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彼と彼女の事情 9
2016 / 03 / 29 ( Tue )
「ん・・・」

瞼に光りを感じてうっすらと目を開く。

「・・・っ!!」

と、すぐ目の前に 「自分」 がいて思わず悲鳴を上げそうになった。

「ん~・・・」
「 ! 」

タイミング良くゴロンと寝返りをうった 「あたし」 が自分の胸に擦り寄るようにして密着してくる。

ドキンドキンドキンドキン・・・
あぁっ、あたしは自分相手に何をこんなに緊張してるのよっ?!
これじゃあまるで自意識過剰な変態じゃないか!

それもこれも道明寺のせいだ。
2人の身体が入れ替わってしまったという現実を何とか受け入れてからというもの、あいつは2人が寝室を共にするという条件を最後の最後まで譲らなかった。

いくらあたしでも入れ替わった状態であいつが何かしてくるなんて思っちゃいない。
だとしても体はあたしとあいつであることに違いはないわけで。ましてやこんな混乱した状況で同じベッドで寝るだなんて、既に頭がパンク状態のあたしにとっては完全にキャパオーバーなのだ。
それでも、どんなにあたしが懇願しようともあいつはこれだけは譲れねぇと言って別の空間で寝ることを許してはくれなかった。

「・・・・・・」

すぐ目の前でぐっすり眠る 「あたし」 をじっと見つめる。
普段じっくり自分を客観視することなんてまずないけど・・・こうして見ると結構小さいんだということに気付く。というかきっと 「道明寺から見たあたし」 が小さく見える、が正解なんだろう。
道明寺の体にすっぽりおさまっている自分に、あいつの目には自分はこんな風に見えているんだということを初めて知った。

いつもはあたしが見上げる側。
でも今は常に 「自分」 を見下ろす側。
目線が上がるだけで見える世界はガラッとその姿を変え、きっとそれは道明寺にとっても同じことが言えるんだろう。

「こうして眠ってると中身が道明寺だなんて信じられないよ」

スースーとあどけない寝顔見せちゃってさ。
・・・あいつはいつもどんな気持ちであたしを見ていたんだろう。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」

ふと、どこか違和感を覚える。
それが何かはわからないけれど、何かが違う。
一体何が・・・?









「 ぎゃあああああああああああああっ!!!!!! 」








「うおわっ?! なっ、なんだっ?!」

突然静寂を切り裂いた野太い悲鳴にわけもわからず飛び起きた。
全くもって状況が理解できないが、とりあえず自分は寝ていたはずだ。
ということは今の悲鳴は・・・

「牧野っ?! どうした、何があっ・・・・・・牧野?」

慌てて真横を見れば牧野・・・という名の 「俺」 がベッドの片隅で縮こまっている。
しかも何故か下半身にシーツをグルグル巻きにした状態で。

「おい、どうした? どっかいてぇのか? 何があったんだよ?!」
「・・・・・・」

顔面蒼白で涙ぐみながら俺を見上げる牧野が尋常じゃねぇ様子なのは一目瞭然だ。
声をかけても真っ青な顔をしたまま何も答えないのに痺れを切らした俺は牧野の両肩を掴んだ。

「へ・・・・・・ヘンタイっ!!!!」

が、触れた瞬間浴びせられた罵声に我が耳を疑う。

「・・・は? 今なんつった?」
「道明寺のバカバカバカっ! ヘンタイヘンタイヘンタイっ!!!」

・・・・・・はぁあああぁあっ?!
いきなり安眠を妨害されたと思ったら開口一番ヘンタイとは何だ、ざけんなっ!!

「おいっ、誰がヘンタイだ! 俺が何したっつんだよ?! ふざけんじゃねぇっ!」
「だってだってだってっ!! こっ、こっ、こんなことっ・・・」
「こんなこと・・・?」

何を言ってるのかさっぱりわけがわかんねー。
こいつは一体何をそんなにパニくってんだ?
つーか両目に今にも溢れんばかりの涙を溜めている自分の姿を見るのはキツイ。

「ちょっと落ち着け。どっか痛いとかじゃねーんだな?」

怯えた様子でコクッと頷く。

「じゃあ一体何があった? 初日以降お前がそこまで取り乱すなんてなかっただろ」
「・・・・・・」
「黙ってたってわかんねーぞ。正直に言えよ」
「・・・・・・うぅっ・・・!」

とうとう俺の目から涙が溢れ出した。 マジかよ・・・

「おい牧野っ! 黙ってたらわかんねーっつってんだろっ!」
「だっ、だって! 道明寺がスケベだからっ!!」
「はぁ~?! この状況下で何でんなこと言われなきゃなんねーんだよ!」

誰がスケベだと? まさかこいつ夕べ俺が風呂でやってたこと覗いてたのか?
・・・いや、だったら昨日の時点でとっくにキレてるはずだ。
だったらなんだよ?

「・・・つーかお前さっきからシーツ巻き付けて何やってんだ?」

そう口にした直後にハッとする。
牧野は牧野でその問いかけでぼろんぼろんと大粒の涙を零し始める始末。
こいつの姿と取り乱し方から察するに・・・・・・まさか・・・

バリッ!!!

「きゃああっ??!!! なっ、何するのよぉっこのヘンタイっ!!!」

シーツを掴んで思いっきり引き剥がすと、牧野は必死の形相でベッドに蹲ってしまった。
・・・間違いねぇ。

「勃ったんだろ?」

短い言葉にビクッとわかりやすく牧野の体が反応した。

「やっぱりな・・・」
「や、やっぱりってなによ?! 言っとくけどあたしは何もしてないんだから! 何も悪くないんだからっ! 起きたらいきなりあ、あ、あんなっ・・・うわあああああああんっ!!!」

体を起こそうと引っ張るが相手は 「俺」 だけになかなか思うようにいかない。
くそっ、ここまで力の差があんのかよ?!

「おい、落ち着けって!」
「落ち着けなんていられるわけないでしょおっ?! なんであたしがこんな目に・・・道明寺のヘンタイヘンタイヘンタイッ! スケベっ!!」

さすがにその罵声にカチンときた。

「ざけんなっ! 朝勃ちは健全な男なら誰だってあんだよっ!!」
「・・・・・・っ!!」

全力で体を引き起こすと、見るも無惨なほどぐしゃぐしゃの顔であいつが俺を見上げた。

「いいか、俺はヘンタイでもねぇしスケベでもねぇ。・・・まぁお前限定でそうなるのは否定はしねぇが」
「ほ、ほらっ、やっぱり・・・!」
「けどな、男ならそんなん当たり前の現象なんだよ。ましてやお前と入れ替わってからの一週間、お前とまともに触れることもできなけりゃ自己処理すらできてねぇ。んなん朝勃ちしたって当然だろうが!」
「ぎゃあっ?! なっ、な、なななな、何言って・・・!」

生まれてこの方こんなに赤くなったことがあるだろうかというくらい 「俺」 の顔が赤ぇ。

「お前のオヤジだろうと弟だろうとあいつらだろうとなぁ、男ならそれが当たり前なんだよ! それでヘンタイなんて言われたらこの世にはヘンタイしか生息しないってことを覚えておけっ!」
「・・・・・・うぅっ、じゃあどうすればいいのよぉっ・・・!」

この様子から見るにおそらくまだおさまってはいないってことなんだろう。
いくら中身が牧野だからって、体は正真正銘俺だ。密着して好きな女が寝ているような状況ならば自然と体が反応してしまったって何ら不思議はない。男としては至って普通な反応だ。

むしろ俺は他のヤロー共よりもよっぽどこの手のことには淡泊なはずだ。こういうこと自体そう多くはないが、夢に牧野が出てきた時なんかはたまにこういった状況に陥る。
要するに後にも先にも相手が牧野だからこそ敏感に反応するってだけの話だ。

とはいえ裸を見られることすら無理なこいつにはさすがにキツイ現象だってことも理解できる。

「・・・俺が抜いてやるよ」
「・・・・・・は? ぬ、抜くって・・・何を?」

すっとんきょうな声を出した牧野は本気で意味がわかってねぇらしい。

「決まってんだろ。俺が手で楽にしてやるっつってんだよ」
「・・・はっ? い、いやいやいやいや、何言ってんの?! このヘンタイっ!!」
「あぁ? だから変態じゃねぇっつってんだろうが! いいか、朝勃ちがなんらおかしいことじゃなけりゃあこうして自己処理することだってごく普通のことなんだよ! 溜まったもんは出す、当たり前のことだろうが!」

事態についていけない牧野は今にも失神すんじゃねーかってほどに青くなったり赤くなったり、しまいには白くなって顔色を変えまくってる。

「とにかくお前は楽にしてりゃいいから。すぐに終わらせてやっから心配すんな」
「へっ・・・? いやあああああっ、人の体を使って何しようとしてんのよぉっ?! ぜっっっっっっったいにムリだからっ!!!」

手を近づけた俺に飛び起きると、牧野はそのままベッドから転がり落ちて逃げ出した。

「あ、おい、待てっ!!」
「いやああっ! ぜっっったいにいや~~~~っ!!!」
「じゃあどうすんだよっ、そのままおっ勃てたまま仕事に行くつもりかよっ?!」





「どれもこれもいやぁあああぁぁああああああっ!!!!!!」












「おはようございます。・・・牧野様? 顔色が随分悪いようですが大丈夫ですか?」

背もたれにぐったりと身を預けて放心状態のつくしを前に、西田が怪訝そうに顔を覗き込んでいる。だがつくしはぼんやりとするばかりで大きな反応を示さない。
言わば完全に抜け殻状態だ。

「別にどこも悪くねーから。お前が気にする必要はねぇ」
「・・・・・・」

向かいに座る司がぞんざいな態度でそう言うと、西田はしばし2人の顔を交互に見比べた。

「なんだよ」
「・・・・・・いえ、何でもありません。では今日の予定は昨日話したとおりでお願い致します」
「あぁ」

そう言って 「つくし」 に書類の束を渡すと、西田は執務室を後にした。

「・・・・・・くれぐれも牧野様にご無理をさせませんように」

去り際に釘をさすようにそう言い残して。



「・・・ったく、どいつもこいつも人をなんだと思ってんだよ」



尚も魂が抜けたままのつくしを前に、司は盛大に溜め息をつくと書類の束へと手を伸ばした。





 
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by: * 2016/03/29 00:08 * [ 編集 ] | page top
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by: * 2016/03/29 00:25 * [ 編集 ] | page top
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by: * 2016/03/29 01:26 * [ 編集 ] | page top
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by: * 2016/03/29 03:14 * [ 編集 ] | page top
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by: * 2016/03/29 06:57 * [ 編集 ] | page top
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by: * 2016/03/29 07:52 * [ 編集 ] | page top
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by: * 2016/03/29 09:34 * [ 編集 ] | page top
--k※※hi様--

いや~、つくしみたいなタイプにはこれはしんどいですよね。
もう書いてるこっちは大笑いしまくりなんですが(笑) スマン、つくし
そうそう、弟いるのにそういったことにはめっきり免疫がないのもまた彼女らしいといいますか。
とにかくガンバ!!としか言えね~( ̄∇ ̄)
by: みやとも * 2016/03/29 11:17 * URL [ 編集 ] | page top
--は※様--

わはは!確かにある意味ではR指定かも(笑)
っていうか多分こんな話そうそうないですよね( ̄∇ ̄)
最後は一体どうなっちゃったんでしょうねぇ・・・?ふふふ、皆さんの想像はいかに?!
気が強くて男勝りなくせしてこういうことにはめっきりダメ。
そこがまた坊ちゃんを元気にさせちゃう要因なのにねぇ~!
by: みやとも * 2016/03/29 11:19 * URL [ 編集 ] | page top
--さと※※ん様--

待望のシーンってまたあーた・・・( ̄∇ ̄)ミモフタモナイ・・・
とはいえこの物語を書くからにはここがなけりゃこの話の醍醐味がない!!ってなもんですよね。(超力説っ)やっぱね、これは避けては通れない「男の生理現象」ですから。
にしても自分に対して「抜いてやる」「楽にしてやる」という司。
いや~、我ながら何書いてまんねんと思いましたけどね。でも超楽し~(笑)
結局最後は抜かれたのかどうなのか。
とりあえず魂が抜けたことに違いはないようですが( ̄∇ ̄)
まだまだ波瀾万丈な入れ替わり劇は続きそうです♪
by: みやとも * 2016/03/29 11:23 * URL [ 編集 ] | page top
--た※き様--

? 何故私へのメッセージなのかはわかりませんが・・・
ただ確実に言えることはそんなに単純に済む問題ならこれまでやめたりする人は1人だっていないってことだけですかね。簡単なことではないです。
by: みやとも * 2016/03/29 11:26 * URL [ 編集 ] | page top
--てっ※※くら様--

我ながら禁断の領域に足を踏み込んだ感がひしひしと!
いや~、ここまできたら思いっきり突っ切らないともったいないですね!(笑)
結局最後はどうしたんでしょうねぇ・・・?
皆さんにはひたすら笑ってもらえたら本望です♪
by: みやとも * 2016/03/29 11:27 * URL [ 編集 ] | page top
--黒髪の※※子様--

わぉ!そんなに喜んでもらえたんて嬉しいっ♪
いやね、中にはイメージを崩されたくない!と激しく嫌悪感を抱く人もいるだろうな~と思いながら書いてるんですよ。でも笑いつつもそれぞれが互いへの理解を深めていく・・・そんな話が書きたくて。
そしてそのためにはこのエピは外せない(笑)
大笑いしてもらえたならもうまさに狙い通りで私も大満足です(≧∀≦)
今までとは全く違ったハラハラドキドキの展開が続いていきますが、このピンチを彼らがどう乗り越えていくのか(そもそも乗り越えられるのか?!)楽しんでやってくださいね!
by: みやとも * 2016/03/29 11:31 * URL [ 編集 ] | page top
--ke※※ki様--

もうね~、期待通り(以上)の皆さんのリアクションに私が大喜びですよ(笑)
中には苦情も来るだろうと覚悟してたんですけどね、意外や意外、皆さん大歓喜(笑)
やっぱね、ここは絶対外せない要素でしょう。
「非現実」の中にも「リアル」を織り交ぜていくことで物語にテンポを持たせられたらいいな~と^^

にしても・・・ズバリ予想当てすぎ!
いやね、昨日のコメントをもらった時点で常連お二方から今日のこの展開を予想されてましてね。あんたらどんだけやねんっ!!営業妨害もたいがいにしぃや!と1人ブチ切れてたんですよ(笑)
いや~、やっぱり付き合いが長くなると読まれますね( ̄∇ ̄)
ちなみにコメントもらう前からこの展開は決まってましたからね!ネタをパクったなんてあらぬ不名誉は勘弁してくださいよっ!
by: みやとも * 2016/03/29 11:41 * URL [ 編集 ] | page top
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by: * 2016/03/29 17:05 * [ 編集 ] | page top
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いつも楽しいお話をありがとうございます。
大笑いです。
最近朝起きて一番に読むんですけど、にやけちゃいました。
まさかとは思いますが、もとに戻るには、今の状態のまんまの司がつくしでつくしが司でR指定パスワードのお話のことをして、元に戻ってめでたしもでたしとか?
by: あたしさん * 2016/03/30 00:11 * URL [ 編集 ] | page top
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