さよならの向こう側 2
2016 / 05 / 27 ( Fri ) 終わらせたのは他でもない自分自身。
『 ごめん、道明寺。もう別れて 』 ある日突然そんな言葉で終わりを告げたあたしに、当然のようにあいつは呆気にとられ、そしてその直後火がついたように怒り狂ってた。それも当然のことだ。あの時、あいつはそんなことに心を砕くような余裕なんて少しもなかったはずだから。 でもだからこそあたしは行動に移した。 どう転んでもさよならをするしかないのなら、少しの迷いも残してはダメだと思った。 中途半端な気持ちなんて言語道断。 いっそのことあいつに心の底から嫌われることこそが必要だった。 『 お前、ざけんなっ!! 』 電話越しに烈火の如く怒りを露わにするあいつに、あたしは最低の言葉を投げつけた。 『 もう会わない。会いたくもない。一生恨んでもらっても構わない。・・・さよなら 』 そうしてまだ何かを言い続けていたあいつの言葉を一方的に遮断した。もしもあいつが日本に飛んで来ようとでもしたならば、何が何でもそうさせないようにと事前にお願いもしてあった。 だから最後にあいつを見たのは7年前に日本を旅立ったあの時。 『 4年後お前を迎えに来る 』 そう宣言したあの姿が今も鮮明に残っている。 遠距離恋愛は本音を言えば寂しかったけど、それでもあたし達には明確な目標があったから。 お互いに忙しい毎日を送っていたし、なんだかんだであっという間に1年が過ぎようとしていた。 けれど高校卒業が間近に迫った頃、世界的にも例を見ない大不況が突如襲いかかった。 道明寺財閥と肩を並べるほどの力を持った企業が倒産したことを皮切りに、まるでドミノ倒しのようにその負の連鎖は続いていった。あそこに入れば一生安泰、そう神話めいたことを謳われていたところですら巻き込まれていくほどの荒波。 当然ながらそれは道明寺ホールディングスとて他人事ではなかった。 連日新聞やテレビに並ぶ 「倒産危機」 の文字。 自殺者が急激に増えているという事実。 万が一道明寺ホールディングスまでそうなれば今後どれほど世界中が混乱に陥ってしまうのか、思わず目を背けたくなる情報は嫌というほど入ってきた。 そう、彼らは 「世界の道明寺」 なのだ。 もしもが起これば路頭に迷う人間の数は恐ろしいほどに膨れ上がってしまう。 貧乏を知り尽くしているあたしにとって、その悲劇はとても他人事とは思えなかった。 そんな中、ある日突然 「あの人」 が我が家に現れた。 ____ 魔女だ。 突然のことに家族はひっくり返っていたけれど、あたしだけはどこか冷静だった。 意識しないようにしていたけれど、あのニュースが世間を賑わせ始めた頃から、いつかはこんな日が来るかもしれないって覚悟していた何よりの証拠なのかもしれない。 『 財閥と、真にあの子のためを思うなら身を引いて欲しい 』 いつになく静かな口調で魔女はそう言った。 傍らの部下らしき男性はスーツケース入った大量の札束を抱えていた。 あぁ、いつかもこんなことがあったなぁなんてぼんやり思い出しながら、不思議と怒りが湧いてくることはなかった。 ・・・魔女の瞳があの時とは違って見えたから。 同じ仕打ちをされたあの時、あの人に対して湧き上がってくるのは怒りだけだった。 人に後ろ指指されるような、恥じるような生き方なんて何一つしていない。 ただ貧乏人というだけで、その存在を排除してしまえるあの女に嫌悪感しか抱かなかった。 ・・・けれどその時は違った。 言っていることもやっていることもあの時とほとんど変わらない。 それでも、真剣に財閥の行く末を考えての行動なのだというのがこのあたしにも嫌と言うほど伝わってきたから。 一般人のあたしですら 「もしもが起こったら」 と考えるだけで不安に覆い尽くされるというのに、そのトップに立つ人間がそのことに何も感じないはずがないのだ。きっとその重圧たるやこちらの想像を絶する。そんな立場にある人があの大変な状況の中、わざわざ帰国してこんな狭苦しいアパートまで直接足を運ぶ。 その行動の意味がわからないほどバカじゃない。 『 ・・・・・・わかり、ました 』 長い沈黙の後、あたしはたった一言、それだけを口にした。 魔女もそれ以上は何も言わなかった。 あたしの自惚れかもしれないけれど、あの時魔女はそうしたくてしたんじゃない。 前は虫けらを見るような目であたしを見ていたけど、あの時はただただ真剣に、あたしをきちんとした1人の人間として認めた上で向き合っている。そう思えた。 だから不思議なほどに最後まで怒りの感情が沸き上がってくることはなかった。 あいつが渡米することを決意したとき、あたしは道明寺の人間として生きていく覚悟を見たのだ。 だからこそこれは避けては通れない道。 これだけの苦しい状況を立ち直らせていくことがどれだけ困難を極めることなのか、経営のノウハウを何も持たないあたしにだってわかる。 そしてその過程で必ずあたしの存在が足枷になってしまう時が来るってことも。 共に幸せになれる道を歩んでいけることが一番に決まってる。 けれど、自分の幸せだけに貪欲になることは許されない。 今こそその覚悟が問われている、そう思った。 ・・・だからあたしは決めたのだ。 ____ あいつと別れるということを。 こんな一方的な別れに納得なんてしてもらえるはずがない。 そんなことは百も承知だった。 あたしは1年前、あいつを幸せにしてやると声高々に宣言したのだから。 どんな理由があったとしても、あたしはその約束を反故にするのだ。 納得なんてしてもらえない。それでも受け入れてもらうしかない。 生半可な覚悟で別れを告げることなんて許されない。 ・・・だからあたしは敢えて魔女からの大金を受け取ることにした。 自分の決断を鈍らせないために。 自分への戒めのために。 ____ 裏切ったのはあたしなのだと。 別れを告げてからの行動は早かった。 あいつからもらった通信手段は全て処分し、卒業と同時に母親の祖母が昔住んでいたという地方に移り住んだ。そこは同じ時間が流れているのだろうかと思えるほど全てがゆったりとしていて、外部から来た人間が簡単に仕事を見つけられるようなところではなかった。 そんな中で見つけたのが町の外れにある小さなビジネスホテル。 こんなところで集客が見込めるんだろうか? と思ったけれど、簡単に見つからないからこそ需要があるんだとか。言われてみればそれもそうだと妙に納得し、駄目元で雇ってもらえないかと頭を下げに行った。 そこの支配人は70代のとても物腰の柔らかい男性だった。 高校を出たばかりの土地勘のない女が必死に頭を下げる姿に驚いていたけれど、彼は多くを聞かずして採用してくれた。自分で行っておきながら驚いたのが正直なところだったけれど、生きていく道を見つけられたことに心の底から感謝した。 それからはがむしゃらに働いた。 もしかしたらいつかあいつがここに現れるかもしれない・・・ そんな自惚れたことを考えてしまう暇すらないほどに、ただひたすらに。 何の刺激もない同じ事の繰り返しの毎日だったけれど、のどかな風景と緩やかに流れていく時間は、あたしにとって何にも代えがたいものだった。 ・・・はずなのに。 『 つくしちゃん、悪いんだけど系列のホテルが人手を求めてるんだ。勤務態度が真面目でこの仕事への理解が高い人って言われてね。うちからはつくしちゃんしか思いつかなかったんだよ 』 3ヶ月前に突如告げられた異動はまさに青天の霹靂。 ・・・系列って何? こんな田舎の片隅にある小さなホテルに系列も何もないでしょう?! 後にも先にもこのホテルの名前なんてここでしか見たことないんですけど! 『 本当ならこのままうちに残って欲しいんだけどね。でも私も恩義があるから。つくしちゃんならどこでも立派にやっていけるから大丈夫。頑張って!! 』 唖然とするあたしにガッツポーズを作って送り出した支配人。 何がなんだかわけがわからないままのあたしを更に驚愕させたのは・・・ その目的地に着いてからのことだった。 「・・・よぉ、久しぶりだな」 「・・・・・・・・・え・・・?」 呆然と立ち尽くすあたしに、目の前の長身の男が何でもないことのように口を開いた。 「つーかお前ここで働いてたのかよ。一体いつの間に?」 「・・・・・・・」 何一つ反応すらできないあたしに、「ま、別にいつからだっていーんだけどな」 と呆れたように笑う。 ・・・なんで? どうして? あたしは、あたしは・・・ 「司さん? どうなさったんですか?」 ふと聞こえてきた声にハッとする。 見れば大きな体に隠れるようにして綺麗な女性が立っていた。最初からそこにいたのか、不思議そうにこちらのやりとりを見つめている。 「あぁ・・・いえ、ちょっと昔の知り合いに偶然会いまして」 「そうなんですか。はじめまして」 「あ・・・」 ニコッと微笑みかける女性にすらまともに反応を返せない。 自分でも今どんな顔をしているのか、どんなことを口にしているのか、そんなことすらわからない。 「じゃあな」 「あ・・・」 そんなあたしの様子など気にも留めず、7年ぶりに見た男はサラリとその場から離れて行ってしまった。いかにもお嬢様と言わんばかりの美しい女性もペコリと会釈すると、彼を追いかけるようにして後についていく。 そのあまりにも絵になる姿を、あたしはただただ突っ立ったままで見ていることしかできなかった。
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by: * 2016/05/27 00:18 * [ 編集 ] | page top
--k※※hi様--
ふふふ、気になる展開が故に0時の呪縛にかかりましたね?( ̄ー ̄) 本日も「ハテナ」がたくさん。 あら不思議、読めば読むほど「なんで?」がいっぱい。 ウエールカーム ミヤトモ、ザ・ワールドォ~!!ヾ( ̄∇ ̄)ノ やっぱりね、私真性のドSなのかもしれません。だって皆さんのこの反応が堪らないんですもの。 とはいえお話は真剣に考えてますからね。最後の最後までドキドキを楽しんでくださいませ! --LO※※つこし様<拍手コメントお礼>--
ね、いかにもつくしらしい選択ですよね。 あ~もう!と言いたくなるけれど、これが牧野つくしなんですよねぇ・・・ まだまだわからないことがたくさん。目が離せません! --po※※zuku様<拍手コメントお礼>--
とっても切ないですよねぇ(ノД`) っていうか久しぶりなのにシリアス路線でごめんなさい(笑) でもネタ神様のお導きにより生まれた話なので是非最後まで見守ってやってください! --管理人のみ閲覧できます--
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長らくお待たせを致しました~m(__)m ふふっ、我慢できずに覗いてしまいましたか? それはズバリ!「みやとも病」に感染している何よりの証拠。 この病気、一度罹患するとwin10のように延々と繁殖を続けていきますのでご注意を。 とっても気になる終わり方でしょうが・・・ふふふ、もうしばしの辛抱をば( ̄ー ̄) --委員長殿--
イインチョ~!!(*´>ω<))ω`●)むぎゅ 変態化面、ここに帰還でごわす。 いや~、今回はほんとにやばかったです。やる気ミニマムどころか消滅の危機(笑) 戻って来たかと思えば雲行きの怪しい展開( ̄∇ ̄) 皆逃げないでぇ~~!! そしてほんと、舐めたらあか~ん。舐めたらアカ~ン。 人生舐めずにどれ舐めればいい?!ってくらいに咳はしんどいっす。 歌ってる場合じゃねがっだっす!! --ke※※ki様--
ふへへ、いかにもありそうな展開に悶々中ですか? しかも坊ちゃん女を連れてますからねぇ~。 きっと皆さんの心中穏やかでないことでしょう。 え?神ネタオチですか? いや~、そりゃ無理っす!せめて紙ネタくらいなら・・・ペラッペラの・・・( ̄∇ ̄) --翔様--
ふふっ、色々予想して当たるのも外れるのもまた楽しみの1つですよね。 話は進んだもののまだまだわからないことだらけ。 皆さんがどっぷりみやともワールドに落ちていくのがカ・イ・カ・ン(* ̄∇ ̄*)ポッ そうそう、あれはダチョウさんだったんですよ~。 うっすらでも見覚え(聞き覚え)ないですかね? --さと※※ん様--
いかにもつくしっぽい!って感じですよね。 この子、大事なところで逃走癖があるから・・・( ̄∇ ̄)コマッタチャン うんうん、もらった大金の行方も気になりますよね。その辺りもまたいずれ( ̄m ̄) そしてあっさり塩味の司クン。今のところ糖質0という何とも健康的な展開になっております。 え?腹が立つからカンチョーしてやれって?そしてどっちにするかって? そうですねぇ、私なら敢えてーのつくしとか? ほら、自分にカンチョーして「ギャー!!」な悲劇を迎えたところで司の気を引くとか? ・・・・・・・・・押忍ッ!! --in※※ino様--
はじめまして。コメント有難うございます! 1年も当サイトを楽しんでくださってるんですね。嬉しいです^^ そしてご心配をおかけしましたm(__)m これまで結構な数の作品を作ってきたのもあって、今回はほんとにやる気スイッチが入らず・・・。自分でももしかしたらこのままなんてこともあるのかもなんて思ったのですが、やっぱり私は花男が好きみたいです(笑) こうして皆さんに喜んでもらえてパワーをいただいてます! 少しでも原作の世界に近づけられたらいいなぁと思いながら書いてますので、皆さんにも楽しんでもらえたら嬉しいです。マイペースにはなりますが、これからもよろしくお願いします(o^^o) |
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