あなたの欠片 24
2014 / 12 / 01 ( Mon ) 「おい司、お前これからどうするつもりなんだ?」
テーブルに置かれた別人のように変わり果てた親友の写真を見ながらあきらが口にする。 「・・・・まずは徹底的に牧野の周辺を洗う。それから身内の人間だな。出所がそこだとするなら必ず3年前に動きを起こしてるはずだからな」 「裏切り者は既にふるいにかけてあるんだろ?」 「まぁな。ただ色んな対応に追われて詰めが甘くなってた可能性も否定はできねぇ。もしそれが原因でこんなことになってるんだとしたら・・・・自分が許せねぇ」 そう言って司は血管が浮かび上がるほどギリギリと拳を握りしめた。 3年前、一部の人間の引き起こしたクーデターの収束には予想以上に時間をとられてしまった。 それもこれも父親の急逝という誰もが予想していなかったことが発端となっているのだが。 元々、大きな組織の宿命とも言える派閥のようなものの存在は、こと道明寺財閥においても例外ではなかった。特に学生の頃に好き放題やってきた司が後継者に指名されたことへの反発は根強かった。 それでもいざビジネスの世界にその身を置いてしまえば、類い希なるビジネスセンスと行動力で、己の実力で周りを黙らせていった。だが反勢力からすればそれがまた火に油を注ぐ形となっていたのは明白な事実で。 名ばかりのジュニアであればどれだけよかったか。 バカと天才は紙一重。まさにその言葉を地で行く男、それが道明寺司だった。 「合併先からの手ってことはねぇのか?」 「・・・・わからねぇ。そのあたりも見極めた上での話とはいっても水面下で動かれちゃあ完全に防ぐのは難しいからな」 「まぁ確かにそうだよな・・・」 司ほどではないとはいえ、それぞれが大きな組織のジュニアとして社会の波に揉まれるようになった今、末端の末端まで完全にコントロールすることの難しさをここにいる全員がよくわかっている。 「離れてる間牧野にSPはつけてなかったのか?」 「つけてねぇわけねーだろが。ま、あいつにバレない程度にはな。特に親父のことでマスコミが騒ぎ始めてからは気をつけるようにさせてたんだが」 「目に見えては何もおかしいところはなかったってことか・・・・」 その場いる全員が顎に手を当てて何かを考え込んでいる。 「なぁ、司。まさか・・・・牧野の事故も仕組まれたものだったってことはねぇよな?」 やがて総二郎の放った言葉にその場の温度が一瞬で下がったのがわかる。 「・・・・わからねぇ。ただ可能性としては否定できない」 「・・・・・・・・」 怒りを含んだ声色で司は静かに答える。 「おい、類。お前が一番近くで見てきてるだろ?そのあたりどうなんだ?」 「・・・・・どうなんだろうね。状況的には牧野が飛び出したことが原因だったから。俺としては何か不自然な点を感じたりした記憶はないけど・・・でもいざこういう事実を突きつけられると絶対にそうだとは言い切れない」 「・・・・・・・・真相は闇の中ってわけか」 再び重苦しい沈黙が室内を包み込む。 誰の瞳にも怒りの炎が宿っていて。 中でも司は全身から燃え上がる青白い炎が見えるほどに怒りのオーラに満ち溢れていた。 「司、封筒は他にもあるんだろ?」 「・・・おそらくな。あいつが封印してた箱の中にまだある可能性が高いな」 「それは今牧野が持ってんのか?」 「あぁ。邸のあいつの部屋に置いてあるはずだ」 「牧野が見たらやべぇんじゃねぇのか?何が入ってるかはわからないにしても、これと同じかあるいはそれ以上のもんが入ってる可能性が高いわけで」 「・・・・・」 そう言って総二郎が指差した司は見るも無惨な姿にされていて。 別に司自身これを見たからと言って怖いだなんて感情は一切沸いてくることはない。 幼い頃からこの手のことには嫌と言うほど免疫をつけられてきたし、何度となく似たような経験をしている。記憶をなくした悪夢のようなあの一件だってそうだ。 自分がそういう立場の人間だという覚悟は常にもっていたし、今さら驚くことでもない。 だがつくしは違う。 赤札を彷彿とさせる封筒から出てきた司の姿に、一体どれだけの恐怖を覚えただろうか。 何かの言葉が書いてあるわけでもない。 ただ一枚の写真に収められた男がボロボロに切り刻まれているだけ。 つくしにとってその効果は絶大なものだっただろう。 しかもその矛先が自分に向いているのではない。人のためにわざわざ苦労を買ってでるようなつくしが、それを目の当たりにして何も感じないはずがないのだ。 ましてやそこにいた男が誰よりも愛する者であれば尚更のこと____ 「思うに牧野はこの司を見て身を引いたってことだよな?」 総二郎が司の写真をトンと指で叩く。 「だろうな。ここには写真しかねぇけど、他のにはもっと脅迫めいたことが書いてあるのかもしれないしな」 「あの牧野だもんな・・・自分のせいで司に何かがあるかもしれないなんて思ったら迷わず身を引くに決まってるよな。自分の痛みには強くても人の痛みには耐えられないような奴だから」 「・・・・ましてやそれが司なら尚更ね」 類がぽつりと呟く。 「誰にも相談しない。類にすら悟られないようにするなんて、あいつも相当必死だったんだろうな」 「牧野は昔司が刺されたのを目の当たりにしてるからね。死の恐怖は身をもって嫌というほど経験してるだけにダメージは相当大きかったんだろう。・・・たとえそれが脅しだけだとしても」 「・・・・・・・・」 つくしがこの数年一体どんな思いを抱えていたというのか、その心の内を想像しただけで胸がしめつけられる。全員が神妙な面持ちで次の言葉を出すことができない。 「絶対に許さねぇ。見つけ出して牧野に与えた以上の苦痛を与えてやる」 静寂を切り裂くように司が吐き捨てた。 「だな。俺たちも全面的に協力させてもらうからよ」 「あぁ、悪ぃな」 「今さら何言ってんだ。・・・しかしまぁ事故に遭ったことはひとまず置いといても、敵がわからない今、司が帰国するときに牧野が類のところにいたってのはかえってよかったのかもしれないな」 「そうだな。普通なら帰国に合わせて動く可能性が高いもんな。俺らの所にいればそう簡単には手出しできねぇからな」 「そう考えるとやっぱり事故は偶然だったってことか?」 「いや、それはわからねぇ」 「・・・・まずは敵を見つけ出すのが最優先ってことか」 「あぁ」 一通り2人の会話を聞き終えると、司は静かに立ち上がった。そしてゆっくりとテーブルの上の手紙を掴む。 「俺の所にいる限り、牧野にはこれ以上指一本も手出しはさせねぇ」 「牧野の手元にある赤札もどきはどうすんだ?」 「今のところ見た気配はねぇな。っつってもいつ思い出して見るかはわからねぇ。使用人か、あるいは俺が隙を見て持ち出しても構わねぇんだが・・・・そこまであいつの領域に踏み込むことはしたくねぇ。・・・・まぁチャンスがあればそうするかもしれねぇけどな」 「いいのか?あいつがあれを見たら・・・場合によっては記憶が戻るかもしんねぇぞ」 あきらの心配は尤もなことだろう。 そして記憶を取り戻したつくしがどういう行動に出るかはわからない。 いつかのように司の元を去ってしまう可能性だって否定できない。 「だとしてもあいつをどこにも逃がすつもりはねぇ。あいつなら全てを話せば必ずわかってくれる。・・・・それに」 「・・・・それに?」 「あいつの記憶が戻る前に全てをクリアーにしてみせる」 そう言いきった司の顔には迷いは微塵もない。 あるのは揺るぎない自信だけ。 もし同じ事が起きていたのが6年前だったら、彼は怒りを爆発させ、ありとあらゆる方法で相手を見つけ出し報復に打って出ていたに違いない。 だが今目の前にいる男からはこの6年という時間を感じさせるには充分な成長が見られて。 己の感情だけで暴走するようなガキだった男はもうどこにもいない。 だからこそ3年前の最大の窮地も乗り越えて来られたのだろう。 それを支え続けたのは他でもない、つくしとの約束を果たすという確固たる己の信念だけだ。 ***** カタン・・・・ 夕べのことを思い出して考え込んでいた意識が物音でハッと現実に引き戻される。 顔を上げて見てみれば服に着替えたつくしがどこかバツが悪そうな顔で入り口に突っ立っていた。 「何やってんだ。早く座れよ」 「は、はい・・・・・じゃなくて、うん」 やむを得ず了承したとはいえ、今のつくしにとってため口で話すことはまだまだ慣れそうにない。 俯き加減に足を進めると、司の向かいの席へ腰を下ろした。 「なんでこっち見ねぇんだよ」 「えっ、いや、別に何も・・・・」 そう言いながらも変わらず顔を上げようとしない。 そうこうしているうちに2人の前に作りたての料理が次々に並べられていく。ずっと俯いていたつくしだったが、目の前の誘惑に我慢できずに徐々にその視線が上がっていく。 「それではごゆっくりどうぞ」 全ての準備を終えると使用人は深々と頭を下げて部屋を後にした。2人きりになったのが気まずいのか、つくしは司と目が合った瞬間また俯いてしまった。 彼女が気まずい理由なんて一つしかない。 司は思い出してつい口元が緩みそうになるのをグッと我慢するとつくしに声をかけた。 「お前もっと食えよ」 「えっ?」 突然かけられた意味不明な言葉につくしの顔がパッと上がる。 「お前相変わらず痩せすぎなんだよ。もっと食って肉つけろ。その方が抱き心地がいいからな」 「なっ・・・?!」 思いも寄らぬ一言につくしの頭の中にさきほどの一連のシーンが一気に蘇ってくる。 下着も着けずに密着状態だったこの上ない羞恥プレイが。 予想通り真っ赤になって口をパクパクさせるつくしに腹を抱えて笑うと、司はナイフとフォークを手に取り目の前のステーキを一切れつくしの前に差し出した。 「・・・・・えっ?!」 「食えよ」 「えぇっ?!いや、自分のはありますから・・・・いや、あるから!それに自分で食べられるし」 「いいから食えよ。ちょっとしたさっきのお礼だ」 「お礼・・・・?」 訝しげな顔でつくしが首を捻る。 「あぁ。まぁ少々痩せすぎなのは否めねぇが結構気持ち良かったからな。その礼だ」 「なっ?!何言って・・・・んぐっ!!!」 信じられないとばかりに目を見開いて文句を言いかけたタイミングを待ち構えていたように、司はその開いた口にステーキを思い切り突っ込んだ。驚きに染まるつくしだが条件反射で口がもぐもぐと動いていく。やがてゴクンと喉元を通っていくのがわかった。 「・・・・・・おいしい・・・・!」 「だろ?ほら、いい加減余計なことを考えるのはやめて食え。冷めたらおいしくねーだろが」 ・・・・・・もしかして私がこれ以上気に病まないようにしてくれるため? だから彼はわざとあんな言い方を? つくしは司の言動を見ているうちにまたそのぶっきらぼうな優しさが心に染みて苦しくなった。 ・・・・そしてそれと同時にとても温かい気持ちに包まれる。 「・・・・・・・うん。そうだね。じゃあ、いただきますっ!」 「おう」 目の前の料理を一口食べると、頬が落ちそうなほど緩んだ顔になって笑いが止まらない。 それを見ている司も自然と笑顔になる。 「ん~~~、おいしいっ!!幸せ~~!」 「お前はほんとうまそうに食うような」 「だってほんとにおいしいんだもん!」 「くっ、そうかよ。好きなだけ食え。ほら、俺のもやるよ」 そう言うと司はまた手元のステーキを切ってつくしの皿にコロンと移した。 「えぇっ?!人の分まで食べたら太っちゃうよ」 「お前はもう少し太ったくらいがちょうどいいんだよ。じゃねーと肝心なところに肉がつかねぇだろが」 「ちょっ、ちょっと!!さっきからセクハラやめてよね!」 「あぁ?何がセクハラだよ。っつーかいらねーのか?いらねぇなら俺が食うぞ」 「あぁっ、いる!いります!」 司の手が伸びてきたところでつくしは慌てて手を出してそれを阻止する。 太るなんてほんの数秒前まで言っていたのは一体どこの誰だったやら。 やはり花より団子。つくしはどこまでいってもつくしのままだ。 「くっはははっ!お前は相変わらず面白ぇな」 「う・・・別に面白いことしてるつもりは全くないんだけど・・・」 口をすぼめて不満顔を見せるつくしだが、それも料理を口にした途端にすぐ破顔していく。 「その笑顔を壊すようなことは絶対にさせねぇから」 「・・・・え?何か言った?」 「いや、何でもねぇ。いくらでもおかわりはあるからな。好きなだけ食えよ」 「うん!っていくら私でもそこまではムリかも・・・・あははっ」 この笑顔の裏にはどれだけの苦しみがあったのだろうか。 考えるだけで司の胸が痛いほどに締め付けられる。 たとえ記憶がないからなのだとしても、今あるこの目映いばかりの笑顔を曇らせることは絶対に許さない。 _____何があっても守る。 司はつくしの笑顔を見つめながら心に固く誓った。 ![]() ![]() |
--H※様<拍手コメントお礼>--
なんだかすっかりサスペンス化してると皆さん思われてるでしょうが、 全くそんなことはありませんから! なんか深い設定もないのに軽い気持ちで書いたらおかしな方向に・・・(笑) びっくりするくらい薄い設定ですから覚悟しておいてくださいね(苦笑) ご心配ありがとうございます。 我ながらもっと一回分の量を減らせばいいのにって思ってるんですけどね。 ついつい長々と書いてしまい・・・ どんだけくどいねんといつも一人ツッコミしています(笑) 長くて読んでてイライラしませんかね?(^◇^;)
by: みやとも * 2014/12/01 07:48 * URL [ 編集 ] | page top
--ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
坊ちゃん無償の愛でつくしを見守っております。 無償・・・・? いえいえ、全てが解決したらきっと大爆発すること間違いなし!!です(笑) それこそたまりに溜まった欲望を・・・ね( ̄∇ ̄) --管理人のみ閲覧できます--
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このコメントは管理人のみ閲覧できます --きな※※ち様--
ぷぷっ、つぶやき別バージョンに思わず吹いちゃいましたw いや、でもその心の叫びはごもっともですね。 焦らしプレイで大変申し訳ないm(__)m そしてそれに続く妄想にも大いに笑わせていただきました。 坊ちゃんにほっかむりやらせましょうかね(笑) この連載ね~、予定では20話そこそこくらいかな?と思ってたんです。← 大まかな流れだけ決めていざ始めたらあれよあれよという間に膨らんで・・・・ あれ?予定ではもう終わってるはずじゃ?状態です( ̄∇ ̄)オカシイナ~ でも私自身も長すぎるのはしんどいので、今のところ40話以内を目指してます。 年内にはすっきり終わらせたい!! なんだかんだで話は佳境に入ってきてるので、 私が横道に逸れさえしなければできると思います。 あとは本編後に番外編とかも書けたらいいな~なんて色々願望だけはあります。 その前にちゃんと終わらせぇやって話なんですが(^◇^;) 週に2回くらい短編をぶっ込むつもりでいたんですが、 思った以上にこっちの反響が大きいのに驚いてまして。 こりゃあいつまでも焦らしてばかりだとそのうちぶっ飛ばされるなと(笑) なので今はこちらを重点的に更新していく予定です。 たまに短編を入れるつもりではいますが。 ほんとにね、一話の文字数が結構多いですよね。 もっと少なめにすれば負担も減るし話の回数も増やせて一石二鳥で もったいないことしたな・・・なんて悔いております(笑) --ke※※ki様--
そうでしたね。 今日は週明けというだけでなく師走の始まりでした。 自分のつぶやきで言っておきながらすっかり忘れてました(^◇^;) お天気怪しいですよね~。 こちらの地域では雷こそないですが雨風共に荒れております。 明日以降雪が降るところも・・なんて言ってますがほんとかなぁ。 喜ぶのは子どもだけなので勘弁して欲しいな(;´Д`) ふふふ、そこの文言、気に入っていただけましたか? 何気に自分でも気に入ってます。 だってドンピシャですからね(笑) そうそう、なんだか黒幕に凄まじい期待が集まってるんですが、 なーーーんにも深い設定なんかないんです。 期待値だけが暴走して途方に暮れてます。 暴走するのは坊ちゃんだけで充分ですから!(笑) 種明かしで「なんだよ。それっぽっちかよ、くだらねぇ!」 と吐き捨てられるであろう日に今から戦々恐々としております(笑) --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --コ※様--
そうです、ようやく・・・です! そろそろ話を動かしていかないと皆さんからぶん殴られると思いまして(笑) これからストーリーが動いていきます。 とは言ってもなんの深みもないですからそこは覚悟しておいてくだいね? つくしは仮に記憶が戻ったとしても誰にも相談しないでしょうね~。 そういう人ですから、彼女は。 せいぜい類に見抜かれてばれるってパターンくらいでしょうか。 さて今回はどうなるでしょうね?! ----
このサイトにたまたま辿り着き読ませて頂いております!続編を読んでいる様で本当に楽しいです!なんてったってキャラがブレてないからなんだろうなーって思います。二人の将来を想像する能力がない私にはもううれしくてうれしくて!!これからも頑張って下さい!楽しみにしています! 寝不足になるほどに 笑 |
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