fc2ブログ
はじまりの朝
2015 / 01 / 02 ( Fri )
その日は眠れなかった。
眠れなくて、朝までずっと愛する女の寝顔を見ていた。


・・・やっと。 やっとこの手に掴んだ。
愛しくて、会いたくて、狂いそうなほど欲して止まなかった女をようやく手に入れた。


くーくーと寝息をたてて眠る女は少しくらいの物音では起きそうもない。
それもそうだろう。かなり無理をさせてしまったから。

互いに初めて同士。だが女のそれは苦痛でしかないらしい。
望んだわけでもないが、あいつらにその手の知識は嫌と言うほど聞かされている。
できるだけこいつが苦しい思いをしなくてすむようにと、自分の全神経を注ぎ込んで丁寧に時間をかけて愛していったつもりだったが・・・やっぱりその時には泣かれてしまった。

しかもちょっとやそっとじゃない。 大号泣だ。
こいつがあんなにボロボロ涙を零して泣くなんて。
どんな逆境でも歯を食いしばって立ち向かってくるような女が、仮に泣いたとしてもその目には強い光を携えたまま泣くような女が、昨日はまるでか弱い子犬のように体を震わせながら泣いていた。
あまりの弱々しさになんだか自分がひどいようなことをしている気さえしてきて。
やめてやるべきなんじゃないかという思いも巡った。

でもそれを止めたのは他でもないつくし自身だった。
ただでさえ体格差のある俺はこいつにとって相当な苦痛だったに違いない。
それでも震えながら、泣きながら、必死で俺にしがみついて、キスを求めて。
普段は絶対に見せない、俺だけしか見ることのできないそんな姿を見せられたら、もう自分を止めることなんてできなかった。


これまで、望みもしないのに数え切れないほどの女が俺に纏わり付いてきた。
どいつもこいつも化け物みたいな化粧にサイボーグのような体をした女ばかり。
いくら周りが『いい女』だと言おうとも、俺の神経一本すらくすぐられることはなかった。

それがこの女に出会ってからはどうだって言うんだ。
自分でも信じられないほど求めて、求めて、焦れて、焦がれて、
頭がおかしくなるんじゃないかってくらいに欲しくて。
ようやく手に入れたと思ったらまた離ればなれにならなきゃいけなくて。
何年でも健気に待ち続けるこいつが尚のこといじらしくて、切なくて。

今度こそ一緒に・・・・・・!

・・・・・・と固い決意を胸に帰って来てみれば全てのことを忘れてしまっていた。
あの時の衝撃たるや一生忘れることはできないだろう。

それと同時に己のふがいなさを思い知った。
2人の未来のためと言いながら、肝心要な女を守ることができなかったのだから。


「う~~~ん・・・」


ゴロンと寝返りを打ったつくしが俺の体にしがみついてくる。これでもう何度目になるだろうか。
どうやら無意識にそうするのがこいつの癖らしい。
普段は甘え下手な女のくせして、たまに見せるこういう仕草が堪らなく男心を刺激する。

「ぜってぇ他のヤローに見せんじゃねーぞ」
「・・・・・・う゛ーーん・・・」

ふにっと頬をつまんでみれば眉間に皺を寄せて唸っている。

「フッ・・・お前はオヤジか」

離した手を頬に添えると、じんわりとした温もりがそこから広がっていく。
俺なんかよりもよっぽど凄いパワーを持った女なのに、その体はびっくるするほど華奢で。
正直、俺なんかが抱いたらぶっ壊しちまうんじゃねーかと思えるほど細くて。
6年前にも体を見たことはあったが、あの時なんか比べものにならないくらいに綺麗になってた。
こいつは自分に自信がないだなんて言ってるけど、思わず息が止まってしまうくらいに見とれてしまった。

男と女の違いを身をもってこれでもかと感じた。
きっとこいつは守られるなんて嫌だなんて言い張るんだろうけど。
やっぱり俺がこいつを守ってやんなきゃならねぇって。
あらためてそう固く決意した。

これから結婚して一緒になれば、一般人のこいつによからぬちょっかいを出してくるロクでもねぇ連中が出てくるに違いない。この女がどれだけの価値を持つのか、何も知らずにただ肩書きだけで見下し、嘲笑う連中が。
そんな奴らを気に病むような女じゃないってのはわかってる。
それでも、こいつにはいつでも笑っていて欲しい。
その笑顔を守るためならば俺はなんだってできる。
嫌だって言おうとぜってぇに守ってやる。


___それが俺の牧野つくしという女の愛し方だ。











***



・・・・・・変。

・・・・・・・・・なんか変。


朝食を昨日の夜の分までたらふく食べ終わり、出かける前に着替えてるのはいいんだけど・・・
この体に残る違和感たるやどうにかならないのっ?!

な、何て言うか、体の中にまだ何かが入っているような・・・
そんな何とも言えない異物感がいつまでたっても消えてはくれない。
朝起きてすぐはそんなにわからなかったけれど、時間が経って落ち着いてくると同時に急にそれを実感し始める。歩いていてもまるでロボコップのような動きになってしまって上手く体をコントロールできないでいる。
こんなの怪我した時だってなかったのにっ!

この違和感の正体はもしかしなくても・・・


「そろそろ行くか?」
「えっ?! あっ、うんっ!」
「・・・どうかしたか?」
「えっ?」
「いや、なんか焦ってるから」

さすがはこの男。抜かりがない。
考え事の最中タイミング良く顔を出した司にびっくりしたあたしを見過ごすような男ではない。

「べ、べべべべ別にっ? さ、行こっか。今日は海岸線をドライブするんだよね? 昨日ちらっと見ただけでも綺麗だったから楽しみだなぁ~!」

じーーっとこっちを見ている視線から逃れるように立ち上がると、何でもないような顔であいつの待つ入り口へと歩いて行く。

ギクッ シャクッ

うぅうっ!
必死で普通にしようと思ってるのに、やっぱりどうしても変な歩き方になっちゃうよ!
しかもそう意識すればするほど余計おかしくなってる気がするんだけど。

「・・・お前、なんか歩き方変じゃねぇ?」
「え゛っ?!」

す、鋭いっ!!
・・・いや、こんなに変な歩き方してれば誰でも気付くのが普通か。

でも、それでも!!
そこは敢えて気付かないふりをして欲しいっ!!
だって、その理由を考えちゃったら・・・・・・・・・・・・・ぎゃあ~~~~~!!!

「何が~? 別にいつもと変わらないでしょ? 気のせいだって!」

これ以上突っ込まれるのが怖くてぴょんぴょんとスキップして見せた。
・・・途端。

ズキッ!!

「痛っ・・・!」
「つくしっ!!」

下腹部に鋭い鈍痛を感じて思わず顔を歪めたあたしを血相を変えて司が受け止める。
っていうか動き早っ!

「大丈夫か?! まだ怪我したところが痛ぇのか?」
「えっ? 怪我したところ・・・?」

言われて何のことだか一瞬考える。
・・・あぁそうだ。少し前まで自分は怪我人だったのだ。
今はそんなことすらすっかり忘れてしまっていた。

「なんだよ、違うのか? じゃあどこが痛いんだよ?」
「えっ?! いやいやいやいや、どこも大丈夫だから!」
「そんなわけねーだろ。あんなに痛そうにしてて歩き方もおかしいのに」

本気で心配そうに顔を覗き込んでくるのが耐えられない。
こんなことなら足が痛いとでも嘘言っとけば良かった・・・!

「医者に診てもらうか?」
「えぇっ?! なっ、何言ってんのっ!!」

司の口から出たとんでもない一言に思わず声が裏返る。

「どっか痛いんだろ? そんな状態じゃドライブに行っても心配だし。万が一怪我したところが痛んでるんなら大変だし、せめて行く前に診てもらおうぜ」
「い、いいいいいいいいいからっ!! そんな必要全っっっ然ないからっ!!」

振り向いて今にも電話しそうな勢いの司の体を必死に掴んで引き止める。
何で止めるんだよと言わんばかりの司の顔はめちゃくちゃ真剣だ。

「違うからっ! そういうんじゃないからっ! お願いだからやめてっ!!!!」
「な、なんだよ・・・?」

顔を真っ赤にして必死で引き止めるあたしの様子にさすがに何かおかしいと気付いたのか、司の体からスッと力が抜けていく。俯いたままのあたしの顔を掴んで上を向かせると、じーーーーーっと観察するようにしてこっちを見ている。
しばらくすると何かに思い当たった様子で目を丸くした。

「・・・・・・・・・・・・・・・・あ」

や、やめてぇっ!!

「もしかして・・・・・・」
「なっ、ななななななにが? 何でもないからっ! 大丈夫だよっ?!」

我ながらの動揺っぷりにちっとも大丈夫じゃないだろとツッコミたくなる。
でも、目の前でバツが悪そうな、申し訳なさそうな顔に変わっていく男の姿を目の当たりにしたら、いくら挙動不審だろうと何でもないと言いたくもなるってものだ。

「悪い。俺のせいだな」

ほらやっぱり。気付かれちゃったじゃないか!
あ~もう、恥ずかしすぎるっ!

「だから何が? 違うからっ!」
「いや・・・俺が悪い。お前が女だってことちゃんと考えてやらなきゃいけなかった。朝起きたとき平気だっつってたのを真に受けすぎてた。・・・まだ痛いんだろ?」
「うっ・・・違・・・」
「嘘つくなよ。本気で心配してんだから」

うぅっ!!
そんな声で。 そんな顔で言うなんて卑怯じゃないか!
・・・あぁでも、今日は一日大絶賛ロボコップデーになってしまうのは違いない。
その度に司にあれこれ聞かれることを考えたら、もう潔くここで認めてしまった方がよっぽどいいのかもしれない。

伏し目がちにしていた視線をチラッと上げて見れば、ものすごーーーーーく心配そうに自分を見ている司と目があった。それを見たら胸がキューンと苦しくなる。
そんな乙女キャラじゃないのにっ!!

「う・・・・・ほんとは少し、痛い・・・です
「・・・・・・やっぱりな。ほんとに悪かった。気ぃ使ってやれなくて」
「う、ううん! 司は優しくしてくれたよ? お風呂までも連れて行ってくれたし、ほんと、何も気にしないで! ね?」
「でも痛みの原因は俺だろ?」
「そ、それは・・・これは誰もが通る道っていうか、うん、そう。そうなの! だから全然心配なしっ!」

そう。
女として生きていくならこれは誰もが一度は経験するはずのことなんだから!

「それに、女性は出産だってすることもあるでしょ? これくらいで弱音吐いてたら赤ちゃんなんて産めないんだから」
「出産って・・・・・・自分でもそれなりだとは自覚してるつもりだけど、さすがに子どものデカさには勝てねーよ」
「えっ? なんのこと・・・?」

子ども? デカさ? 勝てない?

・・・・・・・・・・・・・・・・って、何言ってんのっ!!

「もうっ! バカじゃない?! そういう話じゃないからっ!!」
「ハハハっ! でも結局はそういうことだろ? そうか、そういう考え方もあんのか。俺のに慣れておくと少しは出産も楽になんのかもな」
「ならないからっ! もうっ!!!」
「ハハハハハハ!!」

ポッカンポッカン胸を叩きまくってもあいつは嬉しそうに笑うばかり。
多分20回目くらいじゃないかと思われるところで突然ギュウッと抱きしめられた。

「お前には悪いと思ってるけど、それでもそれが俺のせいだって思うと幸せだ」
「えっ・・・?」
「その痛みは選ばれた男だけが与えられるものだろ?」
「そ、それは・・・」
「だからお前には悪いけどすげー嬉しい」

そう言って回された手にさらにギュッと力が入る。

・・・そっか。その通りだ。
いつかは通らなくてはならない道。
ならばそれを誰と経験するかが大切なわけで。
そう考えるとたとえ時間がかかったのだとしても、本当に好きな人とその時を迎えられたのはとても幸せなことなのかもしれない。

「・・・・・・うん、あたしも幸せ」

キュッと背中に手を回すと負けじと司の手にも力がこもる。
そんなやり取りですら幸せを実感する。
・・・・・・こんなに近くにいるのだと。


「出かけられそうか?」
「うん。それは全然問題ないよ。ちょっと動きはぎこちないかもしれないけど、そこは見て見ぬ振りをしてやって」

アハハっと笑うとグイッと肩を引き寄せられた。

「俺が支えてやるからお前はもたれかかってろ」
「え、でも大丈夫だよ?」
「いーから。見てるこっちがハラハラすんだよ」

う・・・確かに。
客観的にあんな歩き方を見せられる方が心臓に悪いかも。

「う・・・ん。じゃあ、お願いします」
「おー。ま、俺的には役得なんだけどな」
「あははっ、やっぱり下心アリなんじゃん」
「ったりめーだろ。好きな女にはいつだって触れてたいもんなんだよ」
「ふふふっ」
「じゃあ行くか」
「うんっ!」

あいつの腰の辺りに手を回すと、ゆっくりとあたしの歩幅に合わせてくれるあいつと一緒に一歩ずつ歩き始めた。さっきまで恥ずかしくてしょうがなかったのに、今は何て幸せな気持ちで満たされてるんだろう。
こんなに現実離れした幸福な時間があと何日も続くなんて、日常生活にちゃんと戻れるんだろうか?



・・・・・・ま、たまにはそんな時があってもいっか。

なんてね。







にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ

00 : 00 : 10 | はじまりの朝 | コメント(7) | page top
<<明日への一歩 1 | ホーム | 新年のご挨拶>>
コメント
--管理人のみ閲覧できます--

このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/01/02 08:40 * [ 編集 ] | page top
--委員長殿--

うふふ、初寝の朝ってムズ痒いですよね~( ´艸`)
そしてつくしちゃん、違和感は相当なものでしょう( ̄∇ ̄)
慣れるまでは大変かもしれませんけど、
慣れたらまーそれはそれはいい気持ピー(以下自主規制)

今年も宜しくお願いします~(*´∀`*)
by: みやとも * 2015/01/02 22:15 * URL [ 編集 ] | page top
--k※※ru様<拍手コメントお礼>--

明けましておめでとうございます(*^o^*)

娘は今日は少しだけ熱が下がってきました。
まだ油断はできませんがこのまま回復してくれることを願っています。

今年も宜しくお願い致します(*´∀`*)
by: みやとも * 2015/01/02 22:18 * URL [ 編集 ] | page top
--ゆ※ん様<拍手コメントお礼>--

ふふふ、やっぱりお初の朝は甘くないとですよね( ´艸`)
そんな中でもつくしらしさは失ってませんが(笑)
by: みやとも * 2015/01/03 13:24 * URL [ 編集 ] | page top
--管理人のみ閲覧できます--

このコメントは管理人のみ閲覧できます
by: * 2015/01/05 23:53 * [ 編集 ] | page top
--ふ※※ろば様--

ふふふ、初寝の朝に色気のあるやり取りなんてつかつくらしくないですからね。
いや、司は何の問題もなくいけるでしょうけどね。
つくしですよ、問題は(笑)

司はちょっぴり大人になってますからね。
それに焦らなくても5泊6日の旅ですから。
時間はたっぷりあるわけです・・・( ̄ー ̄)

そして今年も妄想ワールド楽しませていただきます(笑)
初笑いを有難うございました~( ´艸`)
by: みやとも * 2015/01/06 19:51 * URL [ 編集 ] | page top
--マ※ナ様<拍手コメントお礼>--

わぁ~、読み返ししてもらえるのって何よりも嬉しいです!
私も昔は自分が大好きな作品は覚えるほど読んでたなぁなんて思い出すと、もしかしたら同じような気持ちで読み返してくださってる読者さんがいるのかな・・・なんて、何とも感慨深い気持ちでいっぱいになります(T-T)
うふふ、坊ちゃんの坊ちゃんは当~然!!ご立派ですよ。
マグナムもまっつぁお(´д`) レベルで(笑)
by: みやとも * 2015/09/29 23:29 * URL [ 編集 ] | page top
コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

| ホーム |