忘れえぬ人 51
2015 / 09 / 26 ( Sat ) 今、なんかとんでもない幻聴が聞こえてきたような。
・・・気のせいだよね? うん、そうだ。きっと気のせい・・・ 「今日はこのまま泊まっていってちょうだい」 「ええぇっ???!!!」 ベタ過ぎるコント展開だとツッコまれようとも、これが驚かずにいられるかっ! 「なっ、なっ、何を・・・!」 「4年ぶりに会えたんだもの。一晩中話したって時間は足らないくらいだわ。それとも何? もしかして明日は休日出勤だったりするのかしら?」 「い、いえ、それはないですけど・・・」 「じゃあ決まり。本田さん、今日はこのままつくしちゃんを泊めるから。何の準備もしてきてないから必要なものを見繕ってあげてちょうだい」 「はいっ、お任せください!」 「えぇえっ?!!」 そんなにあっさり受け入れちゃうの? もっと驚いたりするところじゃないの?? そんな思いがもろに顔に出ているつくしと目が合うと、本田は心底嬉しそうに微笑んで出ていってしまった。あんぐりと口が開いたまま言葉も出ない。 「いいでしょ? 司」 「・・・好きにしろ」 「えぇっ!!」 ブルータス、お前もかっ!! ボケずにいられるかっ! 「素直に嬉しいって言えばいいじゃない」 「うるせーっつってんだろ」 「うふふ、そうと決まればつくしちゃん! 今日はゆっくりお酒を飲みながら色んなお話しましょ?」 「おい、こいつに飲ませんなよ」 「あら、どうして?」 「酔うと何しでかすかわかんねーんだよ」 「う゛っ・・・」 ついこの前大失態をしでかしてしまっただけにそれを言われちゃツライ。 「あんたがいるなら問題ないでしょ? その時は責任持って介抱してあげなさいな」 「えぇっ?! お、お姉さん、それはちょっと・・・!」 「ほらほら、いいからグラス持って!」 「えっ、えぇえっ・・・?!」 この数分の間に 「えぇっ」 だけでも何百回言ってるんだ? そんなことを考えている間にも強制的に握らされた右手のグラスにはトプトプと音をたててワインが注がれていく。 お姉さんのことは正直覚えてないけど、よーーーくわかったことがある。 一切の愛想を振りまかない道明寺とは真逆でニコニコ笑顔を絶やさないから騙されがちだけど、確実にお姉さんの方が人の話を聞かない・・・! この姉弟、恐ろしくソックリだと。 *** 「う~~・・・」 「あらつくしちゃん、酔ってきた?」 「はい・・・ちょっとフワフワしてます」 「大丈夫よぉ、今日はここに泊まるんだから。ほら、もっと飲んで飲んで!」 「バカ、それ以上はやめとけって」 強引に注がれそうになったボトルを横から伸びてきた手が押し返す。 ザルの椿に付き合って潰れずにいられるのは司くらいのものだ。 あれから3時間、既に数本のワインボトルが空いている。 「あら~、ケチっ!」 「何とでも言えよ。とにかくこいつにこれ以上飲ませんな」 姉弟のやりとりを、つくしはぼーーっとする頭でぼんやりと眺めている。 2回も泥酔したつくしの世話をしている司からすれば、それが限界点を超える一歩手前だというのは嫌というほどわかっていた。そのせいで明日がパーになることだけは絶対に避けたい。 「おい、水飲めよ」 「ん・・・ありがと・・・」 酔っているせいかいつになく素直に聞き入れる。 椿は甲斐甲斐しく世話をする弟の姿がおかしくてたまらなかった。 「へぇ~~、ついこの間会った時とはまるで別人じゃない」 「・・・何がだよ」 「だってそうでしょ? つくしちゃんのことなんか好きでもなんでもねぇ! とか言って邸中で暴れてたのはどこの誰だったかしら」 「知らねーな」 「自覚した途端これだもの。つくしちゃんが戸惑うのも当然よねぇ?」 椿のアイコンタクトにつくしはコクコクと大きく被りを振って答える。 「マジでうるせーな・・・」 「あんた、つくしちゃんを好きだって自覚したのはいいとして、これまでのことはちゃんと謝ったの?」 「はぁ?! 謝るって何をだよ?」 「決まってるじゃない。どうせあんたのことだからそれまでは散々嫌がらせし続けたんでしょう。それなのに好きだって気付いた途端俺を見ろだなんて、手前勝手にもほどがあるんじゃない? 世の中そう甘くはないわよ」 「そうだそうだー!」 説教を聞きながらつくしはうんうんとさらに大きく頷きまくって手を叩いている。 姉1人でもやりづらいというのに、そこにつくしが加わるともなれば圧倒的に形勢は不利だ。 「謝りなさい」 「・・・は?」 「つくしちゃんにちゃんと謝りなさい!」 「はぁっ?! 何でだよ!」 ガッタンと立ち上がった司を椿は睨み付ける。 「当たり前でしょう? あんたがつくしちゃんを手に入れられなくていいなら謝らなくてもいいわ。でも間違った行動に対してごめんなさいをするなんて子どもでもできることよ。やりたい放題やっておきながらいい思いだけできると思ったら大間違いよ!」 「くっ・・・!」 「さぁ、どうするの? 最後はあんたが決めなさい」 「・・・・・・」 説教しつつも最後は本人の意思に委ねる。 いかにも椿らしいやり方だ。 司はバツが悪そうに睨み付けているが、椿のすぐ隣でじーーっと小動物のように自分を見上げているつくしと目が合った途端、なんだかとてつもない庇護欲が湧き上がってくるのを感じた。 ・・・そしてあらためてこの女が欲しい、と。 「・・・・・・わるかったよ」 ぽそっと蚊の鳴くような声が聞こえる。 「聞こえないわよ。中途半端な謝罪ならやらない方がマシ!」 「くっ・・・! ・・・・・・悪かったよ! これでいいだろっ!」 「そんな投げやりな言い方して。ちゃんと心からそう思ってるの?」 「思ってるって! 悪かったっ!!」 はぁはぁと息を切らすほどに大きな声で告げられた謝罪の言葉に酔っ払いのつくしも驚きを隠せない。いくら逆らえない姉から言われたとはいえ、この男の口から謝罪が飛び出すとは。 まさにアンビリバボー以外のなにものでもない。 「つくしちゃん、バカ弟がこう言ってるんだけど・・・どうかしら? なかったことにできないのは当然よ。でもこの子がこんなことを言うなんて奇跡に近いのよ? 地球滅亡とどっちが確率が高いかってくらいに。だから少しは許してやってもらえるかしら・・・?」 奇跡を通り越して本当に今日でこの世が終わるんじゃないかと思う。 チラッと顔を伺うと、何ともバツが悪そうにしながらもこちらの反応を待っているその姿が・・・なんだか飼い主に捨てられそうになってる犬みたいに見えて。 「・・・ふふっ、わかりました。全部を水には流しませんけど、これからの司さんを見ていきます」 気が付けばそう言ってる自分がいた。 その言葉に椿は安堵したような、嬉しそうな笑顔を浮かべる。 一方で司はまたしてもほんのり頬を赤らめたような。 ・・・なんで? 「・・・お前、結構大胆だな」 「へ? ・・・何が?」 何かおかしなこと言ったっけ? 「これからの俺を見ていくとか・・・もうほとんど愛の告白みてぇなもんだろ」 「・・・・・・・・・・・・へっ?!」 愛の告白・・・? 誰が、誰に? 「・・・って、えぇっ!! 違うから! 全っっっっ然主旨が違うからっ!! あたしはただ今までの嫌がらせのことをチャラにするには今後のあんたの行動で見極めていくって、そういう意味で・・・!」 「わーったわーった。お前が素直じゃねぇ女だってことはよくわかってる」 「いやっ、だから違うってば!!」 「まぁそういうことにしといてやるよ」 「えぇっ?! だからっ、違うってばぁっっっっ!!!」 つくしの切実な絶叫がこだますると同時に、椿の軽快な笑い声が邸中に響き渡った。 「おい、部屋に行くぞ。起きろ」 「ん・・・」 くったりとソファーに横になってしまったつくしをいくら揺すっても全く起きる気配はない。 気が付けばとっくに日付が変わっていた。 椿はまだ起きているが、さすがにやや酔っ払っているように見える。 「だから飲ませ過ぎんなっつっただろ」 「だぁーーーって、4年ぶりに会えたのよ? 嬉しいんだもの」 「ったく・・・」 口ではそう言いながらもつくしを抱き上げるその表情は柔らかい。 帰国した時に久しぶりに見た弟の姿とはまるで違う。 あの時自分の気持ちを認めなさいと発破をかけたのは他でもないこの自分だが、それでもこの変わりっぷりには目を見張るものがある。 「記憶は? 相変わらず何も?」 「まぁな」 「そう・・・。それでも彼女を選ぶってことなのね?」 「・・・過去は過去。思い出せねぇことに縛られて今を見失うんじゃ意味がねーからな。たとえ記憶がなくとも俺は俺だろ? だったら自分の直感を信じるだけだ」 そう告げた顔に一切の迷いはなかった。 沸々と湧き上がってくる仄暗い鈍い色をした瞳ももうどこにもない。 「とは言ってもつくしちゃんが戸惑うのも当然なんだから、あまり自分のペースに巻き込まずに待ってあげなさいよ?」 「散々自分のペースに巻き込んで泥酔させてる奴がそれを言うのかよ?」 「それはそれ、これはこれよ」 「クッ、なんだそりゃ。まぁこいつを待ってたら下手すりゃ死ぬのが先かもしんねーからな。待てる範囲で、だな」 「とにかく女の子には優しく! それだけは忘れずにいなさい」 「この俺がこんなことまでしてやってんだ。過ぎるほどだろ」 そう口にした司の腕の中でスースーとつくしが安心しきって寝息をたてている。 あらためてその全体像を見つめた椿がふいに吹き出した。 「言われてみればあんたの言う通りね。つくしちゃんに対してだとそれが普通過ぎて感覚が麻痺してたわ」 「とにかくもう充分だろ。明日の予定に響かせんのはごめんだからこいつは部屋に連れて行くぞ」 「司っ!」 「・・・何だよ?」 出掛けに振り返ると、さっきとはうって変わって椿は真剣な顔をしていた。 「何かあったときにはすぐに言いなさい。できる限りの協力はするから」 『 何か 』 それが意味することは・・・ 「・・・明日には向こうに戻るんだろ? 旦那によろしく言っとけよ。じゃあな」 それだけ言い残すと、司はつくしを抱いたまま部屋を後にした。 この4年が嘘のように迷いの吹っ切れた弟の姿がこの上なく頼もしく見える。 彼なりに悩み苦しんだ4年だったろうが、それでも見つけ出した答えに、たとえ記憶が戻らなくともあの2人ならきっと大丈夫だと強く思う。 同時に幸せになって欲しい・・・とも。 「お母様はどこまで知ってるのかしら・・・?」 あの2人が同じ未来を向くのならば決して避けては通れない。 まるで喉に引っかかった小骨のように、その存在が椿の心に留まっていた。
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by: * 2015/09/26 01:05 * [ 編集 ] | page top
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恐るべし・・・椿お姉さま。 地球滅亡まで持ち出して・・・(笑) 司も素直になっちゃうし・・・。 さあ、この二人が仲良くなろうとすると、出てくるのは、あの人・・・鉄の女楓さん。 当然司の動向は知ってるだろうし、何をしかけてくるか? 気になりますね~。 うんうん、気になる、気になる(笑) --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --黒髪の※※子様--
やっぱり椿お姉様が言うとビシッと締まりますよねぇ~! 前回司にもお灸を!!というコメントをいただいたとき、「安心してください。時間の問題ですよ」と海パン一丁でどれだけ言いたかったことか(笑) 荒れた司が辛うじて人間らしさを残していたのはこのお方の存在があってこそでしょうね。 まぁそれでもどうしようもなくなりつつあった頃につくしと出会った感じなのかな。 結構強烈な姉のせいで女性不信になる男性っているらしいですよ(笑) さぁさぁ、ひとまずは反省した坊ちゃん。 足枷が取れてますます暴走一直線?! --エ※様<拍手コメントお礼>--
皆さんの好きな司らしさが出てきましたかね? 心を許した相手には豹変する男、恐るべし(笑) バナー猫は一応椿さんをイメージしてみました~♪綺麗ですよね~(*´∀`*) --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
美人猫さんですよね~。全く、猫山紀信ったらどこでこんなモデルを見つけてくるのやら・・・ 久々に出てきた魔女の名前。 一気に暗雲が立ち込めて来たような錯覚を起こしそうですね。 いずれ彼女が出てくるのか・・・?ドキドキです。 --莉※様--
わははっ!牧野千恵子にツボっていただけましたか? ふははは、世は満足ですじゃ!!( ̄^ ̄)エッヘン! ← もうね~、しょーもないことばっか考えるのが好きなんですよねぇ・・・( ̄∇ ̄) 椿のマイペースっぷりも大概ですよね。 ある意味司よりもほんと厄介だと思う(^_^;) でもそんな彼女がいるからこそ司もギリギリのところで理性を残せてたのかなぁなんて。 これからは基本的にその役目がつくしちゃんに放り投げられましたね♪ そして不穏な足音が・・・?! ここに来て楓さんの名前がチラリと登場。 この2人には避けては通れないラスボス(?)。この物語ではどうなるんでしょうか。 --ふ※※ろば様--
ふふ、さすがはふ※※ろば様。 しっかり司のお土産発言を覚えてらっしゃいましたか(笑) 何か買ってきたんでしょうかねぇ~?気になる気になる木でございます。 椿お姉様の登場でちょっぴり距離が縮まったような? ここで一気にいきたいところですが、はて坊ちゃんの願いは叶うんでしょうか? --み※ん様--
そうなんですよ~。 記憶の有無に関係なくこの2人立ちはだかるであろう壁、それが楓さんなんですよねぇ。 今の2人は過去に彼女と壮絶なバトルをしたことは覚えてないですからね。 その辺りがどうなっていくのか。 あはは、山手線状態に笑っちゃいました。でもこの2人を表現するのにぴったり!(笑) --みわちゃん様--
実は最強キャラは椿なんじゃないかと思う今日この頃(笑) なんとなくいい雰囲気になってきたところで気になる名前が登場。 正直ね、彼女を登場させずに大団円にしちゃうこともできるんですよ。 その方が書き手もすんごい楽だし(笑) でもね~、やっぱりそこを含めて乗り越えてこその2人じゃないとな~というのが私のポリシーでして。 はっきり言ってハードル上がりまくってめちゃくちゃめんどくさいんですけどね( ̄∇ ̄) でも試練を乗り越える2人を見たいですっ!! --さと※※ん様--
あー!やっぱり釣れた~! 絶対絶対網に引っかかってくれると思ってたぁ~~!!(≧∀≦) 姐御、あざーーーーっすっ!!!!m(__)m 椿の説教は書いてて爽快でした。 いやね、実際司のやってること無茶苦茶ですからね。 いきなり豹変されても知らんがな!!ですやんか。私なら張り倒してますよ。 司が逆らえない2トップに追い込まれれば素直に謝るという(笑) こりゃいつ滅亡してもおかしくないね、うん。 楓さんはね・・・完全無視で完結してもいいですかね? そういう話も書けなくはないですよ。存在そのものをなかったことにするという(笑) それもありっちゃありかな・・・? 最後のにゃんこはお姉様のイメージですよ~(o^^o) --管理人のみ閲覧できます--
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このコメントは管理人のみ閲覧できます --さ※ら様--
はじめまして!コメント有難うございます(*^^*) わぁ~、一気に全部読み上げて更新に追いついてくださったのですか! 本当に嬉しいことです。有難うございます~!m(__)m もしかして・・・花男二次デビューが我が家だったりしますか? だとしたらひょえ~~!!と恐れ多いです(汗) 消化不良な原作の終わり方。えぇえぇよくわかります。だからこそこれだけ二次の世界が人気なんだろうなと思います。もちろん原作が面白いからでもありますけどね。 あの先幸せになった2人を見たくて妄想を重ねる日々です(笑) イメージを壊さないか心配でもありますが、少しでも楽しんでいただけたら私も嬉しいです。 これからもよろしくお願い致します!(*´∀`*) --k※※a様--
おぉ、本当だ!ちょうど11ヶ月の日だったのか!! ←えっ やばい・・・1周年までにはこの連載が終わってる予定だったのに、このままじゃ終わりそうにない(笑) もう11ヶ月、本当に早いな~と実感します。 きっと1周年もあっという間にやってくるんでしょうね。 その時は皆さんと盛大に喜びたいと思います。脱・3日坊主万歳!!と(笑) ふふ、椿&つくしの最強(凶?)タッグに頭の上がらない司、大好物ですか? 奇遇ですね、私もです( ´艸`) こういう面があるから司ってどんな理不尽なことをしても嫌いになれないんですよね~。 そして気になる楓さんの名前。 彼女の存在がなかったことにして物語を終わらせることもできるんですけどね。 そうしたら絶対「楓さんはどうなってるんですか?」ってツッコミがどこからか入っちゃうだろうと思うんですよ(笑)避けては通れない宿命なのかな・・・やっぱり2人にとって彼女は。 --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --ke※※ki様--
「お前、案外大胆だな」 ふふふ、いかにもおバカ全開の坊ちゃん降臨って感じの一言ですよね。 あるある~!みたいな。 バカと暴君は紙一重。(天才じゃないところが・・・) 楓さんね~、2人の目線から見たらただの極悪人みたいな存在ですけど、彼女の人生を物語にしたらまた見方も変わってくる人だろうな~と常々思ってます。とは言っても書くなんてずぇっっっっったいに無理ですけどね( ̄∇ ̄) 今の2人、過去の因縁も全て忘れちゃってますからね。さてどうなることやら。 |
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