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彼と彼女の事情 10
2016 / 03 / 30 ( Wed )
「っくしゅんっ!!」

目の前に置いてあった紙が舞い上がるほど盛大に出たくしゃみに、それ見たことかと言わんばかりの痛い視線が突き刺さる。

「風邪ひいたんだろうが」
「・・・ひいてないよ。ただ鼻がムズムズしただけ」
「ふん、どーだかな。だからあれだけやめとけっつったんだ」
「う、うるさいなー。風邪じゃないって言ってるじゃんか!」
「風邪じゃねー奴がなんでそんなに鼻水ずるってんだよ」
「う゛っ・・・」

そこを突かれては返す言葉もない。
言われた通りくしゃみどころかズルズルと鼻水が止まらず、おかげで手元からティッシュが手放せない状態なのだ。

「慣れてねー奴があんだけ水浴びりゃあそうなるのも当然だろうが」
「もうその話はいいじゃんか・・・」
「よくねーだろうが。お前、今の自分が俺の体だってこと忘れてんじゃねーのか?」
「そ、それは・・・。ほんとにごめんなさい・・・」

牧野を心配しているからこそ出た皮肉だったが、予想していた以上にこいつには堪えたようで、しょんぼりと肩を落として項垂れてしまった。いかにも自分よりも他人を優先するお人好しらしい反応だ。

「あー・・・まぁあれだ。別に怒ってるわけじゃねーから気にすんな」
「・・・・・・」
「とはいえ今後同じような事があってももう水シャワー浴び続けるとかやめろよ」
「で、でもっ・・・!」
「でももだってもじゃねーよ。そもそもんなことしたって根本的な解決にならねーだろうが」
「・・・・・・」

俯いて黙り込んでしまった牧野の目には涙が滲んでいる。俺はハァッと息を吐き出しながら立ち上がると、ソファーでしょぼくれるあいつの頭をポンポンと叩いた。
自分の頭を撫でるのはどうにもこうにも慣れねーが、今触れているのは紛れもなく 「牧野」 だとはっきり思えるのが不思議だ。

「とにかく。これ以上余計なことは考えずにさっさと寝ろ」
「・・・うん」
「ぐだぐだ考え込むようならフロでお前の裸をガン見しまくるからな」
「なっ・・・そんなのダメに決まってるじゃんっ!!!」

期待以上のリアクションにクッと笑った。

・・・あ。 あの笑い方、道明寺の癖だ。

「だったら寝ろ。これで熱でも出たらお前また責任感じて1日中悩みまくんだろ。体を好き勝手されたくなかったら素直に言うこと聞くんだな」
「わ、わかったわよっ! 絶対絶対絶対絶対見ないでよ! 触らないでよっ?!」
「さーな。お前次第だ」
「もうっ!!」

手元にあったクッションを振り上げると、道明寺はハハッと肩を揺らしながら軽快な足取りでリビングから出て行った。

「・・・・・・はぁ」

そのまま脱力したようにクッションごとソファーへと倒れ込む。

・・・なんか今日はほんとに疲れた。
もう疲れたなんてもんじゃない。
道明寺はあたしが色んな意味で落ち込んでるのをわかってるからこそああやってあいつなりのやり方で元気づけてくれているんだろう。

今朝はあれから悲惨だった。
俺が楽にしてやるという道明寺から死に物狂いで逃げて、かといってどうすればいいかなんてあたしにわかるはずもなく。ならばいっそのこと体中の熱という熱を冷ましてしまえと言う結論に至ってひたすら冷水シャワーを浴びまくった。
結果的にそれが功を奏したらしく、最悪の事態だけは避けることができた。
その代償として風邪のひきはじめという全く有難くない手土産がついてきちゃったけど。

よもや人生であんな体験をすることになるなんて。
人一番その手のことに免疫のないあたしにとっては本気で辛すぎる。
道明寺は男ならあんなことは当たり前だって言ってたし、普通に考えれば一言一句あいつの言う通りなんだろうってこともわかる。前に進がそっち系の雑誌を隠し持ってたのだって見たことがあるし、あたしが意識してないだけで男ならではの色んな事情があるんだと思う。

けど・・・また同じ事があったらあたしは耐えられるんだろうか?
誰が悪いわけでもないだけに、どこにこの不安とやるせなさをぶつけていいのかもわからない。
早く、とにかく早く元に戻りたい。
けれどその道筋は全く見えてこない。
目を閉じれば不安ばかりが募っていく。

「・・・っていうか逆のパターンもあるってことだよね・・・?」

ふととあることに思い当たってガバッと起き上がった。
あたしが男の生理現象の壁にぶち当たったということは・・・それはつまりあいつも同じなわけで。
その名のごとく生理現象、つまりは月のモノが始まっちゃいでもしたら・・・

「っやだやだやだやだっ! そんなのぜっっっったいやだよぉ~~~!!!!」

考えただけで全身から血の気が引いていく。
不幸中の幸いか、最後にアレが来たのは2人が入れ替わる直前だった。
つまりは次のものが来るまでには約1ヶ月の猶予がある。
とはいえもしこのままずっと戻ることができなかったら・・・?

「・・・っやだぁ~~っ・・・」

またしても視界が滲んでいく。
今のあたしはあたしであってあたしじゃないのに。
道明寺司という人間は決して涙を見せるような男じゃないのに。
ううん、牧野つくしだってそう簡単には泣くような女じゃないのに。
・・・今のあたしの涙腺はもうほとんど壊れかけてるんだと思う。


耐えられない。
絶対に耐えられない。
道明寺に、・・・好きな人にあんなことをさせなきゃならないなんて。
想像するだけでも耐えられない。
今朝は今朝でショックだったけど、あいつにあんなことをさせてしまうくらいなら、その分あたしが今朝と同じ目にあった方が遥かにマシだ。


「・・・・・・・・・グズッ、もう寝よう・・・」


道明寺の言う通りだ。
このまま起きてたってどうにもならないことをぐるぐると考え込んでしまうだけ。
鉛のように重い体をなんとか引き起こすと、あたしはトボトボと弱り切った捨て猫のように寝室へと向かった。





 
つくし頑張れ~!の応援をよろしくお願い致します!

時間が取れなかったため、予定の6割程度までとなってしまいました。
つくしちゃん大分落ち込んでますね。負けるな~~!
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