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SPLASH ! 2
2016 / 09 / 03 ( Sat )
完全に海の家&焼きそばしか思い浮かんでなかった自分を本気でバカだと思う。
思えば最初はあんなに嫌がってたあいつが、気が付けばめちゃくちゃ乗り気になってたことをもっと疑問に感じなきゃだったのだ。滋達に意気揚々とあいつの海の家デビューを話して、

『 じゃあ悩殺水着で司を鼻血ブーにさせなきゃねっ♪ 』

なんて満面の笑みで言われる瞬間まで、ほんとの本気で水着のことなんて頭の片隅にも入っちゃいなかった。どこまで間抜けなんだあたしって奴は…

「つーかお前なんだよその格好」
「え?」
「海に来たいっつったのはお前だろうが。なのになんでんな格好してんだよ」

がっしりと掴まれた肩はどうやっても離してもらえそうにない。半分諦めながら恨めしげに顔を上げれば、道明寺が見ているのはあたしの胸元。
…というよりそこに存在しているものだろう。
さっきから露骨に見せてくる不服そうな顔の原因は間違いなくこれだ。

「別に何もおかしくないよ? これだってれっきとした水着の一種なんだからね?」
「バカ言え。んな水着あるかよ」
「あるんだってば! ラッシュガードって言ってね、日焼けからもクラゲからも体を守ってくれるありがたーい存在なんだから。進化ってすごいよね~、昔はこんなものなかっ…」
「ざけんなっ! こんなもんがあったらわざわざここに来た意味がねーだろうがっ!!」
「ぎゃーーーーーーっ!!!!」

言葉を遮るように伸びてきた手が掴んだのは上着のジッパー。
何を? と考える前にはジャーッと小気味いい音をたててそれが引き下ろされていた。
直後、観音開きの如くパカッと胸元が解放される。
あたしは仏様かっ!!

「 ______ ?! なっ、おまっ、なっ…?!」 

その一部始終をニヤニヤと得意気に見ていた道明寺の顔が…
一瞬にして驚愕したものへと変わった。

「きゃーーーっ!! バカバカバカッ! アホッ! ドスケベっ! ドヘンタイっ!!!!」
「う、うるせぇっ!! 海に来たなら水着を見るのが男のロマンに決まってんだろうがっ!!」
「そんなロマンなんて知らないよ! ロマンと言えばバスロマンでしょうがっ!」
「んなもん知るかっ! つーかお前、なんなんだよその水 ___ 」

ジャリッ…

その時、背後から誰かの気配がした。
ハッと振り向くよりも先に、あたしの体は大きな体の中へとギュウギュウに閉じ込められた。
それはまるで覆い隠すかのように。

「あ…」
「…見てんじゃねーぞ」
「ひっ…! す、すみませんでしたぁっ!!」

ただ偶然更衣室の前を通りかかっただけの男性は、猛獣に遭遇した小動物のように瞬く間に逃げて出してしまった。あたしからは見えなかったけど、一体どんだけ恐ろしい形相してたってのよ。

「っていうかここはあんたの所有地じゃないでしょうが…」
「あぁ? じゃあお前はんな格好見られてよかったつーのかよ」
「っ!! ぎゃあっ!!!」

ぱっと目の前の体が離れた途端視界に映った自分の上半身に思わずその場にしゃがみ込んだ。鏡で見なくともわかる。今全身が茹でダコになってるってことが。
死にそうなくらい恥ずかしいあたしの頭上からこれまた盛大な溜め息が降ってきた。

「はぁ~っ…、つーかお前、その水着はなんなんだよ…」

そう言いながら同じ目線にしゃがみ込んだ道明寺の顔は怒ってるというより困ってる。

「う…うるさいっ! あたしだって好きでこんな水着着てるんじゃないわよっ!」
「お前が持って来たんだろうが」
「違うっ!! あたしが準備してたのはもっと普通のスポーツタイプだったのっ! それなのに、いざここで鞄を開けてみたら…」

見た瞬間我が目を疑った。
それもそうだろう。だって、夕べ確かに確認したはずの水着はどこにも存在せず、その代わりに鎮座していたのは信じられない程面積の少ないイケイケビキニだったんだから。
よく漫画なんかで描かれる貝殻ビキニみたいな感じ。アホかっ!!

『 や、やられたっ…! 』

滋の奴にまんまと謀られたっ!!
一緒に水着を買おうとしつこいほど誘われたけれど、滋なんかと選んだ日にゃあどんな恐ろしいものを着せられるかわかったもんじゃない。断固として拒否して今日という日を迎えたのに…
昨日いきなりうちに突撃して来たかと思えば、夕ご飯まで食べてパパやママと話に花を咲かせてたのはこれが目的だったんだ…! クッソー、簡単に娘を売る親ってのもどうなってんのよ?!

そもそもこういう水着はボンキュッボーンのお色気全開の人がやるからこそその効果を発揮するのであって、あたしみたいな貧相な体の人間がやったところでその虚しさを強調するだけで…
ってそんなことはどーでもいいんじゃい!
とにもかくにも、日焼け対策にラッシュガードを入れておいたのがせめてもの救いだった。

「と、とにかく! あたしにとってもこれは事故みたいなものなの! だから上着を…ひぃっ!」

急いで上げようとファスナーに触れた両手をガシッと掴まれて体が跳ねる。驚いて顔を上げれば、さっきまでやや困惑気味だったはずの道明寺がいつの間にかまた笑っていて…
その妖しく光る瞳とぶつかった瞬間、ゾクッと背中から震えが走った。

「ど、どうみょ…」
「最初はびびったけど悪くねーな」
「…はっ?」
「似合ってんじゃん」
「…へっ?! って、ぎゃあっ!!」

驚きに目を見開くあたしにニヤリと口角を上げると、突如掴まれていた両手がそのまま背後の扉へと縫い付けられた。胸骨がカパッと開く感覚を覚えると同時に、心許ない上半身がまざまざと目の前の男に晒される。

「ぎゃ~~~っ!! 何やってんのよっ?! ヘンタイっ! ドヘンタイっ!! 痴漢~~っ!!」
「バーカ。俺はヘンタイでも痴漢でもねぇ。お前の男だろうが」
「だからっていきなり何してくれてんのよっ! いいから離しなさいよぉっ!!」
「やだね。最初見た時は正直驚いたけど…滋もなかなかいい仕事すんな」
「アホーっ!! これのどこがいい仕事なのよっ!!」

ジッタンバッタン藻掻けど足掻けどこの男の手はピクリともしない。
決して痛くはないのに、おかしなほどに自分の手を動かすことができない。
おまけに足の間に片足を入れられてはどうにもこうにも万事休すだ。

「ちょっ…な、何? 何するつもり…?」
「んー? まぁちょっとな」
「ひっ…! う、嘘でしょ? ま、待って、ちょっ、まっ…あっ…!」

不敵な笑みを浮かべた男の顔がじりじりと近づいてきたかと思うと、自分よりも上にあったはずのそれが突如目線の下へと移動した。
と同時にこともあろうか剥き出しになった胸元に触れた。
___ 熱い唇が。

「ちょっ、道明寺っ!! こんなところでやめてっ!!」
「……」

必死のお願いも虚しく、チュッチュと音をたてて控えめな谷間を熱の塊が移動していく。
嘘でしょ? 嘘でしょ? 嘘でしょ?!
ここ海だから。更衣室の前だから。ここ日本だから。
って、あーもうっ、自分でも何言ってるかわけわかんないよっ!!

ありえないくらいにバックンバックン心臓が暴れてる。
やばい、死ぬ。
このままだったら確実に死ぬ。
恥ずかしいとかそんなこと以前に…死ぬ。

「ねぇっ道明寺っ! お願いだから変な気起こさな ____ イタっ?!」

それまで怪しく胸元を這っていた唇がピタリと止まると、次の瞬間チクッと刺すような痛みが走った。突然のことに何が起こったのか全く理解できない。

「な、な、に…?」

呆然とするあたしの前に再び道明寺の顔が戻って来ると、何故だかこの男はすこぶる機嫌が良さそうだ。そのままチラッと胸元に目線を送ると、

「マーキング完了」

そう言って実に満足げに笑って見せた。

「へ…?」

マーキング…?

「まぁ確かに考えてみりゃあどんな水着だろうと他のヤローがいる前で見せるもんじゃねーよな。そういう意味じゃあこの上着も無駄じゃなかったな」

いまだ状況が理解できないあたしをよそに道明寺は1人ペラペラと喋り続けている。
やがてチーッという音と共に上着が元の状態に戻されると、気が抜けた状態のあたしを覗き込むように端正な顔が近づいて来た。

「…ま、中身は後で2人っきりの時にゆっくり見てやっから。とりあえず今はこれで我慢な」
「………」

…は?
中身? 後で? ゆっくり見てやる?
っていうかマーキングって何?
なに……

「ぎゃあああああっ!!!」
「お前うるせーよ。鼓膜破れんだろうが」
「だっ、どっ、なっ…!!」
「何言ってっかわかんねーよ。ほら、いい加減行くぞ」
「……! …! ……!!!」

言葉にならない言葉を発するあたしの肩をグイッと引き寄せると、道明寺は足取り軽く浜辺へと歩き出した。

「ったく、お前は相変わらず手の掛かる女だな」

なんて完全上から目線で笑う男の脇腹に一発入れてやろうと思うのに。
完全に脱力してしまったあたしはまるで連行されていく抱きぐるみのようで。

「あっ、後で覚えておきなさいよっ…!!!」
「おー、後でゆっくり、な? なんだよ、お前もノリノリだな」
「ちっがーーーーーーーう!! あたしが言いたいのはそういうことじゃなぁいっ!!」
「わーったわーった、お前が素直じゃねーのは知ってっから」
「だからちがうんだってばぁーーーーーっ!!!!」

ズルズル、ズルズル。
白い砂浜にミミズのような引き摺り後が長く描かれていく。




あぁ、今からこんなんでほんとに生きて帰れるのか?! あたしっ!





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あれ、このまま終わっても何の問題もないかも?…ってな展開ではありますが、一応庶民デートがテーマなのでもう少しだけ続きます。ゆるりとお待ちいただければと思います^^
あといただいたコメントの中にあったのですが、1話の冒頭でのつくしのセリフ、「ども。でも。でもっっっ!!!」ですが、最初は意図的に「ども」にしています。その直前の言葉とかけて敢えての演出となります。わかりにくくてごめんなさい(^_^;)
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