王子様の憂鬱 3
2015 / 12 / 30 ( Wed ) 「おはよう、パパ、ママ」
「・・・おはよう」 「おはよう、花音。今日も早いのね?」 ダイニングテーブルに腰掛けると、手を合わせて綺麗にお辞儀をしてから朝食に手をつけた。 「そんなことないよ。ハルにぃはそれよりももっと早く来てるから」 「あら、そうなの?」 「うん。今日こそはハルにぃより先にと思って気合を入れて行くんだけど・・・いつ行ってももうデスクについて仕事してるの」 「へぇ~、ハルってば頑張ってるんだ」 「うん、すっごくいっぱい頑張ってる。少しでもその負担を減らせたらって思ってるけど・・・まだまだあたしは力不足で。・・・ん、お漬け物おいしい!」 「でしょでしょっ?! あたしの渾身の浅漬けなんだから!」 つくしのガッツポーズに花音がクスッと笑う。 「ママの作る料理って大好き。あたしにももっともっと色んなものを教えて欲しいな。この4年はずっとアメリカだったから、正直向こうでレパートリーが増えてないんだよね」 「・・・それに、近い将来またここからいなくなっちゃうしね?」 「えっ?」 意味深なウインクの意味を理解すると、花音の頬がほんのりと赤みを帯びていく。 「あらあら、我が娘ながら可愛いわね~! ね、司もそう思うでしょ?」 「・・・・・・」 「もうママっ、からかわないでよ!」 女同士独特のやりとりを司は新聞に視線を落としたままで聞き流している。 決して口数は多くないが、余程のことがない限りはこうして必ず朝食を共にとる。これは花音が物心ついた頃から常に行われてきた道明寺家での日常。 その中心には必ず母の存在がある。 「・・・お前、それいつまで続けんだよ」 「えっ?」 「それだよ、その無駄な変装」 珍しく口を開いた司が顎で示したのは花音が身につけている眼鏡。 彼女の視力は両目とも1.5とすこぶる良好だが、社会人になったと同時に何故かこの眼鏡をつけるようになった。当然ダテだが、これをかけて胸上ほどまである綺麗な黒髪を1つに束ねる。 これが今の花音の正装だ。 「これは・・・」 「わざわざ顔を隠すような必要でもあんのか?」 「そ、そういうわけじゃないの! ただ、これは自分への気合注入っていうか・・・」 「そうじゃねーだろ?」 「・・・・・・」 誤魔化しは一切認めない追求に、花音はそれ以上口ごもってしまった。 「まぁまぁ、何だっていいじゃない。それで仕事に悪い影響が出るようなら困るけど、ちゃーんと真面目に頑張ってるんだから。それに、ハルだってそれでいいって言ってくれてるんでしょう?」 つくしの助け船に花音がコクンと頷く。 「じゃあ何の問題もないじゃないの。花音の上司はハルなんだから。あの子が認めてるのならあたし達が口を出すのは無粋ってものでしょ?」 「・・・・・・」 「ということだから花音は気にしなくていいのよ。今のままで頑張りなさい」 「ママ・・・」 この家で・・・いや、この世で司を黙らせることができるただ1人の人物。 その人こそが花音がこの世で一番憧れている女性。 母のように強く美しい女性になりたい。 そうして愛する人に心から愛される女性になりたい。 子どもの頃からずっと抱き続けてきた密かな想いだ。 「ほら、そろそろ時間なんじゃないの?」 「あ、ほんとだ。ご馳走様でした。・・・・じゃあ行ってきます!」 「はーい、気をつけて行ってらっしゃい!」 あれっきり何も言わなくなってしまった父の様子を気にしながらも、花音は荷物を取ると急ぎ足でダイニングを後にした。姿が見えなくなるまで手を振り続けると、やがてつくしがニヤニヤしながら司の隣へと腰を下ろす。 「全く、相変わらず心配性なんだから」 「誰がだよ」 「あんなわざと誤解を与えるような言い方しなくってもいいのに。素直に仕事は楽しいか? 何か嫌な目にあったりしてないか? って聞けばいいでしょ?」 「だから何がだよ」 言えば言うほどぶっすーとふてくされていくその姿に笑いが止まらない。 「んも~、結婚だって認めたくせに、あーい変わらずハル絡みになると素直じゃないんだから」 「お前なぁっ!」 「きゃあっ?! あはははっ! やめてよね、もう!」 グイッと膝の上に体を引き摺られて羽交い締めにされてしまった。 「・・・ったく、年を追う事にますます似てきたな」 「えー、何の話?」 「牧野の姓まで名乗って。おまけにわざわざ目立たないように変装までして、極めつけは電車通勤と来たもんだ。俺に似りゃあそんな遺伝子は引き継いでるわけがねーんだよ」 「あははは! 遺伝子の話までいっちゃう?」 「どう考えたってお前のNBA引き継いでんだろうが」 「NBAってあんたね・・・40代も折り返してそりゃないでしょーよ。あたしゃマイケルジョーダンかっつーの」 「ったく、なんだってわざわざしなくていい苦労をするんだか」 苦虫を噛み潰したような顔で溜め息をつく彼の想いは自分と同じ。 大事な娘に幸せになって欲しい、ただそれだけだ。 つくしはクスッと笑うと、体を反転させてそんな可愛い夫と向き合った。 「だーいじょうぶ! あの子には司の血も半分流れてるんだから。雑草のあたしよりももっともっと逞しい子よ」 「・・・・・・」 「それに、あの子にはハルがついてる。万が一何かあったときにあの子を守るのはもうあたし達じゃない、ハルの役目よ。あたし達にできることはそれを温かく見守ってあげることだけ。そうでしょ?」 「・・・・・・」 「ふふ、司はただ心配してるだけよね。頑張り屋のあの子のことだから何でもかんでも自分1人で抱え込んじゃうんじゃないかって。でも大丈夫。ハルはそんな花音を誰よりも大事に見守ってるわ」 「・・・やけにあいつの肩をもちやがんじゃねーか」 「えっ? あっははは! やだもう、まさかやきもち?! も~、相変わらず司ってば可愛いんだから~!」 「ざけんな!」 「きゃーっははははっ!」 ガシッと顔を掴まれて逃げ場を失い、つくしが身を捩って大笑いする。 こういうときの司は決まって照れ隠ししているのだ。 「でもさ、ほんとはそれだけじゃないんでしょ?」 「・・・なにがだよ」 「花音の心配してるのはもちろんだけど、ほんとはハルのことも気になってるんでしょ? 今のハルがどんな気持ちで花音のことを見守ってるのかを一番理解してあげられるのは司しかいないもんね? 全く、なんだかんだ言ってハルにも優しいんだから~!」 「・・・んの野郎、減らず口はこうしてやるっ」 「えっ?! わーーーーっ、待って待ってっ! メイクが落ちゃっ・・・っ!!」 急な愛情表現もまた照れ隠し。 それを誰よりも知っているつくしは呆れながらも笑ってそれを受け入れると、クルクルの髪に自分の指を絡めてしばし甘い一時に身を預けた。
寝かしつけた後にチビゴンの調子が悪くなりグズった関係で予定より短くなってしまいましたm(__)m ちなみにバナーは昨日と今日とでバカップル対決となっています(笑) それからこのところなかなかコメント返事ができずにごめんなさい>< たーくさんいただいているのですが、現状そこまでの時間が取れずにいます。でもコメントにやる気をもらって更新できています! ドキドキしながら始めたこちらのお話、おかげさまで大好評で本当に嬉しく思ってます(* ´ ▽ ` *)またお返事も近いうちに再開しますので、懲りずにいただけましたら嬉しいです(*^ー^*)皆さんいつも有難うございます! |
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by: * 2015/12/30 00:35 * [ 編集 ] | page top
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司の子を思う気持ちですね 相変わらず素直じゃない所がいい(≧∇≦) つくしの母は強しもいい(≧∇≦) 私も娘の恋愛でハラハラした事を思いだしました。失恋した時、胸に抱きしめ一晩一緒に寝ましたね。 --管理人のみ閲覧できます--
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