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王子様の憂鬱 26
2016 / 01 / 30 ( Sat )
「あ、花音ちょっと待って」
「えっ?」

呼び止められると同時にピタリと密着するように寄り添われて心臓が跳ね上がる。
体温が伝わるほどの距離にドキドキが止まらない。

「髪に何かついてる。・・・綿ぼこり?」
「あ・・・さっき資料室で色々探したからかな・・・」

そうは言いつつも実際はそんなことはどうでもよくて。
指の先についた綿にフッと息を吹きかけるその姿から目が離せない。

「取れた」
「あ・・・ありがとう」

こちらを向いてニコッと笑う顔と目が合うと、花音は慌てて別の方向へと視線を動かした。
今さらなのは百も承知だが、この至近距離で見つめ合えるほどまだ免疫はついていないのだ。
いや、むしろ全てを知ってしまったからこそ恥ずかしくてまともに見られない。
・・・というのに、遥人の溺愛ぶりは目に見えて増していく一方で、隙あらばいつだってこうして距離を詰めてくる。

「かーのーん」
「・・・」

甘い悪魔の囁きが聞こえる。
見ちゃダメ見ちゃダメ。
見ちゃ・・・

「ふぅっ」
「ひゃあっ?!」
「あっははは! やっとこっち向いてくれた」
「な、な、な・・・!」

生温かい吐息をかけられた場所が燃えるように熱い。
それを押さえる右手にまでその熱が伝わっていくほどに。

「だってさっきから全然こっち見てくれないから」
「そ、そんなこと・・・」
「ない? ほんとに?」
「ちょ、ちょっと・・・?!」

ズイズイッと迫られてあっという間に壁際へと追い込まれてしまう。ドンッと壁にぶつかってそれ以上の逃げ場を失うと、すぐに伸びてきた両手に最後の抜け道すら完全に塞がれてしまった。

「せ、専務!」
「あ。今は2人きりなんだから遥人でいいよ」
「よくありません! お仕事中でしょう?!」
「時計見て」
「えっ? ・・・あ」

チラリと肩越しに見えた時計が示しているのは午後0時3分。
・・・つまり今は自由時間だと主張したいらしい。

「花音」
「だ、ダメです! いくらお昼休みだからってこういうことは・・・!」
「こういうことってたとえば?」
「そ、それは・・・」

みるみる困った顔で赤くなっていく花音に遥人がやけに嬉しそうに笑う。

「今日の夜は大事な接待があっただろ? だから今のうちに充電させて。ね?」
「ね、って・・・」
「花音・・・」
「ハルに・・・」

・・・ダメだ・・・逆らえるはずがない。
だって心の中ではちっとも嫌がってなんかいないのだから。
それどころかこうして自分が求められているのだと実感できることが嬉しくてたまらないくせに。

花音は心の中で小さくごめんなさいと口にすると、徐々に大きくなる遥人の顔をその目に焼き付けながらゆっくりと目を閉じてその瞬間を待った ____



「コホンッ!」



唇にほんの少しだけ何かが掠ったまさにその時、どこからともなく聞こえてきた咳払いにビクッと飛び上がる。空耳であってほしい、そう願いながら恐る恐る目を開けると・・・

「 !! きゃあっ!!」
「おわっ?!」

ドンッ!!と普段じゃ考えられないほどのバカ力で遥人を突き飛ばすと、その拍子に手にしていたファイルがバサバサと足元へと零れ落ちてしまった。

「ごっ・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!」
「花音、何も謝る必要なんて・・・」
「山野さんも本当に申し訳ありませんでした! 私はこれで失礼致しますっ!!」
「あっおい、花音っ!!」

金魚すくい名人も勝てないほどの早技で全てのファイルを拾い集めると、花音は全身を真っ赤にしながらひたすら頭を下げて執務室から逃げ出ていってしまった。

「・・・・・・」
「・・・何でしょうか。私が何か?」

花音が出ていった扉のすぐ横に立っているのは他でもない仕事人間山野だ。
こうして邪魔をされるのは一体何回目になるだろうか。
毎回毎回絶妙なタイミングでやってきては花音に逃げられてしまうのがパターン化している。
だったらやらなきゃいいだろと突っ込まれようともそれはまた別問題というもの。

「・・・はぁ~~~っ、お前はほんと何なんだよ? 俺に恨みでもあるのか?」
「とんでもございません。むしろこのところいつになく仕事に精を出されておられるのでこちらとしては嬉しい限りです。よほどいいことでもおありになったようで」
「だったらもっとやる気が出るように少しは協力しろよ」
「本当ならばそうしたいのは山々ですが・・・先方から先程連絡が入りまして」
「先方? ・・・ってもしかして今夜のか?」
「はい。何でも今夜の席には花音様も同行させて欲しいとのことです」

その言葉に遥人の眉尻がピクッと動く。

「・・・花音を? 何故先方が花音の存在を知っている? あそこと花音はこれまで一切の接点を持たせていないはずだぞ」
「それは私には分かりかねますが・・・元来花音様は道明寺財閥のご令嬢でありますから、あるいはそちらで何かしらの面識があった可能性も否定できないかと・・・」
「・・・ということは花音に対して個人的な感情をもってる可能性があるってことか・・・?」
「あくまでも可能性の話ではありますが」
「・・・・・・」
「どうなさいますか? 無理に要求を呑む必要はないかとは思いますが」

カリッと爪を噛みながらしばらく何かを考え込む遥人の答えを山野がじっと待つ。

「・・・いや、下手に別行動するよりは俺と一緒にいた方が安心できる」
「では」
「あぁ、あいつも一緒に連れていく。だが俺から寸分も離すことはしない。お前もそのつもりでいろ」
「・・・かしこまりました。では先方にもそのようにお伝えしておきます」
「・・・・・・」

山野が部屋を後にすると、遥人は自分のデスクへと足早に着く。
手元を一切見ることなく一気に何かを入力すると、長くせずして表示された画面をじっと食い入るように見つめた。



「・・・・・・マーキュリーカンパニーのマイケル・ワイス・・・か」



液晶に映し出された自分よりも幾分若いブロンドヘアの男を見ながら、遥人はカツンと指先でデスクを小さく叩いた。





 
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昨日は気分が悪くて仕方がないと書いたんですが、あれから1日経って劇的に良くなってきました!今日から旦那が仕事に復帰したから・・・?( ̄∇ ̄)(超小声)
気分が良くなってきたのが嬉しくて書いちゃいましたよ~!^^
明日は司のバースデーでしたがそれどころじゃなくてすっかり忘れてました(苦笑)なんのイベントもできないかもしれませんので先に謝っておきます、すみませんっ!!
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