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さよならの向こう側 5
2016 / 05 / 30 ( Mon )
「ど、みょじっ・・・! ねぇっ、ちょっ・・・まって・・・!」

はぁはぁと息を切らすほどに凄いスピードで手を引いていく司に、つくしは足を絡ませながら必死についていく。というよりももはや引き摺られている構図だ。
司はきつく手を握りしめたまま、決して離そうとはしないのだから。

だが騒然としていた会場を出てから、2人きりのエレベーターの中でも、彼はさきほどからは一転、真顔のまま何一つ言葉を発することはなかった。それどころかつくしを見ようともしない。
ただ真っ直ぐに前を向いたまま、ひたすら無言を貫いている。
その変わり身に、さっきのことは全て夢だったのではないかと混乱していくばかりだ。

「ねぇっ、一体どこにっ・・・!」

最上階に辿り着くと、司は質問に答えることなく再び強く手を引いて歩いて行く。やがて1つの部屋の前・・・ロイヤルスイートまでやって来ると、ポケットに忍ばせていたカードキーを差し込んで一気に扉を開けた。

「どうみょっ・・・んんっ!」

強引に押し込まれると同時に言葉ごと唇を塞がれた。
突然のことに体が無意識に相手を押し返そうと動くが、後頭部と背中に回された大きな手がそれを許してはくれない。すぐにドンッと音をたてて背中が扉にぶつかる。

「・・・はっ・・・んっ・・・!」

息苦しさに何とか息を吸い込もうとすると、すかさず開いた唇の隙間から生温い感触が侵入してきた。すぐにつくしの舌を捉えると、離さないとばかりに激しく絡みついてくる。
その動きに合わせるようにして、つくしの鼻孔をあの懐かしいコロンの香りがくすぐった。

道明寺だ・・・
本物の・・・道明寺が、ここにいる・・・

自分が触れているのは紛れもない道明寺司だと、これは夢じゃないのだと認識すると、勝手に目元がじわりと滲んでいく。キュッと噛みしめるように瞳を閉じると、つくしは司の首に両手を回して、激流に翻弄されるようにそのまま自分の身を委ねた。



「はぁっはぁっはぁっはぁっ・・・」

それから何分が経ったのか。
ようやく唇が離れていったときにはいつの間にか2人して扉を背にして座り込んでいた。
互いの唇が真っ赤に腫れて濡れている。
司はそんなつくしの唇を親指でなぞると、そのまま頬を伝う涙をゆっくりと拭った。

「ど・・・して・・・?」
「何がだよ」
「だって、あたしは、あたしはっ・・・! ・・・怒って、たんじゃ・・・」

やっとの事で口にした言葉は情けないほどに途切れ途切れだ。

「あぁ、怒ってるさ。腸が煮えくり返りそうなほどにな。肝心な時にお前はいつだって1人で勝手に決めて逃げやがる」
「 ・・・っ 」
「けどな、あの状況下でお前に何を言ったところで安心なんてさせてやれねーっつーのもわかってたんだよ。実際先が見通せないほどの状況だったし、死ぬ気で突き進んで来てもそれでも6年もかかっちまったんだから」
「・・・・・・」

彼は怒っているようで、まるで懺悔をしているようにも見える。
そのあまりにも真剣な眼差しから目を離すことが出来ない。

「7年前、俺は道明寺の人間として生きていくことを決めた。その上でお前に我慢させると決めた以上は逃げるわけにはいかねぇんだよ。たとえお前をどれだけ待たせることになろうとも」
「・・・っ」
「さっきも言っただろ。納得してもらえねぇなら納得させるまでだって。あの時何をどう言ったってお前を安心させることなんて不可能だった。だったら俺がすべきことは何だ? 死ぬ気で前を向いて突き進むだけだろうが。・・・お前を迎えに来るために」
「ど、みょじ・・・」

止まっていたはずの涙が、ボロボロと堰を切ったように溢れ出す。

「できない説得に時間を割くくらいなら、1日でも、1秒でも早くお前を迎えに行くために死ぬ気で働いた。別れたところでお前が俺のことを忘れられるはずがねーし、そもそも俺は別れたつもりなんて微塵もねぇしな」
「えっ・・・?」

驚きに目を見開くつくしに、司がフンと鼻を鳴らす。

「ったりめーだろ。何があろうと俺がお前を手放すわけがねーだろうが。お前はんなこともわかんねーのかよ」
「たっ!」

ベシッとおでこを叩かれて思わず両手で押さえた。

「何を言っても無駄ならお前の好きにさせようと思った。・・・もちろん、俺という檻の中でな」
「え・・・?」
「お前の動向なんて全て把握してるに決まってんだろ」
「・・・! それって・・・」
「あぁ。お前がどこに住んでどこで働いて、どんな生活をしてたかなんて全部お見通しだ」
「っ、じゃあ、あのホテルがここの系列だったのは・・・」

まさか、まさか・・・?!

「当然俺が買収したに決まってんだろ」
「・・・!」

ニヤリと口角を上げた男に言葉も出ない。

「つってもあのホテルは相当経営難に陥ってたみたいだからな。こっちからの申し出はむしろ渡りに船って感じであのじじぃ、泣いて喜んでたぞ」
「・・・・・・」

確かに。年々そんな気配は感じていた。
けれど・・・

「だっ、て・・・ここで再会したときも、それから何度顔を合わせても、全然・・・」

あの時の苦しさを思い出すだけでも涙が込み上げてきてしまう。
それほどに自分に無関心な司が辛かった。たとえ自業自得なのだとしても。

「全ては今日でって決めてたからな。クソ真面目で融通の利かねーひねくれ女を手に入れるためには、寸分のぬかりも許されねーんだよ。舞台を完璧に整えた上でお前を迎えに来る。それはお前と最後に話した日からずっと決めてたことだ。それに、中途半端にお前に接触して、俺の気持ちが抑えられる自信がなかったからな」

嫌われたわけじゃ・・・なかった・・・?
怒る価値もないほどどうでもいい存在になったわけじゃ・・・

「あとはあれだな。また勝手に暴走したお前に対する意趣返しっつーのもあったけどな」
「 !! 」
「どうだ、一方的になかったことにされた俺の気持ちが少しはわかったか」
「 ____っ 」

そんなのわかりすぎるほどわかってる。
自分がどれだけ勝手だったのかも、どれだけ酷い女だったのかも。

司は唇を噛みしめて涙を堪えるつくしの顔を両手で包み込むと、互いの吐息がかかるほどの距離で真っ直ぐに見つめた。

「いいか。金輪際、二度と俺から離れようだなんて思うな」
「___ でも、でもっ・・・! あたしはあんたにあんな酷いことをっ・・・」
「ババァが何をしたのかも、お前がどんな想いでそれを決断したのかも全てわかってる」
「でもっ! あたしはあんたのお母さんからお金をっ・・・」
「どうせびた一文も使っちゃいねーんだろ? 端っから使う気もなければ、貸金庫あたりに保管してほとぼりが冷めた頃にひっそりと返すつもりだったんだろうが」
「・・・!」

ズバリ言い当てられて目を丸くするつくしに、司がフッと不敵に微笑んだ。

「俺を誰だと思ってんだ? 天下の道明寺司だぞ。好きな女の考えることなんて全部お見通しなんだよ」
「でも・・・でもっ、んっ・・・!」

それでも何かを言おうとするつくしの口が塞がれた。
唇が触れるだけで勝手に涙が流れ出してしまう。
何度も裏切ったあたしにはこうしている資格なんてないのに。
・・・それなのに、このまま離れたくないだなんて。
そんなことが許されるはずがないのに・・・

「はぁっ・・・」

すっかり力の抜け落ちてしまったつくしの体がギュッと大きな温もりに包まれる。

「牧野、結婚するぞ」
「 ____ 」
「さっきも言ったがお前に選択権はねぇ。これは確定事項だ。お前のすべきことはここに署名するだけ」
「でもっ・・・!」

ガッと両手で肩を掴むと、司はもう一度真っ正面からつくしを見据えた。

「いいか。俺に対して申し訳ないとか自分にそんな資格はねぇだなんて罪悪感を感じるんなら、お前は一生俺から離れるな。俺の傍にいてずっと笑ってろ。それがお前が俺にできる唯一の償いだ」
「ど・・・みょ、じ・・・」

どうして、どうして・・・

「俺にはお前しかいねぇように、お前にだって俺しかいねぇだろ? だったら迷わず俺についてこい」

どうして、あんたって男はいつも・・・

「牧野、返事は」
「・・・・・・・・・いい、の? こんな勝手なあたしを許して、ほんとに・・・」
「これ以上ゴチャゴチャと難しいことを考えんな。簡単な話だ。お前は俺のことが好きか?」

どうして強い口調とは裏腹にそんなに優しい顔をするの。
どうしていつもいつもあんたはそうやってあたしを許してしまうの。
こんなに弱くてずるくいあたしを。
俺が好きかって?
そんなの、答えなんて1つしかないに決まってる。
あの日あんたに別れを告げた日から、ずっと。

もう恋なんてしないと誓った。
たとえ共に歩めなくとも、あたしが愛し続けるのはこの世界にただ1人。



「 す、き・・・頭がおかしくなりそうなほどに、あんたのことが、好きっ・・・! 」



6年間ずっと胸の奥に厳重に鍵をかけ続けてきた想いを口にした瞬間、ぼろっと大粒の涙が零れた。

「だったらいい加減運命を受け入れろ。俺たちは何があっても離れられない運命なんだよ」
「ど、みょうじ・・・」
「返事は?」
「えっ?」
「ここに署名するよな? つーか、しろ」

そう言って胸のポケットをトンッと示したあいつの笑顔が、頑なだったあたしの心の鎖をはらりと解かしていくのがわかった。


「・・・うん。もう、迷わない。一生あんたについていく。傷つけた分も全部ひっくるめて、あんたを幸せにしてみせる」
「フッ、言ったな? ぜってーに有言実行してもらうから覚悟しておけよ」
「グズッ、そっちこそ覚悟しておきなさいよ? 我慢してた分あたしの気持ちは重いんだかっ・・・!」

言い切る前にボフッと凄まじい力で引き寄せられると、「そんなんお互い様だ。受けて立ってやるよ」と耳元で聞こえた。


その世界で一番優しい囁きに、あたしの涙腺は崩壊してしまって。
苦しいほどにあたしを抱きしめるその腕の強さが嬉しくて。

・・・幸せ過ぎて。




7年の空白を埋めるように、あたしたちはただひたすらに抱きしめ合った _____





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本当は5話で終わらせるつもりだったのですが、皆さんの反響を受けてもう少しだけ掘り下げ1話増やすことにしました^^
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コメント
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by: * 2016/05/30 00:26 * [ 編集 ] | page top
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by: * 2016/05/30 00:33 * [ 編集 ] | page top
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by: * 2016/05/30 01:02 * [ 編集 ] | page top
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by: * 2016/05/30 01:28 * [ 編集 ] | page top
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by: * 2016/05/30 01:31 * [ 編集 ] | page top
--(T-T)よがった!--

素晴らしい!どんなに逃げても一途に追いかける司が好き!まだまだ読みたい!(*≧∀≦*)
素敵な小説を書く宮様にLOVEですヽ(^○^)ノ
by: エミ * 2016/05/30 02:12 * URL [ 編集 ] | page top
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by: * 2016/05/30 06:04 * [ 編集 ] | page top
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by: * 2016/05/30 12:49 * [ 編集 ] | page top
--ち※※ち様<拍手コメントお礼>--

悲しい涙から嬉し涙へ。
皆さんにハッピーがお届けできたら嬉しいなぁ(*´∀`*)
by: みやとも * 2016/05/31 15:15 * URL [ 編集 ] | page top
--LU※※(坊ちゃん溺愛)様<拍手コメントお礼>--

がっつり物語にのめり込んでくださってますね?(笑)
いやー、とっても嬉しいですね。世は満足じゃ!( ̄^ ̄)クルシュウナイ!
いつだって我が家の坊は決めるときはカッチョ良くやってくれまっせ!!
by: みやとも * 2016/05/31 15:17 * URL [ 編集 ] | page top
--ま※※ん様--

司は司でつくしが別れを選んだことを真剣に受け止めていたんですよね、きっと。
当然彼は手放す気はない(笑)
けど、つくしを納得させるだけの決め手がその時にはなかった。
だからこそ並並ならぬ決意をもっていつか迎えに行くことを固く誓ったのでしょう。
再会してから本当はつくしちゃんとイチャイチャしたかったんだろうな( ´艸`)
by: みやとも * 2016/05/31 15:20 * URL [ 編集 ] | page top
--み※こ様<拍手コメントお礼>--

これこそが私の思い描くつかつくワールドなんですが・・・
それが皆さんに少しでも共感してもらえたのなら嬉しいです~(*^^*)
by: みやとも * 2016/05/31 15:21 * URL [ 編集 ] | page top
--ひろ※※ん様--

前半はしんどかったことと思います。でもそんなことも吹き飛ぶくらいのハッピーをお届けできたのでは?と思ってます。(というかそう言って~!笑)
うんうん、私もこうして書くことで現実逃避してますよ~。
今後もリアルで冴えない女の妄想爆発で邁進してまいります♪
by: みやとも * 2016/05/31 15:24 * URL [ 編集 ] | page top
--黒髪の※※子様--

わーお、そんな嬉しいお褒めの言葉を有難うございます!
今回は「泣いたー!!」って方が多くて。
前半は辛い涙、後半は幸せの涙を味わっていただけたかなぁと恐縮ながら思ってます。
それくらいどっぷり物語に入り込んでもらえることは本当に書き手にとっては嬉しいことです。
前半はしんどい展開でしたからね。これからは思う存分イチャコラしてもらいましょうか♪(≧∀≦)
by: みやとも * 2016/05/31 15:26 * URL [ 編集 ] | page top
--あ※※ま様--

あららっ?この回はまだ最終回ではないんですが・・・(^◇^;)
ハッピーオーラに満ちてきたので終わりっぽいですよね。
既にご覧になってるかもしれませんが本日がラストとなりますのでどうぞチェックしてみてくださいね♪
by: みやとも * 2016/05/31 18:20 * URL [ 編集 ] | page top
--ゆき※※ぎ様<拍手コメントお礼>--

ね~、離れてる間はともかく、帰国してからの4ヶ月よく耐えましたよね。
デレデレしたいのを耐えまくってたんだと思いますよ(笑)
by: みやとも * 2016/05/31 18:22 * URL [ 編集 ] | page top
--エ※様--

よがっだ!じゃなくてえがっだ!ですよっ(≧∀≦)
だから~、宮様は照れるってばさ~~(〃▽〃)でれぇ~
俺様一途司、最強です!
by: みやとも * 2016/05/31 18:24 * URL [ 編集 ] | page top
--k※※hi様--

あらっ?あんだけお尻ペンペンされておきながらまた朝チェックですかい?
こらーーーーーーっ!!!!(`Д´)
そんな気の抜けたことしてたら・・・不幸の手紙が届いちゃうよ?( ̄ー ̄)
司、かっけーっす!いいなぁつくし。
っていうか腹立つわ~(笑)
by: みやとも * 2016/05/31 18:27 * URL [ 編集 ] | page top
--m※※o様<拍手コメントお礼>--

どん底からの大どんでん返しですからね。
皆さんの気持ちも無重力なみに急浮上だったことと思います♪
by: みやとも * 2016/05/31 18:29 * URL [ 編集 ] | page top
--ke※※ki様--

一気読みももちろんいいですけどね~。(私もどちらかといえばそっち派ですし(^_^;))
でも今回はコツコツと1話ずつ読まれた人の方がより気持ちがアップアップ↑したんじゃないかな~と思ってます。それこそが狙いで書いた話でもありますし、皆さんにどっぷりはまり込んでもらえて頑張って書いた甲斐があったな~としみじみと感じています。
司は道明寺の人間として生きていくことを決めた時点でかなり大人になった気がするんですよね。
その決意があったからこそ7年も我慢できたんだろうなって。
とはいえしっかり俺様の檻の中で放し飼いはしてましたけど(笑)
by: みやとも * 2016/05/31 18:33 * URL [ 編集 ] | page top
--he※※akim様<拍手コメントお礼>--

うんうん、いかにも2人らしい会話ですよね。
ぶれない司に揺れながらも次第に素直になっていくつくし。鉄板ですね♪
気分爽快になっていただけたようで何よりです(*^^*)
by: みやとも * 2016/05/31 18:37 * URL [ 編集 ] | page top
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