また逢う日まで 3
2015 / 12 / 15 ( Tue ) 「えっ、道明寺さんって、まさか ___ っ・・・?!」
騒ぎを聞きつけた千恵子までもが驚きに固まってしまった。 似た顔の3人が並んで口を開けたまま放心している姿はこの上なくマヌケだ。 「牧野は? あいつはここにいねぇのか?!」 だが司の切羽詰まった声に真っ先に我に返ったのは進だった。 「あ、姉ならここにはいません。・・・というか何故ここへ? 一体何があったんですか?!」 今日はたまたま久しぶりに両親の住むアパートへと帰って来ていた。 牧野家と司の接点は4年前で途絶えており、当然彼が両親の引っ越し先を知るはずがない。 つくしが教えるか、あるいは司が自ら調べでもしない限りは。 その上で突然訪問してきたかと思えばこれだけ切羽詰まった顔を見せるだなんて、余程のことがあった以外に考えられない。 「いなくなった」 「えっ?」 「夕べ俺と一緒に過ごして・・・朝には消えていた」 「消えたって・・・」 消えたという事実にも驚きだが、両親にとってはその前部分も非常に気になる。 一緒に過ごした? ということは・・・ 「あ、あの道明寺さん、確かあなたはつくしのことを・・・」 「いえ、思い出しましたよ。何もかも、全て」 「えっ!!」 晴男の疑問に即答した司に三者三様驚きの顔を見せた。 それもそのはず。少し前に偶然の再会を果たした進はまだしも、晴男と千恵子の中では恋人に忘れ去られた憐れな娘という認識のまま止まっているのだから。 「ほ、本当ですか?! 本当に姉ちゃんのことを・・・!」 「あぁ、嘘じゃねぇ。夕べ全てを思い出して・・・それと同時にあいつはいなくなった」 「そんな、一体どうして・・・」 「何かあいつから聞いてねぇか? どこか様子がおかしかったとか気付いたことは」 「い、いえ、何も・・・」 全てが寝耳に水の進は呆然と立ち尽くす。 先週会った時にはいつもと何ら変わりはなかったというのに。 「あの・・・道明寺さん、実は少し前につくしから連絡が来たんです」 おずおずと何かを思い出したように晴男が口を開くと、ピクッと司の眉尻が跳ね上がった。 「急だけど仕事の関係でしばらく家を空けるから心配しないでくれって。忙しくてなかなか連絡が取れないかもしれないけどそれも心配しないでほしいと。あの子は普段からしっかりしてましたから、まさかそこに何かあるだなんて考えもしなくて・・・」 「・・・・・・」 「まさかつくしに何かあったんでしょうか?!」 「・・・アパートは既に引き払われていました」 「えっ?!」 「それだけじゃない。携帯も繋がらない。おそらく仕事もやめたのではないかと」 全く考えだにしないことを言われて全員が愕然と言葉を失う。 「そ、そんな! あの子はそんなこと一言だって・・・一体何があったんです?! あの子は一体どこへ・・・!」 「親父、落ち着けって!」 普段迷惑かけっぱなしの情けない親とはいえ、娘を愛する気持ちに偽りはない。 珍しく取り乱して司に詰め寄る晴男を進が慌てて引き止めた。 「あの、道明寺さん、僕たちにとっては本当に何が何だか・・・姉に一体何があったんですか? この前会った時はあんなに楽しそうだったのに・・・もしかして道明寺さんの記憶が戻ったことと何か関係が・・・?」 「それはねぇ。そもそも俺の記憶が戻ってまだ1日も経ってないからな。あいつはその事実にすら気付いてねぇはずだ」 「じゃあどうして・・・」 「・・・むしろその逆だ」 「逆?」 その意味を考えあぐねて進が首を傾げる。 「先に記憶が戻ったのは俺じゃなくて・・・あいつだった。だからこそあいつは動いた」 「えっ・・・姉ちゃんの、記憶が・・・?」 「道明寺さんっ、それは本当なんですかっ?!」 「本人に確認したわけではありません。だがそれ以外に考えられない」 「まさかそんなことが・・・でも何故つくしはいなくなったのです? 私達に嘘をついてまで、何故・・・」 「・・・・・・」 何故。 それは今朝目覚めと共につくしの不在を知って司が真っ先に考えたことだった。 あの幸福な時間は決して自分だけのものではなかったはずだ。 直感でしかないが、つくしが先に記憶が戻っていたとするならば、尚更別れるつもりで男に抱かれるような女であるはずがない。それに、夕べ全身全霊でぶつけてきた気持ちが嘘でなかったことはこの自分が一番よくわかっている。 家族にすら何も伝えずに姿を消した ___ 親の尻拭いで借金返済に追われようとも、何よりも家族を大事にしてきたあいつが嘘をついてまでいなくなった。 それはそこに悲観的な未来を想定していないという何よりの証拠だ。 あいつは誰かのために自分を犠牲にすることはできても、自分のせいで誰かを悲しませるようなことを進んで望むはずがない。 ということはそうせざるを得ない何かがあったということに他ならない。 「・・・はっきりとは言えませんがおそらく私の母親に会ったのかと」 「えっ・・・お母様に・・・?」 司の母親。 それは3人にとって恐ろしい存在そのものとして記憶に刻まれていた。 邪魔なものを排除するためには大金ですらまるでゴミのように差し出す冷酷非道な女。 身分違いの恋に、本人が何も言わなくとも悩み苦しんでいたことを知っている。 「いつとはお約束できません。ですができるだけ早く必ずあいつを連れ戻してみせます」 「道明寺さん・・・?」 心許なそうに顔を上げた晴男と千恵子に司がはっきりと告げる。 「あいつは俺から逃げるつもりでいなくなったわけじゃない。そう確信しています。きっとどこかで俺が見つけ出すのを待っている」 「え・・・?」 「ですからどうか心配なさらずに。必ず、絶対にあいつを見つけ出してみせますから」 「道明寺さん・・・」 あまりにも強い眼差しにそれ以上の言葉が出てこない。 「本当であればもっときちんとご挨拶すべきところなんでしょうが・・・とにかく今はあいつを見つけ出すことに全力を捧げたい。ですからそれはあいつを見つけ出すまでは保留にさせてください」 「・・・・・・」 「夜分遅くに失礼しました。では私はこれで」 「えっ? あっ・・・!」 風のように現れて風のように去っていく男を引き止める暇もない。 一度にあまりにも多くのことが起こりすぎて、これが現実なのかすら実感が湧いてこない。 「 道明寺さんっ!! 」 瞬く間に部屋を後にし、リムジンへと今まさに乗り込もうとしていた司をある声が引き止めた。 見れば進が息を切らしながら必死で追いかけてきている。 「あ、あのっ、姉ちゃんは本当に・・・!」 はぁはぁと息が上がってうまく言葉が続けられない。 だが進が言いたいことはそれだけでも全て司には伝わっていた。 姉を心から心配する弟の想いが、全て。 「心配すんな。まぁ正直この俺もまさかの展開にやられたっつー感情は消えねぇけどな。事情があろうと俺を置いていったあいつにも、それに気づけなかった俺自身にも怒りを感じてる。・・・それでも今の俺はあいつを信じてる。もう4年前のようなことはこりごりだからな」 「道明寺さん・・・」 本当であればとっくに荒れ狂っていてもおかしくないのに。 何故か目の前の男には少しの余裕すら感じさせる何かがある。 彼をそうさせているのは一体何なのか・・・それを進が伺い知ることはできない。 2人にしかわからない何かがきっと ____ 「あいつをぶっ飛ばそうにもまずは見つけねぇことには話になんねーからな」 「・・・」 「万が一あいつに関する手がかりが掴めたときには必ず連絡しろ。どんな小さなことでも構わない」 「っ、わかりました!」 胸ポケットから出した名刺にサラッとプライベート用の番号を書き込むと、司は大きく頷く進にそれを渡した。 自分以外がつくしを探し出せるはずがないと心の中では確信しながらも。 「じゃあな」 「あっ・・・! 姉を・・・どうか姉のことをよろしくお願いしますっ・・・!」 懇願するような言葉に再び足を止めると、司は振り向きざまに不敵な笑みを浮かべた。 「俺を誰だと思ってる? それに前にも言っただろ。俺は何があってもお前の姉貴を離さねーって。やっと・・・やっとこの手に掴んだんだ。死んでも離してたまるかよ」 「道明寺さん・・・」 「つーことだから余計な心配すんじゃねーぞ」 じっと見つめていた手のひらをグッと握りしめると、司はもう振り向くことはなかった。 すぐに動き出したリムジンを見送りながら、進は不思議な感覚に包まれていた。 それは本当に不思議な感覚だった。 つい今しがたまでいた憧れの男が・・・知っているようでまるで知らない人のようで。 それでも確実に道明寺司という男であることに違いはなくて。 4年前に見た男とも、少し前に再会した男ともどこか違う。 そう、言うなればまた新しく生まれ変わったとでも言うべきか。 元々自信に満ち溢れた男だったが、今日ほど揺らぎない何かを感じたことはない。 「 道明寺さん、姉をお願いします・・・! 」 瞬く間に小さくなっていく車体を見送りながら、進は自分でも意識しないままそう呟いていた。
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by: * 2015/12/15 01:20 * [ 編集 ] | page top
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進ってどの二次作家さんを見てもいい子が多いですよね。 何故だろう、両親と姉、そして義兄がぶっ飛んでるから?(笑) 結末はわかってるのにドキドキしますよね(*^o^*) --てっ※※くら様--
皆さん同じように仰られてますね~。 ラブラブハッピーだとわかってるのに何故こんなに切ないんだ!と(笑) 番外編だけど本編では丸々飛ばされてた部分でもありますからね。 ある意味初めて知ることばかりなわけで・・・そういう効果もあるのかな? 是非番外編が終了後本編も読み直してみてくださいね! どさくさに催促( ̄∇ ̄) --ke※※ki様--
わはは、さすがによそ様の番号教えられた日にゃあヒンシュク買いますわな(笑) ほんとほんと、ぶっちゃけ司に仕事用もプライベート用も使い分ける必要なんてないんですけどね。 どうせ西田くらいだし(笑) あ、でも西田からの連絡を遮断するためのプライベート用なのかも( ̄∇ ̄) 花男が始まった頃は携帯すらまだまだの時代でしたよね~。 もしかしてポケベルとかの時代だったりする・・・?ひえ~!!( ゚Д゚) 全盛期だった頃を思い出しながら書くせいか、登場人物がスマホを使ってることに密かな抵抗を覚える私であります(笑) 牧野両親はね、突っ込みたいところは山のようにあるわけですが・・・ そもそも彼らのぶっ飛び行為がなければこのお話は生まれてなかったわけですからね~。 なのである意味一番感謝しなきゃいけない相手だったり?! --管理人のみ閲覧できます--
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そうそう、何気に「娘さんとやりました」宣言しちゃってますよねぇ( ̄∇ ̄) そこに一切つっこめない晴男、ドンマイケル・・・ --ふ※※ろば様--
そうですね~。もし楓に③のような目論見があったとしても、それをつくしに直接言うようなことは現時点ではしないんじゃないのかなと思ってます。 それを言うってことは認めたも同然ですからね。 でもまぁ彼女の場合、わざわざ試練を与える時点で認めたようなものですけど(笑) いずれにせよ我が家の楓さんは強烈なツンデレです( ´艸`) |
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