また逢う日まで 1
2015 / 12 / 13 ( Sun ) ずっとその顔を見ていた。
よく穴が開くほど見るだなんて大袈裟な言葉を聞くけど、きっとこの時のあたしはまさにそれを体現していたんじゃないかと思う。面と向かって褒めたことなんて一度だってなかったけど、あらためてこの男はなんて美しいのだろうか。 美しくて、強くて、・・・そして誰よりも深い愛情をもってる。 一見乱暴な心の奥にあるその優しさに気付いてしまったら・・・ もう自分の心を誤魔化すことなんてできるはずがない。 「ん・・・」 小さく声を漏らして身じろぎをした瞬間、ほんの少しだけ体が離れたことにほっとしつつも、それ以上に寂しく感じてしまう自分はなんて勝手なのだろうかと思う。 寂しいだなんて思う資格などないというのに。 「・・・・・・」 そっと、ゆっくりと体を起こしていく。 心の底から安心したように熟睡する男の顔から決して目を逸らさずに、ゆっくりと。 少年のようなあどけない寝顔が可愛くて、思わずクスッと笑いが漏れた。 記憶なんて関係ない。 心の底から愛おしいと求めてあって、・・・そしてあたしたちは結ばれた。 なんて幸福な時間だったのだろう。 ずっとずっと、このまま傍にいたい。 離れたくない。 ・・・けれど、あたし達にはまだ超えなければならない山があるから。 真の幸せを手に掴む為に、最後にして最大の山が。 音をたてないように細心の注意を払いながらベッドから降りると、つくしはそのまま脱ぎ捨てられた衣類を手にして続きの部屋へと移動した。 手早く衣服を身につけていった最後にふと手が止まる。 何かを考えるようにしばし一点を見つめると、持って来ていた小さなボストンバッグからあるものを取り出した。そしてそれをふかふかのカーペットの上に置くと、そこには似ているようで少し違う四角い箱が2つ並べられた。 つくしは静かに右の箱を開けると、そのまま左の箱も開けて薄暗い室内でもはっきりわかるほど輝いているそれを取り出し、迷うことなく自分の首へとつけた。 「あんたはしばらくお留守番ね」 綺麗に箱に収められたままのもう1つのネックレスに触れながら語りかける。 それはまだ少年だった男がくれた純粋な愛情の証。 記憶が戻ってから今日まで、司に会う直前まで肌身離さず身につけていた。 道明寺の起こした奇跡。 それはほんの少しだけあったあたしの迷いを吹き飛ばした。 絶対に何があってもあいつを信じられる。 ・・・そして彼もまた自分を信じてくれると。 新たに胸に輝いているのは、過去も今も、そして未来も含めたあたし達の愛情の証。 たとえ記憶が戻らなくたってあたしはあたし。そしてあいつはあいつ。 何一つ変わらない。 道明寺司という男の真っ直ぐな愛を胸に・・・あたしは未来を掴む一歩を踏み出す。 2つの小箱を大切に鞄にしまうと、つくしは再び司の眠る寝室へと戻っていった。 熟睡したことなんてほとんどないだなんて昔も言ってたけど、今ここにいるのは物音1つくらいでは到底起きそうにもないほど安心しきって深い眠りに沈んでいる男。 その寝顔は幸せに満ち溢れている。 「ごめんね、道明寺・・・」 本当はこんなことしちゃいけないってわかってるのに。 万が一にも起こしてしまっては全てがパーになる。 それでも、勝手に動いてしまう自分の体を止めることができない。 ・・・ううん、そうしたくてたまらないのはこのあたし自身なのだ。 そっと、羽に触れるようにそーっと司の頬に触れた。 腹が立つほど綺麗な肌はほんわりと温かい。 ほんの数時間前までこの肌にずっと触れていた。 思いの丈をぶつけあって、心の求めるままに。 「・・・待ってるから。 『 またね 』 」 触れるか触れないかのキスを落とすと、つくしは閉じていた目を開けた。 そうして目の前の男の姿をしかとその瞳に焼き付けると、何かを決意したように力強く立ち上がった。 しばらくしてパタンと小さな小さな音が寝室に響く。 広い室内に1人、幸せの海の中に沈んでいる男だけが残された。 その幸せが夜が明けても続くのだと信じて疑わない男が。 「おはようございます牧野様」 「おはようございます。今日は無理を言ってしまって本当に申し訳ありません」 「いえ、どうかお気になさらずに。もうご準備はよろしいのですか?」 「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」 深々と頭を下げると、パイロットの男性が恐縮しながら顔を上げるように促した。 小型のジェットに乗り込む男性に続いてタラップを上っていくと、歩く度にズキンズキンと下半身が痛んで動きがぎこちなくなってしまう。 その理由を思い出す度に恥ずかしくもあり、・・・そしてこの上ない幸せに満たされる。 この痛みすら愛おしい。 愛する人と深いところで繋がりあえたという何よりの証。 この痛みを、この喜びをずっと胸に刻んであたしは一歩を踏み出す。 夜明けと共に体が宙へと浮いていく。 黄金に輝く朝日を浴びながらどんどん小さくなっていく島をこの目に焼き付けた。 ___ また新たな一日が始まる。 「 また逢う日まで。少しの間だけ、バイバイ 」 残していなくなること、本当にごめんなさい。 それでも、たとえ今は辛くても、痛みの先にある未来を掴んでみせる。 あんたを・・・ 道明寺を信じてるから。 だからどうかあたしを信じて欲しい。 あなたに対する、この揺らぎない気持ちを。
「忘れえぬ人」、たくさんのコメント及び拍手を有難うございました!早速ですが感謝の気持ちを込めてこちらの番外編からお届けします^^ 2人が初めて結ばれた夜、その続きから再会までの時間を描いた物語となります。つくし目線、司目線をそれぞれ交えながら2人が再会する瞬間までを追っていきます。おそらく10話前後になるのではないかと予想しています。 尚、他の番外編も年末年始を利用してお届けできたらいいなと思ってますのでお楽しみに! |
--管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/12/13 00:53 * [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --マ※※ち様<拍手コメントお礼>--
私自身の熱が冷めてしまわないうちにと思い、早速の登場です♪ ほんと、結末がわかっていても何故か楽しめますよね。 「あの時君は?!」の感覚でお楽しみください^^ --ゆき※※ぎ様--
余韻がさめないうちの方がいいかな~と思いまして。 時間が経つと私のやる気も半減しそうで・・・(笑) ここでは特に司の動きに皆さん注目されているでしょうね!^^ --莉※様--
ふふふ、今回はやる気スイッチがオフになってないんですよ~(笑) 大体不抜けた風船みたいになるのが常なんですが( ̄∇ ̄) ドラマでも漫画でも小説でも、物語において場面転換って効果てきめんですよね~。 下手くそなりにどうすれば効果的に見せることができるのかな~と、常にそれをうーんうーん考えながら書いてます。 何話になるかわかりませんが、もう少しこちらの作品にお付き合いください♪ --n※o様--
やっぱりここの時間は気になりますよね。 皆さんの注目はやっぱり司かな?(*^o^*) --た※き様--
あはは、言われて見ればそういう曲を聴いた記憶があります。 なるほど、また逢う日までという曲名だったんですね~! 歌は聴いたことがあるけどタイトル知らないって結構ありそうだなぁ。 --ま※も様<拍手コメントお礼>--
皆さんの疑問がこれで解決されるといいんですが(o^^o) --ta※※iaoi様--
今回は不思議と気の抜けた風船状態にはなってなくてですね。 かといって時間が経てば経つほど情熱も薄れていくと思い早々に書くことにしました。 司がどうやってつくしに辿り着いたのか。気になりますよね~( ´艸`) --さと※※ん様--
幸せの絶頂から奈落の底へ。 一番振り幅が大きかったところの詳細が描かれてませんでしたからね。 本編に入れるか最後まで悩んだ部分ではありましたが、敢えてああいう形を取りました。 細かすぎて伝わらない選手権にエントリーしたいところなんですが、実はつくしちゃん、記憶が戻って楓さんに直談判に行くところで服の上から首元を触る描写があるんですね。(どの辺りかははっきりと覚えてませんが)なのでその時から「司と共に闘ってる」という感覚でいたんですよね、彼女は。 とはいえ司はそんなこと知りませんからね。その辺りの互いの心情変化を楽しんでもらえたらいいかなと思ってます^^ --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --ke※※ki様--
他の番外編はいつ書いても大差ないかなと思いまして。 まずは熱が冷めないうちにこちらを書いた方が無難だと判断しました。 冷めちゃうと一気に書く意欲がなくなっちゃいますからね(^_^;) 双方の視点を切り替えながら物語は進んでいきますが、どちらかと言えばメインは司。 基本つくしは「待ち」の状態ですからね。 大きく動く司の心の葛藤(?)などを楽しんでもらえたらいいかなと思ってます。 --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
あはは、感慨深く思い耽ってるところでポークビッツって・・・(笑) せめてアルトバイエルンくらいにはならない? ってそういえばうちもポークだな・・・( ̄∇ ̄) ナンノハナシヤネン |
|
| ホーム |
|