あなたの欠片 18
2014 / 11 / 25 ( Tue ) 「つくし~!こっちこっち!」
「あ・・・!」 ガラス張りの吹き抜け下にあるオープンテラスで勢いよく手をふる女性を見つけると、つくしも笑顔で返す。足元を確認しながらゆっくりと前へ進んでいくと、いつの間にやら二人とも立ち上がってつくしを待ち構えていた。 「ごめん、待たせたかな?」 「ぜ~んぜん!それよりも凄いじゃんつくしっ!そんなに動けるようになってたなんて!」 ここまでゆったりとしたスピードながらも、松葉杖を使って自力で歩いてきたつくしに滋は感動の声をあげる。 「あ、うん。でもまだまだダメ。気をつけないと時々転びそうになっちゃうし」 「それでも凄いですよ。あんな大怪我してたんですから。頑張ってるんですね」 「えへへ、そう、かな・・・・?」 「そうですよ」 どんなことでも人に褒められるってやっぱり素直に嬉しいもの。 つくしはニコニコと自分を褒めてくれる二人に照れ笑いが止まらない。 「まぁとりあえず座りましょう。良くなってるとはいえ無理は禁物ですからね」 「そうそう、さ、座ろ座ろ!」 「うん、ありがとう」 桜子が引いてくれた椅子にゆっくりと腰掛けると、つくしは空を見上げた。ガラス張りの吹き抜けからは澄み渡った青空が見え、まん丸とした太陽から燦々と光が降り注いでいる。肌寒い季節だというのに、ここだけは自然の力で信じられない程に暖かい。 「ここ凄く綺麗だね。このまま布団敷いて寝たいくらいだよ」 「あははっ布団って!でも気持ちはわかるなぁ。今は寒いから閉まった状態だけど、気候が良くなればこのガラスも全面オープンになるんだよ」 「へぇ~!気持ちよさそうだね」 「また季節が変わったら来ましょうよ」 「ふふ、そうだね」 まるでもう記憶が戻っているのではないだろうかと錯覚するほど、3人が醸し出す空気は自然だ。 日曜日の今日、滋の誘いで久しぶりに3人で会うこととなった。 最後に会ったのは司の邸で全員が揃ったとき。あれからもう3週間近くが経っていた。 それぞれが頼んだ飲み物が運ばれてくると、待ち構えていたように滋が口を開いた。 「どう?司のところでの生活にはもう慣れた?」 「あ、うん。慣れたとも言えるし慣れないとも言える・・・かな」 「えぇ~?それってどういう意味?」 「なんていうか、あそこに住んでる人達にはすっかり慣れたんだけど、あの暮らしぶりには慣れないっていうか・・・」 「あ~、そういうことか。なるほど、納得」 「いかにも先輩らしいですね」 「そう・・・・かなぁ?」 「そうですよ。全然変わってないです」 ニコッと綺麗な笑顔を見せる桜子につくしも何故だかホッとする。 記憶がなくても自分という人間が変わったわけではないのだと思えるから。 「それで?司とはどうなってるの?夜這いとかされてない?」 「んぐっ、ゲホゲホゴホッ!!」 「ちょっ先輩、大丈夫ですかっ?!」 ストローで吸い込んだレモンティーが思いっきり気管に入り、つくしが盛大にむせ返る。バシバシと桜子に背中を何度も叩かれながら深呼吸を繰り返し、やっとのことで落ち着きを取り戻していく。 「つくし大丈夫?」 ケロッとした顔の滋をつくしは涙の滲んだ目でキッと睨み付けた。 「ちょっと、滋さん!変なこと言わないでくださいよ!」 「あ~、敬語使うのやめてって言ったでしょ?名前も呼・び・す・て!」 「じゃあ滋っ!いきなり変なこと言わないでっ!」 つくしがぷりぷりと怒っているというのに、滋はどこか嬉しそうに顔を綻ばせる。 「あ~、つくしのその感じ懐かしい!やっぱりつくしはそうでなくっちゃね!」 「だからそうじゃなくて!」 「え~?あたし何か変なこと言った?だって男と女が一つ屋根の下にいるっていったらやっぱりそういうこと期待しちゃうでしょ?」 「し・ま・せ・んっ!!」 「そうかなぁ~?」 「それに、花沢類のところにいたときはそんなこと一言だって言わなかったのに!」 「えぇ~?だって類君はそういうタイプじゃないでしょ」 確かにそうかもしれないけどそういう問題なのか? っていうか、それならば司はそういうタイプだということになるのか・・・?! 「あ、誤解しないでよ。司が誰にでもそういうことするって意味じゃないから」 「え」 「司はつくしのことになると別人になるからさ~。良くも悪くも」 ドキンッ・・・ 『お前が好きだ』 はっきりと告げられた言葉がまた蘇ってくる。 司の話が出る度に一人で思い出してはどうしていいやらと悶絶する。 あの告白以来何度同じ事を繰り返しているだろうか。 ・・・・・・あれ? そんなことを聞くってことは当然この二人も自分たちのことは知っているだろうわけで・・・・ ・・・・・夜這い? 夜這いって・・・・つまりはそういう関係があったってことなのだろうか? え、えぇっ、嘘でしょう?! いやでも、お付き合いが本当なのだとしたらその可能性だってありえるわけで・・・・・ 年齢的にも普通ならあって当然と言うべきで・・・ いやいやいやいやいやいや!!! そんなこと言われても困るっ!何も思い出せないからっ!!! 「・・・先輩?何かあったんですか?顔赤いですよ?」 「えっ?ないないないない!何もないよ?!」 「「・・・・・・・・・・」」 真っ赤な頬に手を充てながら必死で誤魔化そうとするつくしを二人がじーーーと見つめる。 しばらくすると互いに目を合わせて何やら意味もわからず頷き合う。不思議に思って首を傾げたところで再びその瞳がこちらを向いた。 「・・・・・・で、何があったの?」 「・・・・・・で、何があったんですか?」 綺麗に重なった言葉に思わずつくしがたじろぐ。 何故にこうも自分の脳内は読まれやすいのだろうか。 どこかに穴が開いていて中身が漏れ出してるんじゃなかろうかと疑いたくなるほどだ。 何もない!と言いたいところだけど、どうやっても誤魔化しきれる自信がない。 それに・・・この二人には隠す理由がないように思えた。 フーと一息つくと、つくしは言葉を選びながらぽつりぽつりとこれまでのことを話し始めた。 「・・・へぇ~、司とっくに言ってたんだ。まぁいかにも司らしいけど」 優紀が言っていたこととほとんど同じことを滋も口にする。 「先輩は何も思い出せないんですよね?」 「う、ん・・・残念ながら」 「だから司のところに行こうと思ったの?」 「そういうわけじゃない・・・・とは言い切れないかもしれないけど、そうじゃないの。上手く言葉で説明できないんだけど、記憶を取り戻すにはそれが一番だってなんとなく思えたから・・・」 「そっかぁ・・・・・・」 3人の間を何とも言えない沈黙が走る。 「それで?道明寺さんのお邸に行って何か感じたことはあるんですか?」 「う~ん、皆いい人だなぁって。あんなによくしてくれるってことはやっぱりそういうことだったのかなって思えるんだけど、それ以上は何も・・・・」 「司は?つくしが来てからどんな感じなの?」 「それが・・・・まだ一度も会ってなくて」 「「はぁっ?!」」 またしても綺麗にハモった言葉に顔が引き攣る。 見れば信じられないとでもいいたげに二人して目を大きくしている。 まぁそれも当然のことだろう。もう邸を移って一週間も経つのだから。 「会ってないって・・・・・ただの一度も?」 「・・・・・うん。もともとお邸に来て欲しいって言われたときもしばらく会いに来る時間がなくなるからって言われて。だから本当に忙しいみたいで・・・」 「・・・・そっかぁ~。なんか忙しいってのは聞いてたけど、思ってた以上に大変なんだ」 ボソッと滋が呟いた一言が妙に気になる。 「大変って・・・・何かあったの?」 「えっ?!いやいやいや、大きな企業だとね、ほら、やっぱり色々あるわけよ。財閥の宿命っていうか。だからつくしは心配しなくても大丈夫だよ!ねっ?」 「う、うん・・・?」 何だろう。なんだかひっかかる。 そりゃあ一般人の自分にはわからないような苦労がたくさんあるんだろうけども。 ・・・・・でもなんだか胸がざわざわするのはどうして? 「会いたいですか?」 「・・・・えっ?」 悶々と考え込んでいたつくしを黙って見ていた桜子がおもむろに口にする。 「道明寺さんに会いたいですか?」 「それは・・・」 正直、最初はどんな顔をして会えばいいんだろうって思ってた。 自分から行くと言っておきながらなんなんだって言われそうだけれど。 ・・・でも、ここまで会えないとは思ってもなかったから、今度は会えないことに対する不安が募っているのも事実だった。結局それは彼に会いたいってことなんだろうか・・・・? 「・・・うん。会いたい・・・・・かな」 ぽつりと心のままの言葉が出ていた。 その言葉を聞いた桜子がにっこりと笑う。 「そうですか。じゃあきっとすぐに会えますよ。道明寺さんだって先輩に会いたくて頑張ってるんでしょうし」 「そうそう、つくしは司にとってのにんじんだからね!」 「にんじん?」 「馬はにんじんが大好物でしょ?」 「えぇっ?!」 「ふふっ、わからないならいいんですよ、先輩」 「????」 意味がわからず首を傾げるつくしを二人が意味ありげに笑う。 ・・・・まぁよくわからないけどいっか。 きっとこの二人はまだ自由のきかない、そして記憶の戻らない自分を心配してこうやって誘ってくれたに違いないのだ。少しでも気分転換になればという優しさで。 その気持ちが素直に嬉しかったし、そして楽しかった。 つくしはまた一歩、彼女達との距離が縮まったことを実感していた。 「・・・・・・斉藤さん、ちょっとだけ我が儘言わせてもらってもいいですか?」 二人と別れた帰り道、リムジンの窓から外を眺めていたつくしが運転手の斉藤にぽつりと呟いた。 「どうされましたか?牧野様がお願いなんて珍しいですね。できることなら何でもお手伝いさせていただきますよ」 ちょうど信号待ちをしていた斉藤は笑顔でそう答える。 「あの・・・・私の住んでたアパートに行ってもらえませんか?」 ***** カチャッ・・・・・ ゆっくりと扉を開けるとなんだか懐かしい香りがした。 「うわ~、久しぶりだぁ・・・・」 つくしは一歩ずつ中へ入っていくと、四ヶ月ぶりの我が家を見渡した。 記憶は欠けているが、ここに住んでいたことは何故だか覚えていた。とはいえ、いつから住んでるのか、具体的にどんな生活をしていたのかといった細かいことまでは思い出せない。脈絡のない断片的な記憶が残っているだけ。 「っていうか狭っ!」 端から端までほんの十歩ほどで辿り着いてしまうその室内に思わず苦笑いする。 これじゃあ本当に花沢邸や道明寺邸のトイレ並・・・いや、それ以下だ。 今まで狭いと思うことすらなかったのに、さすがにあんなに大きな空間で数ヶ月も生活していれば狭いと感じざるを得ない。 「あ~、でもやっぱりこういうところが落ち着くなぁ」 中へ入ると、つくしはベッドにゆっくりと腰を下ろしてもう一度全体を見渡した。 ずっと気になっていた自分の部屋。 いない間の家賃は全て花沢類が当分先まで払ってくれていたらしい。留守中空き巣が入ったりしないか、時々SPの人が見回りにも来てくれているとか。何から何まで用意周到にしてくれて、本当に頭が上がらない。 欠けた記憶を辿る中でずっと引っかかっていた場所だ。 自分だけの空間。 ここにはいろんなものが詰まっているに違いないから。 だから少しとはいえ動けるようになった今、何かの手がかりを一つでもいいから掴みたい。 「なんだろう、ベタに収納とかから見ればいいのかな」 自分の家なのにまるで他人の家のようにドキドキする。 一体どんなものが出てくるのか。楽しみでもあり怖くもある。 つくしは高鳴る胸を押さえながらクローゼットの扉を開いた。 そこには少量の衣類や雑貨が綺麗に整頓されてあり、ぱらぱらと見ていくがこれといって何か気になるものがある感じは受けない。もっと言ってしまえば、我ながらとても彼氏がいる女性の部屋だとは到底思えない。 「昔からあんまり物欲なかったしなぁ・・・・」 あちらこちらと手探りで見ていくが、やはり何か気になるようなものは見当たらない。 このまま何一つ手がかりは見つからないかと思っていたときだった。 「・・・・・・あれ?なんだろう、これ」 収納ボックスの奥の奥、衣類に押し込まれるような形でひっそりと置かれたノートほどのサイズの箱に気付いた。偶然奥にいってしまったのか、それとも・・・・? つくしは手を伸ばしてその箱を引っ張り出した。おそらくお菓子などが入っていたのであろう何の変哲もない箱だが、何故だか中身はそうじゃないような気がする。 それは直感だった。 少しずつ速くなっていく鼓動を感じながらゆっくりと箱を開けていく。 すると中には手のひらサイズの正方形の小箱と長方形の封筒がいくつか入っていた。 「・・・・・・・何だろう・・・・?」 見ただけでは何もわからない。 つくしはドキドキしながら微かに震える手で小さな箱を手に取った。ベルベッドでできたその箱はちょうどつくしの手のひらほどのサイズだ。 「なんか、この素材と形ってまるで・・・・・」 その先は敢えて言葉にすることなく箱に手をかけたときだった。 カタン・・・・・ 「相変わらず狭ぇな」 扉が開く音と共に久しぶりに聞く声が耳に届いたのは。 ![]() ![]() |
--ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
逃げたわけでもないのに追いかけてくる。 えぇ、彼は地獄の果てでも追いかける宣言をした男ですから( ̄∇ ̄) ハンターの嗅覚は凄まじいようです。 とか言って司じゃなかったらどうしましょう?!(笑)
by: みやとも * 2014/11/25 12:05 * URL [ 編集 ] | page top
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連休明け、だるいですよね~(´д`) まぁ、ぶっちゃけいつでもだるいんですけど(笑) たった一言でも存在感パネェですかい? ふふふ、一体誰?! ま、まさかの・・・・・・・・・・・・・・ 西田?!! ←どんだけ人気 --コ※様--
ちらほら思わせぶりで気になるところがありますか? ふふふ、すみません( ̄∇ ̄) 今まで皆さんが気になっていたところがもうそろそろ見えてくるかもしれません。 もう少しだけお待ちくださいませ!! (なんて焦らしプレイ) --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --ke※※ki様--
おぉ!皆さんとは逆の休日なんですね! 世間が休んでるときに休めないのも辛いものがありますが、 世間が働いてるときに休める優越感も堪りませんよね。 っていうか常に休みがイチバン( ̄∇ ̄) ふふ、一言でも効果大ですか? コメント欄って楽しいですよね~。 私も他の方へのリコメ含めて楽しむタイプなんですが、 いざ自分が主体になるとそれはそれで恥ずかしいですね(笑) どこで見られてるかわからないから気をつけなきゃ・・・・ え?今さら二郎? はっはっはっは、コリャマイッタネ!何も言い返せましぇん( ̄∇ ̄) そして同じ主義の方、たくさんいらっしゃいますよぉ~!(*´∀`*)ウレシイ |
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