愛を聞かせて 2
2015 / 10 / 28 ( Wed ) 「どうしたの? ハルにぃ」
コツンと靴音を響かせて歩み寄ってきた少女・・・いや、女性にハッとする。 「あ、あぁ・・・久しぶりだな、花音」 「ハルにぃも。元気だった?」 「元気だよ。そっちこそどうなんだ? 留学生活は充実してたか?」 「もちろん! たくさんの出会いに刺激されて色んな事に挑戦したよ。日本にいたら気づけなかったことにもたくさん気づくことができたし、行ってよかったって心から思ってる」 「そっか、よかったな」 彼女の笑顔を見ていれば、それだけでこの4年がどれだけ充実していたかがわかる。 「ハルにぃは少しおじさんになった?」 「はっ?! ・・・お前までそんなこと言うのかよ。どうせお前達から見りゃおっさんだよ」 「あははは! うそうそ。相変わらずかっこいいよ」 「そりゃどーも」 目を瞠るほど美しく成長したというのに、大きな口を開けて天真爛漫に笑う姿は何も変わらない。 その姿が眩しすぎて・・・直視できない。 「花音ももうすぐこっちに帰ってくるのよ」 「え・・・そうなのか?」 つくしの言葉に本人を見ればコクンと頷く。 「就職は日本でしたいと思って。どうしても入りたい会社があるの」 「そうなのか・・・頑張り屋のお前のことだからきっと大丈夫だよ。頑張れ」 「ありがとう」 「でもわざわざ入りたいって言うくらいだから道明寺なわけはないよな? つーかあのおっさんがそんなことをすんなり許すのか?」 「ダメだよ。いくらパパでもあたしのやりたいことを止める権利なんてないんだから。っていうかそうやって自分の道を切り拓いてきたパパが反対するはずないって信じてるし」 真っ直ぐな瞳はふとした瞬間つくしにも司にも見える時がある。 芯のある強い目力には一点の曇りもない。 「花音、ハルと会うのも4年ぶりでしょう? あっちに座って少しはゆっくり話でもしたら?」 「あ・・・そうしたいところだけど今日は久しぶりだから色んな人に挨拶回りに行かなきゃ。だから残念だけどハルにぃ、また今度ね」 「あ、あぁ」 「もうすぐで下の子達も来ると思うから。またたくさん遊んであげてね」 「・・・了解」 「ふふっ、それじゃあまたね!」 そう言って花のような笑顔で手を振ると、母親譲りの真っ直ぐな黒髪を揺らしながら人垣の向こうへと消えていく。コロンでもつけているのだろうか、控えめな甘い香りだけをこの場に残して。 「なぁに、あの子ったら。ちょっと前まではハルにぃハルにぃって24時間べったりだったのに。4年ぶりの再会だっていうのに、なんだか別人みたいにあっさりしてるのね」 「・・・それだけ大人になったってことだろ」 「寂しい?」 「さっ・・・? 誰がだよ!」 「ふふっ、まぁハルは素直じゃないからなぁ~」 「おい、つくし・・・」 「ママ~っ、見てみてっ! こんなにのせてきたよ!」 「うわぁ~渚すごいっ! ママも食べたーーーい!」 「えへへ、いいよぉ~!」 両手で大事そうに抱えてきた皿には何人分だと言わんばかりの食べ物が積まれている。 おまけに後ろから追いかけてきたSP達の手にも別の皿が握られている始末。 この食い気は間違いなく母親の遺伝子なのだろう。 きゃいきゃいと子どものようにはしゃぐ親子に笑いながら、久しぶりに目にした少女が見えなくなった方へと視線を動かす。そこに姿はとっくに見当たらず、さっきのことがまるで夢だったのではないかとすら思えてくる。 『 なんだか別人みたいにあっさりしてるのね 』 何気なく口にした一言がチクンと鈍い痛みとなってじわりじわりと広がっていく。 それを寂しいと思うだなんて、俺にはそんな資格は少しだってないというのに・・・ 「 ハルにぃのことが好きなの 」 妹のように大事にしてきた少女が真っ直ぐな瞳でそう言い切ったのは今から4年前のこと。 いや、その時には既に少女から大人へと大きく変貌していたのかもしれない。 ただそれを直視しようとしなかっただけで。 「・・・俺も花音のことが好きだよ」 ニコッと笑ってぽんぽんと頭を撫でた俺を花音は複雑な顔で見上げる。 「ハルにぃの好きは家族愛の好き、でしょ? あたしが言ってるのはそういうことじゃない。ハルにぃのことを、1人の男性として好きなの。だからハルにぃにもあたしのことをそういう対象で見て欲しい」 「それは・・・」 あまりにも迷いのない眼差しにすぐに言葉を紡ぐことすらできず、思わず目を逸らしてしまった。 道明寺家の子ども達とは幼い頃から顔をあわせる機会が多く、どの子も俺によく懐いていた。 中でも長女の花音のそれは目に余るほどで、まるで親鳥に絶対的な愛情でついてまわる雛のように殊更ベッタリだった。 俺もそんな花音を心から可愛いと思っていたし、実の妹のように大切に大切にしてきた。 だが成長と共に花音の俺を見る目が少しずつ変化していったことに気付かないほど俺も子どもではない。とはいえ気付いたからってどうすることもできない。 花音と俺は一回り近く歳が離れているし、ずっと可愛い妹分として大事にしてきたのだ。 それに、身近にいる年上の異性に憧れを抱くことはよくある話で、きっと花音の中でも俺が実物以上に美化されていたことだろう。 花音は見事なほどにおっさんとつくしを足して2で割ったような女の子だった。 黒いストレートの髪をなびかせた後ろ姿なんかはまんまつくしそのもので、目元はおっさんにそっくり。それぞれのよさが上手い具合に遺伝されていると言ってもいいくらいで、その最たるものは彼女の性格にあった。 母親譲りの天真爛漫さ、かと思えば時として大人が驚くほどの芯の強さを見せる。 天下の道明寺財閥に生まれながら庶民感覚も持ち合わせ、幸せな家庭で育った象徴とも言えるような子どもだった。 そんな真っ直ぐな少女の憧れを壊さないよう、あくまでも兄の立場として彼女の成長を見守ってきたつもりだ。 だから花音の高校卒業を目前に控えたある日、真剣な表情ではっきりと好きだと意思表示をされた時は正直戸惑った。大事に大事に、それこそ我が子のように大切に見守ってきた少女を1人の異性として見て欲しいと言われたのだ。 花音が本気で言っているのはわかっていた。 それほどに近くで彼女を見守り続けてきたのだから。 ・・・それでも、俺はその気持ちを正面から受け入れることはできなかった。 憧れから始まった恋心とはいえ、花音は幼い頃から俺しか見ていない。内面から輝く彼女に恋心を抱く男達はそれこそたくさんいたに違いない。 そんな事には見向きもせず、ただひたすらに俺だけを見続けてきた少女の愛は・・・ 俺には眩しすぎたのだ。 俺は花音が思うほど大人ではないしましてや聖人君子でもない。 過去に付き合った女性だって年相応にいる。別に不誠実な付き合いをした覚えもないが、ただ1人だけを思い続けてきた少女の愛を受け止めるには・・・自分が汚れているように思えた。 ましてやおっさんやつくしを見て育ってきたあの子達にとっては尚更のこと。あれだけの障害を乗り越えてただ1人を愛し抜いた両親に大事に育てられてきたのだ。 あの子の気持ちを受け入れることは、結果的に綺麗な花を手折ってしまうような気がして・・・ 怖かった。 本当に本当に大切だからこそ、今の関係を壊すことができなかった。 「・・・花音はきっと憧れと恋が一緒になってるんだよ」 「え・・・?」 「小さい頃から一番身近にいた異性が俺だったから。そんな環境にいれば俺に憧れを抱くのも自然のことなんだ」 「何それ・・・憧れなんかじゃないよ! あたしは真剣にハルにぃのことを・・・!」 「そうだとしても。俺は花音の想いに応えることはできない。花音は大事な大事な妹みたいな存在だからね」 「ハルにぃ・・・」 笑ってそう言った俺にキュッと唇を噛むと、花音は無言で俯いてしまった。 そっと手を伸ばして頭を撫でる。小さい頃からずっとこうして見守ってきたのだ。 そしてそれはこれからも変わらない。 「俺は花音にもっと色んな世界を知って欲しいと思ってる。色んな人に出会って、色んなことを吸収して。まだまだ若いんだ。焦る必要なんてないんだよ。俺はこれからもそうして成長していく花音を見守っていきたい」 「ハルにぃ・・・」 消え入りそうな声で俺を見上げた花音の瞳が揺れている。 たちまち激しい罪悪感に襲われるが、中途半端な気持ちで彼女を受け入れて傷つけてしまう方が許せない。そんなことは絶対にしたくない。 「・・・・・・・・・・・・・・・わかったよ」 「・・・花音」 しばらく俺を見つめていた花音がゆっくりと微笑んだ。 その顔は今にも泣きそうで、思わず手を伸ばして抱き締めてあげたくなる。 だが俺を異性として見ている以上、そんないい加減な真似をするわけにはいかない。 いつものように動きそうになる手を必死でとどめる。 「わかったよ、ハルにぃ。困らせてごめんなさい」 「困ってなんかいない。謝る必要もない」 「ふふっ・・・相変わらず優しいんだね」 「そんなことはないよ」 目を合わせてクスッと笑うと、何を思ったか花音がパンッと思いっきり両手で頬を叩いた。 「・・・よしっ、すっきりした! ずっとずっと言いたくて仕方がなかったの。だからこうして伝えることができて嬉しい」 「花音・・・」 「ごめんね? 忙しいのに時間作ってもらっちゃって。じゃああたし帰るから」 「え? あ、送っていくから今車を・・・」 「いいのいいの! 今日は電車に乗る日って決めてるんだ。SPさんも見守ってくれてるんだから心配しないで。じゃあお仕事頑張ってね!」 「あ、花音っ!」 制止も振り切って走り出すと、花音は見えなくなる前に振り返って笑顔で手を振った。それ以上追いかけるのは酷な気がして、俺も笑顔で手を振り返す。 まさかそれが彼女を見る最後になるだなんて思いもせずに。 それから長くせずして花音が留学のためにアメリカに行ったと聞いたのは、もう既に彼女が渡米した後のことだった。
一周年のお祝いコメント、本当にたくさん有難うございました。拍手コメントを含めるとおそらく100件は軽く超えているかと思います。記念なので絶対に1人1人にお返事したい!と思っていたのですが・・・そうすると数時間はかかると思われ、その分物語を書く時間がなくなってしまうのです。 おそらく返事よりもお話を読みたい! そう思ってくださってる方の方が多いと判断し、誠に勝手ながらお返事はまとめてさせていただくことにしました。該当記事のコメント欄にてお返事していますので、コメントをくださった皆様、お手数ですがそちらから確認していただければと思います。 本当に本当に有難うございました。感謝感謝です(*ノ∪`*) |
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by: * 2015/10/28 00:51 * [ 編集 ] | page top
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以前にハルのその後、どんな恋愛をしているのか?見たいと思い楽しみにしてました。 愛が聞こえるの最終回での花音の言葉が蘇り今後が楽しみどなりません。 --管理人のみ閲覧できます--
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うふふ、「そりゃどーも」 ← これ、お気に入りです。 なんかね、ツンデレっぽい感じが出てませんか? 普段はクールキャラな彼なんですけど、つかつくジュニア達の前ではつい緩んじゃうんですよねぇ。 ハルはそれなりに恋愛をしてきてる設定です。 やっぱりね、この歳までなーんもないって・・・ある意味怖すぎじゃないです?!( ̄▲ ̄;) 目に入れても痛くないほど大事にしてきた女の子から「女として見て!」って言われた日にゃあ・・・やっぱり戸惑うのが健全な反応だと思いますよ。 司は「ありえなーい!」を地で行く男でしたけど、ハルは対照的に結構リアルな男性像をイメージしてるといいますか。しかも相手が一回り近く年下の女の子ですからね。司とはまた全く違った迷いや変化を大事に書いていけたらいいなぁなんて思ってます。 さぁ、花音に見切りを付けられちゃった(?)ハルトラマン。くじけないで! --さち子ママ様--
ハルを好きになってもらえて嬉しいです(*^^*)私も大好きなんですよ~! なんだか素っ気ない感じの花音ちゃん。 今後どうなっていくのか、ドキドキしますね。 --k※※a様--
フったことになる・・・んでしょうねぇ。 ハルとしてはそれすらもなんだか違和感を抱いてるのかもしれませんけど。 赤ちゃんの頃から見てきた女の子をそういう対象として切り替えるって結構悩みそうですよね。 ましてや花音の家庭環境とか色々と知りすぎてるだけに。 大事すぎて手を出せないって結構リアルでもある話じゃないかなと思ってます。 そしてサッパリ仕様の花音ちゃん。 おじさんになったハルにぃには興味ナシ?!(笑) --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
わはは、猫山紀信先生初(多分)の顔なしショットでございます。 お前は千と千尋かよ!!みたいな? いやはや、さすがはグローバルな猫山先生でございます。 やっぱね、薄々感じてはいても真っ正面からはっきり言われるとたじろぐと思いますよ。 悩めるハル、いいわぁ~(〃▽〃) --エ※タ様--
うふふ、楽しみにしてもらえて嬉しいです(*^^*) すっかり大人に成長した彼らですが、なんだか純愛路線まっしぐら? おぉ~、なんだか素敵な出会いの場所を想像されているのですね。 でもごめんなさい。私の脳内にそんなシャレオツな知識は存在しないのです( ̄∇ ̄) プロポーズは・・・白木屋とか?(オイ) --ke※※ki様--
あれから20年以上ですもの。そりゃあ色々大人になってなきゃ変ですよね。 客観的に見れば「何故気付かない?!」ってことでも、いざ自分が当事者になれば本当にわからないでぐるぐる悩むことってないですか?そういう人間くささが私は大好きです。っていうか最初っからなんでも理想的な選択ばかりしてたってなんの面白みもないし、そもそもお話なんて成立しない(笑) 司は非現実的な男ですからね。だからどちらかと言えばハルはリアルな存在って感じですかね。 その辺りの対比も描いていきたいな~なんて。 あっさりしちゃってる花音ちゃん。 その胸中やいかに?! --ta※※iaoi様--
ビバ、不器用!(≧∀≦) って感じですよね(笑) でも司もそうだけど器用な人より不器用でも一生懸命な男の方がいいなぁ。 確かに仰るとおり幼少期に大事な大事な母親を失ったというのはあるのかもしれませんね。 大事だからこそ傷つけたくない、そういう心理って現実でもある話だと思いますし。 花音ちゃんは気持ちいいくらい真っ直ぐな女の子ですね。 刷り込みされたカルガモの雛がやけにあっさりしちゃってますが・・・さてこれからどうなっていくのでしょうか。 --てっ※※くら様--
司とつくしをずーーーっと見て育ってきた子ども達ですからねぇ。 やっぱりプレッシャーがないわけがないですよね(笑) 大事な相手との関係性を変えるって結構勇気がいることですよね。 わかりやすくいえば幼なじみがなかなか恋愛に踏み出せない、みたいな。 でもそういうジレジレ大好きなんですよね~( ´艸`)悩める若人、いいじゃないですかっ! さぁ、充実した4年を過ごしたっぽい花音ちゃん。 もうハルにぃには興味がなくなっちゃったんでしょうか? --k※※hi様--
大事すぎてすれ違う。切ないですねぇ。 でも何の障害もなくあっさりくっつくのって何の旨味もないですよね(笑) だからつかつくとはまた違った愛の形が見られるのかな?と私も楽しんでます。 そしてつくしの遺伝子を半分引いてるとは思えないほどの花音の潔さ。 いやぁ、さすがは野獣DNA強し( ̄∇ ̄) 留学もどの時点で決めてたんでしょうねぇ?色々と気になる部分がまだまだあります。 いっぱい悩んで、迷って、そして自分の幸せを見つけるんだよ!とエールを送りたいですね(o^^o) --きな※※ち様--
あぁ、わかりますよ~。私も今ではすっかり脳内で画伯に変換されちゃってますから(笑) 原作と画伯が半々ってところでしょうか。 あ、でも西田だけはどーしてもドラマ版に変換されちゃいますが。 だって原作の西田って存在感もパンチも皆無なんですもの(笑) 二次の世界で西田が暗躍してるのって、間違いなくドラマの影響があると思いますよ。 うふふ、専務と秘書、いい響きですねぇ(*´ェ`*) 司が相手なら昼も夜も関係ねー!!って感じでしょうけど、なんとなくハルはそういう感じじゃなさそう。なんだろう、たまに密室でギュッと抱き締めてチュッとするとか?そういうソフトなイメージですねぇ。 って何言わせますねん(〃▽〃) --ナ※サ様--
うんうん、なんというか不器用な愛情に「くぅ~っ!!」ってなりますよね。 慈英さんに登場してもらいましょか?( ̄∇ ̄) ハルってなんだかんだすごーーく優しい男だと思うんですよ。 だから色んなことを考えちゃうんでしょうねぇ。 応援よろしくお願いしますねっ(*´ェ`*) |
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