明日への一歩 1
2015 / 01 / 03 ( Sat ) 「う~~ん・・・・・・」
眩しい・・・ カーテンから差し込む強い日射しにつくしは思わず顔をしかめた。 うっすらと目を開けていくと少しずつぼやけた部屋の様子が視界に捉えられるようになってくる。 いつも真っ先に入ってくるのはヨーロッパテイストの綺麗な花柄のソファだ。つくしに用意された道明寺邸での部屋は、普段頓着の全くないつくしでも思わず女子力が上がったような気分になれる、そんな上品で可愛らしい部屋だった。 花柄のソファは中でもつくしが特にお気に入りの一品だ。 花柄の・・・・・・・・・暖炉が見える。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・暖炉?!」 ガバッと体を起こすと、そこには全く見覚えのない内装が広がっていた。 いつもの部屋に暖炉なんてない。ということはここは自分の使っている部屋ではないということ。 ただ、いつもと負けず劣らず豪華絢爛な部屋であることに変わりはないが。 「あ、あれ・・・? ここどこだっけ・・・・・・?」 手でクシャっと髪の毛を掴んで必死で頭を働かせる。まず自分が今どこにいるのか。 身につけているのは・・・・・・パジャマだ。 ・・・・・あれ、でもこのパジャマには身に覚えがない。 どう見ても高級シルク素材のそれは、自分ではまずお目にかかることのない一品だ。 「え・・・なんで・・・? 何がどうなってるんだっ・・・きゃあっ?!!」 今だはっきりしない頭で記憶を辿りながら一人ブツブツ呟いているつくしの後ろから大きな手がヌッと顔を出す。当然そんなことには全く気づきもしないつくしの腹部に回された手が、あっという間に体ごとベッドに引きずり込んだ。 ボフッ! といういい音を立てて後ろからダイブしたつくしはわけもわからず目をまん丸にして驚くばかりだ。 「お前うるせーよ」 「えっ・・・えっ?!」 自分に覆い被さるように見下ろしているのはすっかり見慣れた男。 朝起きたときにこの男が同じ場所にいるのも不可抗力だがもう日常の一部だ。 「なーにをさっきからブツクサ言ってんだよ」 「えっ・・・あ、あの、ここって・・・・・・?」 未だに状況が掴めないつくしに目を細めると、司はつくしの頬に手をあてた。 「覚えてねーのか? ここはNYの邸だろ」 「NY・・・・・・?」 NYという言葉につくしの脳裏に少しずつ記憶が蘇っていく。 ・・・・・・そうだ。 昨日ついに日本を飛び立ったのだった。 退職して3週間余り、ついにその時を迎えた。 半年後には帰って来るというのに、邸では盛大なお見送りを受け、ほとんどの使用人に大号泣されてしまった。「今生の別れでもないのに泣くんじゃないっ!!」 とタマの喝を浴びながらも、そんなタマの瞳もうっすら濡れていたことには皆気付かないふりだ。 「あ・・・そっか。そうだったね・・・。なんか記憶がごっちゃになっちゃってた」 「お前相当緊張してたもんな。いつでもどこでも寝るのがお前の専売特許だってのに、昨日はフライト中も一睡もしなかったしな」 「だ、だって・・・」 それは無理もない話だ。 何故なら6年ぶりに魔女との対面を果たす時が来たのだから。 NYにつけば、邸に行けば魔女がいる。 そう思ったらとてもじゃないけれど眠ってなんていられなかった。 昔は無謀にも魔女にあんなに立ち向かっていたというのに、今回はあの時とはまた違う緊張感で落ち着かない。 司の言う通り、ここに来るまで一睡もできなかった。 乗り物に乗っていて眠らなかったことなんて生まれて初めてかもしれない。お前は歩くゆりかごか! と友人にからかわれるくらいすぐに寝てしまうような自分だというのに。 それほどに魔女との再会はつくしにとって一大事だった。 ____それなのに。 破れそうな心臓で邸に辿り着いてみれば、当の本人は不在だった。 何でも、数日前からヨーロッパに出張しているらしく、あと一週間ほどは帰って来ないとのこと。 それを聞いた途端、つくしの体からへなへなへなと力が抜け落ちていった。 腰が抜ける。 まさにその言葉が相応しい。 ペタンとエントランスに座り込んでしまって____ ・・・・・・・・・・・・・・・あれ、それからどうした? 「お前あれからどうなったか覚えてねぇだろ?」 「えっ?」 「ババァがいないってわかった途端いきなりへたり込んで、俺が立ち上がらせようとしたらお前どうしたと思う?」 「え? えーーと・・・・・・」 この状況から察するに・・・ 「ね・・・寝ちゃった・・・とか?」 ほぼファイナルアンサーで違いないだろうが、一応自信なさげに言ってみる。 と、目の前の男の顔がクッと愉快そうな顔に変わった。 「正解。ってかお前ならそのパターンしかねぇよな。いくらババァがいなくて脱力したからってあの場所で寝るなんてさすがにびびったぞ。くくっ」 「え、えへへ・・・?」 「使用人はお前が倒れたんじゃないかって大騒ぎするし」 「えっ!!」 た、確かに・・・。 やって来た客人がいきなりエントランスでペタンと倒れ込めば心配するのが当たり前だ。 あぁ、いきなりやらかしてしまった。 「あぁ~~っ、しょぱなからやっちゃったよぉ・・・」 きっとその騒ぎは魔女にも報告が行ってしまっているに違いない。 認めてもらってるとは俄に信じがたいけれど、それでも再会する時はきちんとした自分を見せようと固く心に誓っていたというのに。 はぁ~~っと両手で顔を覆うとつくしは盛大に溜め息をついた。 だがその手も大きな手ですぐに引き剥がされてしまう。司はつくしの手を掴むと、そのままベッドの上に縫い付けた。 「お前らしくていいじゃん」 「お前らしいって・・・それ全然褒め言葉になってないよ」 「なんでだよ。そういう自然体なお前だからいいんだろ」 自然体・・・? ちょっと意味が違うような。 ただの間抜けと言った方が正解だと思う。 「気にする必要なんてねーんだよ。変に緊張してお前らしさを見失うなよ。お前はそのままでいいんだから。邸の人間だって最後には楽しそうにしてたぜ」 楽しそうというより呆れて笑われただけなんじゃ・・・ 「お前だってよく知ってんだろ? うちの邸ではそういう風は吹かないってこと。あいつらが感情を見せるのもお前がいるときくらいのもんだ。そうして日本の邸を変えたんだろ?」 「変えた・・・?」 「あぁ。いつでもニコニコ楽しそうにしてるじゃねーか。少なくとも俺の前ではそんなことはあり得ねぇ」 「そ、それは・・・司が怖いだけなん・・イタッ!」 ビシッ! と。 額にデコピンが一発。 「いーから。とにかく褒めてんだよ。ごちゃごちゃくだらねぇこと考えてんじゃねーよ」 「う・・・うん・・・」 これは緊張しっぱなしのつくしへの司なりの優しさなのだろう。 そう思うとなんだか心がほっかり温かくなってくる。 優しい顔で自分を見下ろす男をあらためて見ると、つくしもニコッと笑って見せた。 「・・・・・・ありがと」 言葉の代わりに、つくしの唇に柔らかい感触が落ちてくる。 フワリと。 優しく触れるそれをつくしも静かに目を閉じて受け入れた。 「・・・・・・んっ・・・」 ほどなく口内に侵入してきた生温かい存在に思わず口から声が漏れてしまう。 ・・・やっぱりこの男はキスが上手い。 そんなことを考えながらつくしはその極上の時間に身を委ねていく。 「・・・・ん? んんっ?!」 うっとりとキスに酔いしれているうちに、いつの間にやら胸元でごそごそと手が動き回っているではないか。 「ちょ、ちょっと・・・?!」 「何だよ」 慌てて唇を離したつくしに、司は不満そうな顔を隠さない。 とはいえそれでも止まらない動きを見せる手をつくしはガシッと掴んだ。 「・・・・・ダメだよ?」 「だから何が。つーか手ぇ離せ」 「だっ、ダメダメっ! 触ったら司止まらなくなるでしょ?」 「そもそも止める気なんてねーし。いいから早く手ぇどけろ」 チュッチュッ・・・ 言うが早いか、司はつくしの首筋に顔を埋めるとそのまま舌を這わせて刺激を与えていく。 途端につくしの体がピクッと跳ねた。 「あ、朝だからっ! めちゃくちゃ明るいからっ!!」 「そんなん今さらだろ。もうお前の体で見てねーところなんてねぇんだよ」 「ななっ・・・・?!」 「ずっとお前の添い寝してやったんだ。今度は俺に尽くせ」 「えぇっ?! あっ・・・!」 いつの間にやら外されていたパジャマのボタンごと開くと、文句を言う暇もなくさらけ出された肌に司の唇が落ちてくる。すっかり愛される喜びを知ってしまった体が素直に反応してしまう。 このまま快楽の淵に落ちて行ってしまおうか・・・・・・? 「だっ、ダメーーーーーーーーっ!!!」 「いてっ!!」 つくしが司の髪の毛を思いっきり引っ張ると、あまりの痛みに思わず司が顔を上げた。 「てめぇっ、何しやがる!」 「今はダメ!お願いだから!」 「なんでだよ? どうせ今日は何の予定もねーだろ?」 「そ、そうかもしんないけど、昨日お邸についてあんな大失態を見せちゃってるし・・・それなのに朝からこんなことしてるなんて。やっぱりできないよ」 「誰も気にもしねーよ」 「あたしはするのっ! せめて今日だけはきちんとけじめをつけて挨拶だってしたいっ!」 必死で懇願するつくしに司が呆れたようにはぁ~~っと溜め息をつく。 「・・・・・・駄目?」 とどめに上目遣いのおねだり攻撃をされてはもうお手上げだ。 この女、相当タチが悪ぃ!! 「はぁ~~~~~~っ。 わーーーーーったよ!」 「あ、ありがとうっ!」 何度も何度も溜め息をつきながらも司はつくしの体を引き起こす。 満面の笑顔を見せるつくしにこれが惚れた弱みかと苦笑いするしかない。 「言っとくけど今だけだからな。夜には俺の好きにさせてもらうからそのつもりでいろよ」 「えっ?! う・・・・・・うん・・・」 考えると怖いが司の主張も尤もだとつくしは頷くしかない。 と、 にやーーーーーーーっと司の顔が怪しげに歪んでいく。 ゾクッ! や、やっぱり選択を間違ったかもっ?! 「つーかすげーいい天気だな」 「あ、うん。そうだね」 司が視線を送ったカーテンの向こうからはこれでもかと強い日射しが差し込んでいる。 こんな日は散歩でもしたらさぞかし気持ちがいいことだろう。 「観光でもするか?」 「・・・・・・えっ?」 司には似つかわしくない単語につくしは思わず二度見する。 「お前にとって俺とのNYは苦い思い出しかないだろ? まぁ俺にとってもそうだけど」 「司・・・」 「どうせ今日明日はオフなんだし、塗り替えようぜ」 「塗り替える?」 「あぁ。 ここをいい思い出の場所にな」 そう言ってニッと司が笑って見せた。 ![]() ![]() このお話は「あなたの欠片」の続編になります。 そちらを読んでいない方は是非そちらを先に読むことをオススメします。 |
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みやとも様、子供さんの具合はどうですか? 大変な年末年始になっちゃいましたね。 続編楽しませていただいてます。 エントランスで一気に脱力してそのまま寝てしまうって・・・さすがつくし。 NYの邸の使用人さんたちへの印象は超強力で忘れられないものになったでしょうね(笑) さあ思い出を上書きするための観光、どんなものになるのでしょうね。 楽しみです。
by: みわちゃん * 2015/01/03 00:34 * URL [ 編集 ] | page top
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本当にね、これが親になるってことなのか・・・ とひしひしと実感させられた年末年始となりました。 続編始まりました~! 本編のようなハラハラはないかと思いますが、 相変わらずの2人を見守っていただけたらと思います(*´∀`*) つくしちゃん、強烈デビューでつかみはバッチリです(笑) --ke※※ki様--
はい。これは続編ですね(笑) それにしても大変でしたね。 私も実家にいた頃、祖母がそれはそれは我が儘でして。 母が苦労しているのをずっと見て育ちましたのでね、 その大変さが手に取るようにわかります。 102歳まで長生きしたので尚のこと大変でしたよ(^_^;) 続編は基本ほっこり、バカップル万歳でいきたいと思ってますので、 どうぞここで癒やされて帰ってくださいね(^Д^) --ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--
あはは!Yes No枕ですか。 つくしがどんなに「No」を置いておいたところで、 司が大量生産させた「Yes」に毎晩すり替えられそう(笑) --なんと!--
おおおおっ! 続編の長編を開始ですか。 嬉しさと楽しみな気持ちが大爆発しそうです。 【あなたの欠片】前作が最高に面白かった!! 物語全体の流れと構成がとても素晴らしい。 また人物の内面の心理描写が凄く上手い。 各キャラクターに感情移入がしやすかった。 続編では前作を超える物語にするのにプレッシャーあると思います。 時間をかけて長編を素晴らしい作品に頑張って下さいませ。 ではでは --黒髪の貴公子様--
長編になるのかは全くわかりませんが(笑) ひとまず続編スタートです。 NY編、結婚編、出産編など、節目事に分けてもいいかなとも思っています。 どこまで書くのかは皆様の反応を見ながらということで(笑) というかお褒めの言葉をいただきすぎて、超絶プレッシャーです(笑) 本編を超える続編を!! な~んてことは何にも考えてませんので、 どうぞ緩~くお見守りくださいませ( ̄∇ ̄) 少しでも楽しんでいただけると嬉しいです(*´ェ`*) |
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