あなたの欠片 20
2014 / 11 / 27 ( Thu ) 「・・・・えっ!」
ダイニングルームに一歩足を踏み入れた瞬間、つくしは驚きに声を上げ動きをピタリと止めた。 「よう」 いつもはいるはずのない人物、そしてそれは今朝とて例外ではないだろうと思っていた男が目の前にいる。 「えっ、え?!どうして・・・・」 「どうしてって、自分の家にいるのがそんなに不思議なことか?」 ククッと笑いを堪えるように司が肩を揺らしながらつくしを見る。 「そ、それはそうですけど、だって・・・」 「まぁお前がそう思うのも当然だよな。この一週間一度だって顔を合わせてなかったわけだし。まぁ毎日ってわけにはいかねぇけど、これからは多少はこうして顔を合わせる時間ができそうだ」 「そ、そうなんですか?」 「あぁ。嬉しいか?」 「へっ?!」 驚いて前を見ればニヤリとしたり顔でこちらを見ている男が一人。 「か、からかわないでくださいっ!」 「からかってなんかねーよ。俺はお前と一緒にいられて嬉しいぜ」 「うっ・・・・」 その言葉に例外なくつくしの頬が赤くなっていく。司はそんな姿を満足そうに眺める。 前々から思ってはいたけれど、この人は何事もストレート過ぎる! 行動も、言葉も、全てが直球だ。 あまりにも変化がなさ過ぎてどうしていいのかわからない。 「長く突っ立ってるのも疲れるだろ。早く座れよ」 「あ、はい・・・」 そして一見ぶっきらぼうに見えてすごく優しい。 彼が見せるその一つ一つに心を揺さぶられ、そして激しく惹きつけられているということはもう紛れもない事実だ。 つくしが司の目の前の席に腰を下ろすと、何やら向かいで使用人と話を始めた。その姿をぼーっと見ているうちに、話している唇から目が離せなくなる。 あ、あの唇と昨日・・・・・・! もしあのまま音が鳴らなければ一体どうなってた・・・? ぎゃ~~~~~~~っ!!! 「・・・・・お前なにやってんだ?」 真っ赤な顔をしながら額をテーブルにゴツゴツぶつけて悶絶するつくしを、いつの間にやら会話を終わらせていた司が物珍しいものでも見るように声を上げて笑う。 あ・・・ その屈託のない笑顔がまたつくしの胸をギューっと締め付ける。 やっぱりこの人に対する感情は他の誰とも違う。 好き・・・なのかな。 私はこの人のことを。 花沢類とだって長い時間一緒にいたけれど、確かにドキドキだってしたけれど、それ以上に彼に対して感じたのは安心感だった。異性としての安心感と言うよりも、まるで自分の一部かのような、そういう空気感に包まれていた。 でもこの人は違う。 彼のすること一つ一つに心が落ち着かなくなって、少しだって冷静でいられない。 花沢類も、西門さんも、美作さんも、誰一人として彼に見劣りのしない美貌の持ち主だし、お金持ちだし、何一つ彼と遜色のない人達だ。 同じ条件なのに彼だけ。 彼にだけこんなに心を揺さぶられる。 それはつまり・・・・ 「おい、牧野」 「・・・・・えっ?はっ、はいっ!」 名前を呼ばれて思わず背筋をシャキッと伸ばす。そんなつくしの姿に司がまた吹きだした。 「お前なんなんだよ?ロボットか?くくっ、相変わらずお前はおもしれぇな」 「あ、あははは・・・」 まさかさっきの心の声は漏れてないよね? 苦笑いしながら相手の様子を伺うがどうも大丈夫そうだとホッと胸を撫で下ろす。 「お前、ネックレスはどうした?」 「えっ?」 胸を撫で下ろしていた場所で司の視線が止まっている。その場所に昨日彼につけてもらったネックレスは存在していない。 「あ、あの、お風呂に入るときに外して・・・それで、そのまま・・・。私には高級過ぎて怖くてつけられないっていうか、」 「つけておけよ」 「え?」 「ずっとつけてろよ。これからは毎日」 「・・・・あの」 「あれはお前が身につけてこそ価値があるものなんだよ。使わなければその辺のゴミと変わらなねぇ」 「ご、ごみって・・・」 そんなバカな。 庶民には到底想像もつかないが、きっと目玉が飛び出るほどの値段がするに違いないものだ。 呆れてものも言えないが、目の前の男は至極真面目な顔をしている。 「いいから毎日つけてろ。わかったか?」 「う・・・わかりました・・・」 「よし。じゃあ食おうぜ」 つくしの返事に満足そうに頷くと、すっかり準備が終わっている食事に手をつけ始めた。 「あの!」 「ん?」 「あの、え~と、その・・・・」 もごもごとはっきりしないつくしに司が訝しげに顔をしかめる。 「なんだよ?」 「その、あのネックレスって・・・・」 その後の言葉が続かない。一体何と聞けばいいのだろうか。 「あれはお前のためだけに作ったものだ」 「・・・え?」 言葉に詰まるつくしの代わりに司が言葉を続けていく。 「世界中どこを探しても同じものは存在しない。お前のためだけに存在するネックレスだ。だからお前がつけなければゴミ同然なんだよ」 「・・・・・・・」 それはつまり彼が私のためにくれたものだということを如実に語っていて・・・ しかも珍しいデザインだとは思ったけれどまさか特注品だったなんて。 つくしはあまりにもあっさりと事実を述べる司の潔さに逆に返す言葉を失ってしまう。 「ま、そういうことだからメシ食ったらすぐにつけとけよ」 「・・・・う、ん」 「ほら、いい加減食うぞ。時間なくなっちまう」 「あ、はい」 そうだ、彼はこれから仕事に行く身なのだ。つくしは思い出したように慌てて目の前の料理に手をつけていく。 だが食事中はずっと上の空で、全くと言っていいほど味がわからなかった。 「じゃあ行ってくる」 「はい。頑張ってください」 「・・・・なんかいいな。お前の見送りで仕事に行くって」 「えっ?!」 あれから食事を済ませると、仕事に向かう司の見送りにエントランスまでついてきた。一緒にいたのに見送りをしないというのもなんだか申し訳ない気がして。 いつも見送りをしている使用人は少し離れたところで二人の様子を見守っている。それがつくしにとってはむず痒くて恥ずかしくてたまらない。 それに加えて司のこの言葉。 よく考えたらまるで新婚夫婦のようで恥ずかしい。お願いだからそんなことは言わないで欲しい。 「くっ、顔が赤ぇぞ。・・・じゃあな」 「はい。行ってらっしゃい」 つくしの一言に一瞬だけ動きを止めた司だったが、次の瞬間には心から嬉しそうに破顔した。 ポンとつくしの頭を叩くと、颯爽と身を翻し扉に手をかけた。 ・・・・だがそこでピタリと動きを止めてしまう。 そのままゆっくりと振り返ると、不思議そうに首を傾げるつくしをじっと見据えた。 「・・・・牧野、お前・・・・・」 「・・・・・・・?どうかしたんですか・・・・?」 さっきまでとはうって変わり、どこか神妙な面持ちで自分を見つめる司に何故だかつくしの胸がざわざわと落ち着かなくなる。 ・・・・・なんとなく、いい話ではないような気がしたから。 「・・・・・いや、なんでもない。じゃあな、あんま無理はすんじゃねぇぞ」 「え?あ・・・はい。じゃあ気をつけて行ってきてください」 「あぁ」 そう言って笑った顔はもう元に戻っていた。軽く手を上げると、司は今度こそ邸を出て行った。 「・・・・・・?何だったんだろう」 何ともひっかかる様子ではあったが、考えたところでそれがなんなのかつくしにわかるはずもない。深く考えるだけ時間の無駄だと判断したつくしは、ひとまず自室に戻ることにした。 ネックレスを取りに。 ***** 「いらっしゃいませ。お連れ様は先にお待ちでいらっしゃいます」 「あぁ」 店の責任者の恭しい出迎えを受けると、店内奥にあるVIPルームへと足を進める。やがて扉を開けると2人の男が既にそこで待っていた。 「よぉ。お前が呼び出すなんて珍しいな」 「まぁな」 2人に向かい合う形でソファーに腰を下ろすと、すぐに総二郎が声をかけてきた。 「今かなり忙しいんだろ?俺たちに会ってる時間を作るくらいなら牧野と一緒に過ごす方が貴重なんじゃないのか?」 あきらの疑問はもっともなものだ。実際その通りなのだから。 「あぁ。・・・・お前達にどうしても確認したいことがあってな」 「俺たちに?」 「・・・一体何だよ?」 心当たりの全くない2人は訝しげな顔で司を見る。 「類は?あいつはまだ来ねぇのか?」 「あぁ、類ならさっき・・・・・あ」 カタンという音と共に総二郎の視線を追えば、ちょうど類が室内に入ってくるところだった。 「おう、類。わざわざ悪ぃな」 「いいけど・・・どうしたの?司が呼び出すなんて。忙しいんでしょ?」 入ってくるなり先の2人と全く同じことを口にする。 それほどに今の司が多忙を極めているということは周知の事実だった。 「牧野は元気?」 「あぁ。松葉杖で動き回ってる」 「そう。順調に回復してるんだね、よかった。・・・・で?わざわざ呼び出した目的は何?もしかして牧野と何かあった?」 「いや・・・お前に聞きたいことがあるんだ」 「俺に?」 類が座るのを確認すると、飲み物を注文することなくいきなり話の核心部分へと入っていく。 「牧野は・・・・俺と別れたっつってたんだよな?」 予想外の言葉に3人が一瞬顔を見合わせる。だが類はすぐにその視線を司に戻すと頷いた。 「うん」 「いつからだ?あいつはいつからそんなことを?」 「いつからって・・・司は何か心当たりがあるんじゃないの?」 その言葉に司の眉間に皺が寄る。まるで心外だとでも言わんばかりに。 「俺には全くねぇ。・・・・・そりゃ確かに3年前のことでゴタゴタしたことは認める。あいつを我慢させたことだって。でも俺は一度だって目標を失うことはなかったし、あいつにも信じて待ってるように話したんだ」 「それで納得してたのは司だけだったんじゃないの?」 類の口からサラッと出た一言に司の目が鋭く光る。 「俺を睨まないでよ。あくまで可能性の話をしてるんだろ」 「・・・・・・・・・・」 「なぁ、司。お前、あの一件以来ほとんど牧野と連絡とってなかったんだろ?」 睨み合いを続ける二人を宥めるようにあきらが間に入る。 「・・・・あぁ。でもいきなり音信不通にしたわけじゃない。あいつにもしばらくそうなることは伝えたし、あの時はそうすることが最善策だったって気持ちに今も変わりはねぇ」 「・・・・・合併の話で身ぃ引いたんじゃねぇのか?令嬢との結婚が噂になってただろ」 「真相はともかく、それが会社のためだと思えば牧野ならやりかねないよな」 「・・・・・・・・・」 司の膝の上でつくられた握り拳にギリッと力が込められる。 「・・・・それでいつからなんだ?あいつがそんなことを言い出したのは」 「あ?あぁ・・・・いつだったかな。始まりはわかんねーけど、俺が最初に聞いたのは1年半くらい前だな」 「だな、俺もそのくらいで記憶してる」 「・・・・類、お前は?」 「・・・・・・まぁそんなところかな」 全員の答えが一致したところで、司は何かを考え込むようにして黙り込んでしまった。 「それがなんなんだよ?いつからなんて何か重要なのか?」 「・・・・・・それ以外に何かおかしいところはなかったか?」 「はぁ?」 「様子がおかしいとか、何か悩んでるとか」 「悩んでるって・・・・お前と連絡取れないんだから悩んでたに決まってんだろうが」 何を今さらとばかりに総二郎が呆れたように溜め息をつく。 「そういうことじゃねぇ。・・・俺はあいつがゴシップごときで足元がぐらつうような女だとは思ってねぇんだ。考えても見ろ。うちのババァとやり合うような女だぞ」 「それはまぁ・・・・でも親父さんがいなくなったとなればまた状況は変わるだろ?」 「司は何が言いたいの?」 「・・・・類?」 3人の会話を切るような形で類が静かに口にする。あきらの問いかけにも何も答えようとはせず、ただじっと司を見据えたまま。 「何かあるんでしょ?」 「・・・・・・・・・・」 しばらく向かい合ったまま沈黙が続くと、司はおもむろにスーツの内ポケットからあるものを取り出した。無言でそれをテーブルの上に置くと、3人の視線が疑問符を貼り付けたままその一点に注がれる。 「なんだよ、これ?」 「・・・・お前らこれを見て率直に何だと思う」 「はぁ?意味わかんねぇぞ」 「いいから見て思ったことを言え」 至極真面目にそう答える司に、それぞれが口をつぐんでそれをじっと見つめる。 「何って・・・・・・」 「なんかどっかで見たことがある気がするよな・・・」 しばらく考え込んでいた3人だったが、やがてとあることに思い当たったようにハッと表情を変えた。 司はその様子をじっと見ているだけ。 「あっ・・・!つーかこれって・・・・・」 テーブルに置かれた一通の封筒。 一見なんでもない封筒に見えるが、最大の特徴はその色だった。 燃えるような真っ赤なそれは、明らかに異色を放っている。 だが、ここにいる全員にはあまりにも馴染みのありすぎるものだった。 「まるで赤札みてぇだな・・・・・・」 ![]() ![]() |
--マ※ナ様<拍手コメントお礼>--
悶えながら読んでいただいているなんて! 有難うございます(*´∀`*) もう思う存分悶えまくってください! それこそつくしに負けないように(笑) 読みやすいですかね? そう言っていただけるとホッとします。 何せ小学生レベルの文章なのでね^^; え?小学生に失礼だって?これは失礼致しました~m(__)m できるところまでは毎日更新できるように頑張りたいと思ってます(・∀・)
by: みやとも * 2014/11/27 08:16 * URL [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --ke※※ki様--
まさかの赤札??!! ちょっと意外な展開でしたでしょうか。 少しでも皆様が「えっ!」と思ってくださるといいのですが(笑) そして今日も萌えていただけたようで何よりでございます。 目に浮かびましたか?鼻の下を伸ばしている坊ちゃんが。 そしてそれを嬉しそうに遠巻きに見守る使用人の群れがあるというね(笑) 言葉遣いも、なるべく原作の世界を壊さないように・・・! と、私なりにこのキャラならこういう言い方かなぁ・・・と 色々と考えながらチョイスしているつもりです。 少しでもイメージに近いことを願うばかりです。 「よう、ke※※ki。てめぇなに人を見て勝手に萌えてんだよ。ぶっとばされてぇのか?」 こんな感じでいかがでしょうか( ̄∇ ̄) あと遅くなりましたがラブレター送りました! --う※ぎ様--
赤い封筒の正体は一体?! って、焦らしまくりですみません(^◇^;) もし逆の立場だったら絶対眠れません、私(笑) 1ヶ月、あっという間でした。 皆様のおかげで続けられています。いつも本当に有難うございます! いずれペースが落ちる時が来るとは思いますが、 できるうちは頑張ろうと思っています(*^▽^*) あら、う※ぎ様も坊ちゃんに負けじと悶々でございますか? どっちの悶々の方がしんどいでしょうね。 ・・・・多分坊ちゃんだろうな(笑) 悶々する場所が・・・・ね( ̄∇ ̄) リンク、どうぞどうぞお好きなだけ持っていってやってください! 有難うございます~!!m(__)m すぐには無理かもしれませんが、いずれこちらも貼らせていただいても宜しいでしょうか・・? --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --う※ぎ様--
ありがとうございます~! せっかく素敵なバナーをお作りなので、是非それを使わせていただきますね(*^o^*) ただ私もアナログ人間でして。 少しだけお時間をくださいませ^^; えぇ~!う※ぎ様も本部へのお話を準備されているんですかっ?! それは楽しみです~!!! 是非年を越す前にお願い致します(*´∀`*) --ke※※ki様--
ぎゃ~っ!! なんと!メニューなる場所があったんですね(恥) やけに見つけにくいなぁなんて思ってましたが・・・・いやはや。 全くお前はこの数日間何をしてたんだと・・・・ これで私がアナログ人間だというのが謙遜でも何でもないとわかっていただけたでしょうか。 ・・・・というかアナログ以前にこれじゃただのアホですね(;´Д`) あぁお恥ずかしい。 ご丁寧に有難うございました!! 「ke※※ki、みやともがアホすぎて迷惑かけたんだってな。 ったくこいつはいつまでたってもどうしようもねぇ。 手間かけさせて悪かったな。助かったぜ、サンキュ」 --ブラ※※様--
あれっ、ドキドキしてもらえました?! うへへ、師匠にそう言ってもらえると何よりも嬉しいです(*´∀`*) 脱帽のくだり、吹きましたw 流行語大賞狙ってます?! 今なら滑り込みエントリーも可能かもしれませんぜ! うぅっ、な、長くですかい? 今佳境に入ってきてますんでね~・・・・ やっぱ長いのは坊ちゃんの暴れん坊将軍で我慢しても( ‘ ^‘c彡☆))Д´)グハァッ --こ※様--
はじめまして(*^o^*) あら、どこぞでも私をお見かけでしたか!いやはやお恥ずかしい。 あちらこちらでやらかしちゃってますのでね(^◇^;) 「あなたの欠片に」はまってくださったとのこと、書き手としてこの上なく嬉しいお言葉です。 おぉ、更新と同時に読まれているのですね! これは何としても間に合うように原稿を仕上げなければ(..;) ようやく物語も佳境に入って参りました。 少しずつわかってくる事実に(と言っても大したものではありませんが) 皆さんが楽しんで(?)いただけたら嬉しいです。 このお話での坊ちゃんの坊ちゃんは・・・・暴走できますでしょうか。 それは最後までのお楽しみということで( ̄ー ̄) --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --コ※様--
少しだけ封筒の中身がわかりました。 予想と一緒でしたか? というかなんだか皆さんの反応が凄くて超絶プレッシャーが・・・・ 所詮私が書くものですのであまり深いものは期待しないでくださいね?!(;´Д`) |
|
| ホーム |
|