでよ」 全ての話を聞き終えた優紀の顔は少女漫画を読んだ後のようにキラキラと目が輝いている。 向かいでげっそりと生気を失っているつくしとは実に対照的だ。 「ごめんごめん、でもあの日帰って来なかったからずっと心配してたんだけど・・・思ってた以上に色んなことがあったんだ」 「あったなんてもんじゃないよ・・・もうどうしていいかわかんないもん」 「ほんと、長い冬眠が明けて一気に春が来たって感じだね」 「こんな春なら来なくていいよ・・・」 「あはは、モテてそんなこと言うのはつくしくらいだよ」 そうはいっても本気でそう思うのだから仕方ない。 とはいえ優紀の言うことももっともで。 なんとも複雑な気持ちを抱えたままつくしはテーブルに突っ伏した。 「どうするの?」 「どうするのって・・・それがわかればこんなになってないよ」 「・・・だよね」 クスッと優紀が苦笑いする。 「じゃあさ、どっちに告白されたときがよりドキドキした?」 「えっ?」 思いも寄らぬ問いかけにむくっと顔を上げた。 「考えてわからないんだったらさ、素直に感じたことを思い出してみればいいんじゃない?」 「感じたことって・・・」 「全然ドキドキしなかったの?」 「いや、そんなことはないけど・・・」 どっちがドキドキしたかって言われればそれは間違いなく道明寺だと思う。 でもそれは前日からの流れがあったし、しかもどさくさ紛れにキスされたからであって・・・ うわっ・・・あわわわわわ! ダメだ、思い出すだけで心臓が爆発しそうになっちゃうよ! 「つくし、顔真っ赤だよ? 誰を思い出してるの?」 「えっ!! べっ、別にっ?!」 「ふぅ~~~ん?」 「な、何よその顔は!」 「別にぃ~?」 ニヤニヤ顔に全てを見透かされているようで、すこぶる居心地が悪いったらない。 「だいたいさ、道明寺は今まで散々人をいびり倒しておきながら、しかも嫌がらせのためとはいえ女の人にあ、あんなことまでさせて・・・! 大塚だって彼女がコロコロ変わるのを見せられてるわけだし、そんな人に突然好きだとか言われてもそう簡単に受け入れられないって」 それは嘘偽らざるつくしの本音だった。 昨日の敵は今日の友・・・を通り越して恋人になれと言われてる気分だ。 「大塚さんのことはあたしにはよくわからないけど・・・少なくともあたしの知ってる道明寺さんは女の人に見向きもしない人だったよ」 「え?」 「あ・・・高校の頃につくしから直接聞いた話だったり、実際に見た上での印象だけど。どちらかと言えば大の女嫌いだったと思う」 「女嫌い・・・」 「ほら、あの見た目にお金持ちでしょ? 多分寄ってくる女の人は後を絶たないんじゃないのかな。西門さんや美作さんみたいに適当に遊ぶタイプもいれば、花沢さんみたいにそもそも人を寄せ付けないタイプもいる。道明寺さんは確実に後者だったよ」 「・・・」 言われて見ればこの前バーであんなことをさせてたのを目撃した以外、あの男の周囲に女の影を感じたことはただの一度もない。受付嬢に絡まれたときだって、容赦ない態度で切り捨てていた。 『 俺は好きでもねぇ女とできるような人間じゃねーんだよ 』 言われた言葉がより真実味を帯びてくる。 ・・・本当の本当に? そうだとしたら尚更どうして・・・ 「あたしみたいな女を・・・?」 その疑問が意識せずに口をついて出ていた。 そう、そこがどうしてもわからない。 あれだけ嫌われていたのに、何があの男をあそこまで変えたのか。 好かれるようなきっかけがあったとも思えない。 女嫌いなら尚更なんで・・・? 「本人に聞いてみたらいいんじゃない?」 「えっ?」 「多分今の道明寺さんならつくしの言葉にちゃんと耳を傾けてくれると思うよ? だったらつくしが疑問に思うことはどんどんぶつけてみればいいじゃない」 「ぶつける・・・?」 「そう。何事にも怯まないのが牧野つくしの良さ、でしょ?」 「・・・・・・」 そう笑いながら言った優紀の言葉がいつまでもつくしの心に残り続けた。 *** 「・・・あいつ、まだイタリアにいるのかな」 ぽそっと呟いた一言に自分でびっくりする。 やだやだやだ、これじゃあまるで気にしてるみたいじゃないか。 急遽日本を離れると連絡があってからなんだかんだでもうすぐ2週間。 結局あれから一度も音沙汰はない。 大塚は戸惑うあたしを気遣ってくれてるのか、仕事中は今までと何も変わらずに接してくれている。とはいえ、一歩会社を出てしまえば頻繁に 「男」 としてのアピールを感じる。 正直、今はそれが重くて仕方がない。 一度だけ 「そういう風には考えられない」 と伝えたことがあったけど、そんなのは最初からわかってるから時間をかけて考えてくれと、またしても念押しされてしまった。 「はぁ・・・」 中途半端な状態が自分にとっては苦痛過ぎてどうしていいのかわからない。 ふとすれ違った見知らぬカップルが目に入る。 手を絡ませて仲睦まじく笑い合う姿を素直に羨ましいと思う。 でも、あまりにもその手のことに疎すぎる自分にはどうすればそんな関係を自然に築き上げることができるのかよくわからない。 「そういえば最後に人を好きになったのっていつだっけ・・・?」 小学生の時に教育実習に来た先生になんとなく憧れを抱いたことはある。 ・・・・・・それから? 「・・・あれ、もしかしてそれだけ?」 嘘でしょ? 20年以上生きてきてたったそれだけ? 我ながらあまりのあり得なさに驚愕する。 「でもぶっちゃけ、高校に入ってからはそんな余裕すらなかったしなぁ・・・」 日々を生きるだけで精一杯で。 もしかして、失われた記憶の中で誰かを好きになったことがあったりするんだろうか・・・? そう考えてすぐに浮かび上がってくるあの男の姿。 そしてお邸の人々の嬉しそうな顔。 何度も考えた 「もしかして」 が本当に事実だったとしたら。 あの男は記憶を失った状態で再びあたしを好きになったということなんだろうか・・・? もしそうだとしたら、あたしは? あたしの心はどこへ向かうの・・・? 「 つくしちゃん?! 」 「え?」 聞こえてきた綺麗な声にキョロキョロ周囲を見渡す。 ・・・と、通りに停められたリムジンの中からサングラス越しにこちらを凝視している女性がいた。 「やっぱり! つくしちゃんじゃないっ!!」 サッと外されたサングラスの下から息も止まりそうなほどの絶世の美女が姿を現した。 すぐに扉が開くと、満面の笑顔を携えながらその女性が一直線にこちらへ駆けてくる。 もしかしてつくしという名の女性が他にもいるのだろうかと周りを確認しようと思ったその時、 「つくしちゃんっ、会いたかったっ!!!」 「わぷっ・・・!!」 凄まじい勢いで抱きしめられていた。ふわりと見た目通りのいい香りが途端に漂う。 「こんなところで偶然会えるなんて運命的だわ!」 「え、あ、あの・・・?」 「今まさにつくしちゃんのお家へ向かおうとしてたのよ? あ~、予想したとおり綺麗になって!」 いや、綺麗なのは間違いなくあなたです。 顔の美しさは言わずもがな、自分より一回り小さい顔に人間離れしたスタイルの良さ。 こんな美人、一度でも見たことがあるのなら絶対に忘れることなんてあり得ない。 「これから時間あるかしら? よかったらゆっくりお話ししましょ?」 「あ、あのっ、ごめんなさい! ・・・どちら様・・・ですか?」 「えっ?!」 つくしの口から出た一言に、満面の笑みを浮かべていた女性の顔が一瞬で変わった。 「・・・つくしちゃん? 何を言ってるの?」 「ご、ごめんなさいっ! 実は私・・・一部の記憶が、なくて・・・」 「えっ・・・?」 全く想定だにしていなかったのだろう。みるみる驚愕に目が見開かれていく。 「だから失礼があったら本当にごめんなさい! どちら様なのかわからないんです・・・」 「・・・・・・」 女性はペコペコと頭を下げ続けるつくしを呆気にとられたまましばらく見つめていたが、やがてフワリと優しく微笑むと、そっとつくしの肩に手を乗せた。 「つくしちゃん、顔を上げてちょうだい?」 「・・・はい・・・」 心底申し訳なさそうに顔を上げたつくしに、立ち姿さえ見惚れるほど美しいその女性はこれまたウットリしてしまうほど美しい笑顔を見せて言った。 「私の名は道明寺椿。 道明寺司の姉、・・・・・・そしてあなたの友人よ」
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by: * 2015/09/24 00:51 * [ 編集 ] | page top
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わはは、チビゴンの池ポチャね~、ほんとに参りましたよ(^_^;) ずぶ濡れになっただけで笑い話で済んでよかったですけど、落ちた先に岩でもあったら・・・笑ってなんていられませんでした(=_=)実はチビゴン、以前は三輪車を漕いでる最中に土手から転がり落ちたこともありまして(笑)次は一体どこから落ちるんだ?!と戦々恐々としております(苦笑) チビゴンの名に恥じぬハッスルっぷりです(^◇^;) さて、ここで椿お姉さんの登場です。 只今迷路のど真ん中に入り込んでしまっているつくしちゃん。 彼女との再会で何か掴めるのでしょうか? --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
そういえば椿お姉さんって何歳なんでしょうねぇ?原作に書いてあったっけ?覚えてない(汗) 確か司が小さい頃にお好み焼きを作ってあげたエピソードがありましたよね。なので司と2、3歳差ってことはないんじゃないかなぁなんて勝手に想像してるんですが。 司が高3の時には既に結婚してましたからね。7、8歳くらい違ってるのかなぁ? --てっ※※くら様--
なんだかあっという間の連休でした~。相変わらず特段いつもと変わらず(^_^;) そんな中でもまたしてもチビゴンはやってくれましたよ。 はしゃぎ過ぎて池に落ちるというね。お前は芸人かっ?!とツッコまずにはいられない爆発っぷりで。三輪車で土手から転がったり池に落ちたり・・・次は何が起こるかと生きた心地がしません(笑) さぁ、そしてここにきてようやくつくしと椿お姉さんの再会となります。 椿のことを覚えていないつくしとそれを初めて知った椿。 この再会が今後の2人にどんな影響を与えるのか?楽しみですね^^ --ke※※ki様--
優紀っていつもさりげなくいいアシストしてくれますよね。 決して押しつけがましさがない、そこが彼女の良さだと思ってます。 やっぱり庶民同士ということで一番わかり合えるのは彼女なんじゃないかなと。 鬼の居ぬ間に椿お姉様の登場です。 でもある意味鬼よりも手強いかもしれない(笑) 彼女との出会いがつくしに変化をもたらすのか?気になりますね。 --名無し様<拍手コメントお礼>--
萌えツボグイグイ押されてますか?本当ですかっ? 嬉しい~~~~っ!!(≧∀≦) ジレジレで長くなってるのでちょっと不安もあったりするんですが、思ってた以上に皆さんに楽しんでいただけてるようでほんと嬉しいです(ノД`) そう、その自己中は何なのさ?!ってのがまさに司ですよね。今は記憶のない彼ですから、より原作の初期に近い感じをイメージして書いてますよ~。 気持ちを自覚したことで少しずつ変わっていくのかな・・・? --k※※a様--
はじめまして!コメント有難うございます(*^^*) わ~、読破してくださったんですか?嬉しいです、有難うございますっ! えぇえぇ、このお話しでは両想いから始まってないですからね。 柱が「ジレジレ展開」でしたので、その言葉通り気持ちを自覚するまでがまず長い(笑) これまでは最初からスキスキー大前提でしたからね。余計にそこに焦れた方も多いかとは思いますが、長く続けるためにも色んなパターンのお話しを書きたいなと思いまして。ダブル記憶喪失って面白くない?ってところから始まりまして、それならば焦れる展開しかない!と。 つくしはまだ自覚してませんが、とりあえず司にエンジンがかかっただけでも安心された方が多いんじゃないななんて思ってます(笑)彼にエンジンがかかりさえすればね・・・みたいな( ̄∇ ̄) 過去最長となりそうな気配ですが、どうぞ最後まで2人を見守っていただけたら嬉しいです♪ これからもよろしくお願いいたします(*´∀`*) |
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