あなたの欠片 23
2014 / 11 / 30 ( Sun ) 何故今司がここにいるのか、全く理解できないつくしはポカンと口を開けたまま動かない。
予想通りのつくしの反応に司はクッと笑いを零す。 掴んだネックレスを持ったままつくしの背後に立つと、後ろからすっと手を前に回した。 大きな手が髪を掠めて首元までやってくると、つくしの体がビクッと跳ねる。ようやく我に返って鏡に映る自分に目をやると、今さらながら自分がとんでもない格好をしていることに気付いた。 「あああああのっ!!自分でできますからっ!!大丈夫ですっ!!!!」 慌ててバスローブの前合わせを両手で掴む。 「別にとって食やしねーよ。ま、いい眺めなのは違いねぇけどな」 「くっ・・・?!いい眺めっ・・・・?!」 バスローブを掴んだ手に爪が食い込みそうなほどの力が込められる。 司はそんなつくしにククッと笑いながら大きな手で慣れた手つきで小さな金具を留めていく。あっという間にそれを終えると、つくしの綺麗な髪を持ち上げネックレスをセットして鏡に映るつくしを満足げに見つめた。 「やっぱ似合ってんな」 「あ、あ、あ、あのっ」 「・・・・・くっ、つーかお前、その顔はやべぇだろ。くっははははは!」 「えぇっ?!」 「その情けねえ顔っ・・・!くくっ、捨て犬みてぇな顔してんじゃねぇよ」 「す、すてっ・・・・?!」 真っ赤な顔で今にも泣きそうにおどおどしまくっているつくしがツボに入って仕方がない。 一方でつくしは自分がどんな顔をしているかなんて考える余裕すらない。 バスローブの下は何も身につけていないのだから。 ふとした瞬間に紐が外れてしまったらどうしようとか、もしかして気付いてないだけで既にバスローブ越しに透けて見えているんじゃなかろうかなんてことで頭が爆発しそうだ。 だからそんなことを言われても冷静に自分を見ることなんてできないし、何を口走っているかもわからない。 「い、犬って!道明寺さんが大の苦手な生き物じゃないですかっ!」 恥ずかしさとパニックで気が付けばそんなことを叫んでいた。 つくしからしてみればもう今言ったことすら覚えていない、それくらい無意識に放った言葉だったのだが、その言葉を聞いた司の笑い声がぴたりと止まった。 「お前・・・・今なんつった?」 「・・・・・・えっ?」 びっくりするほど急に態度の変わってしまった司につくしの表情も強ばっていく。 目の前の男がほんの数秒前まで大笑いしていたなんて誰も信じないほどに、その表情は真剣だ。 「あ、あの・・・何か変なこと言いましたか?ごめんなさい、私自分が何言ったかわかってなくて・・・・」 「俺が苦手なのは何だって?」 「え?あ、犬のことですか・・・?」 「なんでそんなこと知ってんだ?」 「えっ・・・・・・だって・・・・」 なんで?そんなこと疑問にも思わなかった。 ただ無意識に浮かんで口にしていただけ。 ・・・・・・あれ?でもどうしてそんなことを知ってるんだろう? 元々彼の記憶がなくて・・・・見聞きした範囲でしか彼のことを知らないはずなのに・・・・ 「牧野・・・お前、もしかしたら少しずつ記憶が戻ってきてんじゃねぇのか?」 「・・・・・・・え?」 記憶が・・・・・? 思いも寄らない言葉につくしは驚き何も口にすることができない。 司もまた驚いた顔でつくしを見ている。 ガタンッ! 驚きのあまり右手を動かした拍子にドレッサーに立てかけておいた松葉杖が音を立てて倒れてしまった。 「あ・・・・」 倒れていく松葉杖を追いかけるようにして手を伸ばしたが、すんでの所でそれは床へと落下していく。動揺していたためつくしは自分の片足が不自由だということをすっかり忘れていた。追いかけることに夢中になるあまり、思いっきり左足を地面についてしまった。 「痛っ・・・・!」 「牧野っ!!」 ドサドサガタンッ!! 痛みに顔を歪めたつくしの体がそのまま前のめりに倒れ込んだ。 更なる痛みを覚悟してギュッと目を閉じたが、それ以上の痛みが来ることはなかった。 「・・・・・お前なぁ、これで何回目だよ」 半ば呆れたような声と共に痛みの代わりに感じたのは懐かしい香り。ふわりと上品なコロンの香りがつくしの鼻腔を撫でた。 一瞬何が起こっているかわからなかったつくしだったが、どうやら自分が俯せになっているということがようやく理解できてくる。だが問題はそこではない。自分が倒れている場所だ。 本来倒れているはずの絨毯ではなく目の前にあるのは高質なスーツ。 つくしを受け止めながら2人揃って倒れ込み、こともあろうにつくしは司の上に乗ってしまっている。弾力があったのは司の胸元に顔を埋めた状態だからだ。重力に逆らうことなく密着した体から互いの鼓動が直に伝わり合う。 今、バスローブ・・・・・・!!!! つくしは今自分がどんな格好をしているかを思い出して一気に青ざめていく。下手したらあちこちはだけて何かしらが見えてしまっているかもしれない。 「ごっ、ごめんなさい!!すぐに起きますからっ!!」 恥ずかしいやら情けないやら、今にも泣きそうな気持ちで慌てて体を起こそうとするが、つくしの背中に回された手がその動きを封じ込める。ギュッと抱き寄せられて身動き一つとれなくなってしまった。 耳が司の胸元に当たり、そこからドクンドクンという音が速く刻まれているのがわかる。ドキドキしているのは自分だけではないのだと。 「あのっ、道明寺さん?!離してください!はな・・・・・」 「牧野・・・・・」 頭のすぐ上で切なげに呼ばれた名前に胸がギュッと苦しくなる。 あり得なさすぎるこの状態に頭も心臓も爆発寸前だ。 「お願いですから離してください!」 「・・・・牧野、いい加減さんはやめろよ」 「・・・・えっ?」 こんな状況で一体何を言い出したのか。 つくしには司の言わんとすることが全くわからない。 とにもかくにも手を離して欲しい。なんだか太股あたりがスースーする気がするのだ。もしかしたら後ろから見たらとんでもないことになってるんじゃないかと思うと死にたいくらいに恥ずかしい。 「いい加減俺をさんづけで呼ぶのはやめろ」 「はぁっ?!この状況でいきなり何を言ってるんですかっ!」 「いきなりじゃねーよ。俺は最初から言っただろ。さんづけも敬語もいらねぇって」 「だ、だからって今この状況で言わなくても!っていうかお願いですから!手を離してください!」 「離さねぇ」 「えぇっ?!」 「お前がさんづけと敬語をやめない限りは離さねぇ」 「なっ・・・・!」 そう言うのと同時につかさの手にさらに力が込められた。 これ以上ないほど体は密着し、しかもつくしはバスローブ一枚という有様。普通に抱きしめられるだけでもパニック状態になってしまうというのに、比較にならないほどのあり得ない状況に、もはや失神寸前だ。 「道明寺さんっ!ふざけるのはやめてくださいっ!!」 「ふざけてなんかねーよ。俺は大真面目だ」 「こんな状況でそんなこと言うなんてずるいですっ!」 「うるせぇ。ずるくてもなんでもいいんだよ。こうでもしねぇとお前いつまで経っても変わらねぇだろうが。類だって呼び捨てにしてんだ。いい加減俺に対する壁をなくせ」 「そ、そんなこと・・・・!」 ずるいずるいずるい!! この状況でそんなことを言うなんて! 冷静に物事が判断できないときにそんな要求をしてくるなんて反則もいいところだ。 「俺は別にいいんだぜ。お前がそうしないならそれでも。ずっとこうしてられるしな」 言いながら司の唇が自分の髪の毛にチュッと当てられたような気がする。 しかも背中に回された手がゆっくりと腰の辺りまで移動していく気配を感じる。 「ちょっ、ちょっと?!これ以上は勘弁してください!もう死んじゃいそうですっ」 「じゃあどうする?全てはお前次第だぜ」 「ひっ・・・!」 気のせいなんかじゃない。やっぱり腰の辺りでごそごそと手が動いている。 もうムリ!!これ以上は限界だ・・・・・!! 「わ、わかりましたわかりましたっ!!さんづけやめます!敬語もやめますっ!!!」 ギブアップとばかりにつくしは叫んだ。 「じゃあ今すぐそうしろ」 「えっ?」 「俺にやめろって言えよ」 「えぇっ!!」 「なんだよ、やめるんだろ?だったらできるはずだろ。それとも口だけでできねぇのか?」 うぅう、この人は本気だ。 本気でやめさせるつもりだ。 「わ、わかったから!お願いだから離して、道明寺っ!!」 こうなったらやけくそだとばかりにつくしは大声で叫んだ。 次の瞬間、全身を締め付けていた力が面白いほどに抜けていくのがわかった。 つくしはハッとすると胸に手をついて上半身を引き起こし、案の定際どいところまではだけている胸元と足元のバスローブを必死で押さえ付けた。すぐに立ち上がれないためいまだに司の膝の上に座った状態だが、今はそんなことはもうどうでもいい。 「・・・ふっ、それでこそ牧野つくしだろ」 やがて司もゆっくりと上半身を起こすと、至近距離で満足そうにつくしを覗きこんだ。 これまで真っ青だったつくしの全身が今度は一気に真っ赤に染まり上がっていく。 「ち、近いからっ!もうこれ以上はほんとにムリっ!!」 足元を押さえていた手で司の胸を押しやると、フッと笑った司が突然つくしの両脇に手を入れて抱えたまま立ち上がった。 「きゃあっ?!ちょ、ちょっとっ!!!降ろしてっ!!」 「うるせーな。何もしねぇよ」 ぎゃあぎゃあ騒ぐつくしに構うことなくそのまま移動すると、やがてさっきまでつくしが座っていた椅子にその体をゆっくりと降ろした。 「え?あ・・・・」 自分が置かれた場所に気付くと、さらに司は床に転がっている松葉杖を手に取りさっきと同じようにすぐ近くに立てかけた。それを見た途端騒いでいた自分が自意識過剰過ぎて恥ずかしくなってくる。 「あ、ありがとう・・・」 「別にお礼いわれることはしてねーよ。っつーかお前転びすぎだろ。俺がいるときはいいけど、せっかく治ってきてるんだから気をつけろよ」 「う、うん・・・・」 先程まで密着していた感触がまだ全身に残っている。 それに加えてぶっきらぼうな優しさが恥ずかしくて堪らない。 バスローブの合わせ部分を必死に掴んだまま真っ赤な顔を上げられずにいるつくしに苦笑いすると、司はその頭をポンポンと軽く叩いた。 「そろそろメシだから着替えろよ。今日は早めに上がったから一緒に食えそうだ」 「・・・・え?」 思わぬ一言につくしが顔を上げる。 「なんだよ、何か不満でもあんのか?」 「い、いえ・・・・あっ!ううん・・・」 「じゃあメシが食える格好してこい。まぁ俺的には別にそのまんまでも構わねぇけどな」 「む、むむむむむむムリっ!!」 「くっ、冗談に決まってんだろ。じゃあまた後でな」 司はそう言うと、最後にもう一度つくしの頭を撫でて部屋を出て行った。 一人残された部屋でつくしは呆然とその扉を見つめたまま。 「い、一体何が起こったの・・・・・」 あり得ないことの連続で、その前にした会話の内容など完全に吹き飛んでしまっていた。 一方その頃___ 「あっぶねぇー・・・。あのままあいつが何も言わなかったら・・・・・マジでやばかった」 司は部屋を出たはいいものの、そのまま扉に寄りかかるようにして突っ立っていた。 その頬は心なしか赤くなっているような気がする。 バスローブ越しに感じたつくしの体温。 下心はなかったが密着しているうちにあらぬ欲望が顔を出しそうになったのも本音だ。 我ながらよく理性を保ったと思う。 それにしてもつくしのあの顔。 状況に応じて赤くなったり青くなったり、相変わらず忙しい奴だ。 司は思い出してはクックックと笑いが止まらない。 ・・・・・だがひとしきり笑うとその顔から一瞬で笑顔が消えた。 「・・・・・あいつの記憶が戻る前になんとかしねぇとな・・・・」 真剣な顔でそう呟くと、ようやく体を離してその場を後にした。 ![]() ![]() |
--ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
坊ちゃん、煩悩との闘いに勝利しました。 頑張りました。 いやぁ、普通バスローブのみで上に乗られた日にゃあね・・・そのままいきますって。 でも色んな意味で坊ちゃんには頑張ってもらわないと(笑) 次回はまた回想シーンから始まります。 場面がコロコロ変わってすみません(;´Д`)
by: みやとも * 2014/11/30 10:37 * URL [ 編集 ] | page top
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お休みの日もご苦労様です! そうですよねぇ、母ちゃんに休日もへったくれもないですよね^^; 今さらながら身をもって痛感しております(;´Д`)トホホ そうそう、変えられない現実を嘆くよりも、 いくらでも作り出せる妄想の世界で自分の欲求を満たしていこうかと(笑) だからこそ坊ちゃんには坊ちゃんらしくいてもらわないと困るのです。 ふふふ、危なかったのは一体どこ?ナニ? 彼はつくし限定で反応が素直ですからね。 油断すると大変なことになると思われます( ̄∇ ̄) 司が扉にもたれかかってるのいいですよね!私も大好きです。 きっと腕を組んで長い足を軽く交差させるようにして見てたんじゃなかろうかと。 それにしてもその新たな会則素晴らしいですねっ!! ビバ・純愛っ!!(*´∀`*) 近いうちに時間を見つけてこの前のラブレターのお返事しますね~。 --コ※様--
司の理性って凄いですよね。 なんでつくしに関する理性だけはこんなにも働くのか(笑) やっぱり彼は真性ドMなんじゃないかと思う今日この頃です( ̄∇ ̄) その代わりご指摘の通り全てが片付いたら・・・ 坊ちゃんトレインが大暴走間違いないかと思われます(笑) つくし逃げてぇ~!! --こ※様--
うへへ、すみません。決していじわるしてるつもりはないんですが。 盛り上げるためについつい場面転換をしてしまうあっしでございます。 あれ、もしかして私ってドS?! 自分が転がされるのは超絶苦手なくせにね(笑) そうそう、坊ちゃんも煩悩との闘いに負けじと頑張っておられるので、 どうぞ皆様ももうしばし耐えていただきたく・・・え、嫌? コリャ参ったな( ̄∇ ̄)ドーシヨー |
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