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サンタは魔法が使えない 前編
2014 / 12 / 24 ( Wed )
12月24日
今日はクリスマスイブ。

空は快晴、 心は曇天。




「はぁ~~~~~~~っ・・・・・・」


特大の溜め息は真っ白な塊となってあっという間に消えていく。
街の中はこんなにキラキラと輝いているというのに、どうして自分の心だけこんなに晴れないというのか。

・・・・・・そんなの決まってる。
いつだって、あたしを喜ばせるのも落ち込ませるのも、原因は一つしかない。



_____喧嘩した。



いや、あれはそもそも喧嘩と言えるのだろうか。

週末、久しぶりのデートをした。
あいつには言わないけど、あたしだって楽しみにしてた。
いつだって多忙を極めるあいつとの時間は貴重で、限られた時間で愛を深めるのもそんなに悪くないなんて本当は思ってる。
だから、あの日だって純粋に楽しむつもりだった。
それなのに____



始まりはあいつの遅刻から始まった。
待ち合わせの場所に遅れてくることは珍しいことじゃない。
それどころか、ドタキャンになってしまうことだってある。
ガッカリしないって言ったら嘘になる。
それでも、あいつがそういう立場の人間だってことは自分なりに理解しているつもりだし、あいつも必死で頑張ってて、そうしたくてやってるんじゃないってのを自分が一番わかってるから。
だからそれが原因で怒ったり、ましてや喧嘩になることなんてない。

あの日も約束の時間を過ぎてもあいつは来なかった。
携帯を見ても特に連絡はなし。
年末だし忙しいのかな・・・なんて考えながら、目の前に彩られたクリスマスツリーをぼんやりと眺めた。街はすっかりクリスマス一色。よく考えてみたら、あいつとクリスマスを同じ場所で過ごすのは初めてのことだ。去年は仕事で海外に飛んでいていなかったから。
帰国して、ようやく一緒に過ごせるようになって。
付き合って5年以上にもなるっていうのに、ほとんどのことが初体験ばかりだなんて。
「普通じゃないことが普通」な自分たちに思わず笑ってしまう。


「ねぇ、一人?」


そんな時だった。
約束の時間を30分ほど過ぎた頃、見知らぬ男に声をかけられたのは。
ヘラヘラと、見た目は悪くないのだろうけどいかにもチャラそうなその男は、一体いつからいたのか、「そんなに待ってももう来ないよ」なんて勝手に喋り続けながら絡んでくる。
こういうときは決まって無視。というか常に無視だけどさ。

右に左にと体を動かして執拗に絡んでくる男にいい加減ブチ切れそうだ。
・・・・・・仕方ない。この場を離れよう。
もともと事情があったとしても遅刻する方が悪いのだ。
だからしばしこの場を離れたところで文句を言われる筋合いはない。
そう思って一歩足を踏み出した、その時。

「ねぇ、待ってよ」

しつこい男が咄嗟にあたしの腕を掴んだ。
待ち合わせの男は来ないわ、寒いわお腹は空くわ、おまけにこんなチャラ男にまで絡まれて。
冗談じゃない!!
この際いろんな鬱憤を晴らしてやろうかと思いっきり息を吸い込んだときだった。

「おいてめぇ、誰の女に触ってやがる」

まさに地を這うような、ヤクザもビビるんじゃないかって思うほどの鬼の形相をした男が息を切らしながら現れたのは。

「い、いでででででででっ!!何すんだよっ!!」

すぐに掴まれた男の腕は頭上に捻り挙げられ、痛みに顔を歪めて喚き散らす。

「あ゛ぁ?それはこっちのセリフだろうが。何人の女に手ぇ出してやがる。ぶっ殺されてぇのか?」
「えっ?!い゛っ、いだだだだだだだ!すっ、すんませんすんませんっ!!」

さっきまでの威勢は何処へやら。
チャラ男はヘコヘコと頭を下げて道明寺に平謝りだ。
ようやく手が離れると蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

「・・・ったく。大丈夫か?」
「う、うん。ありがとう」

なんだかんだこの男は頼りになるんだよな、なんて思っていた矢先。

「お前も隙があるからつけいられるんだぞ。もう少しアンテナ張って気をつけろ」

カチン

・・・・・なにそれ。
なにそれなにそれ。
まるでナンパされたあたしが悪いみたいな聞き捨てならないそのセリフは。
元はといえばあんたが遅刻さえしなければこんなことになってないんじゃない!

「・・・何よそれ、あたしが悪いっていうの?」
「そんなことは言ってねぇだろ。ただもう少し周りを気にしろって言ってるだけだ」
「そんなの周りに気を使ってないあたしのせいって言ってるのと同じじゃん!」
「んだよ、そんなにつっかかんなよ」
「だって!そもそも道明寺が遅刻しなければナンパされることだってなかったのに、そんな言い方されれば誰だっていい気分はしないでしょう?!」

不快感を隠さずにあいつにぶつける。
せめて、「遅れて悪かったな」から始まっていれば少しは違ったかもしれない。
さすがにそれに関しては悪いと思っていたのか、あいつがバツが悪そうな顔になった。

「・・・それは悪かったよ。まぁいい、ほら、行こうぜ」

そう言って右手を掴まれると、有無を言わさずに歩き始めた。
一応謝りはしたけど。なんなのこの何とも言えない胸のもやもやは。
「まぁいい」って何? なんで上から目線なの?

・・・・・・納得いかない。
すこぶる納得いかない。

・・・・・・けど、せっかく会えたのに喧嘩するのもなんだかバカらしい。
ここは1歩引いてこちらが大人の対応をすればいい。
そう考えてそれ以上の追及はやめた。


てくてくてくてく。
てっきりすぐにリムジンに押し込まれるかと思ってたのに。何故だか今日はずっと歩いてる。
いや、別にそれ自体は全く構わないのだけれども。道明寺にしては珍しい。
しかも一体どこに向かっているのか。
あてもなくただ歩いているだけに思えるのは気のせいだろうか?

「・・・・・・なぁ、牧野」
「何?」

自分の心の声が聞かれていたのかと思うようなタイミングであいつの足が止まった。振り返った顔はなんだか妙に真剣だ。

「そろそろ結婚しようぜ」
「えっ?」

こんな道端で突然何を言い出すのか。

「今さらだろ?俺は帰国したときからずっと言ってるじゃねぇか」
「いや、それはそうだけど・・・・・・」
「去年はお前が大学を卒業するまでっつーから待った。それなのに蓋を開けてみれば少し社会人として経験を積みたいとか言い出しやがって・・・」
「やがってって・・・そんな言い方しなくても・・・」

沸々と、せっかく収めたもやもやがまたお腹の底から沸き上がってくるのを感じる。

「俺はずっと結婚しようって言ってるだろ?全てはお前待ちなんだよ」
「う・・・・・・それは、わかってるけど・・・」
「社会人として経験を積みたいって、一体どうすれば満足すんだよ?出世か?」
「違うよ!そういうことじゃなくて、もっと自分に自信をつけたいっていうか・・・」
「だからどうすればその自信はつくのかって聞いてんだよ」

どうすれば?
そんなこと一言では説明できない。
というか正直なところ自分でもよくわからない。

ただ、大学を卒業してそのまま結婚、という気持ちにはなれなかった。
もちろん道明寺を好きだし、結婚するならこの男しかいないって思ってる。
でも、4年間離れている間、自分なりに色々考えた。
いや、むしろ離れていたからこそ考えられることがあったのかもしれない。

この男はその気になれば真綿で包むように外野からあたしを守ってくれるに違いない。
何も心配せずに身一つで来ればいいって、そう思ってる。
でも、守られるだけでいいの?
道明寺に好きになってもらった牧野つくしはそういう女だった?
自分の中の自分がそう叫んでる。

身一つで闘ってるこの男を支える女になるには、自分だって社会の荒波を経験しておきたい。
それは決して2人の未来に無駄なことにはならないって信じてる。
鉄の女にはなれなくても、自分に自信をもてるあたしでいたい。
だから、何がどうすれば?と聞かれても困るけど、自分なりに「よし、頑張ったぞ!」って思えるくらいには社会人として頑張りたい。
一緒になりたいと思う気持ちが揺らぐわけでもないし、お互いにまだ若い。
結婚する前に色んな経験を積んでおきたい。

そう思うのは自分の我が儘なんだろうか・・・?


「何をぐだぐだ悩んでんのかは知らねぇけど」

道明寺の言葉に顔を上げる。

「仕事なら結婚してからだってできるだろ?」
「そう・・・だけど」

でも「牧野つくし」と「道明寺つくし」ではまるで違うよ。
普通に社会に揉まれるなんて無理に決まってる。

「それに、結婚しちまえばこういう煩わしいこともしなくていいだろ?」
「煩わしい・・・?」
「待ち合わせとかなんだとか、時間を気にせずにいつでも会えるってことだよ」


あ・・・・・・なんだろう。
何気に今の言葉にショックを受けてる自分がいる。
この男にとってそんな深い意味があったわけじゃないってことはわかってる。
単に結婚したい気持ちからぽろっと出た言葉だってことも。

『煩わしい』

それでも、この一言の破壊力は思いの外ズシンときた。
自分の中では忙しい中でも積み重ねていくこの時間が嫌いじゃなかった。
遠距離時代とはまた違う、互いを深めていくステップとして大切な時間だとそう思っていた。
それはきっと道明寺にとっても同じだと・・・・・・そう思っていたのに。

わざわざ時間を作って会うのは面倒くさかったのかな、とか。
そんなことはどうでもいいからさっさと結婚しろよってずっと思ってたのかな、とか。

・・・・・・そう考えたら自分でもビックリするくらい落ち込んでしまっていた。


「おい、牧野?どうした?」

萎んだ風船のように俯いて黙り込んでしまったあたしに道明寺が戸惑いがちに声をかける。いつもなら憎まれ口の一つでも叩いてやるところなのに、どうしてだかこの時はそれすらもできなかった。

「おい、マジでどうしたんだよ?!」

いつまで経っても反応のないあたしに本気で心配になったのか、腕を掴んであいつが顔を覗き込んできた。

「・・・・・・なんでもない」
「って顔じゃねぇだろ。言いたいことは言えよ」

掴んだ手にギュッと力がこもる。
こういう時の道明寺は絶対に離してくれない。

「・・・・・・面倒くさかった?」
「は?」
「こうして忙しい中時間を作って会うのは・・・煩わしかった?」
「んなわけねーだろ」

即答だった。
・・・・・・でも何故だろう。全然気持ちが晴れない。

「じゃあ煩わしいって何?道明寺が自分で言ったんじゃん!」
「あれは・・・そういう意味じゃなくて」
「じゃあどういう意味よ?!他の意味なんてわかんないよ!」
「おい、落ち着けよ。どうしたんだよ?今日はやけにつっかかるな」

わかんない。自分でもわかんない。
そう言えばもうすぐ生理がやってくるんだった。
もしかしたらそれで情緒不安定になっているのかもしれない。
自分でも何を言ってるんだろうって思う。
それなのにイライラは止まらない。

「・・・・・・ごめん、今日は帰らせて」

あたしの口から出たとんでもない一言に目の前の男が驚愕する。

「はぁっ?!お前、何言ってんだよ!せっかく時間作って会いに来たってのにふざけんな!」
「せっかくって何?お前のためにわざわざ時間を作ってやったとかそういうこと?」
「そうじゃねぇだろが!いちいち言葉尻を捉えて揚げ足取りすんじゃねぇよ!」
「だって・・・・・・!」


この日のあたしはどうかしてたんだと思う。
自分でもどうしてあんな風になったのかなんてわからない。
それでも、あいつの言葉一つ一つがどうしても気になってしまって、全てが悪い方悪い方へと走ってしまって・・・・・・
暴走する自分をどうしても止められなかった。

だからこそ。これ以上の衝突を避けるために。

「ほんとにごめん、今日はなんかダメだわ。これ以上いても喧嘩にしかならない。だから帰らせて」
「牧野・・・」

今にも泣きそうな顔で言ったあたしの姿にあいつが驚いている。
あいつの前でこんな不安定な自分を見せたのは初めてだから、きっと向こうもどうしていいのかわからなかったんだろうと思う。
掴んでいた手がずるりと下がっていく。

「ほんとにごめんね。・・・・・・また連絡するから。じゃあ」

呆然と立ち竦む道明寺を残すと、あたしはその場から急いで走って逃げた。
逃げるという表現がピッタリだったと思う。
一度も後ろを振り返らずに、とにかく走って走って、走って逃げた。

あいつは追いかけては来なかった。いや、来れなかったのかもしれない。
いつもの道明寺だったら有無を言わさずにリムジンまで引っ張っていって押し込んでいたと思うから。あいつもあたしがいつもとどこか違うのを感じていたんだろう。

ひたすら走って家に着いた頃には心臓が破れそうなほどドキドキしていた。
走ったからなのか、妙な緊張感からなのかはわからない。
ふと携帯を見れば、

『落ち着いたら連絡しろよ。必ず』

そうあいつからのメールが入っていた。






______あれから一週間。

クリスマスイブの今日まで、結局一度も連絡をしていない。
一度だけ、気付かない間にあいつからの着信が入っていたけれど、結局そのまま。

今思い出してもあの日はどうしてあんなに不安定だったのか。
何度考えてもわからない。
何故だか不安で、イライラして、あいつの何気ない言葉に傷ついた。


会いたくてたまらないくせに。
ごめんねって言いたいくせに。


弱虫で意地っ張りな自分はそれすらもできない。
なんだか今までの喧嘩とは違うような気がして。
自分でこじらせておきながら、身動き一つとれなくなってしまっていた。



パタンと入った室内は当然ながら真っ暗だった。
もしかしたらあいつがいるかもしれないなんてどこかで淡い期待をしていた。
そんな身勝手な自分にほとほと嫌気がさす。

今年のクリスマスは絶対一緒に過ごそうぜってあいつは嬉しそうに言っていた。
それなのに、今どうして自分はこんなところに一人でいるんだろう。

「はぁ・・・・・・」

ズルズルと、力の抜けた体ごとそのまま玄関に座り込んでしまう。

どうしようどうしよう。
このままでいいはずがない。
何事もなかったかのように明るく電話してみようか?
・・・でもあれっきりあいつからの連絡はない。
もしかしたらもの凄く怒ってるのかもしれない。

あぁ、いつから自分はこんなに弱い人間になったというのか。
あいつを支えたくて社会人になったって言うのに、こんなことでグジグジ悩んでるなんて本末転倒じゃないか!!
雑草魂は一体どうした!


「ええい、その時はその時だ!当たって砕けろっ!」


自分を鼓舞するように宣言すると、バッグの中に手を突っ込んで携帯を引っ張り出す。
相変わらずそこには何の変化も見られない。

「・・・・・よしっ」

スーハースーハー深呼吸すると、あいつの名前を出して通話ボタンに手をかけた。

その時。




ピンポーーーーーーーーーーーン




真っ暗な室内に突然鳴り響いた音に思わず飛び上がった。








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コメント
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by: * 2014/12/24 01:42 * [ 編集 ] | page top
--ke※※ki様--

はい、すみません、甘くないクリスマスで・・・
うぅーむ、やはり皆さんイライラされちゃってますかね(汗)
やばいなぁ~(;´Д`)

最後には・・・ちゃんと糖分が追加されるように頑張ります!
by: みやとも * 2014/12/24 15:55 * URL [ 編集 ] | page top
--ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--

こういう喧嘩もアリですか?
ホッ、よかった・・・(^◇^;)

マリッジブルーって誰にでもあると思うので、
そういうあるあるを書きたかったんですが・・・
なかなか上手く表現できません(~_~;)

変態サンタは・・・さて来ますかね?(笑)
おーい、サンタさーん、出番ですよぉ~!!
by: みやとも * 2014/12/24 15:58 * URL [ 編集 ] | page top
--a様<拍手コメントお礼>--

ドアを開けたらそこは雪国だった・・・!

ってんなわきゃないですね( ̄∇ ̄)
短編ですからね、ここで登場するのが別人だったら終わりません!(笑)
by: みやとも * 2014/12/24 16:00 * URL [ 編集 ] | page top
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