あなたの欠片 21
2014 / 11 / 28 ( Fri ) テーブルに置かれた得体の知れない一枚の封筒に全員が次の言葉を見つけられずにいる。
初めて見るそれが、普通のものではないと誰もが直感で感じていたから。 「司・・・・これは何なんだ?」 最初に沈黙を破ったのはあきらだった。 まるで不気味なものでも目撃してしまったかのような複雑な顔で司を見据える。 だが司の表情は何も変わらない。 喜怒哀楽、そのいずれでもない、ただの無。 「・・・・牧野が持ってたものだ」 「・・・・は?」 「3日前、仕事終わりにあいつがアパートにいるって聞いて、俺もその足で向かったんだ。そしたらあいつ何か荷物を探してて・・・まぁ家にある物から記憶を探ってたんだろうな」 「・・・・それで?」 「出がけにあいつの鞄からこの封筒が滑り落ちた」 もう一度全員の視線が一点に向けられる。 偶然だと言うにはあまりにも既視感に溢れたそれに。 「・・・・・どういうことなんだ?」 「わからねぇ。ただあいつはこれと一緒にネックレスも封印してたみたいだ」 「封印?」 「多分な。箱に入れた状態で収納の奥から出てきたって言ってたからな」 「・・・まぁ、お前と別れたつもりだったならそうするのも不思議じゃねぇよな」 「・・・・あぁ」 「何が入ってるの」 じっと事の成り行きを黙って聞いていた類が口にする。 それは誰もが抱いていた疑問で。 真っ赤な封筒に書かれた『牧野つくし様』の文字。 そこには住所も差出人の名前もない。 ただ真っ赤な中に宛名がポツンと印字されているだけ。 それだけで見た者に不気味だと思わせるには充分な空気をこれでもかと醸しだしている。 司は無言で封筒を手にすると、中から一枚の紙を取り出してテーブルに置いた。 それを見た全員の顔が驚きに染まる。 「これは・・・・・?!」 そこには一人の男がいた。 誰もがよく知る男。 整った顔立ちに特徴のある髪型。 _____今目の前にいる男がそこにはいる。 だがそれがわかるのは彼らがその男をよく知っているからこそ。 初めてこれを見た者ならばここにいる人物が誰かを判断することは難しいだろう。 何故なら・・・・・・ カツカツカツ、バタンッ! 「お帰りになったばかりだというのにまたお呼びだてして申し訳ありません。急遽副社長の決裁が必要な案件が上がりまして・・・」 「出せ」 「は?」 「すぐに処理する。早く出せ」 「・・・・はい、かしこまりました」 副社長室に入るなり司はデスクへ一直線と向かうと、少々呆気にとられる西田に構うことなく手を差し出した。いつになくピリピリした空気を感じながらも、西田は表情を変えることなく書類を手渡していく。 司はそれを素早く受け取ると、黙々と作業に没頭していった。その姿はまるで何かに取り憑かれているようにすら見えた。 それから数時間、少しも休むことなく継続された業務が終わりを告げた。 「お疲れ様でした。急な予定変更で申し訳ありませんでした」 久しぶりに日があるうちに邸に戻れる手筈になっていたのが、結局いつもと変わらなくなってしまったことにさすがの西田も申し訳なく思っているようだ。だが司は西田のそんな言葉には何の反応も示さず、デスクに肘をつき顎に手を当てた状態でじっと何か考え込んでいる。 どことなく様子がおかしいことに西田の眉間に皺が寄る。 「副社長?どうかされましたか」 「・・・・・西田」 「はい」 「お前・・・・・何を知ってんだ?」 「・・・・・何のお話でしょうか」 座っていた椅子がギシッと音を立てると、司は体の向きを変えて西田を真っ正面から見据えた。 「お前、前に言ったよな?牧野が事故に遭ったことを俺に知らせないのはそうすべきだと思ったからだって」 「・・・・はい」 「ババァの差し金でもねぇんだよな?」 「はい」 「じゃあお前は何を知ってる?お前にそうさせたのは何が原因だ」 「・・・・・突然どうしたんです?一体なぜそのようなことを」 「突然じゃねぇよ。ずっと考えてたことだ。ババァの差し金でもねぇ、今さら俺らの関係をどうこうしようってのも考えにくい。ただ単に会社がピンチってだけでお前がそうするとも思えないしな」 「・・・・・・・・」 表情は全く変わらないが何も答えない西田を見やると、司はポケットから一通の封筒を出してデスクに放り投げた。それに気付いた西田は不思議そうにその物体を見ている。 「これを見てお前何か心当たりあるか?」 「・・・・いえ」 そう答えた西田に嘘をついているような様子は見受けられない。 「お前が俺に黙ってたのは俺たちを守るためじゃねぇのか?」 「・・・・・・」 「あの時俺に知らせてれば全ての計画が駄目になる。そういうことだろ?」 「・・・・・・」 何も答えないのは認めたも同然だ。 司はフーッと息を吐き出すと、椅子の背もたれに体を預けて天井を見上げた。 「どうやら敵は俺たちが思ってる以上に手を広げてるらしいぞ」 「・・・・どういうことですか?」 「中を見てみろ」 そう言うとクイッと顎で封筒を示す。 「・・・・失礼します」 西田は訝しみながらもデスクまで近付いてくると、そこに置かれた封筒に手を伸ばした。そして静かに中身を取り出していく。やがて一枚の紙を出して中を開いた瞬間、ここにきて初めてその表情に変化が生まれた。 「これは・・・・・」 「俺たちがやろうとしてたことは裏目に出てたらしいな。これは牧野が持ってたものだ」 「・・・・・!」 「相手の狙いが定まらねぇ。会社か、俺か、・・・・・牧野か」 「・・・・・・副社長、」 「とにかく何でもいいから情報を掴め。牧野の周辺のことももう一度洗いざらい調べろ」 「・・・・・かしこまりました。では早速行動に移らせていただきます」 司の一言で全てを理解した西田はそれ以上は何も追及することはなかった。いつものように一礼すると足早に部屋を後にした。 「牧野・・・・・」 愛する者の名前を呟くと、司は手元にある紙をグシャリと握り潰した。 何とも言えない沈黙が部屋中を包み込む。 司以外の全員が今目の前にあるものを見て多少なりとも動揺している。 「あいつがあんなことを言い出したのには理由があったってことだな」 誰一人として口を開かないかわりに吐き捨てるように言ったのは司だ。 「どういうことなんだよ?」 ようやく我に返ったように総二郎が口を開く。 「わかるわけねーだろ。俺も今まで知らなかったんだ。・・・・西田すら気付いてなかった。どうやら相手は用意周到に牧野にだけ近付いてたらしいな」 「おい類、お前何か気付かなかったのか?俺たちの中じゃ一番牧野の変化に敏感だろ?」 あきらが黙り込んだままの類に向き直る。類の表情は固いままだ。 「・・・・・いや。確かに元気がないのはわかってたし、様子がおかしいと思うことはあったけど・・・あくまであの状況下での司を心配してのものだとばかり思ってたからね」 「・・・・お前にすら悟られないようにしてたってわけか・・・・」 「・・・・・」 「司、お前が知ってるのはこれだけなのか?」 「あぁ。これに気付いたこと自体が偶然だったからな。・・・・ただ、どう考えてもこれだけじゃねぇってことは確かだ」 「・・・・・・・誰にもばれないようにしてたってことか」 「・・・・だろうな」 「・・・・・・・・」 再び4人を沈黙が包み込む。とてつもなく重い沈黙が。 あきらがおもむろに紙に手を伸ばすと、それを上に掲げながらボソッと呟いた。 「これ以外にもあるってことは・・・・おそらく牧野は脅されてたんだろうな」 「だから俺たちにすら悟られないようにしてたってことか?」 「・・・・そういうことだろうな」 「絶対に許さねぇ・・・・・・ブッ殺す」 そう口にした司の表情は驚くほど静かだった。 だがその瞳に宿る炎は恐ろしいほど冷たく、鋭い刃となって一枚の紙を貫いていた。 その中に写し出された自分を。 目、首、心臓、腹、 人に致命傷を与えるには充分な場所をズタズタに切り刻まれた己の姿を_______ ![]() ![]() |
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by: * 2014/11/28 00:25 * [ 編集 ] | page top
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なんか凄いことになってますね。 どんな敵なのか? 狙いは? 司のことを思って別れたと言ってたんですね、つくしは。 そんな写真を見せられたら、別れて司が守れるなら、そうしますよね、つくしは。 早く続きが知りたいです。 --管理人のみ閲覧できます--
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更新時間は今のところなるべく日をまたいで間もない時間帯を目指しています。 予告なしにずれこむことは大いにあり得ますのでご注意を(^◇^;) 隠し事が苦手なはずのつくしちゃん。 そんな彼女が絶対にばれないようにしていた?! それだけ必死だったのでしょうか。 黒幕・・・なんだか皆さんの期待が膨らんでてどうしましょうと途方に暮れております。 全っ然そんな深い設定なんてないんですよ・・・どうしましょう~(ノД`)オロオロ あとどれくらいでしょうね? 大筋だけ決めてあとは書きながら気分次第で変えているので(オイ)自分でも読めないんですよね。 ここまで大きな話になる予定は全くなかったですし、 既に大きく予定が狂っています(笑) でも長すぎると私自身がもたないので、どんなに長くても40話以内には収めます。 ・・・・多分( ̄∇ ̄) --みわちゃん様--
なんだかね、ほんとに凄いことになってます。 えぇ、皆様の反応が(笑) 軽~い気持ちで始めたこの連載。 自分には荷が重すぎると今さらながら感じています。 ちゃんと完走できるかな・・・・(;゜ロ゜)チョーフアン・・・ --マ※ナ様<拍手コメントお礼>--
いえいえ、こんな面白ない返信に喜んでいただけるなんて、 こちらこそ有難うございます(*´∀`*) 中身が気になって眠れませんでしたか! でもそう思っているのは最初だけでつくしと同じくグースカいっちまいましたか(笑) いいんですいいんです、気になることは寝てすっきり忘れましょう!( ̄∇ ̄) そうそう、このままつくしの記憶が戻ったらどうなっちゃうんでしょうね?! でもつくしには強~い味方がいるから大丈夫!! ・・・・なハズ(笑) あとは書き手の力量だけという唯一にして最大の問題がね・・・ --ke※※ki様--
ふふふ、禁断の夜中に覗いちゃいましたか。 寝る前に来るのは要注意ですよ(笑) ミステリー化・・・・全然そんなつもりはなかったんですけどね。 自分で書きながら「あれ?なんか変な方向行ってない?」 と、もはやどうにも制御不能になってきてます・・・ どうしようどうしよう~、ちゃんと話をまとめる自信がないっ!! 気分次第で適当に書いてたらとんでもないところに迷い込んじゃいました(;´Д`) 敵前逃亡しちゃおっかな・・・・ ♪~( ̄ε ̄;) --委員長殿--
うぉーーっ!! 皆さんの妄想&期待値が凄まじいことになってるぅ~~!! いいんちょ、こんな予定は全くなかったんですよぉ~~(゜´Д`゜) ・・・・朝目覚めて「なぁんだ夢かぁ。不思議な夢見たぁ~」 このオチにしちまっていいですかい? ッテイウカソウサセテ --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
謎は深まるばかり・・・・ 筆者の迷走は深まるばかり・・・・ じっちゃーん、早く助けてぇ~~~!!!(゜´Д`゜) --管理人のみ閲覧できます--
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確かに、ここまでの坊ちゃんはただ優しいイケメン好青年でしたね。 まぁつくしに対してそこは基本的には今後も変わらないんでしょうが、 今後の展開次第では激しい坊ちゃんも?! ね~、自分でものんびりラブでいく予定だったんですよ? それが何がどうしてこうなった?! おかあさーーーーん!!たすけてぇ~!! こんなんじゃ帰国できないよぉ~~(゜´Д`゜) --ブラ※※様--
そうですそうです、そういうことです。 けちょんけちょんになった自分とご対面したとそういうことでございます。 サスペンスでもホラーでもミステリーでもなかったんですよね。 自分が書きたかったのは。 ただちょびっと山あり谷ありのほっこりラブストーリーになる予定だったのに。 自分でも制御不能な方向に進んじゃってます。助けてぇ~!! もういっそのことこのまま平安時代まで突っ込んでいこうかな、とか( ̄∇ ̄) そこでスリラー踊りましょうや。 ひ、100話?! いやぁ~、姐さん相変わらず無茶言いますわ~。 だから長いのは坊ちゃんで我慢してもらえませんかね? それだけじゃないんですよ? ごつくて耐久性もバツグ(((((;`Д´)≡⊃)`Д)、;'.・グハァッ --さ※※ゃん様--
封筒の謎が少しだけわかってきました。 司はズタズタの自分を見ても多分ゾッとしたという感情はなさそうな気がします。 意外と自分への恐怖に対する危機感は少ない男かと。 きっとそういうことへの免疫もついてるでしょうしね。 それよりも彼の頭の中にはつくしのことしかないでしょうね。 これを通してつくしがどんな思いをしたかとか、 他にも何かあったんじゃないかとか、 違った意味でメラメラと燃えていることと思います。 --管理人のみ閲覧できます--
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えぇっ?!一番だなんてそんな恐れ多いお言葉恐縮です(;゚ロ゚) ですが楽しんでいただけているのならこの上ない喜びです。 なんだか有難いことに読みやすいと言ってくださる方がちらほらいまして、 それは確実に簡単な言葉(表現)しか使えないからなんですが、 かえって皆さんが読みやすくなっているのなら結果オーライ?!と思ってます(笑) 口調はなるべくイメージを壊さないようにと考えているつもりです。 なのでそう言っていただけるとホッとします(ノД`) 願わくばなんておっしゃらないでください。 そんな心配はご無用ですよ。 当サイトはつかつくオンリーですし、私には悲恋等は書けません! 何故なら私が一番引き摺るタイプだからです(笑) 展開が気になって眠れなくなるのはもちろんのこと、 終わり方如何では実生活にも影響を来します(^◇^;) そんな私がハッピーエンドを選ばないわけがないじゃないですか。 長編なのでやはり多少の山はないとね、とこうなってはいますが、 その点はどうぞご安心くださいませ~(*´∀`*) 少しでも読んでほっこりしていただけるように頑張ります(*^o^*) --コ※様--
そうですね。 つくしなら自分の痛みよりも人の痛みの方が耐えられないでしょうからね。 迷わずにそうするんじゃないかと思います。 なんだか自分の想像を遥かに超えて皆さんの期待値が膨れ上がっていて、 しょぼい展開しか考えてなかったのにどうしたものかと途方に暮れています。 行き当たりばったりで書くもんじゃないと激しく後悔中(T-T) |
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