あなたの欠片 45
2014 / 12 / 29 ( Mon ) 「つくしちゃんっ! 会いたかった~~~~!!!」
「お、おねえさ・・んぐっ!!」 「つくしちゃんっ!!」 言い終わる前にはつくしの体は豊満なボディにギュウギュウ詰めにされていた。 長身にハイヒールを履いた椿がつくしを抱きしめればちょうど顔に胸が触れる形となり、何とも言えない柔らかい感触に包まれる。おまけにそこら辺では手に入らないような上品な香りまでして思わずうっとりしそうになる・・・・・・ ・・・・・・が!! 「ちょっ・・・おねえさっ、く、くるじいっ! 息がっ・・・!」 「あぁっ、もう一体何年ぶりになるのかしら?! ずっとずっと会いたいって思ってたのよ!」 タップタップとばかりに背中を叩くが、当の本人が気付く気配は全くない。 一人大興奮しながらさらにその手には力が込められていく。 「お、お゛ねぇさ・・・・・・」 このままじゃ死ぬっ!! スーッと、つくしの目の前にお花畑がうっすら見えたような気がした、その時。 「椿様、それじゃあつくしが死んじまいますよ」 「え? ・・・あぁっ! つくしちゃん、ごめんなさい! あたしったらなんてこと・・・!」 まさに天の声とも言えるタマの一声によりつくしは一命を取り留めた。 ぜぇはぁ息を切らしながら前を見ると、美しい顔に似合わずおたおたと慌てふためく椿の姿が目に入る。 「大丈夫?! ほんとにごめんなさい!」 「・・・ふっ、あはははははっ!」 「つ、つくしちゃん?!」 真っ青な顔で息を切らしていたつくしが突然大笑いし始めたことに椿は目を丸くして驚いている。あまりの笑いっぷりに時折目尻の涙を拭うほどだ。 「あはははっ、お姉さん、全然変わってないですね。嬉しいです。・・・ご無沙汰しています」 「つくしちゃん・・・」 つくしがニコッと笑うと、たちまち椿の瞳もゆらゆらと揺れ始め、今度はそっとつくしの体を抱きしめた。まるで母親の温もりに包まれているようなその安心感に、つくしにも万感の思いが込み上げてくる。 「さぁさぁ、ここで立場話もなんですからお部屋に移動してくださいな」 いつまで経っても動こうとしない2人に痺れを切らしたタマがやれやれと苦笑いする。 「あ、タマさん・・・えへへ、そうですね」 「ふふふ、そうね。じゃあつくしちゃん、今日はゆっくり話しましょう?」 「はい、ぜひ!」 顔を合わせて笑い合うと、タマに続くようにして2人も部屋へと歩き始めた。 *** 「本当に久しぶりね。もう6年にもなるのね・・・」 移動した部屋で向かい合いながら感慨深そうに椿が呟く。 「はい・・・お姉さんはお元気でしたか?」 「私は相変わらずよ。それよりもつくしちゃん・・・ごめんなさいね。あなたが大変な目に遭ってるだなんて私ちっとも知らなくて。うちの父のことでもたくさん不安にさせてしまったみたいだし・・・本当にごめんなさい」 そう言って頭を下げた椿につくしは慌てて立ち上がる。 「ちょっ・・・お姉さん! 顔を上げてください! 誰も何も悪くないんですから! お願いですっ、顔を上げてくださいっ!!」 「つくしちゃん・・・」 つくしの悲痛な訴えにやがてゆっくりと椿が顔を上げていく。 「本当に誰も悪くなんてないんです。むしろ悪いのは私です。事故に遭ったのは私の不注意が原因なんですから。だからお姉さんが気に病む必要も、謝る必要も1ミリだってありません」 「つくしちゃん・・・」 「それに・・・・・・むしろ謝らなければならないのは私の方なんです」 「えっ?」 予想外の一言に椿が驚きの声を上げる。 「私・・・つか・・・道明寺が必死で頑張ってるのをわかってたくせに、目の前の現実から逃げてしまったんです。昔も同じ過ちを繰り返したのに、また同じ事をしてしまいました。だから私の方こそごめんなさい」 「やだっ、つくしちゃん、顔を上げて!」 頭を下げるつくしを椿が慌てて止める。さっきとはまるで立場が逆転してしまった。 「・・・ふふっ、私たちったら何お互いに同じことやってるのかしら」 「・・・そうですね。ふふふっ」 まるで鏡のように情けない顔をしている互いを見つめ合うと、どちらからともなく笑いが零れた。 「怪我の方はもう大丈夫なの?相当な大怪我だったって聞いたけど・・・」 「あ、はい。ご覧の通りもうすっかりよくなりました。私のせいで皆さんに心配をかけてしまって・・・本当に申し訳なく思ってます」 「そんなことないわ。大怪我だったことは大変だったけど、何よりもつくしちゃんの命が無事で本当に良かった。あなたのいない人生なんて司には考えられないんだから」 司という言葉に内心ドキッとする。 司の口から椿の話が出てきたことはないが、彼女は一体どこまで聞いているのだろうか? そもそもこの邸に住んでいる時点でどんなに鈍感な人間でもある程度の察しはついてしまうだろうが。 「あ、あの・・・お姉さんは」 「司と結婚してくれるんですって?」 「えっ?」 いきなり直球で来た椿につくしは目を丸くする。そんなつくしに椿はクスッと肩を揺らした。 「ふふっ、実は今回の帰国が決まったときにタマさんに聞いたのよ。『坊ちゃんが最近羽が生えたように幸せオーラに包まれてます』ってね」 「羽・・・?」 「あまりにも想像ができて思わず笑っちゃったわ。・・・父のことがあってからうちの会社も色々あったでしょう? マスコミにもあることないこと騒ぎ立てられて・・・つくしちゃんのことがずっと気になってたの。でもそれを話すような状況ではなかったし、司も全く周囲を寄せ付けなかったっていうか・・・。あの子のことだから何か考えがあってそうしてるんだろうとは思ってたけど、つくしちゃんにも辛い思いをさせてしまったと思うの。ほんとにごめんなさいね」 「いえ、そんな・・・!」 「ようやく帰国が決まって司と話をしようと思えばあの子ったらもう超特急で帰っちゃって。よっぽどあなたに会いたいのを我慢してたのね」 ふふっと思い出した様に笑う。 そうだったんだ・・・知らなかった。 それなのに会いに来た自分が大怪我だけではなく記憶まで無くしていたなんて、一体どれだけショックだったことだろう。 全てにおいて経験済みのつくしにとって、想像するだけで胸が痛い。 「色々あって大変だっただろうけど、あなた達なら絶対に大丈夫だって信じてたわ」 「お姉さん・・・」 「だって司があなたじゃないとダメなんだから。・・・あの子の我が儘で苦労させることもあるだろうけど、どうか司をよろしくお願いします」 「えっ・・・?! あ、あのっ、もうほんとに頭を上げてくださいっ!」 もう一度顔を上げた椿の目にはうっすらと涙が光っていた。 「ふふっ、なんだか嬉しくて泣けてきちゃった」 「お姉さん・・・」 「それで? いつ結婚するの? まぁ司はすぐにでも入籍したいんでしょうけど」 さすがは椿。司の頭の中など全てお見通しだ。 「あ、あの、お姉さん。ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど・・・」 「何? 何でも聞いて?」 つくしの言葉に嬉しそうに顔を綻ばせる椿を見ながらつくしは膝においていた手にキュッと力を入れる。やがて意を決したようにゆっくりと口を開いた。 「お義母様のことが気になってるんです・・・」 「母のことが?」 「はい・・・。当然のことですけど、私もあれから一度も会ってなくて。道明寺のことは好きですし、結婚することへの迷いはもうありません。道明寺がすぐに入籍しようって言ってくれてることも本音では嬉しく思ってます。・・・でも、やっぱりどうしてもお義母様のことが引っかかってしまって。道明寺は何も心配するな、認めてもらえてるって言ってくれるんですけど、それでも、どうしても・・・」 「つくしちゃん・・・」 段々自信なさげに声が小さくなっていくつくしに、椿は立ち上がるとつくしの隣まで移動してゆっくりと腰を下ろした。そしてきつく握られたままのつくしの手にそっと自分の手を重ねる。 その瞬間ハッとしたようにつくしが顔を上げた。 「つくしちゃんの心配は当然のことよね。だってあの母を知ってるんですもの。・・・でもだからこそなのよ、つくしちゃん」 「え・・・?」 意味がわからず首を傾げるつくしに椿はニコッと微笑んだ。 「あの母だからこそ、何も言ってこないということが全てだということよ。司があなたに熱を入れてることだって、あなたが今ここで生活していることだって、結婚するつもりでいることだって、全ては母に筒抜けに決まってるでしょう?」 「あ・・・」 そうだ。昔だって壁に耳あり障子に目ありとばかりに全ての行動を監視されていた。 自分たちの動向を探るなんてこと、楓からしてみれば朝飯前に違いない。 「その上で母は何も言ってこない。それだけで充分母の意思は示されているということよ。司の言う通り、母はあなた達のことを認めている。まぁそれを素直に口にするような親ではないでしょうけど」 そう言って椿は苦笑いする。 「司だって帰国前に母に自分の意思を伝えているに違いない。だからつくしちゃんは何も心配する必要なんてないのよ」 「お姉さん・・・」 ・・・不思議だ。 司に宥められてもどうしても完全には消すことのできなかった不安が、驚くほど楽になっていくのがわかる。それは昔、自分たちと同じように辛い思いをしている椿の言葉だからこそなのか、それとも同じ同性としての言葉だからそうなのか。 おそらくどちらも正解なのだろう。 「いずれ結婚式はきちんとしなければならないでしょうけど、私も先に籍だけ入れておくことには賛成よ。ただでさえあなた達は我慢する期間が長かったんだから。思う存分一緒にいて幸せになって欲しいと思ってる」 「お姉さん・・・」 「・・・それでも、どうしてもつくしちゃんが気になるって言うのなら、一度母に会ってきたらどうかしら?」 「えっ?!」 条件反射だろうか、思わずビクッと体を揺らしたつくしに椿が笑った。 「今母はアメリカ支社での業務で忙しいからしばらく帰国は無理だと思うの。だったらつかさと一緒にNYに行ってみたらどう?」 「え、でも・・・」 「司に言えばいいじゃない。どうしても母に会ってから結婚したいって。司だって散々つくしちゃんに我慢させたんだもの。あなたのお願いの一つや二つ聞いてあげなくてどうするの?」 ・・・・・・会いに行く・・・? 魔女に・・・? 結婚の許可をもらいに・・・? 想像しただけで胸がバックンバックン暴れ出す。 そんなつくしの様子に気付いた椿は重ねた手にギュッと力を込めた。 「大丈夫よ、つくしちゃん。私も司も確信をもって言うわ。何も心配することなんてない」 「お姉さん・・・」 「だから何にも心配せずに早く私の妹になってちょうだい。 ね?」 ニッコリと笑った顔には少しも曇りはなくて。 心からの言葉と笑顔に、自然とつくしも笑顔になっていた。 「・・・はいっ!」 満面の笑みでそう答えると、うんうんと椿も大きく頷いて微笑んだ。 「じゃあ今日は前祝いで飲みましょう!」 「はいっ!」 「あ~、もういつの間にかすっかりつくしちゃんもお酒の飲める年齢になってたなんて・・・ほんとに色んな意味で感慨深いわ」 「あはは、ほんとにそうですね。あの頃はまだ高校生でしたからね」 「そうよ~。あれから6年の間にどんなことがあったか、色々聞いちゃうからねっ」 「えぇ~っ?! あははは・・・」 広い室内の隅々まで花が咲いたように、その夜はいつまでも笑い声が絶えることはなかった。 **** 「・・・・・・それで? 最初はどんな感じだったの? 司はちゃんとできたんでしょうね?!」 「え~~っ、そんなこと私にはわかりっこないですよぉ~~」 「・・・まぁそれもそうね」 「・・・・・・でもぉ、初心者の私でも司がすっごぉ~く優しかったのだけはわかります。だって、なんだか涙が出てきちゃったんですもん~」 「そうなの?」 「そうなんですよぉ~。あぁ~、あたしこの人のことが大好きだぁ~~って泣けてきちゃいましたぁ」 「そう・・・」 「あいつにはなかなか素直に言えないですけどぉ、あたし、多分皆さんが思ってる以上に司のことが好きですよぉ・・・だから、ずーっとずーーーーーっと一緒にいたいんですぅ・・・・・・・・・・・・・」 「つくしちゃん・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・つくしちゃん?」 そう言ったっきりポフッと体をソファに沈めたままつくしが動かなくなってしまった。 椿がそっと肩を揺らしても何の反応も示さない。どうやら眠ってしまったようだ。 「・・・ったく、飲ませすぎだろ」 「司?!」 呆れたような声に振り返ると、ネクタイに手をかけた司が足早に近付いて来ていた。 「こいつがここまでベロベロになるなんて、一体どんだけ飲ませたんだよ?」 「あらぁ、人聞きの悪いこと言わないでくれる? ちょっと付き合ってもらっただけよ」 「ザルの姉貴のちょっとはちょっとって言わねぇんだよ」 悪びれるでもなくフフッと微笑む椿に溜め息をつくと、司はつくしの体に手をかけた。 「おい、つくし。そろそろ部屋に戻るぞ」 「うぅ~~ん・・・・・・あれぇ? 司だぁ~~! おかえりぃ~~っ」 うっすらと目を開けて目の前にいる男に気付くと、へらっと締まりのない顔で笑う。 「りぃ~って、お前相当酔ってんな?」 「なぁにがぁ~? あたしはよっぱらってなんかないよっ!」 「ったく、ほら、いいから行くぞ」 呆れた笑いを零しながらつくしの背中に手を回した瞬間、つくしの手が伸びてきてそのまま司の首にしがみついた。 「つかさぁ~~、だーーーーーーいすき」 ふふっと笑いながらそう耳元で囁くと、つくしはそのまま司の肩に寄りかかるようにしてグーッと寝息を立て始めた。酔っ払いの言ったこととはいえ、普段めったに自分から甘い言葉を言わないつくしのその行動に、司の顔は緩みっぱなしだ。 ほんのりと頬も赤くなっている気がする。 「はぁ~~、ラブラブで羨ましいわぁ~」 その存在をすっかり忘れていたが、一部始終を目の前で見ていた椿が感嘆の声を上げる。 「あんまこいつに飲ませ過ぎんなよ。弱いんだから」 そう言うとつくしの膝裏に手を回してゆっくりと抱き上げた。当の本人は何も気付かずに気持ちよさそうに微睡んでいる。そんなつくしを見つめる司の目もこの上なく優しい。 「ふふっ、優しいのねぇ。・・・安心したわ」 「何がだよ?」 「あんたの気持ちが絶対なのは知ってたけど、つくしちゃんもそれに負けないくらいあんたを想ってるってわかって。色々と彼女が迷うのは当然のことだけど、それでもあんたと同じ未来を見つめてるんだってわかったから。もう何も心配いらないわね」 「あぁ。姉ちゃんにも色々心配かけて悪かったな」 「ほんとよぉ!せめて帰国する前に連絡の一つくらい入れなさいよね!」 「悪かったよ。あの頃は必死だったんだよ」 「・・・そうよね。あんたほんとによく頑張ったわ。姉として誇りに思うわ」 あまりのべた褒めに司も驚くほどだ。 「・・・・・・どうするの?」 「どうするって?」 「来月でしょう?」 「あぁ、そのことならとっくに決まってる」 「・・・そう。しっかりやんなさいよ」 「わかってる。色々ありがとな」 「あんたがそんなに素直にありがとうって言うなんて・・・つくしちゃんの存在はほんとに偉大ねぇ」 「くっ、かもな。じゃあこいつ連れてっから」 「了解~。おやすみぃ~」 「あぁ」 物珍しいものでも見るように笑う椿に苦笑すると、司はつくしを抱きかかえたまま部屋を後にした。 「ほんとに長かったわね・・・・・・よかった・・・」 そんな弟の後ろ姿を感慨深そうに見送ると、椿は目尻の涙を拭った。 ![]() ![]()
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みやとも様、コラボ楽しませてもらいました。 ありがとうございました。 あっという間に終わっちゃいましたが‥‥。 つくしに対していつでも素直な司、つくしも素直になって、happyなお話でした。 さてさてこちらのお話はラストに向かってるんですね。 寂しいです。 椿と話して不安が取り除かれ、初めての時の話までしちゃって、お酒の力はすごい(笑) 来月に何があるんでしょう? 気になります。 子供さんは落ち着かれましたか? 年末年始寒くなるみたいですね。 体調不良や雪掻きの心配をしなくていいように、お祈りしています。 私は今日こそ年賀状に取りかかります。やる気がでなくて‥‥今までで一番遅い記録です(笑)
by: みわちゃん * 2014/12/29 03:46 * URL [ 編集 ] | page top
--みわちゃん様--
コラボ企画楽しんでいただけたようで良かったです^^ 次は1月31日の司バースデーです。 是非楽しみにしていてくださいね! さてさて「あなたの欠片」もいよいよ一旦終わりを迎えます。 年明けに続編という名の番外編を皆様にお届けできたらと思っています。 一度区切った方がキリがよさそうなのでひとまずは。 アンケートで色んなリクエストをいただきましたし、 可能な限り書いていけたらいいなと思ってます^^ もちろん新作も! 今のところ雪が降る気配はないのですが、 明日以降天気が急変するんでしょうかね・・・気になるところです。 年賀状は今からですか? それはさすがに元旦に届けるのは無理かな・・・?(笑) --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
椿は悪気はなくても色々やらかしますよね(笑) 最後がつくし死亡エンドでなくて良かった( ̄∇ ̄) そして気になる椿のお言葉。 最後の最後に一体何~?!ですが・・・ ふふふ、しばしお待ちくださいませ( ´艸`) --管理人のみ閲覧できます--
このコメントは管理人のみ閲覧できます --ke※※ki様--
爆弾低気圧みたいな存在の椿お姉様ですが、 つくしにとっては心強い味方ですからね! なんだかんだ素直に話を聞けそうな気がします。 とはいえ結婚したらしたで色々と振り回されそうですよね~(笑) ガンバレつくし!! |
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