愛を聞かせて 3
2015 / 10 / 29 ( Thu ) 「今日1年ぶりにハルが来てたのよ」
「・・・へぇ」 「もうすぐで司も帰ってくると思うから待っててって言ったんだけど・・・会って抱き合うわけでもあるまいしって。仕事があるからって帰っちゃった。残念だったね」 「なんでだよ。別に会う必要もねーだろ」 素っ気ない態度はつくづく似た者同士だと思う。 「花音とも久しぶりに会ったのよ。もう4年ぶりになるのかな。あの子ったらなんだか他人行儀な態度で見ててぎこちないったらなかったわ。ハルもなんだか戸惑ってる感じだったし」 「ふん、やっとあの男に見切りをつけたか」 「まーたそんなこと言って。ハル相手だとすぐムキになるんだから。はいどうぞ」 「・・・サンキュ」 呆れたように笑いながら、つくしは煎れたばかりの紅茶を手渡してその隣に自分も腰を下ろした。 2人同時に1口飲み込むと、ほんわりと体の奥から温まっていく。 「あれからもう4年も経つんだねぇ・・・」 「・・・・・・」 まるで昨日のことのように思い出す。 ある日大泣きしながら花音が部屋に飛び込んで来たことを。 「まさかこの4年間一度も日本に戻って来ないなんて・・・さすがに予想外だったわね」 「鋼のように意思を曲げないのはお前そっくりだな」 「えぇ~?! それを言うなら司の方でしょ? 俺が法律だーーー!! ってさ」 「誰がだよ」 「あはははっ! ・・・でもあの子が全然帰ってこなくなってからだよね。ハルがうちに来る回数が減っていったのも」 「ふん、どうせびびってんだろ」 「え~? そうかな。あたしはそうだとは思わないけど・・・」 「事実がどうだろうと逃げてるような男に興味はねぇよ」 フンッと突きはなすような物言いに、つくしは笑いながら司の腕に自分の両手を絡ませた。 「ヤキモチ妬いてるんでしょ」 「はぁっ?! 誰が、誰に!」 「もー、司ってば昔っからハルには厳しいんだから。花音が絡んでくると特にわかりやすいったら」 「ざけんな! 何で俺があいつなんかに」 「いいのいいの。司とハルの意地の張り合いはいつになっても楽しいから。20年以上経ったのに今も昔もぜーんぜん変わらないでまるで子どもみた・・・わっ?!」 バフッ!! くっついていた体ごと視界が反転してソファの上へと押し倒された。 目をパチパチ瞬かせながら驚くつくしに司がニヤリと口元を緩める。 ・・・そう、まるで悪戯っ子のように。 「ちょっ・・・司? まだお茶飲んでないんだからふざけないでよね」 「俺は子どもなんだろ? だったらこういうのも想定内だよなぁ?」 「はぁっ?! もう! 相変わらず屁理屈俺様なんだからっ!」 「あーそうだよ。でもお前はそんな俺が好きでしょうがねぇんだろ? 20年以上経った今も昔もなーんにも変わらずに、なぁ?」 「 !! 」 まるでオウム返しのようにしたり顔をする男に開いた口が塞がらない。 「・・・プッ! ほんとにもう・・・男っていつまでたってもバカなんだから・・・」 「バカで結構。そのバカを喜ばせられんのはお前しかいねーんだから、ちゃんと責任とれよ」 「責任って・・・ほんと、バカ・・・」 呆れたように笑うと、つくしはフッと顔を覆って近づいてくる影に逆らうことなくゆっくりと目を閉じた。 *** 「1年ぶりの道明寺邸はいかがでしたか?」 「あぁ・・・相変わらず賑やかで少しも変わってなかったよ」 「すっかり不義理していたのを怒られたんじゃありませんか?」 「不義理って・・・お前なぁ」 またしてもこの男の小言タイムが始まるのかとジロリと睨み付ける。 確かに訪問回数がグッと減りはしたが別に繋がりが切れたわけでもあるまいし、ましてやこの歳まで足繁く通う方がどうなんだって話だ。 まぁ、下の子には申し訳ないという気持ちがあるが・・・ 「そういえば花音様にはお会いになりましたか? 今現在一時帰国していると聞きましたが」 「・・・あぁ、会ったよ」 山野の口から出た名前にドキッとするが、死んでもそれを顔には出さずに流す。 「花音様ももうすぐ大学を卒業なされますからね。私はまだお会いしてませんが、きっとますますお美しくなられたんでしょうね」 「そうだな、随分大人っぽくなってたな」 「・・・・・・」 「・・・なんだよ?」 じっと突き刺さるような横目を負けじと睨み返す。 何かを含んだようなこの目をしているときは十中八九ろくなことを言われない。 「いえ、あれほどまでに専務にべったりだった花音様のことですから、さぞかし感動的な再会になったのだろうなと思いまして」 「・・・」 「ですが不思議ですね。何故そんな花音様が4年前専務に何もお伝えせずに渡米されたのか・・・そして今までただの一度も帰ってこられなかったのか。いや、実に不思議なことです」 眼鏡のフレームをわざとらしく上げる姿はこの上なく嫌みったらしい。 だからこの男は苦手なんだ。 「おい山野、何が言いたいんだよ」 「いえ、素朴な疑問を述べただけですが・・・何かまずかったでしょうか?」 「・・・・・・」 何か言い返せば十倍返しされるのがオチだ。本当にこの男は憎たらしい。 元々親父の秘書だった山野は俺を幼少期から見てきた人間の1人だ。 だからいつもこうしてしれーっと全てを見透かしたようにズバズバと物を言ってくる。 いっそのことクビにしてやりたいところだが、ずば抜けて仕事ができるところがまた腹立たしい。 「今日は午後から面接がありますので」 「あぁ、そういえばそうだったな」 「こちら本日参加予定分の履歴書になります」 「わかった」 「ではよろしくお願い致します」 未来のかかった若者達のファイルに重みを感じながら、敢えてそれを開かずにデスクに置く。 俺が就職の面接に直接出向くことはそう多くないが、いずれ経営者としてこの会社を継ぐ身として経験を積んでおくことは必要だ。多くの面接官が事前に履歴書に目を通すところだろうが、俺は敢えて見ようとはしない。学歴や有している資格など、採用する立場としては大いに参考になる部分ではあるが、時としてそれは先入観を生む。 細かい履歴を見るのは直接本人と会ってからでも遅くはない。真の意味でその人となりを判断するには・・・事前に余計な情報を入れない。 これが俺のポリシーだ。 「就職、か・・・」 そういえばあいつも入りたい企業があると言っていた。 希望に胸を膨らませている若い子達を見るのは嫌いじゃない。 物心ついた頃からこの会社を継ぐのだと思っていた俺にとって、そういう感覚は未知の世界だから。それぞれにしかわからない苦労や挫折があるだろうが、ふとしたときにもし一般的な家庭に生まれていたら今頃自分は何をしていたのだろうかなんて考える。 「・・・不毛だな」 そう。考えてもどうにもならないこと。 どこで生まれ育とうと、今の道を選んだのは他でもない自分自身なのだから。 花音が希望する職種が何なのか知りようもないが、彼女が背負っている名前は俺なんか比較にならないほどに大きく重いものだ。どこでも見るような名前ならまだ誤魔化しようもあるかもしれないが、道明寺なんて珍しい名前、それだけでも人目を引いてしまう。 彼女の性格を考えれば目標に向かって真面目に努力してきたのだろう。 あの充実した表情を見ればそんなことは一目瞭然で、今希望で満ち溢れているに違いない。 だからこそ本人とは関係のないところで理不尽な思いをしたり悲しんだりして欲しくない。 たとえ挫折することがあろうとも、その原因が 「道明寺」 という名でないようにと、心から願わずにいられない。 「・・・・・・」 気が付けばあの日以降、何かにつけてあの子のことを考えている自分に呆れかえる。 4年ぶりに見た少女は大人へと変貌を遂げていた。 きっと充実した4年間を過ごせたのだろう。 真面目さはつくし譲り、きっと勉学にも遊びにも全力投球で頑張っていたに違いない。 日本では経験できないようなこともして、数多くの出会いをして。それは同じように高校卒業後に渡米した経験のある俺にとっても同じことが言える。 きっと年相応の恋愛だって・・・ 「・・・ダメだな。すっかり思考回路がおっさんだ」 これはあれだ。 それをどこか寂しいことだと感じてしまうのは、手塩にかけて育ててきた娘を手放さなければならない親心と同じことだ。ずっとずっと身近にいたからこそ、初めて見る彼女の大きな変化にほんの少し戸惑ってしまっただけのこと。 自分でそうしろと勧めておきながら、いざそれを目の当たりにしたら寂しさを感じるなんて。 これだから大人はずるいと叱られそうだ。 「よし、いい加減仕事しないと山野に何言われるかわかったもんじゃないな」 誰に聞かせるでもなくそう独りごちると、余計な思考を振り払うように目の前のことに集中していった。 *** 「失礼しました」 最後まで緊張の面持ちで部屋を出て行く学生を見送ると、扉が閉まると同時にふぅっと意識せずに溜め息が出る。面接が始まってから優に3時間。さすがに少し疲れてきた。 「次で最後になります」 「・・・そうか、わかった」 とはいえこちらも最後まで気を抜くわけにはいかない。 こちらは誰かの人生を大きく左右する責任の重い役目を担っているのだから。 気持ちを入れ直すように目を閉じてゆっくりと深呼吸し直す。 「 失礼します 」 と、聞こえてきたどこか耳に馴染みのある声に違和感を覚える。 どこかで聞いたことがあるような、ないような・・・ そんなことを考えながら閉じていた目を開いていった。 「 _______ ?! 」 だが次の瞬間、己の視界に捉えた人物に時間が止まる。 まさか・・・・・・ 何故?! 突然のことにらしくもなく激しく混乱する俺とほんの一瞬だけ目があうと、その人物は正面を見据えたままはっきりとした口調で自らの名を名乗った。 「 牧野花音です。よろしくお願いします 」
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by: * 2015/10/29 00:23 * [ 編集 ] | page top
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司にはびびって逃げてると言われ、山野には含みをもたせてからかわれ・・・。 花音は困難な愛を貫き通した両親の愛娘だけあり、簡単に諦めることはしない。 牧野花音として面接を受けるなんて、さすが(笑) さあハル、どうする? --管理人のみ閲覧できます--
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わははー、花音やりおりました。 しかも母の旧姓まで使っちゃって。 これは本気と書いてマジってやつですかいね?( ̄∇ ̄) --ふ※※ろば様--
バレバレの伏線張っちゃってましたからね。 短編と宣言してるのであまり長くなりすぎないようにしないとー!と必死です(笑) 両親は知ってるんでしょうかねぇ? でも2人の子どもならたとえ1人でも行動しちゃいそうなイメージですよね。 --ゆき※※う様--
行動力がありますよね~。 すっかりやられっぱなしのハルって感じですが。 年の差があるとリードできそうで意外と転がされやすいのかも(笑) 大人になると色々と素直になることが難しくなりますよね~。 花音、頑張れ~(o^^o) --と※※ん様<拍手コメントお礼>--
花音ガッツある~(≧∀≦) 頑張れ~~って応援したくなりますよねっ! --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
ターゲット、ロックオンっ!!って聞こえてきそうですね(笑) さすがは濃い遺伝子。恐ろしいですね~(笑) ある意味つかつく以上に最強かも( ̄∇ ̄) --みわちゃん様--
お前は既に死んでいる・・・ならぬ包囲されている・・・と聞こえてきそうな( ̄∇ ̄) さすがはあの2人の娘、根性座ってますねぇ。 ハルすまん、断然花音ちゃんを応援しちゃうわ(≧∀≦) --きな※※ち様--
あはは、地獄の果てまで追いかけるならこの世で追いかけるのは当然、 ごもっともすぎて笑っちゃいました(笑) 牧野という名を名乗ってまで乗り込んできた逞しい花音ちゃん。 きな※※ち様ご希望の「専務と秘書」のあんなことやこんなことは実現するんでしょうか?! 司は40代を折り返してもまだまだ現役。 というか生涯現役。 いや違うな、死んでも現役。これだ。( ̄∇ ̄) ちょいとちょいと~、ビッグダディなんてやめてぇ~~!! 司はぶっ飛んだ奴ではありますが、節操無しではございませんよ!( ̄^ ̄) --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --k※※hi様--
うへへ~、坊ちゃんってば相変わらずですねぇ。 ってもう坊ちゃんっていうよりおっさんの域に入ってるんですが( ̄∇ ̄) でもめっちゃくちゃいい男なんだろうなぁ。 司のイメージとはまた違うけど反町さんみたいに40過ぎても超絶カッコ良くて渋いって感じで。 あんなお父さんいたら羨ましい~~!! 私なんか「ザ・日本の父」って感じですから(T-T)トホホ そうなんです!ハルは司よりも柔らかい雰囲気を意識してます。 もともととっても根が優しい子だったのでね。一時期捻くれてはいましたけど、つくしによって更正されたのも早かったので(笑) おぉ、読み返してくださってるのですか?嬉しいなぁ! でもあの歴史を振り返ってハル物語を読むと楽しさは倍増すると思います(*^o^*) --こ※様--
ほんと、さすがは逞しいですねぇ。よっ、男前っ!!と叫びたい(笑) まさかの行動にハルはどうするのか?!目が離せませんね~。 --ナ※サ様--
えへへ~、そうきましたぁ(〃▽〃) やっぱりね、あの2人の遺伝子を継いでるわけですから。 それを皆さんに感じてもらえてこそのジュニア物語の醍醐味ですよね。 そして相変わらずの両親はお盛んなことで(笑) いっそのこと子作りギネス狙っちゃう?!( ̄∇ ̄) --さと※※ん様--
ちゅーかちゅーか、ちょいといいっすか? なんか久しぶりなような気もするけどいいっすか? 今更感も満載な気もするけどそれでもいいっすか? すんげーデジャブ感じまくりだけどいいっすか??? あのですね、 なげぇーーーーーーーーーーーよっっっっ!!!!!! フー、久々のこのやってやったぜ感( ̄∇ ̄;)q ヒトシゴトオワッタクライノネ なげ~・・・お、そろそろ終わりか。と思ったらそこから感想かよっ!!みたいな。 いや~、いいですねいいですね~。連載中を思い出しますよ。 やっぱりハハルは偉大なり。 私の中では格別な思い入れのあるキャラとなったハル、でもこのサイトに来てる人のほとんどがつかつくの話を読みたいわけで。だからこの番外編はほんとにチャレンジだったというか。 でも拍手もたくさんもらえて、コメントでもちゃんとハルや花音に焦点をあててあって。あ~、ほんとに愛されるキャラに成長してくれたんだな~って、自惚れかもしれないけどほんとに嬉しく思ってます(T-T) ただね、1コだけクレーム入れていいですか? 自覚症状があるようですけどね、ハルとえなりかずきを同列で語るのやめてもらっていいですか? とんだ営業妨害もいいところなんですけど。 もうハルにえなりの坊ちゃんがちらついて困ってるんですけど!!!(`Д´) せめて三浦春馬あたりにしてもらえませんかね?! BPOに訴えちゃうぞ!! そして最後のオチ、萌えますか?ツボ押しまくりですか? えーと、胃の辺りがチョイと荒れてますね。ってそのツボじゃない? 自分で言うなって感じですけど、多分ここで多くの人が「キュン死」するんじゃないかってこだわりのシーンがどこかであるので、その時の反応が今から楽しみです( ´艸`)ムッフッフ その予想が外れたときには一切何も言いませんので放っておいてくださいね( ̄∇ ̄) --す※れ様--
キターーーー!!(・∀・) って感じですよね。 司とつくしの遺伝子引き継いでるって・・・卑怯すぎですよねぇ(笑) ある意味で司以上に恐ろしいかも( ̄∇ ̄) 大事だから手が出せない、見てる方は焦れったいですけど結構よくある話みたいですよ。 ほら~、皆さんだって男女の仲では色々あるでしょう? 見てる分にはあれこれ言えますけどね、当事者になると難しいもんです(笑)←やけに力説 --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --ke※※ki様--
捻りに捻ったものもいいですけど、一方でこれぞベタ!!という王道展開があってもいいと思うんですよ。そういう展開を迎えた時って書き手も読み手も「うっしゃ!!」って感じで妙にスッキリしますよね(笑) 言ってみればどちらもオリキャラが主のこちらのお話。 それにもかかわらずこれだけ皆さんに楽しんでいただけてるっているのは・・・ 本当に書いてきた身としてはこの上なく喜ばしいことだなぁと感激しております。 --a※※ru様<拍手コメントお礼>--
さすがはあの2人の娘。 やることが大胆で思いきってますよね♪ |
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