愛を聞かせて 6
2015 / 11 / 02 ( Mon ) 「それじゃあ花音の留学は・・・」
「そ。ハルの答えに関係なく最初から決まってたってこと。仮にハルがOKしてくれてたんだとしても、あの子が向こうの大学に進学することは変わらなかったってわけ」 「・・・・・・」 「自分が傷つけたせいで行ったんじゃないかって罪悪感を抱いてたんでしょ」 「そんなことは・・・」 「あるでしょ? だからあの子が渡米してから少しずつうちに来る回数が減っていった。あの子が帰って来ないのは自分に会いたくないからだって思ってた。 違う?」 ・・・図星だった。 他人が聞けば自惚れだと思うだろうが、あの花音が一言の相談もなしに日本を離れるなど到底考えられないことだった。それほどに何をするにも逐一俺に報告してくるような女の子だったのだ。 だから4年という長い間に一度たりとも帰国しないだなんて想像だにしていなかった。 俺以外にその理由があるはずがない。 そして、来る度にあの子がいないという現実に俺自身が打ちのめされそうになっていったのだ。 「ハルよりもずっと年下だってことをあの子なりに悩んでたみたいよ」 「・・・え?」 「ほぼ一回りの差って決して小さくはないでしょ? どう考えたって自分は子ども。そんな自分がハルのためにできることは何があるんだろうって、あの子なりにずっと前から考えてたみたい」 「花音が・・・?」 戸惑いながらつくしを見る。 いつからそんなことを・・・ 「あの子、今の自分がハルに異性として意識されてないってわかってたのよ。それでも自分の気持ちは揺らがないって自信があった。だったら今の自分にできることをしようって。中等部に上がった頃から必死で色んな資格について調べ始めたの」 「中学から?!」 「そう。ハルはいつか必ず社長になる日が来る。その時に少しでも力になれる自分でいたいんだって言ってさ」 「・・・・・・」 あまりにも信じられない話で何と言っていいのかもわからない。 いや、それが嘘だと疑っているわけではない。それはあの履歴書を見れば明白だから。 ただ、俺の前で天真爛漫に笑っていた裏でずっとそんなことを考えていただなんて。 そんなことには何一つ気付かず俺は・・・ 「ハル」 黙り込んでしまった俺の名を呼ぶ。 弾かれたように顔を上げると、つくしは真剣な顔でこちらを見つめていた。 「言っておくけど、どうして気付いてあげられなかったんだろうなんて考えないでよね」 「えっ?」 「あたしはそういうつもりで昔話をしたわけじゃないから。ただ、ハルが一歩踏み出したいのに踏み出せない、そんな風に迷ってるように見えたから。だから1つの事実として話しておこうと思っただけ」 「・・・・・・」 「それからこれだけは言っておきたいんだけど、やっぱりあの子をそういう風には見られないって結論になったって全然構わないんだからね」 「え・・・?」 ・・・どういうことだ? それって、つまり・・・ 「もちろん自慢の娘が大好きなハルと一緒になってくれたら嬉しいよ? でもいくら娘が可愛いからって無理矢理どうこうしたいだなんて微塵も思わない。ハルだって大事な大事な家族と同じなんだから。ハルが本当に幸せになってくれるなら、たとえその相手が花音じゃなくても私は心から祝福する」 「つくし・・・」 「だから自分がこうしたら誰かを傷つけるんじゃないかとか、そんなことは考えないで自分の気持ちに正直に生きて欲しい。そして必ず幸せになって? だって、それをあたしに教えてくれたのは他でもないハルでしょう?」 そう言ってニコッと笑った顔が出会った頃と重なって見えた。 自分の幸せから目を背け続けようとしたつくしを怒鳴りつけたことがまるで昨日のことのように思い出される。 人生で最も心が荒んでいた時に出会った女性。 その出会いが自分の人生を大きく変え、そして人の人生をもまた大きく変えた。 あの出会いがなければ自分はどうなっていたのか・・・今となっては想像もつかない。 「あたし達の子どもだから、一途さと根性の座り方だけは相当なものだと思う」 「・・・だろうな」 「でもね、一方であたしたちよりもよっぽど大人な面も持ち合わせてるのがあの子なの。もしハルが本当にあの子を受け入れられないのなら、あの子は真摯にその答えを受け止めると思うわ。さっきはあんなこと言ってたけど・・・あれは許してあげて? あれでもハルに内緒で大胆な行動に出たことに悩んでたのよ」 「え・・・そうなのか?」 あれだけ面接でもさっきも堂々と宣言しておきながら? そんな考えが顔に出てしまっていたのか、つくしがつられて苦笑いしている。 「まぁハルがそう思うのも当然よね。でもあの子って本当はすごく怖がりなのよ。強い信念をもって前に突き進んでいても、いざハルを前にしたら途端に1人の女の子に戻っちゃうの。今日もハルが来てくれて嬉しいと思ったのも一瞬で、だんだん怒られるんじゃないか、決定的な言葉を言われちゃうんじゃないかって怖くなっちゃったんだと思うの。だから先手必勝で言い逃げしてやれ! ってね」 「・・・・・・ふはっ・・・!」 「ふふふ、ほんと、良くも悪くも自分に正直な子なの。だけどハルが心の底から出した答えなら、それがどんなものであってもあの子はそれを受け入れる。それだけは親として保証するわ」 あの微妙な表情の変化はそういうことだったのか。 パーティで再会したとき、そして面接の時。花音はまるで別人のように大人になっていた。 だがさっき見た彼女はまるで子どもの頃に戻ったかと思えるほどだった。 結局最後まで俺に一言も話させなかったのも、自分を守るために必死だったから。 知らない人に思えるほど大人になったようで・・・彼女の根本は変わってはいない。 それがこんなにも嬉しいだなんて。 「・・・ハル。あの子はこれからも全力でハルにぶつかっていくと思う。だけどハルの足を引っ張るようなことだけは絶対にしない。だからハルも正面からそれを受け止めてやって欲しいの。その上であの子に対してどんな答えを出すか、それはハルが決めればいいこと。・・・ううん、ハルにしか決められない。 どうか自分に正直に生きてね」 優しく微笑むと、つくしは俺の腕をポンポンと叩いた。 「いつの間にかすっかり立派な大人の男性になっちゃって。・・・っていうかあたしが40過ぎてるんだもん、そりゃそうだよね。ハルももう30過ぎてるんだし、そろそろ自分の幸せを見つけてあげてもいいんじゃない?」 「つくし・・・」 「あの子に話があったんだろうけど・・・今日はあの調子だからまた日を改めてやってくれるかな?」 「・・・だな。そうした方が良さそうだ」 「ふふっ、親バカでごめんね?」 「今さらだろ。 それに、おっさんに比べりゃ可愛いもんだ」 「あははっ! そこと比べられちゃあねぇ~!」 ケラケラと年齢に似合わない笑い声に、今頃あのおっさんがどでかいくしゃみでもしてるんじゃないかと想像したらこっちまで笑えてくる。 「・・・つくし、サンキューな」 「え~? なになに、ハルがあたしにお礼を言うなんて、明日雪降るんじゃない?」 「お前なぁ~」 「ウソウソ。っていうか別にお礼言われることなんて何にもしてないし。むしろ忙しい中わざわざ来てくれてありがとうはこっちのセリフだよ」 「フッ・・・じゃあ今日はこれで帰るわ。花音には仕事に関しては公平にいくから覚悟しておけって伝えておいて。それから採用結果が全ての人間に通知されるまでにあいつと会うようなことは一切しない。・・・まぁ今日だけは特別ってことで」 俺の言葉につくしが満足そうに頷いた。 「もちろん。正々堂々あの子を評価してあげて。それが何よりあの子のためになるから」 「了解。じゃあな。・・・あ、うるせーのはめんどくせーからおっさんには俺が来たこと黙っとけよ」 「あははっ! それじゃあお邸中の人に口止めしておかなきゃ」 「あぁ、つくしが責任持ってやっておけよ」 「えぇ~っ、あたしの責任なの?!」 「当然だろ。っつーかこの邸の人間を牛耳ってんのはおっさんじゃなくてつくしだろ」 「牛耳るって・・・人聞きの悪い!」 「あれ、違ったか?」 「ちっがーーーーーーーーーーう!!!」 「ハハッ、いてっ! バカ、だから脇腹チョップはやめろっつってんだろ!」 「うるさいっ! あんたは昔っからここが弱いの知ってんのよ!」 「うわバカ、やめろっ!」 尚も手を出そうとする女をギリギリのところでかわすと、慌てて部屋を出ていった。 さすがに後ろから追いかけてくる気配は感じられない。 ・・・と思ったのも束の間、 「ハルーーーっ、仕事頑張るのもいいけどちゃんとご飯食べていっぱい寝るんだよーーーっ!!」 遥か後方になった部屋の方から何とも間抜けな掛け声が聞こえてくる。 お前は一体何歳相手の男に向かって言ってんだよ?! ガキかっ! っつーかお前は母親かっ!! 「・・・・・・あれで5児の母親だもんな・・・」 あらためて全ての始まりからの歴史を思う。 あれから20年以上、本当に色んなことがあった。 でもその全ての歴史につくしや花音、他の子ども達、そしておっさんの姿がある。 「・・・・・・・・・よし、帰るか」 自らの意思で久しぶりに来たこの場所。 正直、来た時にはまだどこかで迷いがあった。 自分がすべきことはなんなのか、言うべきことはなんなのか。 自分ではっきりとわからないままそれでも来なければと足が動いていた。 ____ その答えが今はっきりと見えた。 それは言葉にできない清々しささえ覚える。 来た時とは別人のように足取り軽く、遥人は重厚な扉を開けて一歩を踏み出した。 見上げた空はまるで心を映し出しているように雲一つない快晴だった。
予告無しでスキップしてしまいすみませんm(__)mちょっと予想外に忙しくなってしまいまして。 今日も更新は無理だ~!(T-T) と9割諦めてたんですが、気合と根性で何とか仕上げました。 誰か褒めて~!(笑) |
--管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/11/02 00:14 * [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --最高!--
お疲れ様です。忙しいなか更新ありがとうございます!花音ちゃんかわいいですね。今後のハルの対応が楽しみです(*^.^*) --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --No title--
お疲れ様です。忙しいのに更新ありがとうございました。昨日は読めなくて淋しかったです。私は1話1話が長~く読めるのが好き。これからもお話楽しみに待ってます。 --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --あ※※さん様--
「あなたの欠片」が好きなんですね^^ こちらは今後もシリーズとして不定期ながら続いていきますのでお楽しみに♪ 更新スキップの際はできるだけお知らせしたいとは思ってますが、その余裕すらないときも中にはありますのでその時はご了承下さいませm(__)m --ま※も様<拍手コメントお礼>--
わぁ~い、褒められた!嬉しいよ~~(≧∀≦) ・・・と思ったらちゃっかり明日の催促もされてるっ?!(笑) --てっ※※くら様--
人生なかなか思い描いたようにはうまくいかないようで(笑) ちょいとてんやわんやと週末を過ごしておりました。 漫画なんかでいい子いい子のシーンを見ると萌え~!ってなりますけど、実際やられたら「触ってんじゃねーぞゴルァ!!」ってなるに3000点!( ̄∇ ̄)ハラタイラサーーーン! --エミ様--
ほんと、花音ちゃん可愛らしいですよね~。 彼女には自分にないもの全てが詰まってます(笑) --k※※hi様--
つくしが子ども達だけじゃなくてハルのことも同じ目線で大事にしてるのがよく伝わってきますよね。それもそのはず、今の幸せは彼なしではなかったんですからね。 社交辞令でなく本当に「家族」だと思っているのでしょう^^ 司に対してだけは相変わらずの口調なのがまたいいですよね。 多分死ぬまであの調子なのかな(笑) --さと※※ん様--
小松政夫にパックマン・・・ ちょいとそこのアータ!そこはかとなく漂うバブル臭が隠せてませんからっ! ・・・えっ、そもそも隠す気ないって?! oh…\(´д`)/ 真面目が聞いて呆れるぜ! 真面目ってきっとあれだな、「真に面目ない」で真面目になったんだな。うんうん。 ← ほんと、「愛が聞こえる」は辛くて切ないお話だったのにね~。 その未来形であるこの物語がこんなに幸せに満ちたものになってるなんて。 自分で書いておきながらなんですがうるうるしちゃいます。 つくしは既にパパママと今生の別れを迎えてますからね。大事に大事に家族の絆を築き上げてきたんだろうなというのが容易に想像がつきます。そしてそんな彼らに触れ合うことでハルも本来の自分を取り戻していったんだろうなって。 この幸せも全てはハルと出会ったからこそ。人の縁って不思議ですよね。 早くハルに幸せになってもらいたい!! ・・・っていうかまだ読み返ししてないですのん? 結構な常連さんが「読み返しました!」って言ってくれてますねん。 「自称ハルを愛する会名誉会長」のさと※※ん様が読み返してないってどういうことですねん。 よもや思い出は胸の中に永遠に刻まれてますねん!なんてしょーーもないこと言わないでっしゃろ? そこんとこどうなってますのん!!!!(`Д´)ドンッ! ←机を叩く音 --asu※※na様--
わぁ~、ハルと花音いい感じですか?すっごく嬉しいですっ(≧∀≦) どちらもオリキャラですからね。そんな2人を主役したお話って結構勇気がいるんです。 でも皆さんにこうして愛されて・・・本当に有難いことです(ノД`) 両親のいいところをたっぷり受けて育った花音ちゃん。 早く彼らには幸せになってもらいたいですね(*^^*) --あーちゃん様--
昨日はお知らせする余裕すらありませんでした~>< 今後はペースが落ちていくかもしれませんが、愛だけは込めて書きますので! ぜひ楽しんでくださいね(*^^*) --ち※※すけ様<拍手コメントお礼>--
わぁ~い、褒められた褒められたぁ~! すぐに木に登っちゃうよ~~♪ (≧∀≦) --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
神出鬼没なタイムマシーン、一体次はどこから現れる?!まるで気分はモグラ叩きじゃ! つくし達の今の溢れんばかりの幸せの礎になっているのが他でもないハル。 彼にはなんとしても幸せになってもらわなきゃ困るのですっ!! --ゆき※※う様<拍手コメントお礼>--
わあ~いわぁ~い、頑張ったよぉ~~ヾ(*´∀`*)ノ 何かちょーーーだい!(笑) --c※※co様--
ハルとつくしの関係性、すごく素敵ですよね~。 元々ハルって素直で優しい子でしたからね。つくしに出会ったことで本当の意味で道を外すこともなかったし、好青年に成長するのは当然のことなんです。つかつくが第一なのは当然ですが、ハルに関しては幼少期から描いてきたというのがあるのでまた別格の思い入れがあるのが正直なところです。 だからうーーんと幸せになってほしいっ!! --きな※※ち様--
いや~、ほんともうやめようって何度も思ったんですけどね。 短編だけに(とかいいつつ軽く5話超えちゃってますが(^_^;))あまり間を空けると盛り下がっちゃうかもな~と思いまして。割と今回の話はスラスラと書けたので結果的に間に合いました! おぉっ、ここにも復習してくださった方がいらっしゃったとは! いや~、ほんとに嬉しいことです。しかも結構長いし。 切ないお話でしたが、それが嘘のようにこんなに幸せな未来を築いてるかと思うと感慨深いですよねぇ。その幸せはハルがいたからこそ得られたもの。家族同然の絆を築けていることにこれまたうるっとしちゃいます。 やけにさっぱりした様子のハル。 さぁ、ぼちぼちクライマックスに向かっていくのでしょうか?! --さ※ら様--
わはは、正直者でよろしいっ!!(笑) リアルもなかなかに忙しいのでこんなことも増えていくやもしれませんが。 なるべく更新できるように頑張りまーす♪ --ke※※ki様--
すっかりいい家族になっちゃってますねぇ。 こんな家族に憧れるー!!と心底羨ましがりながら書いてますよ。 というか基本的に自分の理想を詰め込んだものしか書いてないって言った方が正解(笑) 花音はどちらにも似てますよね。 考えなしに突っ走ってる?と思いきや実はすごく冷静。 冷静という言葉はつかつくどちらにも当てはまらないような気がするから・・・突然変異とか?( ̄∇ ̄) --ta※※iaoi様--
ほんと、素敵なお母さんですよね~。 こりゃあ花音ちゃんがなんでも相談したくなる気持ちがよくわかるわぁ(* ̄∇ ̄*) どちらの気持ちも大切にしながらじっくり話を聞いてあげる。 簡単そうでなかなかできることではありません。 ハルにとってもつくしにとっても出会えたことがほんとに奇跡のようなものだったんでしょうねぇ。 --す※れ様--
あはは、私の話ではお馴染みの場面転換というやつです。 前回の終わり方と次の始まり方が一瞬繋がらないという。 結構この手法、お話に味を加えてくれるんですよね~( ´艸`) 3日も旦那が仕事なので私も忙しくなりそうです。ガックリ --ナ※サ様--
ようやく迷いが吹っ切れたハル。 一体彼のどんな言葉を聞けるのか。 今からドキドキしますね!(≧∀≦) |
|
| ホーム |
|