また逢う日まで 9
2015 / 12 / 22 ( Tue ) この地に再び足を下ろすときはあいつと共に ____
その誓いがまさかこのような形を迎えることになろうとは。 「道明寺様っ!」 タラップに足をかけた瞬間、慌てた様子で総支配人が駆け寄って来た。 深夜にもかかわらず突然訪問したともなれば何事かと焦るのは当然のことだろう。 タマとの会話で稲妻が走ったように全てを理解した俺は、迷うことなくその足でここへとやって来た。さっきまでの疲れなど嘘のように消えてしまっている。 「ようこそいらっしゃいました。あのっ・・・」 「いい。別にお前達に問題があって来たわけじゃない」 「え・・・? それは、どういう・・・」 手でそれ以上の言葉を制止すると、総支配人はますます混乱した様子を見せる。 「それより事前に調べておくように伝えた結果は出ているな?」 「は、はい! ご指摘の通り当ホテルの客室担当に牧野つくしという従業員がおります」 「 ___ 」 やはり・・・! ようやく・・・ようやく見つけた。 長かった・・・。 たかが半年と思う人間もいるかもしれないが、今の俺にとってはあの空白の4年よりも遥かに長く感じる半年間だった。 それほどにあいつを求め、飢えていた。 グッと右の拳に知らず知らず力がこもる。 このままあいつのいる場所まで脇目も振らず突っ込んで行きたい衝動に駆られるが、ここまで耐え続けてきたのだ。あいつが 「従業員」 として今ここにいるのならば、その立場を尊重した上であいつとの再会を果たそう。 「あの、この者が何か・・・? 調べたところ勤務態度は至極真面目。担当でない仕事まで進んでやるほど勤勉だと聞いております。もし何か不手際でもあったのならば・・・」 「当たり前だろ」 「え?」 「こいつが勤勉かどうかなんて聞くまでもねーんだよ。むしろ休ませる方が難しい女だからな」 「は・・・あの・・・?」 必死で理解しようと試みているものの、言いたいことがさっぱりわからないのだろう。 司はそんな支配人に不敵な笑みを浮かべると、さらに度肝を抜く言葉を続けた。 「 あいつは俺の婚約者だ 」 「は・・・・・・・・・え?!」 予想通りの反応に声を上げて笑いたくなる。 もう誰にも遠慮する必要などない。 自分の足で、自分の力であいつに辿り着いてみせたのだから。 あとはひたすらあいつとの未来へ向けて突っ走るのみ ___ 「諸事情によりあいつはうちの系列で修行をしてたんだ。俺はその勤務先がどこかまでは知らされていなかった。ま、言ってみればあいつと結婚するまでの最後の試練ってとこだな。・・・そうして今日ようやく見つけ出した」 「・・・・・・」 いまだ状況が理解しきれないのか、支配人の表情からは混乱が見て取れる。 「まさか道明寺様の婚約者様だったとは・・・! あ、でしたら今すぐに彼女を ___ 」 「いや、いい。今夜は俺はこのまま部屋に戻る」 「え・・・ですが、」 「そのかわり明日あいつを俺の客室担当に回せ。ただし俺のことは一切伝えるな。それから余計な騒ぎを避けるためにも俺がここに来ていることは最低限の人間以外には口外するな」 「は・・・」 「とにかく一従業員としての牧野つくしを俺の元へ寄越せ。わかったな?」 「は、はいっ! ・・・あ、では今すぐコテージへとご案内致しますっ!」 「あぁ」 心なしか支配人の足取りが軽くなったように見えるのは気のせいか。 ・・・いや、そう思えるのは自分こそがそうだからかもしれない。 夜明けまであと数時間。 その瞬間を迎えるまできっと一睡だってできないだろう。 1分1秒が気が遠くなるほど長く感じるに違いない。 だが不思議とその時間すら楽しみだと思えてしまう自分の心の余裕はどこからくるのか。 ___ ようやく、ようやくお前の元へ。 次に掴まえたらもう二度と離しはしない。 そう、一生 ____ *** 予想通り全く眠れない夜を過ごした。 だが不眠不休だなんて信じられないほどに頭も体もすっきりとしている。 窓の外に見えるのは果てしないほどの青の世界。 雲一つない空が、まるで今の自分の心を映し出しているようだった。 このコテージはあの夜を境に完全に俺個人のものへと変わっていた。 世界中に同じように個人所有のものはあるが、ここはそのどれとも違う特別な空間へと変わった。いくら大金を積まれようとも、この空間に立ち入ることは何人たりとも許さない。 ___ 俺とあいつ、ただ2人だけの空間 「・・・さて、どういう形であいつを迎え入れてやろうか」 いつか俺が迎えに来ることを予想しているだろうとはいえ、あいつがひっくり返りそうなほど驚くことは間違いない。デカイ目がますますでかくなって、気の抜けた風船のようにへたり込むのだろう。 「それだけじゃ面白くねーよな」 なんだかんだでこの俺を半年も我慢させたんだ。 少しくらいあいつをギャフンと言わせてやりたいと思ったって当然だろ? あいつが竦み上がるくらい睨みつけて本気の怒りを見せてやろうか。 ・・・だが今の自分にそれをやりきれる自信は正直言ってない。 とめどなく溢れ出すこの喜びと興奮を隠しきることなんて不可能に近いからだ。 あいつの姿を思い浮かべるだけで湧き上がる熱情を抑えることすらできやしない。 愛しくて愛しくて、心の奥から欲して求めた女。 その女を真にようやくこの手に掴む瞬間がやって来る。 その時、視界に捉えた人影にハッと息を呑んだ。 どこか戸惑いがちに桟橋を歩いてこちらへ向かっているのは ___ 「 牧野・・・! 」 色鮮やかなブルーの世界に映るのは愛しい女ただ一人。 戸惑いを滲ませながらも真っ直ぐな瞳が放つ強さは少しも変わってはいない。 いや、むしろその輝きは増していた。 それはつくしがこの場所でどう過ごしてきたかを如実に語っていた。 「 牧野、牧野っ・・・!」 今すぐこの部屋を飛び出してあいつを抱きしめてしまいたい。 青空の下、思いっきり抱きしめてキスをして。 周囲の目なんて気にならなくなるほどに俺の熱で溶かしてやりたい。 徐々に大きくなる影にどうしようかと一瞬迷う。 本当にこのまま出て行ってしまおうか。 ・・・だが ___ 「やっぱ少しくらいお仕置きしねーとな」 どうせあいつに溺れきってこれでもかと甘やかしてしまうのは目に見えてる。 だったら最初くらいあいつを驚かせてやったっていいだろ? そう決めると一目散にベッドルームへと駆け込んだ。 あいつはここに人がいないという前提でやって来る。 起きた状態のまま出掛けたんだと思わせるためにわざと布団を乱雑に重ねた。 そしてその中に自分の体を滑り込ませると、間もなく訪れるその瞬間を待った。 ドクンドクンとありえないくらいに激しく胸が昂ぶっている。 らしくねぇほど動揺して情けねーったらねぇ。 でもしょうがねーだろ、それほどにお前が欲しいんだから。 ガチャッ 長くせずして控えめに聞こえてきた音に心臓が破裂しそうなほど鼓動を打った。 「失礼しまーす・・・って、誰もいないに決まってるか」 まるで鈴のように優しい音色が耳に届く。 あぁ・・・ 「相変わらずすごい部屋だなぁ・・・。 ____ 」 ・・・牧野、お前のその沈黙の意味を俺はよくわかっている。 そんな感傷に浸る必要なんてもうどこにもねぇんだ。 ・・・早くここへ来い。 俺が耐えきれずに飛び出して全てがパーになる前に、早く。 ・・・あぁ、お前をほんの少しでも懲らしめてやろうだなんて。 声を聞いただけで全てのネジがぶっ飛んでしまった俺のせめてもの反撃は、きっと見事に空振りに終わってしまうに違いない。
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by: * 2015/12/22 00:13 * [ 編集 ] | page top
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ああ~飛び出してしまいそうな司の気持ち。 待ちに待った瞬間がそこに来てることを知らないつくし。 司はタマさんとの会話でこの場所を突き止めたんですね。 まさかここだとは思ってなかったから・・・。 熱い燃え上がる再会までもう少しですね。 本編で見たけど、やっぱりドキドキです…(笑) --管理人のみ閲覧できます--
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あららっ、転がしてるつもりは全くないんですけどね?おかしいなー。 とにかくこの回は 「本編では余裕ぶってるように見えたけど実は全然そうじゃなかった点について」 というマイテーマを心に書きました(笑) なんだかそれが皆さんの心を刺激しまくったようで。びっくりしてます。 司のこういうところがいいですよね~(≧∀≦) --shir※※ukurou様<拍手コメントお礼>--
遅い時間の更新にもかかわらず楽しみにお待ちいただけているとのこと、本当に嬉しいです。有難うございます(*^^*) 思えばこの話は序盤は結構ブルーな展開でしたよね。 まー今ではそれが嘘のようで(笑) 最後には皆さんにハッピーを!をモットーにしてますからね。そう感じていただけるのならこの上ない喜びです。 そしてなんと親近感のあるお名前でしょう!! もう他人だとは思えません!(笑) --クリス※※ガーデン様--
まさかタマさんのアシストがあったとは意外ですよね。 やはりタマと西田は外せないツートップということで( ̄ー ̄)v 子どもみたいな坊ちゃん、かわいいですなぁ~! --ま※も様<拍手コメントお礼>--
えぇ~っ!!4回も読み返してくださってるんですか?! ひゃ~~、嬉しいですぅ~~!!(ノД`) でも読み返す度に新たな発見があるってのはそうですよね。 私も読み専だった頃、好きな作品は穴があくほど読んでたなぁ・・・ 今自分の書いたものがそういう立場になってるだなんて、未だにアンビリバボーです!( ゜Д゜) --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
さっきまで総支配人にビシッと決めてた男と同一人物とは信じられないですよね。誰か中の人が変わったのか?!(笑) 完全に恋する少年です♪ --ke※※ki様<拍手コメントお礼>--
お察しの通り迷惑ボックスのようにたんまり入ってました(笑) いまいち弾かれる基準がわからないですよね~。 私も本文で書いたときはOKだったのにコメントになるとNGなんてことも多々あって、ちんぷんかんぷんです。 とりあえず禁止ワードの設定を解除してみました。しばらくはこれで様子を見てみたいと思ってます~(*^o^*) --ふ※様<拍手コメントお礼>--
司がどれだけつくしに恋い焦がれていたかが伝わってきてキュッとしますよね。 坊ちゃんおめでとーー!!(≧∀≦) --みわちゃん様--
恋する坊ちゃんが大好評でですね~。 皆さんが母性本能をくすぐられまくってるようで(笑) 表じゃあんな偉そうなのにね、その実こうだったなんて・・・( ´艸`)カワエエ ここだからこそ逆にいないと司は思ってたんでしょうね。 いや~、タマさん出番はうんと少なかったけどいい仕事したっ!!(笑) --てっ※※くら様--
ほんと、どえらい可愛いですよね~( ´艸`) 私も書きながら「おい、母性本能刺激しまくりか!」ってツッコミまくり(笑) やっぱり司のこういうところが好きなんだよな~とあらためて実感した話となりました。 --莉※様--
そうそう、司目線だとこんな感じだったんですよ~。 想像以上にワチャワチャしちゃってますよね(笑) 恋する純朴少年!!って感じが全開でかわいいったらありゃしない(≧∀≦) でも皆さんの反応がこんなに良くなるなんてこれまた予想外~♪ --さと※※ん様--
坊ちゃんまたえらい可愛いことしてまんな~(〃▽〃) これ普通に惚れてまうやろ~! 俺様な司もいいけど、こうしてオタオタしながら単なる恋する少年になっちゃってるところはもっと好物だったりします( ´艸`) お仕置きしちゃるーー!!と我慢してることで自分がお仕置きされてるようなもんなのにね(笑)単純回路の坊ちゃんはそんなことには気付きまへん( ̄∇ ̄) いや~、布団の中で団子状態で待つ坊ちゃん。 いいわぁ・・・(*´∀`*)絵で見たいやね。 |
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