忘れえぬ人 50
2015 / 09 / 25 ( Fri ) 道明寺・・・椿・・・?
姉・・・? この絶世の美女があの男の・・・ 「お姉さん?!」 思わず叫んでしまったつくしに椿はニッコリと笑ってみせた。 言われて見ればそこかしこにあの男の面影があるような・・・ 特に圧倒的なオーラには言葉も出ないほど。 「そうよ。4年ぶりに帰国したからこっちにいる間につくしちゃんに何としても会いたいって思ってたんだけど・・・そう、そういうことになってたのね・・・」 「あ、あの、ほんとにごめんなさい」 「あぁ、違うのよ。あなたが気にするようなことはなにもないわ。・・・それじゃあうちのお邸で一緒に食事しましょう!」 「えっ?!」 「そうだわ、それがいいわ。お邸の人間もつくしちゃんに会いたがってるでしょうし」 「え? えっ?」 「そうと決まれば善は急げ。さ、行きましょう!」 「えっ? えっ? えぇっ?!!」 ガシッとさっき見かけたどこかの恋人同士のように腕を掴まれると、問答無用でつくしの体が引き摺られていく。顔こそニッコニコ笑顔を浮かべているが、仮に断ろうとも絶対に認めないと言わんばかりの強力な意思がびんびんに伝わってくる。 似ている・・・ この有無を言わさない圧倒的な強引パワー。 あの男にそっくりだ・・・!! そんなことを痛感している間にもあれよあれよと景色は流れ、つくしの体はあっという間にリムジンの中へと押し込まれていった。 *** 「まぁ、牧野様っ! ようこそおいでくださいましたっ!!」 つくしの突然の来訪に邸の人間が一斉に色めきだつ。 「あ、はは・・・こんにちは。突然お邪魔してすみません」 「とんでもございません! 一同またお会いできて嬉しい限りです」 否やもなしに拉致されて来たんですという言葉は呑み込んで苦笑いするしかない。 「つくしちゃんと一緒に夕食をとろうと思ってるの。至急準備をお願いできるかしら?」 「かしこまりました。喜んで」 「えっ? あ、あの、おねえさん?!」 「さっ、部屋へ行きましょう!」 「えっ、えっ?」 自分の意思とは全く関係ないところで次から次に動いていく事態に呆然と立ち尽くすつくしなどまるでお構いなし。絶世の美女はにっこりと眩いばかりの笑顔を見せると、またしても凄まじい力でつくしを引き摺っていった。 「それじゃあいただきましょう」 「は、はい・・・いただきます・・・」 何がどうしてこんなことになったのやら。 以前熱を出してあの男と共に朝食をとった場所で、よもや今度はそのお姉さんと食事をすることになろうとは。予定では今日は帰りに特売の白菜と大根を買って特製貧乏野菜鍋にしようと思っていたのに。何故か見目麗しいフルコースに変身している。 今なら誰よりも浦島太郎の理解者になれるかもしれない・・・ 「・・・! おいしいっ!!」 だがそんなことも目の前の料理を口にした瞬間全て吹っ飛んでしまった。 余計な思考は霧散し、たちまち笑顔で満たされていく。 椿はそんなつくしの表情の変化を目を細めながらずっと見つめていた。 「ふふ、やっぱりつくしちゃんねぇ」 「え?」 「その反応、私の知ってるつくしちゃんとちっとも変わらない」 咀嚼していたものをコクンと飲み込むと、つくしは目の前にいる女性をあらためて見た。 モデルなんかよりもよっぽど綺麗な完璧な容姿。美しさだけではなくてハッと息を呑むような気品、そして圧倒的なオーラ。あの男の姉だと言われたら全てがピシャリと納得できる。 よっぽど美形な家族に違いない。 「あの・・・あたしのことをご存知なんですよね?」 「もちろん。言ったでしょ? 友人だって」 「それは、その・・・やっぱりどうみょう・・・司さんを通してってことですよね・・・?」 「えぇそうよ」 あっさりと。 躊躇いながら尋ねるつくしとは対照的に即答が返ってくる。 「逆に聞いてもいいかしら? つくしちゃんは何をどこまで覚えてるの?」 「えっ?! あ・・・私自身も正直よくはわからないんですけど、皆が言うには司さんに関することはほとんど何も・・・」 「類達のことは?」 「それは覚えてるんですけど、でもどういう風に出会ったのかとか、部分的にない記憶もあるみたいで・・・」 「・・・そう。司と全く一緒なのね」 「え?」 「司も同じよ。つくしちゃんに関することだけ覚えてないの」 「えっ・・・?」 以前類が道明寺は迷子になってるんだと言っていたことを思い出す。 その時は単に記憶喪失仲間だとしか考えていなかったけど・・・あたしのことだけ忘れた? あたしはあいつのことだけ忘れてる。 これは単なる偶然・・・? 「そう、お互いにお互いのことを覚えてなかったのね」 「ごめんなさい・・・」 「あぁ、違うのよ。責めてるわけじゃないから誤解しないで? むしろ感動してるくらいなんだから」 「え・・・感動?」 「そうよ。互いに記憶がないのに再び出会えたことにね」 「・・・」 記憶がないのに再び出会えた? でも、あれは本当に単なる偶然で・・・ 「つくしちゃん、たとえ偶然だとしても、その偶然が起こる確率ってどれだけのものだと思う?」 「えっ?」 「70億を超える人がこの世界にいて、その中で生まれて死ぬまでに出会える人の数ってどれくらいかしら? 最初に出会ったのが偶然だとしても、それぞれ互いのことを忘れた状態で意図せず再び出会う確率。それって凄い数字になると思わない?」 「・・・・・・」 「私だってそうよ。あなたに会いたいと思ってた。会いに行こうと思ってた。でも結果的に街中で偶然出会うことができた。偶然だけど、運命的だと思わない?」 「運命・・・?」 「そう。出会うべくして出会った、私はそう思ってるわ」 「出会うべくして・・・」 優しく微笑んで言われたその言葉が、驚くほどにつくしの心に留まる。 元々あまりにも住む世界の違う2人だった。 記憶にはないけれど、そんな人と出会って友人になって・・・一度は道を分かって再び出会う。 学生の時よりももっともっと立場がかけ離れたものになっていたにもかかわらず。 その 「偶然」 が起こり得る確率は一体どれだけのものなのだろう・・・? 「もしよかったらあの子に再会してからどんなことがあったか教えてくれないかしら?」 「・・・え?」 驚いて顔を上げたつくしにフフッと椿が苦笑いする。 「あの子のことだからつくしちゃんに無理難題を押しつけてるんじゃないの? 他の人では相談しづらいことも私なら聞いてあげられることがきっとあると思うの。私はあの子の姉だけど、つくしちゃんの友人でもあるわ。あなたの助けになることがあれば何でもしてあげたいと思ってる。 何か悩んでることはない?」 「お姉さん・・・」 そう言って見せた顔があまりにも優しくて。 ・・・そしてひどく懐かしく見えて。 何故だかわけもわからずに涙が込み上げてきそうになってしまった。 「 実は・・・ 」 だから気が付けば素直に口を開いている自分がいたんだ。 *** 「・・・そう、あの子ったらやっぱり暴走してるのね」 「ちょっと自分でも展開についていけてないんです・・・」 食事と共に会話も進み、いつの間にかつくしの緊張もほとんどほぐれていた。 驚くほどすんなりとこれまでの経緯を話してしまっている自分に驚きを隠せないが、何故かこの人になら話しても大丈夫だという安心感があった。 それは考えて感じたことではなく・・・心で感じたこと。 「ごめんなさいね。今も昔もつくしちゃんを振り回しっぱなしで・・・あの子に会ったらきつくお灸を据えておくから」 「えっ、いえ、そんな・・・」 あの男がお灸を据えられている姿なんて想像もできない。 けど、このお姉さん相手だと頭が上がらなかったりするんだろうか? ・・・だとしたら想像するだけでもなんか楽しい。 「でも一つだけあの子を褒めてやりたいわ」 「え?」 クルクルと右手でワイングラスを回しながら、椿はフフッと笑ってみせた。 「あの子が結局好きになるのはつくしちゃんだってことにね」 「・・・えっ?」 「記憶の有無は関係ない、辿り着く場所は同じ。自分でそのことに気付いたあの子を褒めてやりたい」 「え・・・それって、どういう・・・」 ダダダダダダダ、ガンッ!!! そこまで言いかけて突如響き渡った凄まじい轟音に持っていたフォークが思わず落下した。 扉が壊れん勢いで開いたその先から姿を現したのは・・・ 「うるさいわよ。もっと静かに入って来たらどうなの?」 「はぁはぁはぁ・・・何やってんだよ」 「何って? 見ての通りつくしちゃんと仲良くお食事だけど? ね、つくしちゃん?」 「えっ?! え、あ、あの・・・」 ぜぇぜぇと息を切らしながらこちらを見たのは2週間ぶりにみる男、道明寺司本人で。 お姉さんはまるでこうなることを予想していたかのように動揺一つ見せずにご機嫌顔でワインを飲んでいる。 「帰国した足でお前んとこに向かおうとしたら・・・ここに来てるって連絡が入って・・・」 「えっ? あ・・・街中で偶然お姉さんに会って、それで・・・」 「何か余計なこと吹き込まれてねぇだろうな?」 「えっ?!」 余計なこと? ・・・って、例えばどんなこと? 「うるさいわね。女同士色々募る話もあるのよ。ね、つくしちゃん?」 「あ、あははは・・・」 「汗だくでそんなところに突っ立たれても迷惑なのよ。出ていくかそこにちゃんと座るかしなさい」 「・・・チッ!」 忌々しげに舌打ちしつつも、司は渋々空いた席にドカッと腰を下ろした。 まるで珍獣遣いのようなそのやりとりに、つくしは心の底から感動していた。 まさかこの男を顎で操れる人間がこの世に存在していたなんて。 「食事は? 機内で済ませたの?」 「・・・いや、イタリア出てから何も食ってねぇ」 「じゃあ準備させるわ。待ってなさい」 そう言って部屋の隅に待機していた使用人に合図を送ると、風のように準備が整えられていく。 「随分遅かったのね?」 「まぁな。カルロスの親父がごねやがって。無駄に足止め喰らって冗談じゃねぇっつーんだ」 「ふふ、でもあの人相手にあんたがキレずにちゃんと完遂しただけでも凄いじゃないの」 「フン」 フッと顔を上げた司と目があってドキッと心臓が跳ね上がる。 2週間ぶりに見た顔は・・・少しやつれて疲れているように見える。 な、何か話さなきゃ・・・何か・・・ 「あ、あの! お帰りなさい・・・」 「・・・あ?」 「あっ、何でもない! 今のナシ、忘れてっ!!」 あたしったら何をお帰りだなんて言ってるのか。 テンパってて自分でも何を言ってるのかわけわかんないよ! 「お・・・おう、・・・・・・・・・ただいま」 「・・・へっ?」 ぶっきらぼうながらも上擦った声に思わず司を見上げる。 ・・・と、一見ふて腐れたように見えてどこかニヤけた口元を隠せていない男がそこにいた。 しかも心なしか頬が赤くなっているような・・・ 「あらあら、赤くなるなんて可愛いところもあるじゃない」 「うるせーぞ」 「うふふ、この子ったらつくしちゃんから 『お帰り』 って言ってもらえたことが嬉しくって仕方がないみたい」 「だからうるせーぞっ!!」 ガタガッタン!! 勢いよく立ち上がった拍子に座っていた椅子がひっくり返った。 怒り心頭でいつもの道明寺・・・かと思えば、さっきよりもよっぽど顔が赤くて驚くほどに怖くない。 というよりむしろ・・・ 「・・・・・・ぷっ」 「あ?」 「ふっ・・・あははははは! ダメだっ、おかしすぎる・・・!」 「っ、てんめぇ、笑うんじゃねぇっ!!」 「だ、だって、真っ赤になって可愛いんだもん・・・あはははは!」 「んの野郎、笑うなっつってんだろうが!!」 「ムリっ! ぷぷぷぷ・・・ひー、あはははは!」 「・・・!」 顔中に怒りマークを貼り付けている司を前にしてもつくしの笑いは止まらない。 そんな2人をニコニコと嬉しそうに見つめている美女が1人。 そして物陰からコソコソと見つめている使用人が1名、2名。 ・・・いや、もっと。 「つくしちゃん、今日はここに泊まっていきなさい」 「・・・・・・へっ?」 だが次の瞬間美女の口から飛び出したトンデモ発言に、つくしの顔から笑顔が吹き飛んだ。
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by: * 2015/09/25 00:50 * [ 編集 ] | page top
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このコメントは管理人のみ閲覧できます --ぴ※様<拍手コメントお礼>--
わはは、椿タイフーンが吹き荒れてますよっ(≧∀≦) --莉※様--
そうそう、本来珍獣使いの真打ちはつくしですよね~♪ とりあえず彼女が真の姿を取り戻すまではお姉様にサポートしてもらって(笑) 記憶喪失同士が再び出会うってなんだかドラマチックですよね~。 そもそもパンピーと富豪が出会うというベタ過ぎる展開がまさに萌えポイントといいますか。 ま、現実にはそうそうないですけど(笑) でも想像の世界でくらいどっぷり鉄板に浸りたいですよね( ´艸`) そもそもつくしが英徳に行ってなければ・・・ってことになりますから、真のキューピットはもしかして・・・ 牧野千恵子?!( ̄∇ ̄) --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
よっしゃ、バナー見て吹き出してくれた人がいたっ!(≧∀≦) 多分吹き出してくれるだろうなと思い当たる常連さんが数名いたんですが、もちのろんでゆ※ん様もその筆頭でしたよ(笑) そして猫山紀信に今度はこっちがフイタ( ̄∇ ̄) --k※※hi様--
さすがは道明寺椿っ!!と思わずフルネームで叫びたくなっちゃいますね。 「よっ、成田屋!!」みたいな勢いで(笑) 本当、彼女の存在は重要ですよね~。 司にとって後にも先にもつくしが第一ですけど、それまでの彼を支えていたのは彼女の存在が大きいですよね。よくあの環境下でぐれなかったものです。 そしてサラッとお泊まり命令。 笑いながらも否やを受け入れる気はハナからないんでしょうね(笑) --た※き様--
バナー気に入っていただけて嬉しいです♪ そして長くてもOKですか?良かった~(*^o^*)ホッ めぞん一刻!懐かしいですね~。確かに長くてジレジレでしたね。 昔兄が読んでた気まぐれオレンジロードも思い出しちゃいました。 よし、お墨付きをいただいたのでもっとジレジレで頑張ろっかな♪( ̄∇ ̄) ← --ke※※ki様--
最近坊ちゃん汗掻きまくりですよね。 でもつくしを好きだと自覚しちゃった坊ちゃんなんてこんなもんですよ(笑) 原作でもどれだけつくしに振り回されたことか・・・ ま、それと同じかそれ以上振り回してますけど( ̄∇ ̄) 他の人間には絶対に見せないこのギャップ萌えがたまりません。 お姉様からの強制収監も発動されましたし、2人の関係に少しは変化が・・・ある? --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --co※※hann様--
あはは、猫バナー気に入っていただけて嬉しいです♪ きっかけは私が猫好きだったことで始めたんですが、思いの外楽しんでくださってる方がたくさんいらっしゃって。これは!!と必死になって可愛いにゃんこちゃん達を探す日々でございます(笑) 本編に全然関係なさそうな時は「あぁ今日はナイスなネタが見つからなかったのね」と思ってください(笑) |
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