あなたの欠片 15
2014 / 11 / 20 ( Thu ) ぽかぽかぽか・・・・
ウトウト・・・・ 「ん・・・・」 窓から差し込む太陽の光が全身を照らし、そのあまりの心地よさにソファに腰掛けたつくしの体が時間と共にどんどん沈み込んでいく。やがて背中から完全に背もたれに倒れると、スースーと気持ちよさそうな寝息が聞こえ始めた。手にしていた小説がするりと滑り落ちたが、それにも全く気付く気配はない。 初冬の穏やかな午後、つくしは幸せな時間に微睡んでいた。 コンコン ・・・・・・コンコン! 「ん・・・・・?」 この上なく幸せな時間を切り裂くように無情なノックの音が響き渡る。最初こそ気付かなかったが、何度も繰り返されるその行為にさすがのつくしも重い瞼を上げざるを得ない。 コンコン! 「・・・・・はい!」 寝ぼけ眼でやっとのこと返事をすると、使用人の一人が困ったような、申し訳なさそうな様子で中に入って来た。 「お休みのところを大変申し訳ありません!・・・・・ただ、牧野様にお迎えがいらっしゃっておりまして・・・・」 「・・・お迎え?」 一体なんの話なのだろうか。 全く心当たりのないつくしはまだぼんやりとする頭でうーんと考える。 が、やはり何のことやらさっぱりわからない。 病院に行くときは花沢邸の運転手に連れて行ってもらうが、お迎えというのとはちょっと違う。 首を傾げていると、使用人の後ろから見覚えのない女性が二人室内に入ってきた。つくしと目が合うと満面の笑みで頭を下げる。 ・・・・・・誰? 「牧野様!この日が来るのをお待ち申しておりました」 「・・・・え?」 「司様から牧野様のお迎えにあがるようにとの命がございました。さぁ、お荷物の移動のお手伝いをさせていただきます」 「・・・・・は、はいぃっ?!」 むんっと腕まくりをして気合いを入れると、女性は傍目に見てもわかるほどに嬉しそうに部屋の片付けを始めた。数少ないつくしの私物をあっという間にまとめ上げていく。花沢邸の使用人はおろおろとそれを見守るばかりで、つくしも呆然としたまま身動き一つとれないでいる。 「あ、あのっ!どういうことですか?!なんのことかさっぱりわからないんですけど!」 あらかた片付けられた頃にようやく我に返って声をあげたが、当の本人はきょとんとした顔で不思議そうにつくしを見た。 「お聞きになっていませんか?昨夜司様からお話があったんですよ。今日から牧野様がお邸に引っ越してくるからお迎えにあがるようにと」 「へ、へえぇっ?!」 「牧野様から連絡を受けたとおっしゃられていましたが・・・・」 「連絡・・・・・・?」 つくしのあまりの驚きように使用人も若干の戸惑いを見せる。つくしは言葉を頼りに必死に記憶を辿っていった。 『私、道明寺さんのお邸に行ってみます』 気が付けばそう言っている自分がいた。 理屈じゃない。 心がそう導いた。 ・・・・だが当の本人は固まったまま何の反応も示さない。 ・・・・聞こえなかったのだろうか? 「・・・・あの、道明寺さん・・・?ひっ!」 恐る恐る名前を呼ぶと目の前の男がハッと我に返ったのがわかった。そして次の瞬間には両手をガシッと掴まれていた。その目は鬼気迫るほどに真剣だ。 「本当だな?」 「えっ?」 「今うちに来るっつったよな?いや、言った。今さらなしっつったところで認めねぇ」 「あ、あの」 「そうと決まったら話は早ぇ。なんなら今すぐにでも来てもらっていい。いや、そうしよう」 「あ、あのっ」 「うちの人間を呼ぶから必要な荷物も一緒に運ぶといい。それから」 「ちょっと待ってくださーーーーーーーーーーーーいっ!!!!」 ぜぇはぁぜぇはぁ ここ数ヶ月で一番声を張り上げたんじゃなかろうか。自分でもビックリだが目の前の男はもっと驚いている。 「・・・なんだよ?」 「いや、あの、確かに行くとは言いました。言いました・・・けど!すぐにって言うのはさすがに無理が・・・」 「なんでだよ」 「いや、ずっとここにお世話になってたわけですし、ちゃんとお話をしてお礼を言って、それから花沢類にもきちんと許可をもらわないと・・・」 その言葉に司のこめかみがピクリと動く。 「なんで類の許可がいるんだよ。どう動こうとお前の自由じゃねぇのか?」 うぅっ、顔が怖い! 「そうなんですけど、今まで面倒を見てもらったわけですし、やっぱり最低限度の筋は通さないと・・・」 「・・・・・・いつだ?」 「え?」 「いつ話す?」 「えぇ?えぇ~と・・・・」 「なんだかんだ話せずじまいなんてことは認めねぇぞ」 ううぅっ、だから顔が怖いですからっ! 「彼も忙しくて毎日会っているわけじゃないので・・・次に会えたときには話します」 「・・・本当か?」 「はい」 「絶対だな?」 ズイッと今にもキスしそうな距離まで近付いて答えを迫られる。異性に対して免疫が全くないつくしはもうそれだけでパニック状態だ。あわあわしながらわけもわからず叫んでいた。 「絶対です!絶対ですから!約束しますからちょっと離れてくださいっ!!!」 「・・・・よし。言ったな。じゃあ絶対だぞ」 ほっとしたように軽く息を吐き出すと司はすっきりとした顔でつくしと距離を取った。反対につくしはぐったり疲労困憊だ。 「じゃあ類に言ったら連絡しろ」 「連絡・・・ですか?」 「お前携帯持ってるだろ。そこに俺の番号が入ってるはずだ」 「道明寺さんの・・・?」 「覚えてねぇか?じゃあちょっと携帯出してみろ」 「あ、はい・・・・」 つくしは言われるままに手を伸ばして鞄の中をごそごそと探し回る。と、司には見覚えのない携帯が出てきた。会えない間に機種変更でもしたのだろう。4年以上も直接会えていないのだから当然だが、そこに二人の見えない時間を感じて司の胸がズキンと痛んだ。それを顔に出さずに受け取るとすぐにメモリーを確認し始めた。 だがしばらくして彼の動きがピタリと止まってしまった。 「・・・・・あの・・・?道明寺さん?何か変ですか・・・?」 「・・・あ、あぁ、いや、なんでもねぇ。俺の番号も変わってるから新しいのを登録しておくぞ」 「え?あ、わかりました」 カタカタと作業する姿をつくしはただぼーっと見ている。 なんだかすごい急展開になってしまったけどこれでよかったのだろうか? でも行くと言ったのは自分だ。無意識ではあったけど間違いなく自分の心がそう判断した。 花沢類にも言われたとおり、自分の心に素直に従ってみるのも大切なことなのかもしれない。 「よし、入れといたぞ。類に話をしたらとりあえず俺に電話しろ。わかったな」 「はい、わかりました」 「待ってっからな」 まるで縋るような声色につくしが顔を上げると、真っ直ぐな瞳で自分を見ている司と目があった。 ドクンと心臓が跳ね上がる。 ・・・・やっぱりこの人といると何かが違う。 ・・・・うん、心のままに進んでみよう。 何か見えてくることがあるかもしれないのならば。 「・・・はい。必ず連絡します」 「・・・・わかった」 ニコッと笑ったつくしを見てほんの少しだけ司の頬が赤くなったような気がするのは思い過ごしだろうか? それから司は長くせずして帰って行った。 つくしの中で全く戸惑いがないわけではなかったが、欠けた記憶を取り戻したいつくしにとって、今は思いのままに行動してみることが一番の近道だと思えた。 あとは花沢類が何と言うだろうか。 わからないけれど、彼なら自分の好きなようなすればいいと言ってくれそうな気がする。 何の根拠もないけれど、確信にも似た思いがあった。 だがなんだかんだと彼と顔を合わせるチャンスは数日訪れなかった。 司も忙しいと言っていたが、どうやらそれは類にも言えることのようで、結局話を打ち明けられたのがあれから4日後、昨日の夜のことだった。 予想通り類はあっさり認めてくれた。そしてその旨を司に連絡したのだが・・・・ 昨日の今日でこうなるなんて話は聞いていない!!! 「牧野様?どうされましたか?体調が優れませんか?」 考え込んだまま数分動かなくなってしまったつくしを心配そうに女性が覗き込む。 「・・・あっ、大丈夫です、ごめんなさい。突然のことで驚いてしまって・・・・」 「そうですか。他にお荷物はございませんか?足りないものがあればこちらに来てから全て用意させていただきますのでご心配はいりません」 どうやら今日引っ越しになるというのはもう確定事項のようだ。 あまりにも急なことに少々文句も言いたくなるが、それでも自分が決めたことに違いはない。ここまできたらもう腹を括るしかない。 「あとは自分で持っていくから大丈夫です。ただ少しだけ待ってもらえませんか?お邸の皆さんに挨拶だけはしていきたいんです」 「かしこまりました。では終わりましたらお呼びください」 「わかりました。ありがとうございます」 お礼を言うと女性は嬉しそうに部屋から出て行ってしまった。残された花沢邸の使用人は相変わらずおろおろしている。 「牧野様、こちらを出て行かれるのですか?」 「・・・・・はい、突然で本当にごめんなさい。今まで本当にお世話になりました」 深々と頭を下げるつくしに慌てて駆け寄ってくると顔を上げてくださいと懇願する。 「牧野様、それはこちらのセリフです!いつかはこういう日が来るとは覚悟していましたが・・・・想像以上に寂しいです。牧野様との時間は私達にとってとても幸せなものでした。ありがとうございました・・・」 言いながら徐々に目が潤んでくるのを見て思わずつくしも泣けてきてしまう。 「浜名さんっ!」 「牧野さまっ!!」 どちらからともなくひしっと抱き合うと、最後の最後まで別れを惜しんだ。 それから邸中の人間に挨拶に回ったが、やはり行く先々で涙の別れが待っていた。 それでも皆快く送り出してくれた。つくしはそのことが嬉しくて、ありがたくてたまらなかった。 ある日突然やってきた怪我人をここまで温かく迎え入れてくれて・・・・・感謝以外に言葉が浮かばない。いつか、いつか必ず恩返しをしよう。 つくしは涙と共に固く心に誓った。 「結局花沢類とは昨日が最後になっちゃったな・・・・またちゃんとお礼に行かなくちゃ」 道明寺邸に向かうリムジンの中で一人呟く。 彼にも感謝してもしきれない。いくら親しい友人だったとはいえ、あそこまで至れり尽くせりしてもらうなんて。それがきちんと挨拶もできないまま別れてしまうなんて申し訳ないったらない。 これまでと違う景色を窓から眺めながら、つくしは寂しいような悲しいような、何とも言葉にしがたい複雑な気持ちでいっぱいになっていた。 **** 「牧野様っ!!お待ち申しておりました!!」 「牧野様っ!!ようこそお越しくださいましたっ!!」 「牧野様っ、お帰りなさいませっ!!」 だがそんなセンチメンタルな想いに浸っていられたのも車の中まで。 ようやく道明寺邸に着いたかと思えば、想像を絶する怒濤の大歓迎が待ち構えていた。 皆口々に歓喜の言葉を述べる。中には喜びのあまりむせび泣く者までいる始末。 確かに自分とここの人間に面識があるとは聞いていたが、ここまでの喜びようにつくしも若干引き気味に驚いていた。 「やぁつくし。よく来たね」 「・・・・・あ」 溢れかえる使用人の奥から満を持して現れた老婆。 彼女を見た瞬間またなんともいえない懐かしさが心を包み込む。 「私はこうなることを最初からわかっていたよ。さぁ、あんたの部屋の準備はできてるよ。 こっちへおいで」 「は、はい・・・・」 ニッコリと笑ったタマの瞳の奥が一瞬だけ光ったように見えたのは気のせいだろうか。 周囲をぐるりと囲む使用人の熱い視線を感じながら、つくしは前を行くタマを追いかけるように車いすを押し出した。 ![]() ![]() |
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by: * 2014/11/20 01:30 * [ 編集 ] | page top
--マ※様<拍手コメントお礼>--
ふふ、ありがとうございます(*´ェ`*) ついでに元気が一番っ!(笑) --きな※※ち様--
ふふふ、司のこの感じ、ちょっと懐かしいですか? さすがにずーーっと大人しいだけの彼では済まないようです(笑) 大きく話が動きましたがこれからどうなるのでしょう? 携帯の件気付きました? さすがですね~!! そうそう、手放しに喜んでばかりもいかないようです。 ね~、例の件もどうなってるのか? ぼちぼち出てきますのでもうしばらくお待ちくださいm(__)m --管理人のみ閲覧できます--
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このコメントは管理人のみ閲覧できます --向※※様--
ようやく司らしい片鱗が見えましたでしょうか? やはりただ大人しいだけの男では済まないようです(笑) でも邸に来てすぐにめでたしめでたし・・・とはいかない様子。 なんてったってつくしが相手ですから。 さぁ、お邸の人間は坊ちゃんの味方か?つくしの味方か? それによっても彼の苦労具合が左右されそうです v( ̄∇ ̄) 本日なかなか時間がゆっくり取れず。 あとで本部に突撃致します! あ、貝ブラは通気性はゼロですので意外と夏には向きませんよ!ムレ注意。 --翔様--
はい、ようやくテリトリーに強制侵入と相成りました。 翔様なかなか鋭い予想をされますね~。 はい、もうおもっきし読まれてます(笑) でも彼ならいかにもやりそうな。 皆さん携帯が気になっておられるようで。 ふふふ、一体どうなっているのでしょうか。 ご安心ください。私は生粋のつかつくラブ(*´∀`*)人間ですから! うちの娘ね~、全くどこの親父かと。 私も旦那も飲まない人間なんですよね~。 でも自分で思ってる以上にオヤジ化(老化とも言う)してる私(もしくは旦那)が きっと無意識に言いまくってるんでしょうね。 もうそれしか考えられない(笑) 動く度にどっこいしょ、くしゃみしてコンチクショー、このレベルですもの。 人の振り見て我が振り直せ・・・・まさに仰るとおりでございます(´д`;) --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --ブラ※※様--
はい!いよいよです!(って何が?) 暴走とまではいきませんが、坊ちゃんエンジンがかかってきました。 そして皆さん目ざとい。 携帯についてのコメントが多い多い! ちらりと書いただけで反応が凄いっ!(笑) その辺りもぼちぼち出てくるかなーと。 カマトト発言はこの二人にはちーとばかし難しい気がしますが、 最後にはハッスルしてもらえるように頑張りますぞ( ̄ー ̄) ながーく・・・ですか? むむぅ、なかなかに難しいですなぁ。 長いのはボボだけじゃダメでゲフンゲフン!! 明日は金曜日ぃ~♪ 楽しみにしてまーーす( ˘ ³˘)♡ |
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