忘れえぬ人 81
2015 / 11 / 20 ( Fri ) 「すっごぉっ・・・!」
目の前の光景を見るなり、その一言を発するのが精一杯。 あとはただただ呆然と立ち尽くすだけ。 「何ぼーっと突っ立ってんだ。行くぞ」 「わわっ?! ちょっ・・・引っ張らないでよっ!」 「だったらアホ面で棒立ちしてねーで自分で歩けよ」 「あ、アホ面って・・・」 全くもって否定できないけどさ。 でもそれが仮にも恋人に言うセリフか? しかも旅行に来たっていうのに。 ・・・って!! 「ん? 何だお前、顔が赤くねーか?」 「あっ、赤くない赤くないっ!! ほら、ここ南の島だから暑くって・・・!」 わははと笑ったその刹那、2人の間をびゅうっと冬の風が吹き抜けていった。 腰に手を当てていたつくしが思わずぶるっと身を竦める。 と、つくしにとってなんとも気まず~い空気が流れていった。 「・・・・・・ぶっ、はははは! おい、暑いんじゃなかったのかよ」 「う、うるさいわねっ! 風が吹かなきゃあったかいのよっ!!」 「くくくっ・・・!」 「ほ、ほらっ、もういいから行くわよっ!!」 いつまでも笑いの止まらない男をその場に残してズンズン先を急ぐ。 「おい、置いていくんじゃねーよ、そこのタコ女」 「たっ・・・?!」 「お、タコが振り返った。日本語通じんのか?」 「~~~~~~~~~っ、道明寺っ!!!」 絶叫と笑い声が響き渡った場所、そこはあの南の島だ。 初めて連れて来られたのはまだ小さなプレハブ小屋だけがあった頃。 次に来た時には水上コテージが完成していて、何故かあいつがカメラマンになってひたすら写真を撮られた。考えてみれば結局例の広告はどうなっているのだろうか。その後ぱったり何も言われず、もしかしたらやっぱり無謀な企画だったとなかったことにしたのかもしれない。 むしろそうであって欲しいと思うのが本音で。 そして今日。 結局おまかせで連れて来られた旅行先は・・・またしてもここだった。 初めてここに来てから半年以上、そこはまるで別世界のように姿を変えていた。 「まさかここに来るなんて・・・・・・これもまた運命ってことなのかな」 「あ? 何か言ったか?」 「・・・ううん、何でも! 半年くらいでこんなに変わるものなのか~ってびっくりしただけ」 「まぁな。ここはうちが今一番腰を入れてやってるプロジェクトだからな」 「春にグランドオープンするんだっけ?」 「あぁ」 いくら力を入れてるとはいえここは元々無人島。 機材の搬入だって陸続きの場所でやるようにはいかないわけで。 プレハブしかなかった頃が夢だったかのように、つくしの目の前には立派なリゾート地へと変貌したその場所が悠然と立ち塞がっていた。 「宿泊施設だけでも何軒あるんだか・・・」 いかにも南国リゾートと言わんばかりの豪華なホテルにヴィラ、そして前回のコテージと、何度でも訪れたくなるような魅力的な誘惑に溢れている。 「・・・あのさ、なんでここにしたの?」 「あ? 理由なんてねーよ。直感だ」 「直感?」 「あぁ。お前とここに来たいと思った。そこに理由なんて必要ねーだろ?」 「・・・・・・」 相変わらず迷いのない男をつくしはじっと見つめる。 「・・・なんだよ。お前はここだと嫌だったのか?」 「まさか。チャンスがあればあたしもまた来たいと思ってたから嬉しいよ」 「チャンスなんてこれから先いくらでもあんだろ?」 「うん・・・そうだね」 並んで歩いているうちに水上コテージに続くメインの施設へと辿り着いた。 そこにも宿泊施設は併設されているが、それだけではなくスパや娯楽施設など、そこに籠もりっきりでも数日は優に時間が潰せそうな豪華さだ。 「今日って・・・」 「コテージに泊まる。お前が本館がいいっつーならこっちでもいいけど」 「う、ううん、コテージでいいよ」 「ん」 言ってからあらためて気付くがコテージ上は完全に2人の世界だ。 ここには数名のスタッフが見えるけれど・・・ 「ちなみに俺たちがここにいる間は開発に携わる作業員の出入りは一切ない。メシなんかの手配のために必要最低限の従業員を呼んであるが、あいつらの宿舎はここから離れた場所にあるから基本的には俺とお前の2人きりだ」 「う、うん・・・」 やっぱりそうなるよね。 でも島にいるのが自分達だけじゃないということにどこかでほっとしている自分がいる。 ・・・死んでもこの男には言えないけど。 「本当なら1週間くらいいたかったんだけどな。ったくあのクソババァ、どこまでも邪魔しやがって。さっさとアメリカ帰れっつんだ」 結局、当初の予定とは違って1泊2日の旅行となってしまった。 危うくそれすらできないほどのスケジュールを詰められるところだったとか。 司は相当不満タラタラなようだが、それでも何とかして時間を捻出したらしい。 「そんな、たとえ1泊でも充分だよ。長さじゃなくて密度で楽しもうよ」 「・・・・・・」 「・・・何? なんか変なこと言った?」 動きを止めてこちらを凝視している男に首を傾げる。 「・・・お前、案外大胆だな」 「え?」 なんで? 何が? 大胆って・・・誰が? だがそんな疑問をよそに司の顔がニヤーっとみるみる怪しく緩んでいく。 「まぁそうだな。長さじゃねーよな、大事なのはその密度だよな。だったらお前のその期待に応えて一生忘れらんねーような濃い~2日間にしねぇとなぁ?」 「へっ・・・?」 濃い2日間・・・? 濃いって一体何が・・・ そこまで考えてハッとする。 もしかしたら自分はこの男にとんでもない誤解を与えてしまったのではないかと。 「えっ、ま、待って! 決してそういう意味で言ったんじゃ・・・!」 「わーったわーった。全身全霊かけてお前の期待に応えてやるから心配すんな」 「いやっ、だからそういうことじゃなくっ・・・!」 「濃い時間にするためには1分たりとも無駄にはできねーよな。つーことでさっさと行動に移すぞ」 「いや、だからね道明寺っ・・・!」 「ったくお前はゴチャゴチャうるせーな。ほら、行くぞっ!」 「はえぇっ?!」 ガッと腰の辺りに温かさを感じたと思った次の瞬間、つくしの視界が真っ逆さまになった。 司の肩に担がれているのだと理解するまでに数秒。 「ひえぇええぇっ?! お、下ろして下ろしてっ! 自分で歩けるってばぁっ!!」 「気にすんな。お前には体力温存してもらわねーとだからな」 「ひぃいいぃっ!! だ、誰か助けてぇ~~~!!」 体力温存って一体何のために?! 物騒な一言に身震いして助けを求めても使用人はササーーっと柱の陰へと逃げてしまった。 そこのあんたっ、今確実に目があったでしょうがっっっ!!! 「 こんの、裏切り者~~~~~っ!!!! 」 南の島に虚しく雄叫びが響き渡る。 「どんな濃密な時間になるか・・・楽しみで仕方ねぇなぁ、牧野?」 あぁ神様、あたしは無事に生きて帰れるのでしょうか?!
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by: * 2015/11/20 00:49 * [ 編集 ] | page top
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年末はなんでだか忙しくなりますよね~。 そういう先入観もなおさら拍車をかけてるのかもしれませんが。 1泊2日の濃い旅。 坊ちゃんの願望は叶うのか否か。 花男お約束みたいなのがいくつか存在しますからねぇ~・・・( ̄∇ ̄)フフフ おぉ、ボジョレヌーボーだなんてオサレさんですねぇ。 ヌーボーと聞いて昔サンリオにたーぼーだとかいうキャラがいたなぁなんて思い出す私はオサレとは縁のない世界で生きております( ̄∇ ̄) --さと※※ん様--
そうですよ~、この海に来ちゃいました~! まだオープン前だというのに使いたい放題ってことで(笑) 無人島(と思ってた)で2人の気持ちを確かめ合ってその後不幸な別れを迎えて、そして新たな場所で始めようとしている。この物語では海(島?)が1つのキーポイントとなってますねぇ。 え?濃厚な夜ですか? コメントの度に圧力かけてくるたぁどんだけ好きなんですかい?! 濃厚・・・十勝のチーズとかじゃダメ?(・ω・)スーパーニイケバキットアルヨ 月のもの、発熱、不幸が襲う。 さぁ、花男あるある、一体どれが発動する?! ← --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
荒ぶる棒ついにお目見え! ・・・となるんでしょうか?! きっと皆さんには期待と不安が入り交じっていることでしょう。 いや、後者の方がより強いかな(笑) 西田ファイナルアンサーいただきやしたっ!(ロ_ロ)ゞ --ke※※ki様--
やっぱりここしかないですよねぇ~。 え?賭けの内容がわかってないじゃないかって? そりゃ当然ですよ~。ここが最後の山場なんですもの。 そう簡単にはネタあかしはいたしません!!(≧∀≦) いつも通りですが皆さんには色々と予想しながら読み進めてもらいたいのでね。 どうぞラストまでお付き合い下さいませ(笑) ちなみにわかってるとは思いますがこの島と滋に強引に連れて行かれた島は別ものですので。 (混同されてる人がいるやもと思って一応) たった1泊2日。さぁ、一体どんなハプニングが起こってくれるんでしょうか?! ←オイ |
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