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彼と彼女の事情 16
2016 / 04 / 30 ( Sat )
人というのは心の底から驚いたとき、すぐには反応できない生き物らしい。
今のは空耳だろうか。

「空耳じゃないよ」
「・・・あ?」

我ながら相当間抜けな声が出たと思う。その証拠に目の前の男が途端に面白そうに吹き出したのだから。でも今はそんなことに構ってる余裕なんかねぇんだよ。

「何を・・・」
「入れ替わったらやることまで似るんだね。今思いっきり心の声が漏れてたよ?」
「・・・・・・」

クスクスと肩を揺らす男はとんでもないことを口にしているというのに、さもそれが何でもないことのようにあっけらかんとしている。その信じがたい光景に、俺ともあろう人間が言葉すら出せないでいる。
ひとしきり笑うと、真っ直ぐに俺・・・もとい 「牧野」 を見据えながら言った。

「司なんでしょ?」
「・・・お前、なんで・・・」
「そんなことに気付いたのかって? んー、なんでだろうね。言葉で説明しろって言われても難しいなぁ。第六感とでも言うのかな、今日お前達を見た時から何か違和感感じてたんだよね」
「・・・・・・」
「でもそんな漫画みたいなことがありえるわけないって普通は思うじゃん。だからまたケンカでもして微妙な空気になってるだけなのかなって思ってたんだけどさ。それとなく2人を観察してたらまさかのまさかなのかな~って。そんな時に別行動になったから半信半疑で来てみればビンゴだったってわけ」
「・・・・・・」

俄には信じられない。
だがこの男の言っていることは一言一句間違ってはいない。会話したのは最初の5分にも満たない時間。そんな僅かな時間で全てを見抜いたっていうのか・・・?

「ほら、俺って牧野の一部らしいからさ。あいつの変化には誰よりも敏感なんだよね」

ピクッ

わざと俺を挑発するような言葉にこめかみが動く。
この野郎、顔が引き攣っているであろう 「牧野」 を前にニッコリ笑ってやがる。

「聞きたいことは山のようにあるんだけどさ」
「・・・」
「とりあえず戻った方がいいんじゃない?」
「あ?」

山の天気のようにコロコロと変わる話に顔をしかめると、笑顔から一転、類も真面目な顔に戻って言った。



「 あの場に牧野を1人にしたままで大丈夫? 」











「・・・司さん? どうなさったんですか?」
「・・・・・・・・・」

・・・ちょっと待って。
えーと、何をどう整理すればいいの?
そもそも相手があんた誰状態なのは仕方ないとして。さっきこの人なんて言った?

『 NYでは素敵な夜をありがとうございました 』

・・・あれってどういう意味?
まさか・・・って、いやいやいや、道明寺に限ってそれはないでしょう!
その点に関してはあいつを信じてる。

・・・けど、実際問題なーんにもない相手にあんなこと言う?
しかも相手はこの男だよ?
下手打てば返り血に遭うような男相手に、ありもしないこと言うような命知らずがいるの?
しかもこんな・・・がっつり胸を押しつけてさ。

っていうかこいつの視界からだとこんなに谷間がくっきり見えるものなの?!
明らかに普段あたしが目にしている世界とは別物。
20センチ違うだけで見える景色がこんなにも変わるなんて。
あらためて道明寺の周りはこういう誘惑だらけなんだって気付かされる。

「司さん? どうなさいますか?」
「あ・・・」

さらに押しつけられた弾力のある胸にハッとする。
ちょっ・・・やめなさいよ!
ここにいるのが本物のアイツだったらあんたなんかとっくにぶっ飛ばされてるんだからね!

・・・って、そうだよね?
なんだかだんだん自信がなくなってきた。
だって意味深すぎるセリフは言ってるしやたらとベタベタしてくるし。

そもそも相手が誰だかわかんないだけに今ここでどうするのが正解なのかもわからない。
十中八九あいつはこんな女相手にしないって思ってるけど、もしすんごく大事な取引先のご令嬢とかだったら? あいつなら軽くあしらってもその後のことにだってうまく対処するんだろうけど・・・今のあたしにそれは土台無理な話だ。
下手こいて後で取り返しのつかないことにでもなったら・・・

あぁっ! でもでもこの腕に纏わり付く巨乳をなんとかしたい!
大体何なのよ、そんなホルスタインみたいな乳を恥ずかしげも無く晒してさ。
あたしに対する当てつけかっつーの!

「私、今夜はずっと空いてますから・・・」

ギラギラに光るグロスを歪めて笑う女にゾクッと背筋が凍り付く。

っていうか何してんのよ、早く戻って来なさいよっ・・・!




「 司 」




その時背後から聞こえた声にパッと振り返る。
声の主を確認した瞬間、自分でも驚くほど全身からどっと力が抜けていくのがわかった。

「類・・・」

「ちょっと司に用事があるんだけど、いい?」
「えっ?」

用って・・・でもあたしじゃ何もわからないし・・・
それにこの女をどうしたらいいのか。

「結構急ぎだから来て欲しいんだけど」
「え・・・わ、わかった」

あまりにも真剣な眼差しに一体何事かと思う一方で、有無を言わさない類の態度にこれはむしろ助かったのだと思い直す。この女と距離を取る正当な理由ができたのだから。
突き放したところで文句を言われる筋合いはなくなったはず ___

「花沢さん、せっかくですけれど今司さんとお話しているのは私なんです。またの機会にしていただけませんか?」

___ と思ったら予想に反して女が噛みついてきた。
っていうか普通類を相手にここまで言える女ってそうそういない。
となればやっぱりかなりの権力者の娘って可能性が濃厚ってこと・・・?

「司、大事な話だから早く来てくれる」

そんなことをぐるぐる考えているあたしとは真逆で類の態度は一貫していた。
声をかけてきたときから一切目の前の女を視界に捉えていない。
話しかけられたこともガン無視ならそもそもその存在すら認めていない、そんな感じだ。
どうしていいか狼狽えるしかなかったあたしにとって、その清々しいまでの態度に胸のモヤモヤがスッと洗い流されていくようだった。

「司?」
「えっ? あ・・・り、了解」
「あっ、司さんっ?! ちょっ・・・花沢さんっ!!」

類の声に導かれるようにバッと手を離すと、女が名残惜しげに再び腕を巻き付けようとしてくる。絡みつく前にすかさず距離を取ると、既に数歩先を歩き始めた類を追いかけるようにして走り出した。

「司さんっ!!」

真後ろで金切り声を上げているのが聞こえたけれど、こんな時あいつなら見向きもしない、そう信じて今はひたすら前に足を進めていった。




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