また逢う日まで 2
2015 / 12 / 14 ( Mon ) 「失礼します。おはようございます」
約束の時間きっかりに執務室に入ってきたつくしに、まだ早朝だというのに既に仕事モード全開の女性が顔を上げた。 そもそもこの人物にオフという概念が存在するのかも疑わしいところだが。 「全て予定通りですか?」 「はい。・・・まさか私がいなくなるとは夢にも思っていないはずです」 あれだけ幸せの絶頂を味わっているのだから。 目が覚めてからの彼の混乱と悲しみを考えては胸が痛む。 けれど嘆いてばかりでは前へは進めない。 ____ 何があっても信じると決めたのだから。 「あの・・・それでこれから私はどうすればいいんでしょうか」 司の前から姿を消す。 告げられた驚きの条件はそれだけではなかった。 「消える」 まさにその言葉通り、楓の指示は徹底されたものだった。 約束の旅行までの間、タイミング良くとも言うべきか、司は仕事で海外に飛んで不在だった。 それが偶然だったのか、はたまた楓が水面下で動いていたのかはわからない。 いずれにせよ彼のいない間にまずアパートの引き払いを命令された。 高校を卒業してから4年以上を過ごしてきた我が城。 たとえ小さくとも、自分自身がそこにギュギュッと濃縮された大切な空間。 そこからいなくなるということは、自分で想像していた以上に言葉にできない寂しさを感じた。 そしてそれだけではない。 未熟ながらも粉骨砕身己を捧げてきた仕事をやめる、それも条件の1つだった。 家を引き払うよりも何よりも辛いのがこれだった。 まるで本当の親子のように大事に大事にしてくれた渡邉社長夫妻、兄のように、戦友のようにいつだって励まし支えてくれた大塚、そして全ての同僚・・・。少人数だったけれど、いや、少人数だからこそ事務所が1つの大家族のように温かく、居心地は最高だった。 手前勝手な理由で仕事をやめる。 しかもその理由を現段階ではっきりと打ち明けることすらできない。 どんなときでも、仕事に対して人一倍責任感を大事にしてきたつくしにとって、これほど重く苦しい決断はなかった。 まさに断腸の思い。 だがつくしの予想に反して社長は快く送り出してくれた。 何の前触れもない申し出であるのにもかかわらず。 何故やめるのかすらきちんと話せないというのに。 『 誰よりも真面目なお前がそれだけの決断をするのにはそれだけの理由があるんだろう。だったら俺は気持ち良くお前を送り出してやる。頑張れよ 』 たったそれだけ。 ふざけるなと怒るどころか何かを聞き出すこともせず、彼はそうエールを送って背中を押してくれたのだ。信じられないと共に、この人は最初からこういう人だったことをあらためて思い出した。 高卒だった自分を厳しくも優しく根気よく育ててくれた。 だからこそつくし自身もその想いに応えられるようにと必死に頑張ってきたのだ。 当然ながら他の同僚には驚かれたが、それでも誰一人咎めるような人はいなかった。 それこそが社長の人徳であり、つくしが社会人になってから自分の全てを捧げてきた大切な大切な空間だと再認識させられた。 だからこそ。 尚更中途半端な覚悟でやめるわけにはいかない。 迷っている暇などない。 きちんとした形でまた報告に行くためにも、後ろを向いてなんかいられない。 自分の決断は間違っていなかったのだと信じて前に進むのみ。 「あなたにはこちらで働いてもらいます」 ハッと意識の戻ったつくしの前に一冊のパンフレットが置かれた。 軽く会釈をしてそれを手に取ると、表紙を見て目を見開いた。 「こ、ここは・・・」 嘘・・・でしょう・・・? まさか、こんな偶然が ___ 「あなたもあの子の補佐として働いていたのならご存知でしょう。春のオープンに合わせて年明けからスタッフには現地での研修に臨んでもらいます」 「それで、私がここへ・・・?」 「あなたにはオープンニングスタッフとしてそこで働いてもらいます。それに伴い従業員専用の寮へ入ってもらい、現地での生活を送ってもらいます」 「・・・・・・」 これは・・・単なる偶然なのだろうか? それとも・・・? 「前にも述べたとおり、あの子が私欲に走るようなことがあった時点でこの賭けはあなたの負け。そして際限なくこの賭けを続けたところで時間の無駄ですから、タイムリミットまでは1年とします」 「1年・・・」 「その間にあなたを見つけ出すことができなければ・・・わかっていますね?」 「・・・はい」 そう。 これが偶然だろうと必然だろうとそんなことは関係ない。 「その日」 は絶対に来ると信じて自分にできることをするだけ。 「では早速ですが今日の午後には現地へ飛んでもらいます。あなたの不在を知れば司はすぐに動き出すに違いない。あの子が担当している事業ではありますが、既に現地で行うべき業務は終えている。つまりは意図的でない限り司がそこへ行くことはあり得ない」 「・・・・・・」 ほんの数時間前までいたあの場所へよもやすぐに戻ることになるだなんて。 こんな展開を一体誰が予想するだろうか。 彼女の言う通り、きっと今頃あいつはあたしがいないことに驚き、そして怒っている。 既にあの島を飛び立っていると考えるのが自然だろう。 この人はあたし達がついさっきまでそこで共に過ごしたことを知っているのだろうか? ・・・ううん、少なくとも勝負を決めてからはあたし達の行動を監視させるようなことはしていない。 何の根拠もないけれど、何故だかそう思えた。 運命を決める場所があの島であったことに驚くと同時に、どこかで喜んでいる自分がいる。 絶対に・・・彼は見つけ出してくれる。 図らずもこの偶然が勇気をくれた。 「絶対にこの賭けに勝ってみせます。どうか見ていてください」 つくしは黙って自分を見つめる楓にそう強く宣言すると、頭を下げた後、第2秘書の男性に続いて執務室を出て行った。 「・・・さぁ、その強気が吉と出るか凶と出るか。答えは自ずと見えてくるでしょう」 その背中にそんな言葉がかけられていたことには気付かずに。 *** ピンポンピンポンピンポンピンポーーーーーーン!! けたたましく鳴らされるチャイムに何事かと慌てて中から男性が飛び出してきた。 「ちょっと、どちら様ですかっ! 夜なのに一体何を考えてっ・・・!」 普段ほとんど見られない怒った顔で怒鳴りつけていた男の言葉がそこで途切れてしまった。 「・・・親父? どうしたんだよ、一体誰が ____ 」 様子がおかしいことに気付いたもう1人の男が後ろからひょこっと顔を出したはいいが、やはり同じように途中で途切れてしまった。 というよりも2人揃って驚愕したまま固まっている。 「はぁはぁはぁ・・・あいつは・・・牧野はどこにいる」 荒い呼吸を繰り返して汗だくになりながらもその整った顔は全く崩れていない。 元来ここにいるはずのない、いるはずがない、 見る者全てが思わず息を呑んでしまうその相手は ____ 「 ど、道明寺さんっ?! 」
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by: * 2015/12/14 00:29 * [ 編集 ] | page top
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ふふ、結末はわかっているのに何故かドキドキしちゃいますか? それだけ話に入り込んでもらえてる証拠だと思うと嬉しいですね(*^^*) こちらの番外編のメインはどちからというと司になりますから、彼に気持ちを重ねながら楽しんでくださいね♪ --k※※hi様--
私の物語で一番ぶれないつくしかもしれませんね~。 もしかしたら記憶を失ってもまた司を好きになったという事実が彼女をここまで強くしてるのかな、なんて。これでも好きになるんならもう誰が何を言おうと運命だろ!みたいな(笑) 美形ってね、汗だくくらいじゃ崩れないんですよ。 むしろその荒れた呼吸と滴る汗が余計に色気を増すほどで・・・ ほら、夜のアンナコトやソンナコトの時だってね、色っぽくてヨダレじゅるじゅるになることはあってもそれがブサイクだなんて考える人はいな( -_-)c彡☆))Д´) グハァッ! --管理人のみ閲覧できます--
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直感で真っ先に向かったのは楓のところ。 次にアパートで退去を知り、その足で牧野家に来た、そんな感じの流れです。 司の記憶が戻るタイミングは色々考えてあのシーンにしたんですが、その直後つくしがいなくなるというのは皆さんにとってもえぇっ!!って感じだったんじゃないかと。 まぁそれこそが狙いだったので私としては本望なんですけどね( ̄ー ̄) 書き手になるとジェットコースターみたいな展開がやめられまへん( ´艸`) あはは、神の上は界王様ですか~。確かに確かに。 でもえらく安っぽくなった感じがするのはなぜ?!(笑) もういっそのこと羽生様という新たな神を造ってしまえばいいのか?( ̄∇ ̄) --ナ※サ様--
同じように結末を知ってるはずなのにドキドキします、なんてご意見もいただきました。 それだけ感情移入してもらえてると思うと嬉しいですね~(*^o^*) それぞれの気持ちになりながらどっぷり浸っちゃってくださいませ。 頑張れ坊ちゃん!! --た※き様--
おぉ、住み込み願望ありですか? 島のイメージとしてはフィジーみたいなザ・南国な感じなんですけどね。 でも日本だからさすがに無理かな。まぁ架空の島なのでイメージ先行ってことで(笑) |
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