また逢う日まで 10
2015 / 12 / 23 ( Wed ) 「つくし・・・」
「ん・・・これ、いじょ・・は、ほんと、に、ムリっ・・!」 やっとのことで声を絞り出した体には全く力が入っておらず、目も閉じたまま。 その言葉が真実であるということを如実に語っているその姿すら愛おしくて、司はくったりと人形のようになされるがままのつくしの体を抱き寄せた。 「今夜はもうしねーよ。そのかわりこうさせてろ」 「・・・ん・・・」 聞こえるか聞こえないかの小さな反応を見せると、やがてスースーと寝息が聞こえ始めた。 泥のように眠る、まさにこの言葉が相応しい。 「さすがに無理させたか・・・」 再会の喜びもそこそこに、その感情の高ぶりのまま互いを求め合った。 いつもなら恥ずかしがってばかりのあいつがただひたすらに俺を求めて、それが自分が愛されているという何よりの証拠だと思うと、もう俺の理性など完全に吹っ飛んでしまった。 バスルームで気を失うように眠ったあいつをベッドに運んで自分も幸福の眠りに落ち、ぼんやりと目が覚めてはまた求める。そんなことを何度も繰り返し、その度につくしの体からは力が抜けていった。 それでも止まれない俺を口では抵抗しながらもあいつはすんなりと受け入れる。 その度に本来の自分自身が甦っていくようだった。 疲労の色を滲ませる女に若干の罪悪感を感じながらも、司は体の奥底から漲ってくる充足感に満たされていた。砂漠のようにカラカラだった細胞一つ一つにつくしという命の源が吹き込まれ、今自分が生きているということを実感する。 この女がいてこそ初めて自分は自分でいられる。 つくしとの再会。 それはどんな言葉にも言い表すことのできない歓喜の瞬間だった。 懲らしめてやろうと画策していたことなど案の定一瞬で吹っ飛び、ただただ目の前の女をこの手に抱きしめたい、自分の手の中にいることを確かめたい。頭の中を占めるのはただそれだけ。 それ以外のことなど何一つ考えられなかった。 つくしはつくしなりに自分を置いていなくなってしまったことに心を痛めていた。 それはあの雨の日を思い起こさせるのだから当然だろう。 だが俺がこいつを待たせた期間は4年だ。 生命の危機を彷徨い、そして一方的に忘れられ、あいつの絶望はいかほどだっただろうか。 ・・・そう。謝らなければならないのはこいつじゃない。 俺の方だった。 「 つくし・・・つくし・・・ 」 もう名前を呼んでもお前は消えたりしない。 名前を呼んだ瞬間お前が消えてしまう。そんな夢を幾程見たことだろうか。 「これからは俺の妻として、少しだって離れることは許さねーからな」 本当は再会した直後にプロポーズをするつもりでいたのに。こいつの顔を見た瞬間、そんな計画は霧散してしまった。いつだってこいつの前では計画通りにいったためしがない。 だがそれでいい。 それがいい。 何の計算もないこいつだからこそ、俺も本当の自分でいられるのだから。 「あらためてプロポーズしてやっから覚悟してろよ。 つくし・・・」 もう一度その名を口にして小さな体を抱きしめると、確かな温もりを感じながらようやく司も目を閉じた。 *** 「どうした?」 初夏のほんのり暖かな空気とは明らかに違うぬくもりが後ろから体を包み込む。 背中に触れているだけなのに、燃えるように熱いのは自分の体なのか、それとも。 「・・・星、見てたの」 「星?」 「うん。ここからでも見えるかなぁって。でも都心からだとやっぱりあんまり見えないね」 「あの島で見たばっかなら尚更しょぼく見えるよな」 「あはは、しょぼいって」 思い出のバルコニーから見上げる空には小さな光が微かに覗いていた。 ここで初めて土星を見た日のことがまるで昨日のように思い出される。 「・・・でもね、こうして空を見上げてるだけで不思議と浮かんでくるの」 「何がだよ?」 「満天の星空とね、・・・それからあの綺麗な土星の姿が」 「・・・・・・」 「まるで昨日のことのようにはっきりとその姿が浮かび上がってきて、あたしの心をワクワクドキドキさせてくれるんだ。ほんとに不思議だよね」 そう言って少女のように目をキラキラさせながら手を伸ばしているお前こそが綺麗だって自分でわかってんのかよ。 相変わらず無意識に男心に火をつける天才だよな、お前は。 「わわっ?! ちょっと、苦しいよ」 「うるせー、お前のせいなんだから黙ってろ」 「え~? だから全然意味わかんないってば」 口では文句言いながらも自分を締め付ける腕を解こうなんてしていないくせに。 それどころか嬉しそうにクスクス笑ってんじゃねーか。 「お邸の人達は?」 「あー、さすがに散ったな。ったくあいつら、自分の立場も忘れてハメ外し過ぎだ」 「あはは、たまにはいいじゃん。そんな時があったってさ」 「フン」 司がつくしを連れて帰ると宣言してからというもの、邸では今か今かと落ち着かずにその時を待つ使用人で溢れかえっていた。時折落ちるタマの雷なんて何処吹く風。内心ではタマとて同じなのだから、効果などほぼないに等しかった。 そうしてようやく迎えた再会の時 ___ となるはずだったが、何故か邸を素通りして飛行場へと駆け込んでいくつくし達に呆気にとられるというハプニング付き。しまいには戻って来るのが待ちきれずに大勢で飛行場へ大挙して出迎えるという、まさに全てが想定外づくしの再会劇となったのだった。 つくしが帰ってきたことに喜びむせび泣く者、笑いが止まらない者。 そこにはひたすら笑顔と笑い声だけがあった。 「 『 お帰り 』 つくし 」 中でもタマが放った一言は短いながらも全ての想いを集約していて、それまで笑っていたつくしも途端にボロボロと堰を切ったように泣き出してしまった。 「全くあんた達は・・・ほんとに似た者同士で世話が焼ける子だよ。これでようやく私の肩の荷も下りたと言いたいところだけど・・・この調子じゃ若坊ちゃんのお世話をする日も近そうだねぇ」 なんてニヤニヤしながら言うものだから、またその場がどっと笑いの渦に包まれた。 それから邸に戻ってからは飲めや歌えの大騒ぎ。 つくしが帰ってきただけでなく2人の記憶まで全て戻ったとあって、今日ばかりは使用人達も無礼講で喜びを分かち合った。 「幸せだね。こんなに多くの人に愛されて・・・って、わぁっ?!」 突然ぐりんっ! と体を反転させられて目が回る。 「な、何?!」 「お前のそこが不満なんだよな」 「・・・は? 一体何の話?」 「誰からも愛されてって・・・お前が愛されんのは俺だけで充分だろうが!」 「・・・・・・」 ポカーーーーン。 ・・・こいつ、何言ってんの? 「っていうか、実はめちゃくちゃ酔ってる?」 「酔ってねーよ! 俺が酔っ払ったところなんて見たことあんのか?」 「・・・ないけどさ」 「俺はシラフだっつの。ったく、どいつもこいつも牧野、牧野、牧野、牧野・・・。あの大塚とかいう男なんか類とダブるところもあって特にいらつくぜ」 「え・・・大塚と何かあったの?」 「ねーよ! ただお前を探しに会社に行ったらお前のことは全て理解してるーみてぇなツラして説教たれやがって。ざけんな! そもそもあの状況下で逃げられた俺こそ文句言いてぇっつーのに」 「う゛っ・・・だからそれはごめんってば」 そこを言われちゃどうにもこうにも立場がない。 「いいか。これからは他の奴に無駄に愛想ふりまくんじゃねーぞ。色目も禁止だ」 「色目って・・・そもそもそんなことあたしにできるわけがないじゃん」 「ほらな。お前の無自覚ほど怖いもんはねーんだよ」 「だーかーら! 色気もクソもないあたしにそんなことができるわけがないの! 人聞き悪いこと言わないでよ」 「へ~え?」 「な、何よ・・・」 ニヤリと口元を歪めた男にゾゾッと背筋が凍る。 これは・・・なんかやばいスイッチを押してしまった可能性が。 「お前の言ってることが嘘かほんとか、この俺が証明してやるよ」 「・・・へっ?」 「自覚のねぇ女には俺がしっかり教えてやらねぇとなぁ?」 「・・・はっ?!」 「そうと決まれば話は早ぇ。部屋に戻るぞ」 「・・・ほえぇっ??! ちょっ、ちょっと待って!」 「誰が待つか。そもそもたった一晩くらいで俺の渇きが癒されるとでも思ってんのか? お前は責任もって俺を潤わせろ。今夜 『 も 』 眠らせねーから覚悟しろよ」 「・・・・・・・・・ひょえぇえええええぇええっ!!!!」 懐かしい雄叫びが邸に響く。 それを聞いた誰もが、またこのお邸に平和が戻ってきたのだと幸せを実感するのだった。
本当は再会後のエピソードは書かずに一気にエピローグまで飛ぶつもりだったんですが(本編でほぼ書いたので)、予想外に皆さんの反響が大きかったので急遽慌てて書き直しました。 ということで真のエピローグはこの後ということで。 なんとっ!!本日2回更新いたします!! 朝6時にまたお会いしましょう♪
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by: * 2015/12/23 00:31 * [ 編集 ] | page top
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本当は1回更新の予定だったんですけどね、それだとクリスマス短編がどんどんずれ込んでしまってクリスマスに関係なくなってしまう!!と焦りまして(笑) このお話が終わらないのに短編をぶっ込むのもなんかどっちも中途半端になるな~と思ったんです。なのでめったにない2回更新に踏み切りました! そうそう、司の辞書には「全力入魂(根?)」しかないと思いますっ(≧∀≦) --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
おぉ!早朝からスタンバイしていただけるとは・・・なんと有難いことでしょう。 その期待に応えられるかが不安大ですが( ̄∇ ̄) --ke※※ki様--
ほんと、一体何が不正ワードなんだ?!って時がありますよね~。 ke※※kiさんは迷惑ボックスに引っかかってる確率が高いですよね(笑) フィルターをかけておくと役に立つこともあるんでしょうが、今のところ「ナンデヤネン」ばっかり(苦笑)なのでしばらくは解除で様子見で~す^^ この歳まで操を守り、ましてや記憶喪失という障害を乗り越えての悲願達成ですからね。 2日どころか多分1週間くらいは寝所篭もりになるんじゃないでしょうか(笑) そうそう、10話を予定で始めたんですが・・・15話くらいになりそうな勢いだったので最後はちょっと駆け足になってしまいました。というのもクリスマス短編をクリスマスにアップしなければ!という焦りがありまして(^_^;)1週間前には完成していたこちらの短編、また全くカラーが違うので楽しんでもらえたら嬉しいです。 |
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