王子様の憂鬱 24
2016 / 01 / 23 ( Sat ) 「・・・ハルにぃ?」
キョトンとまるで人ごとのように黒目を瞬かせる姿に遥人が苦笑いする。 「そんなに驚くことか? 本当はずっと前からきちんとした形でお前にプロポーズし直すつもりでいたんだよ。・・・この指輪と一緒に」 「・・・・・・」 視線を落とした先、そこには光沢のあるベルベットの小さな箱がある。 いつまで経ってもそれを握りしめたまま動けずにいる花音に代わって遥人がそれを開くと、中から眩い光を放つ小さな塊が顔を出した。 「すごい・・・綺麗・・・」 「本当はお前をアメリカに迎えに行ったときには既に準備してあったんだ」 「えっ?」 「当然だろ? お前を受け入れると決めたのは将来のことまで見据えてのことなんだから。それに、それくらいの覚悟がなきゃあのおっさんが許すはずないしな」 確かに・・・パパなら言いかねない。 「あの時俺は帰国と同時に入籍してもいい、それくらいの決意をもってお前を迎えに行ったんだ。でも散々お前を待たせておきながら、自分がその気になった途端全てを自分のペースに巻き込むことに何とも言えない罪悪感も抱いてな。お前は社会人としての新たな生活に夢と希望に満ち溢れてたし、牧野の姓を名乗りたいとも言ってたから・・・ある程度は俺も待とうと思ったんだよ」 「ハルにぃ・・・」 「とは言ってもそう長く待つつもりはなかったけどな。・・・で、結局はどうにもこうにも耐えきれなくなってこうしてあらためてプロポーズしたってわけだ」 「・・・・・・」 「ほんと、我ながら情けなさ過ぎて嫌になるよな」 「・・・ぷっ!」 「笑うなよ。・・・って言いたいところだけど、残念ながら言えそうもない」 「あははは!」 お腹を抱えて笑う花音を目を細めてしばらく見つめると、遥人はケースの中から指輪を取りだした。その瞬間ハッと笑いが止まった花音の左手をゆっくりと持ち上げて、細い薬指にするすると銀色の輝きを通していく。指のサイズなど教えたことも聞かれたこともないというのに、寸分の狂いもなくそれはピタリとおさまった。 「・・・・・・」 中央に見えるのはきっと誕生石だろう。 そのまわりを星のように取り囲む無数のダイヤモンド達。 あまりの美しさに言葉もでないが、それらがゆらゆらと輝いているのはきっと宝石だからという理由だけではないはずだ。 「花音」 「・・・・・・はい」 顔を上げてしっかりと前を見つめる。 ・・・決して涙でぼやけてしまわないように。 「今度のパーティでお前のことを正式に対外的にも婚約者として発表したいと思ってる。だからこれからはこの指輪をずっとつけていてほしい。・・・俺と結婚してくれ」 カタカタと小さく震える両手が力強く握りしめられる。 その大きな手を負けじと握り返すと、花音はゆっくりと息を吸い込んでから頷いた。 「・・・はい。よろしくお願いします」 スローモーションのように頭を下げると、重力に逆らえずにぽろりと一滴の涙が零れ落ちていった。 「・・・・・・はぁ~~~~っ・・・」 「・・・? ハルにぃ?」 頭上から降ってきた盛大な溜め息に思わず顔を上げると、何故か遥人が額に手を当てて天を仰いでいる。 「・・・すっげ~緊張した・・・」 「えっ?!」 「手汗止まんねーよ。ほら」 「・・・・・・」 差し出された手を触ってみると、言う通りじっとりと濡れている。 あんなに落ち着いて見えたのに? 「・・・緊張してたの?」 「あぁ。ものすごく」 「ハルにぃが?」 「俺は誰かみたいにサイボーグじゃねーぞ」 「・・・もしかしたら断られるかもしれないって?」 「アホか! そんなん誰が言わせるかよ! ・・・って、何言ってんだ俺・・・」 「・・・ぷっ!」 さっきまでの緊張が嘘のようにほどけていく。 「絶対OKしてもらえるってわかってても、やっぱけじめをつけようと思うと滅茶苦茶緊張するもんなんだな」 「・・・そういうもの?」 「そういうもの」 「そっか・・・。ハルに・・・遥人、ありがとう」 「え?」 ガバッと遥人が花音を凝視する。 が、それと同時に明後日の方向に顔を逸らすと、目に見えて花音がきょどり始めた。 「え、えへへ・・・えーっと、そろそろ出掛ける準備しないとだよね!」 「花音」 「洋服も乾いたかな? ちょっと乾燥機見てくるね」 「花音」 「よいしょっと・・・」 「花音!」 立ち上がったところで右手をがしっと掴まれた。 そのままの勢いで顔を覗き込まれそうになるのを必死で逃げる。 右から来れば左に、左から来れば右に。 もう一度右から覗き込まれそうになって左に・・・ 「 !! 」 向いたところで急に正面から現れた顔に唇を奪われた。 「は・・・ハルに・・・っ!」 「遥人だろ、花音」 「んっ・・・!」 足元がふらついた勢いで2人そのままソファーへと倒れてしまう。 それ幸いとばかりに遥人のキスはより激しさを増していく。 「はっ・・・!」 「・・・・・・」 「んっ・・・・・・えっ?!」 息苦しさに堪らず顔を逸らそうと思ったその時、ふわりと体が宙に浮いた。 「な、なにっ?!」 「・・・ダメだ」 「え?」 「・・・お前が悪いんだぞ。変に火をつけるから」 「えっ? 火? な、なんのこと・・・?」 時々彼はこんなわけのわからないことを言う。 一体何のことを言ってるの?! 顔中に疑問符を貼り付ける花音をよそに、遥人は花音を抱き上げたままズンズンと足を前へと進めていく。 「ね、ねぇ、ほんとにどうしたの? 一体何が・・・」 と、ピタリと足が止まった場所を見て言葉を失った。 「は、ハルにぃ? まさか・・・」 「・・・悪い。まだお前を帰してやれそうもない」 「え・・・」 「絶対優しくするから。・・・だからもう一度俺に愛されて? 花音」 「ハル、にぃ・・・」 ニッコリ笑ってもう一度軽くキスを落とすと、尚も放心状態の花音の返事を待たずに遥人は寝室の中へと入っていった。 その後、再び扉が開かれたのは日が傾き始めた頃だったとかなかったとか。
すみません、諸事情により予定より短くさせてもらいました>< |
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by: * 2016/01/23 01:03 * [ 編集 ] | page top
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いいなあ、花音ちゃん。羨ましい〜。私もハルにぃに愛されたい!(←何歳だ、お前は!という心の声はこのさい無視) この二人、つかつくとは違う新鮮さがあって最高に素敵。読んでいて思わず笑顔になってしまいます。ありがとうございました。 |
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