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SPLASH! 1
2016 / 09 / 02 ( Fri )
「あぁ、今更ながら失敗したかも…」

がっくりと脱力した体を扉に預けながら盛大な溜め息が出た。

本当に。
今更も今更なんだけど。
言い出しっぺはお前のくせに何言ってんだって話なんだけども。

ども。
でも。
でもっっっ!!

「水着のことすっかり忘れてたんだもん~~!!」

どうにもならないとわかっていてもオ~イオイと壁に縋り付いてしまう。
我ながら往生際の悪さはピカイチだ。
この世にそんな人間だけが参加できるオリンピックがあるならば、1000%あたしが金メダルを獲得できるだろうってくらいに。

「おい牧野、まだなのかよ」
「ひっ…! ど、道明寺…? あんたどこにいんのよっ?!」

思いの外至近距離から聞こえた声に我が耳を疑ってギョッとする。

「あぁ? お前があまりにもおせーから心配して来たんだろうが」
「そんなこと言ったって、ここ、女子更衣室…!」
「中には入ってねーし外から声掛けてるだけなんだから問題ねーだろ」
「そういう問題っ?! ありまくりだからっ!」
「つーかお前がおせぇのが問題なんだろうが。着替えに行ってどんだけ経ったと思ってんだよ? いい加減出てきやがれ」
「うっ…!」
「これ以上待たされんなら俺は中に踏み込んだって構わねーんだぜ?」
「ヒィっ?! だっ、ダメダメダメ! それだけはずぇっっっったいにダメっ!!!」
「だったら今すぐ出てこい」
「うぅ゛っ…!」

万事休す。
ヘビに睨まれたカエル。
俺様に睨まれた牧野つくし。
悪あがき金メダリストの粘りももはやこれまでということか。

ハァッと最後にこれまでで一番大きな溜め息を吐き出すと、意を決したようにグッと全身に力を込めて思いっきり目の前の扉を押し出した。

バァンッ!!

「うぉわっ?!」
「あ。ごめん」
「ごめんじゃねーよ! っぶねーだろうが!」
「だってここまで近くにいるとは思わなかったんだもん。っていうか! たまたま今はあたししかいなかったからいいけど、他にも着替えてる人がいたら大騒ぎになってるんだからね?!」
「知るかよ。お前が散々待たせんのが悪ぃんだろうが。…つーかなんだよ、それ」
「え?」

低く響いた声に顔を上げると、目の前の男は明らかに不機嫌そうな色を滲ませていて。
…けれど、あたしが今釘付けになってしまうのはその顔ではなくて ___

「…お前何赤くなってんだよ」
「へっ? な、なってない! なななななってないからっ!!」
「どもりすぎだろ。…ははーん、さてはお前俺の体に見惚れてんな?」
「はえっ?! ちっ、違う違う違うっ!! 自惚れすぎっ!!」
「へー、そうかよ。じゃあこんなことしても大丈夫だよなぁ?」
「ぎえぇっ?!」

何の前触れもなくぴたりと密着してきた体から直に熱が伝わってくる。
それもそのはず。この男は今上半身裸なのだから。
身長差があるせいで顔の前にあるのは逞しい胸板。
くっついてる、がっつりくっついてるからぁっ!!

道明寺がこんな格好なのは実は露出狂だったから ____
と言うわけではなく。
あたし達がいるのが海水浴場…とどのつまり海へ来ているからだ。


ことの始まりは一週間前。
このところ道明寺の仕事が忙しく、予定がドタキャンされること数回。いくらド庶民のあたしだってあいつの立場をそれなりに理解してるつもりだし、そんなことが重なっても仕方ないってちゃんと納得してる。だからそれに対して文句を言ったこともない。

でも。でもさ!!
だからってアポなし突撃されても困るって話なわけよ!

『 わざわざ会いに来てやったんだからもっと嬉しそうにしやがれ 』

なんて言われながらほぼ真夜中に叩き起こされちゃあたまったもんじゃないっつーの!
ドタキャンした埋め合わせに時間作ってやったぜ、なんて。丑三つ時にドヤ顔で言われて喜ぶ人間なんてこの世に存在するのか?!
あたしがそのことに不満を訴えればあいつはあいつでめちゃくちゃふてくされてるし。

『 俺は俺なりにお前にわりーと思って会いに来てんだよ。お前は俺に会えなくて寂しくねーのかよ? 』

なーんてほとんどいじけた子どもみたいな顔で言うなんてずるくないか?
結局それ以上は強く言えなくてまんまと丸め込まれるあたしも大概だと思うけどさ。
それでもとりあえず平日深夜のアポなし訪問だけは勘弁してもらう約束を取り付けた。

とはいえあいつの中ではやっぱりここのところのドタキャン続きを本気で悪いと思っているらしく、次の休みの時には何でも好きなことをさせてやるからと、行きたいところ、やりたいことを全部言えと言われた。そんなこと気にしなくていいし、そもそもいきなり言われたところで何も思いつかないからって断ったのに…それじゃ俺の気が済まねぇとか散々粘られて。
っていうか悪いと思ってるならあんたこそこっちの言うこと聞けよ! って話なんだけどさ。そこはまぁ道明寺という男ですから。そこから先は言わずもがななわけで…

で、散々悩みに悩んでふと思いついたのが海だったのだ。
正確に言えば海の家。もっとザックリ言えば庶民デートがしたかった。
これまでも何回か庶民デートに付き合ってもらったことはあるけど、ほとんど無理矢理みたいなものだったし、しかもなんだかんだでどこかにセレブ風を紛れ込ませられたのが実際のところで。
何でも聞いてやるっていうこのチャンスを生かさない手はない! そう結論づけたのだ。

当然あいつが一般的な海水浴場に行ったことがあるはずもなく、ましてや海の家なんて論外。あの男が人でごった返す浜辺で庶民の味方の焼きそばを頬張る…そんな姿を想像するだけでニヤニヤが止まらなくて。
すこぶる嫌そうな顔をされたけど、そんなのはガン無視。
むしろ 「男に二言はないよね?」 と痛いところをついて今日の約束を取り付けてやった。

ところまでは良かった。
…のだけど!!!

「今更これくらいのことで赤くなってんじゃねーよ」
「だだだから赤くなってなんかないってばっ!!」
「アホか。どっからどう見てもタコだろ」
「えぇい、うるさいうるさいっ! っていうか密着しないでよっ! 動けないじゃん!」
「あ? 動けんだろ。こうして肩を抱いてりゃ何の問題もねぇし」
「ぎゃ~~っ! さらに密着しないでってっば!」


そう。あたしはすっかり忘れていたのだ。
夏と言えば・・・
海と言えば・・・




水着だってことに!!




 
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何やら司君と海へとやって来た様子のつくしちゃん。さて、この後どんなドタバタラブラブが待っているのやら…? ちなみに司が帰国した年(4年後)の夏という設定です。
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