あなたの欠片 43
2014 / 12 / 23 ( Tue ) 「ねぇつくし、司と旅行に行ってたんでしょ?」
「えっ?!う、うん・・・」 どうしても怪しい方向に話を持っていこうとする総二郎、あきらを押しのけて奥のソファーまでやって来てホッとした矢先、おもむろに滋がドキッとすることを口にした。 ま、まさかこれは・・・ 「えー!それってさ・・・やっぱりそういうこと?!」 「そ、そういうことって?」 「そんなん決まってるじゃーん!ついに司とエッチし」 「わーわーわーわー!!ちょっと、声が大きいからっ!!」 向こうにも聞こえるほどの声でとんでもないことを口走る滋の口を慌てて押さえる。 「っていうか先輩の声の方がよっぽど大きいですよ」 「うん、あたしもそう思う」 「うっ・・・」 桜子と優紀の視線が痛い。 「っていうか!どうなの?!5日も一緒にいればさすがにしちゃったよね?」 あっさりと手を解かれると、滋の攻撃は止まることなく直球でぶつかってきた。 やっぱり・・・誰といても結局はこうなってしまうのか。 つくしははぁーーっと溜め息をつくと、どうにもこうにも逃げられそうもないと観念してゆっくりと頷いた。 「うん・・・・・・一応、ね」 「きゃーーーっ、やっぱり!っていうか一応ってなによ、一応って?!」 「いや、わかんないけど・・・一応?」 色めきだつ3人にへらっと曖昧な笑みを向ける。 「良かったですね、先輩。ようやくですか」 「あ、ありがと・・・って言うことなの?!これって。恥ずかしすぎるんだけど」 「なんでよ~、おめでたいことじゃん!つくし達の場合ようやくなんだからさ。素直におめでとうでいいんだよ」 「そうだよ、つくし。おめでとう」 「う・・・あ、ありがとう・・・」 やっとエントランスでの視線から解放されたと思ったのに、目の前にいる3人はそれ以上に目がキラキラ光っている。・・・これはこの後が怖すぎる。 「で? どうだった? 初体験の感想は」 ほら。さっそく来た。 「うーーん・・・痛かった、としか言いようがないかな」 「確かに痛いですよね。私も泣いちゃいましたから。ましてや初めて同士だと尚更そうかもしれませんね」 「あれはねー、何で女ばっかりこんな痛い思いしなきゃいけないんだ!って思うよね」 「うんうん」 全員がそうだそうだと大きく頷くってことは、自分以外はとっくに経験済みってことなのね。 まぁこの歳だもん。当然か・・・ 「でもさー、司ってああ見えてめっちゃくちゃ優しくしてくれそうじゃない?」 「あ、それは私も思います。なんだかんだで根本は優しい方ですよね」 「その辺りはどうなのよ、つくしっ?!」 つくしにピッタリ貼り付くように移動してきた滋がさらにノリノリで尋ねる。 「そ、そんなのわかんないよ!あたしだって初めてなんだもん。そんなこと考える余裕なんてなかったし」 「まぁそりゃ確かにそうだね」 「・・・でも、すごく優しくしてくれたんだとは思う。・・・怖くはなかったから・・・」 ぽつり、ぽつりと噛みしめるように呟くつくしに滋の顔が綻んでいく。 「うんうん、よかったねぇ。なんか、巣立っていく雛を見守る親鳥の心境だよ」 「あはは、何よそれ」 「だって色んなことがあったじゃん!やっと一緒にいられると思ったら司にああいうことがあって、司の問題が解決したと思ったら今度はつくしにあんなことがあって・・・・・・」 「滋・・・・・・」 またしても瞳が揺れ始めた滋の腕を掴むとつくしは微笑んだ。 「ありがとう。皆には本当に感謝してる。記憶がない間も、皆とはずっと前から親友だったんだ・・・って素直にそう思えたんだ。不思議だよね。記憶にはないのに、スーーっと自分の中に皆が入ってきたんだよ」 「つくし・・・」 「だから仮に記憶が戻らなかったんだとしても、皆があたしの親友であることに何も変わりはなかったよ。・・・まぁ戻ってくれた方がありがたいけどね」 そう言ってペロッと下を出して笑う。 「つくし・・・・・・つくしぃ~~~~~っ!!!」 「わぁっ?!」 ドスッと正面から突進されたつくしの体が背中からソファーに倒れ込む。そんなつくしに覆い被さるように滋はまたしてもおいおいと泣いて喜んだ。控えめな胸に顔を埋める形でごそごそと動かれてくすぐったいったらありゃしない。 「ちょっと滋さん、先輩が困ってるじゃないです・・・・・・あら?それは?」 後ろから滋の背中に手を置いた桜子の視線がある一点でピタッと止まる。 「え、なになに?って・・・あぁっ!!」 さらに桜子の後ろから顔を出した優紀の口からも悲鳴が上がる。 意味がわからない滋も何事かと2人の視線の先を追っていくうちに、みるみるその目が見開かれていく。 「ちょっ・・・滋っ、さすがに苦しいからどい・・・」 「何これっ!!!」 「ひぇっ?!な、なにがっ?」 やっとお腹の上からどいたと思えば今度は凄い力で手を掴まれた。 鳩が豆鉄砲状態のつくしは何が何だかさっぱりわからない。 「この指に輝いてるものは何っ!!!!」 「え?あ・・・・・・」 滋がガシッと掴んだ手、3人の目が見つめる先には今日も目映いほどに輝いている指輪が威風堂々とその存在を主張している。絶対に外すことは許さねぇ、何のために小さめの石にしたのかわからねぇからなと、旅行先でこれでもかと司に釘を刺されていた。 「これって婚約指輪ですよね?」 まじまじと指輪を観察した桜子がズバリ核心を突いてくる。 「うっ、・・・・・・うん」 「「「きゃ~~~~~~~っ!!!」」」 その言葉に3人からどこぞのアイドルのコンサートかと思うほどの黄色い声が上がる。 目はハートになって指輪に釘付けだ。 「司にしては小さめの石にしたんだね」 「先輩が嫌がってつけなくなるのを避けるためじゃないですか?」 「あ、そういうことか。納得」 「でも見てくださいよ。一つ一つの石は超極上の品質のものばかりですよ。しかも中央はブルーダイヤじゃないですか。さすがは道明寺さんですね」 桜子がうっとりとしながら溜め息を零す。 「え、ブルーダイヤってそんなに凄いの?」 「・・・・・・先輩、自分がどれだけ価値のあるものを持ってるか少しは自覚してくださいよ」 「え」 「つくし~、ダイヤの中でもブルーダイヤは特に希少価値が高いんだよ。お金持ちでもそんなに簡単には手に入んないの。しかもこのクラスのクオリティと大きさなら尚更だよ」 「そ、そうなの?!」 「そうですよ。億は下らないでしょうね」 「お、億っ???!!!」 桜子の言葉につくしの声が思いっきり裏返る。 あの司のやることだ、相当な高級品だろうとは思っていたが指輪1個に億単位・・・ そんなものを毎日つけているなんて怖過ぎにもほどがあるってものだ。 やっぱり根本的に住む世界が違いすぎるとふーっと意識が遠のきそうになる。 「でもさ~、司にとってはつくしの価値はそれ以上なんだよね」 「え?」 「司にとっては億以上のお金を積んだところで、つくしの存在はそれにすら替えられないほどかけがえのないものなんだってこと」 「滋・・・」 「でしょ?司」 「えっ!!」 滋の視線がいつの間にか自分からずれていることに気付いて慌てて振り向いて見れば、そこにはグラスを片手に持ったF4が立っていた。 「愚問だな」 不敵に笑ってそう言うと、司は迷うことなくつくしの隣にドサッと音を立てて腰を下ろした。 「ちょ、ちょっと。他のところもいっぱい空いてるじゃん!何もこんなにギュウギュウに詰めて座らなくても・・・」 「うるせーな。ここでいいんだよ」 「相変わらず俺様・・・」 「何か問題あるか?」 「う・・・ない、けどさ・・」 「じゃあいいじゃねぇか。つーかお前何飲んでんだよ?」 「え?あぁ、ジンジャエールだよ」 「なんだよ、アルコールじゃねぇのか」 「だってまだお昼前だよ?いくらなんでも早いっていうか・・・・・・ハッ!!」 ふと。 痛いほどの視線を感じて前を見れば、ニヤニヤと、まるで三日月のような目でこちらを見ている男女が5人。類だけがいつもと変わらずマイペースにソファーに横になっている。 「な、何よ・・・・・・」 おずおずを声を出したつくしに総二郎がニヤッと笑う。 「いや?お前らもすっかり夫婦みたいだなと思ってさ」 「ふっ、夫婦?!」 「なによつくしー、プロポーズまでされておいて今さら驚くことでもないじゃん!」 「いや、まぁそうなんだけどさ・・・・・・」 そのいやらしい視線をやめてほしいんだけど。 「っていうか道明寺さん、いつご結婚されるんですか?」 桜子の質問にどちらからともなく視線を合わせる。 いつ・・・・・・そういえばいつするんだろう。 まだ具体的な話は何もしていないんだった。 「俺は今すぐにでもしたいって思ってんだけどな。入籍だけ先にしたって構わないし」 「あ、まだそこまで具体的な話はしてなくて・・・」 「えぇ~っ?あれだけ旅行に行っておきながらまだ何も決まってないの?何やってたのよ」 うぅっ、それを言われると困る。 ほら、さっそく西門がニヤニヤ顔を緩めているじゃないか。 「何って・・・そりゃあナニをしまくってたに決まってるよなぁ?司」 「まぁな」 ガンッ!!!! 「いってぇーーーーーーーーーー!!!おまっ、つくしっ、何しやがるっ!!!」 まんざらでもなさそうに答えた司の足に思いっきり踵落としを入れた。 これにはさすがの司も痛みに顔を歪めている。 「だからそういう話はしないでって言ってるでしょ!」 「なんでだよ、ただ事実を言ってるだけだろうが!」 「事実だろうと何だろうと人に言う必要のないことってあるでしょうが!」 「あぁ?!」 ギャーギャーくだらないことで言い争いを始めた2人をその場に残すと、カウンターへと移動して飲み食いを始める。そんなことにすらまだ気付きそうにない。 「っつーか、牧野こそバラしてる張本人だよな」 「だな。あいつは必死で隠してるつもりだろうが、実は誰よりも暴露爆弾を爆発させる奴だからな」 「くくっ・・・・」 尚も騒いでいる2人を横目で見ながら、やれやれと類がグラスのアルコールをグイッと煽った。 「あれ、っていうか皆いつの間にいなくなったの?!」 ようやくそれに気付いたつくしがはたと我に返る。 「バーカ。とっくにいなくなってただろ」 「え、そうなの?全然気が付かなかったよ・・・」 「くっ、いかにもお前らしいな」 「うっ・・・」 きっとやれやれと呆れ顔で移動していったに違いない。 なんだか恥ずかしいような情けないような。 「で?さっきの話だけどお前はどう考えてる?俺としてはマジで入籍だけでもすぐにしたいと思ってるんだけどな。・・・まぁ6年も我慢させたってのもあるから、一応お前の意見を尊重しようとは思ってる」 司の言葉は正直予想外だった。 今までの司ならば問答無用で入籍するぞと断言していたに違いない。 またしても6年という月日を実感することが一つ。 こうして一つ一つ、大人の男に成長した司に出会っていく。 「うん・・・・・、とりあえずさ、3月まではちゃんと働きたいって思ってるの。っていってももうあと数ヶ月しかないんだけどさ。迷惑かけたし、年度末まではちゃんとけじめをつけて精一杯働きたい」 「それで?それからどうすんだ?」 「それからは・・・・・・あんたを支えられるならどんな形でもいいって思ってる。本音を言えば働きたいけど、さすがに結婚して一般企業に勤めるのは無理だろうからね。だからそこは一緒に考えていきたいなって」 「・・・・・・そっか」 「うん。いいかな・・・?」 大財閥に嫁入りする人間がこんな緩い考えでいいのだろうか。 そもそもどうするのが正解なのかもよくわからない。 不安そうに自分を見上げるつくしの頭に手を置くと、予想に反して司は嬉しそうに微笑んだ。 「いいんじゃねーの?俺はお前が傍にいるんだったらどんな形でも構わねぇし。まぁ結婚してから自分たちの形を見つけていけばいんじゃねぇのか?最初から全力で突っ走る必要なんかねぇんだからな」 司のその言葉は、どうしてもガチガチに考えてしまいそうになるつくしの心をスーッと優しく溶かしてくれる。焦らなくていい、お前はそのままでいいんだと言ってくれているようで。 まるで魔法のようだ。 「・・・・うん、そうだね。・・・・・・ありがと、司」 「・・・おう」 ふわっと、本当に嬉しそうな笑顔を見せたつくしに司の頬がほんのりと色づいた。 そんな2人のやりとりを遠巻きにニヤニヤと見られているなんて気づきもせずに。 「・・・あ。それでさ、アパートのことなんだけど、いずれここに引っ越してくるとはいえ色々と整理したいこともあるから、やっぱり一度帰りたいなって思ってるんだけど・・・」 「もうねぇぞ」 「え?」 「お前の部屋にあったもんなら全部ここに移動させてる。旅行に行ってる間に全部な」 サラッと。 極々当たり前のことのように言われた言葉につくしは一瞬何を言われたのか理解できない。 「だからお前の家は名実ともにここってことだ」 ニヤッと。 したり顔で笑うこの男は。 「は、はぁあああああああああああああっ??!!!!」 誰が大人の男になったって?! 前言撤回っ!!!!! ![]() ![]() |
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by: * 2014/12/23 01:17 * [ 編集 ] | page top
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指輪が億~…ひぇ~。 指輪専用のSPがいるんじゃないの? 知らなきゃ良かったけど、知っちゃったら、つくしも色々覚悟がいるかな(笑) 大人になった司と、大人になってない司。 やっぱ、司だなぁ・・・と。 言い忘れてましたが、プールでつくしを上にして泳ぎだしたシーン、大好きです。 キュンキュンしました(笑) こんなシーン待ってます。 --ふ※※ろば様--
染之助・染太郎、懐かしいっ!!! いつもより数万倍回してもらわないといけませんね!(笑) はい、ついに貫通式を終えたんですよ~。 一気読みでハッピーなところまで読めるとなんか嬉しくなりますよね(*^_^*) あとはどこで終わらせよう・・・と悩んでます。 終わりどころを間違えてしまったような気がしてなりません(笑) そして相変わらず妄想のレベルを超えた劇場が凄いですね!読み応えたっぷり! いっそのこと書き手さんになられたらいかがでしょうか?! --ke※※ki様--
はい、大人になったな~と見せかけて~の落としですから(笑) 人間そうそう簡単には変われなーい( ̄∇ ̄) ということでつくしもそう簡単には変わらないと思います(笑) 一生そんな2人でやっていくんじゃないでしょうか。 ある意味とってもお似合い(^Д^) --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
そうですね、体は立派な男になりました。 棒所も含めて・・・ この歳にして初体験、しかもストーカー並に愛する女、 プロポーズも受け入れてもらってるとなれば野獣の暴走は止まるはずもなく(笑) え?引っ越しの手配はプロポーズする前にやってたんじゃないかって? もちのろんですよ( ̄∇ ̄)ドドーン!! だって司ですから(笑) --こ※様--
心身共に自分のものになったわけですからね。 もう獣は止まりませんよ(笑) ところでこのお話、一体どこで終わらせましょうか(笑) 困ったなー。終わりどころを間違えてしまったぞ。 --みわちゃん様--
ねぇ、怖くてつけられないですよね。 知らぬが仏とはよく言ったものです。 でもまぁ司にとっては痛くも痒くもない出費なんでしょうね。 そうそう、「大人になった司と大人になってない司」 まさにこれです、求めていたのは! 全く成長してないわけがないし、でもそう簡単に変わるわけもないし。 「大人時々ガキ」 これを書きたかったんですよね。 他のコメントにも書いてるんですが、 この物語の終点をどこにしようかと今悩んでいます。 もっと色んなラブラブも書きたいなと思ってるんですが、 本編にするとぐだぐだになるかな~という心配もあり。 番外編にした方がいいのかなぁなんて思ってます。 読み手の皆さん的にはどうなんでしょうかね? ← 超他力本願 --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --ブラ※※様--
お師匠様~、終わるところ間違えちゃったみたいで。 どうしましょう! 貫通してちょっとで終わらせるべきだったと激しく後悔中。 どうすっぺどうすっぺ! そしてそして貫通エクストラステージはいずれ棒本部に献上します。 どうぞお楽しみに( ´艸`) |
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